結論から書きます。育児休業給付金の初回が遅いのは、会社の怠慢とは限らず、制度の組み立てがそうなっているからです。給付は「支給単位期間」という1か月ごとの区切りで計算され、その区切りが終わってからでないと申請できません。初回の申請には締切があり、育児休業開始日から4か月を経過する日の属する月の末日です。会社がその締切のどこで出すかによって、初回の振込は数か月単位で前後します。
母親の場合はさらに手前があります。出産直後の産後休業は育休ではなく、育児休業給付金の開始日は出産日から数えて58日目です。出産日から見ると、初回の振込までに半年近く空くことも珍しくありません。
今日できることは一つで、会社に「初回の支給申請をいつ出す予定か」を聞くことです。聞き方は後半に文言で置きました。
産後休業のあいだは、まだ育休が始まっていない
厚生労働省のQ&Aは、育児休業給付金における育児休業開始日を「産後休業から引き続いて育児休業を取得した女性の場合は、出産日から起算して58日目」と書いています。出産日の翌日から8週間が産後休業で、その翌日が育休の1日目という数え方です。
この57日間は雇用保険の育児休業給付金の対象ではありません。ここを埋めるのは健康保険の出産手当金で、申請先も窓口も別です。「出産から3か月たつのに何も入らない」と感じる人の多くは、この二つの給付の切れ目を一つの空白として見ています。
父親には産後休業がないため、育休を取った日がそのまま開始日になります。父親も育児休業給付金の対象になることは、同じQ&Aに明記されています。
1か月ごとに区切り、区切りが終わってから申請する
Q&Aの支給要件の説明に「支給単位期間」の定義があります。育児休業を開始した日から起算した1か月ごとの期間で、その1か月に育休終了日を含むときはそこまでです。4月1日に育休を始めた人なら、4月1日〜4月30日、5月1日〜5月31日と切っていきます。
給付額はこの区切りごとに計算され、申請書にはその期間に支払われた賃金の額や休業日数を書きます。つまり期間が終わって、出勤簿と賃金台帳が確定してからでないと申請できません。最初の1か月分を出せるのは、早くても育休開始日の1か月後です。
初回申請の締切はQ&Aの「受給手続」の項にあります。受給資格の確認だけ先に行う場合は初回の支給申請を行う日まで、初回の支給申請も同時に行う場合は「育児休業開始日から4か月を経過する日の属する月の末日まで」です。2回目以降は「公共職業安定所長が指定する支給申請期間の支給申請日」とされ、次回分の申請書は前回の手続きのあとにハローワークから交付されます。
締切の前日に出しても、2か月前に出しても、制度上はどちらも正しい申請です。ここが、初回の振込が人によって大きく違う理由になります。
4月1日に育休を始めた人の日付
| できごと | 日付 | 根拠 |
|---|---|---|
| 育休開始 | 4月1日 | 母親なら出産日から58日目 |
| 最初の支給単位期間が終わる | 4月30日 | 開始日から1か月ごとの区切り |
| 最初の1か月分を申請できる | 5月1日以降 | 期間が終わり、賃金が確定してから |
| 2か月分がそろう | 5月31日 | 2つ目の区切りの終了 |
| 初回申請の締切 | 8月31日 | 4か月を経過する日(8月1日)の属する月の末日 |
会社が5月上旬に1か月分だけ出せば、初回は5月中の振込もありえます。2か月分をまとめて6月に出せば6月以降、締切いっぱいなら9月にずれ込みます。どれも制度の範囲内です。
出産日から並べ直すと、空白の長さが見えます。2月3日に出産した母親の例です。
| できごと | 日付 |
|---|---|
| 出産 | 2月3日 |
| 産後休業 | 2月4日〜3月31日 |
| 育休開始(出産日から58日目) | 4月1日 |
| 最初の1か月分を申請できる | 5月1日以降 |
| 初回申請の締切 | 8月31日 |
出産から初回の振込まで、会社が早く動いても3か月、締切に合わせると7か月前後になります。出産手当金が別に入るとしても、家計の見通しはこの表で立てたほうが安全です。
振込日は会社ではなくハローワークが決める
申請を受けたハローワークが審査し、支給を決定してから振り込みます。厚生労働省の案内ページには育児休業等給付コールセンター(0570-200-406、平日8時30分〜17時15分)の番号があり、そこに「支給処理の目安に関する問合せにも対応しておりますが、具体的な支給日はお答えできません」と添えられています。会社も正確な振込日は知りません。
追える日付は「会社がいつ申請したか」です。それが分かれば、あとは審査の時間だけになります。逆にこの日付が分からないまま「まだ入らない」と待っていても、どこで止まっているのかを判断できません。
