定期借家(定期建物賃貸借)で借りている部屋でも、床面積200㎡未満の居住用の建物なら、転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情で住み続けるのが難しくなったとき、借主から解約を申し入れて、申し入れた日から1か月で契約を終えられます(借地借家法38条7項)。この解約について、1か月より長い予告期間を求めるような借主に不利な特約は無効です(同条8項)。
やむを得ない事情に当たらない理由で出たいときは、契約書の中途解約の条項しだいです。逆に、期間満了で出ていくことになっている人は、貸主から届くはずの「終了の通知」の時期を確かめます。期間1年以上の契約で通知が遅れた場合、すぐには退去しなくてよいことになっています。
この記事では、定期借家の途中解約の要件、契約書で見る場所、終了の通知の決まり、再契約の扱いを、借地借家法の条文と国土交通省の資料で確かめます。
定期借家は「期間が来たら終わる」契約
国土交通省のQ&Aは、定期建物賃貸借を「契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約が終了する制度」と説明しています。普通の借家契約では、貸主は正当の事由がなければ更新を拒めませんが、定期借家ではその仕組みがありません。
その代わり、定期借家として成り立つには条件があります。借地借家法38条は、書面(電磁的記録を含む)で契約すること、そして貸主が契約の前に「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを、その旨を書いた書面を渡して説明することを求めています。この説明をしなかったときは、更新がないという定めが無効になります(38条5項)。国交省のパンフレットは、事前説明に誤りがあった場合や説明をしなかった場合は普通建物賃貸借契約として扱われるとしています。
自分の契約が定期借家かどうかは、契約書に「定期建物賃貸借」「更新がない」といった文言があるか、契約のときに契約書とは別の説明書面を受け取ったかで確かめます。
途中で出られるのは、三つの条件がそろったとき
借地借家法38条7項が借主に認めている途中解約は、次の条件がそろった場合です。
- 居住の用に供する建物であること。 国交省のQ&Aは、店舗併用住宅でも生活の本拠としているものなら居住の用に供されている建物に当たり、途中解約できるとしています。
- 床面積が200㎡未満であること。 建物の一部分を借りている場合は、その部分の床面積で判断します(条文のかっこ書き)。マンションやアパートの一室なら、その部屋の床面積です。
- 転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと。
この三つに当たれば、借主は解約を申し入れることができ、契約は「解約の申入れの日から一月を経過することによって終了」します。国交省のQ&A(Q7)は、法律上の途中解約ができるのは、やむを得ない事情で生活の本拠として使うのが難しくなった場合だと念を押しています。条文が例に挙げているのは転勤・療養・親族の介護で、それ以外にどんな事情が含まれるかは、今回読んだ国交省の資料には例がありませんでした。
不利な特約は無効
38条8項は、6項(終了の通知)と7項(途中解約)に反する特約で借主に不利なものを無効としています。国交省のQ&A(Q6)は、床面積200㎡未満の居住用の建物について、1か月前の申入れで解約でき、これより長い申入れ期間を特約で設けるなど借主に不利な特約は無効と説明しています。
契約書に「解約予告は2か月前」「途中解約不可」と書いてあっても、上の三つの条件に当たる場合は、1か月前の申入れで解約できるということです。
やむを得ない事情がないときは、契約書の条項を見る
転勤や療養ではなく、たとえば「もっと広い部屋に移りたい」といった理由で出たい場合、法律上の途中解約は使えません。国交省のパンフレットの比較表は、法律上の途中解約に当たらない場合について「中途解約に関する特約があればその定めに従う」としています。
標準契約書は理由を問わず1か月前
国交省が作っている定期賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)の第11条は、次のように定めています。
- 借主は、貸主に対して少なくとも1か月前に解約の申入れをすることで、契約を解約できる
- 1か月分の賃料(解約後の賃料相当額を含む)を払えば、申入れの日から1か月以内のいつでも解約できる
標準契約書の解説は、この条項について、法律上の事情がある場合はもちろん、その事情の有無にかかわらず借主の途中解約を認めたものだとしています。契約書がこのひな形に沿っていれば、理由を問わず1か月前の申入れで出られます。
ただし、標準契約書の使用は法令で義務づけられていません(国交省の標準契約書のページ)。解説も、長期の契約を前提に賃料を割り引く場合などは借主の解約権を限る条項に替えることがあるとしています。実際の契約書の「解約」「中途解約」の条項を読んで、予告期間と、予告期間に足りないときの支払いを確かめます。
特約の予告期間が3か月のとき
国交省のQ&A(Q8)は、「やむを得ない事情以外の事情でも、借主は途中解約できる」という特約を結んだ場合について、申入れから解約までの期間を3か月としても有効だとしています。もともと法律で定められている内容ではないからです。そのうえで、このような特約がある場合でも、法律の要件に当たるときは1か月前の申入れで途中解約できると注意しています。
転勤などで出る場合は1か月、それ以外の理由なら特約の3か月、という使い分けになります。
期間満了で出るとき:終了の通知の決まり
期間1年以上なら、満了の1年前から6か月前までに通知
借地借家法38条6項は、期間が1年以上の定期借家では、貸主が満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、期間の満了で賃貸借が終わることを借主に通知しなければ、終了を借主に主張できないとしています。国交省のQ&A(Q10)は、この通知は、借主に契約の終了について注意を促し、再契約の交渉や代わりの住まいを探す期間を確保するためのものだと説明しています。
期間が1年未満の契約には、この通知の義務はありません(国交省Q&A Q10、令和6年のパンフレットQ4)。
通知が遅れたら、通知の日から6か月は住める
通知期間を過ぎてから貸主が通知した場合は、その通知の日から6か月を経過した後でなければ、終了を主張できません(38条6項ただし書)。国交省のQ&A(Q11・Q12)は、この場合、通知の日から6か月間は建物を引き続き使用でき、その間は従前と同様に賃料を払うこと、その後は再契約が整わなければ退去することになると説明しています。
標準契約書の解説も、貸主が通知をしなかった場合は、当初の契約と同じ条件(期間は通知の後6か月を経過した日に終了)で契約が続いているものとして扱われるとしています。借主が契約を続ける意思がない場合は、特段の手続きを経ることなく契約を終了させることができる、とも書かれています。
満了日が近いのに通知が来ていないときは、次の順で確かめます。
- 契約期間が1年以上か(1年未満なら通知の義務はない)
- 満了の1年前から6か月前までの間に、通知が届いていないか(郵便物やメールを見直す)
- 通知期間を過ぎてから通知が届いた場合は、その日付から6か月後の日を数える
標準契約書の解説は、通知期間内に通知したことが明らかになるよう、内容証明郵便などで通知することが望ましいとしています。
契約が終わった後も住んでいれば更新になる、とはならない
普通の借家契約には、期間が過ぎても借主が住み続け、貸主が異議を述べなければ更新したものとされる「黙示の更新」(民法619条)があります。標準契約書の解説は、定期賃貸住宅契約にはこの