会社に聞く3つの文言
聞く相手は総務や人事の担当者です。育休中で会社に行きにくいなら、メールで構いません。
- 「初回の支給申請は、いつ、何か月分で出す予定ですか」 締切ではなく予定日を聞きます。締切だけ答えられたら、それより前に出せるかを続けて聞きます
- 「休業開始時賃金月額証明書はもう提出しましたか」 初回申請に添付する書類で、育休前6か月の賃金を証明します。これが出ていないと日額が確定しません
- 「振込先は前に登録した口座ですか、それとも新しく登録が要りますか」 新しい口座を登録するならキャッシュカードの写しなど口座番号が分かる書類が必要で、マイナンバーを届け出ていて、マイナポータルに登録した公金受取口座に振り込むなら提出不要です
初回申請の書類は、Q&Aによれば、休業開始時賃金月額証明書、育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書、賃金台帳や出勤簿など休業と賃金を証明するもの、母子健康手帳など出産日を確認できるものです。母子手帳の写しは自分が用意する側なので、頼まれる前に出生届出済証明のページを撮っておくと一往復減ります。
原則は会社経由。本人が出す道もある
申請手続は「原則として、事業主を経由して行う必要があります」とQ&Aにあります。ただし「被保険者本人が希望する場合は、本人が申請手続を行うことも可能です」とも書かれています。申請先は在職中の事業所を管轄するハローワークです。
会社の動きが遅いときの選択肢として本人申請は残されていますが、賃金台帳や出勤簿は会社にしかなく、結局は会社の協力が要ります。先に「予定日を聞く」のはそのためです。
いくら入るか
給付額は1支給単位期間ごとに「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」、育休開始から181日目以降は50%です。賃金日額は原則、育休開始前6か月の総支給額(保険料などが引かれる前の額で、賞与は除く)を180で割った額、支給日数は原則30日です。
Q&Aが示す目安は次のとおりです。
| 育休前6か月の平均月額(目安) | 180日目まで | 181日目以降 |
|---|---|---|
| 15万円 | 月10万円 | 月7.5万円 |
| 20万円 | 月13.4万円 | 月10万円 |
| 30万円 | 月20.1万円 | 月15万円 |
給付額には上限があり、額は改定されます。最新の上限は厚生労働省のパンフレット「育児休業等給付の内容と支給申請手続」で確認できます。2026年9月時点で公開されているのは令和8年8月1日改訂版です。
育休中に会社から賃金が支払われ、それが賃金日額×支給日数の80%以上なら、その期間の給付は0円です。80%に満たなくても、支払われた額に応じて減額されることがあります。また、1つの支給単位期間に働いた日数が10日(10日を超える場合は80時間)を超えると、その期間は支給要件を満たしません。育休中に少しだけ手伝う予定がある人は、この線を先に会社と共有しておくと安全です。
空白のあいだ、社会保険料は止まる。住民税は止まらない
健康保険と厚生年金の保険料は、育休期間中、本人負担分も事業主負担分も免除されます。手続きは会社が「育児休業等取得者申出書」を年金事務所へ出すことで行い、本人が何かを出す必要はありません。日本年金機構の案内では、毎月の保険料の免除期間は「育児休業等を開始した日の属する月から育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月まで」です。免除された期間は、将来の年金額の計算では保険料を納めた期間として扱われます。
一方、住民税は前年の所得に対してかかるため、育休中も止まりません。払い方は会社によって違うので、上の3つの文言に「住民税はどう払うか」を足して聞いておくと、一度のやり取りで片づきます。
途中で退職しても、受け取った分は返さない
育休中に退職することになっても、それまで受け取った育児休業給付を返す必要はありません。Q&Aは、受給資格の確認時点で退職が予定されていた場合を除いてそう書いています。
給付が続くのは、原則として子が1歳になる日の前日、具体的には1歳の誕生日の前々日までです。子が1歳になる前に職場復帰したときは、復帰日の前日で終わります。
今日の作業
- 会社に上の3つを聞く。返事が「締切までに出す」なら、何月に出すかまで詰める
- 母子手帳の出生届出済証明のページを撮る
- 自分の日付を出す。出産日に57日を足した日が育休開始日、その1か月後が最初に申請できる日、開始日から4か月を経過する日の属する月の末日が初回の締切
3の三つの日付を家計のカレンダーに書いておくと、「まだ入らない」の不安が「いつ会社に確認するか」の予定に変わります。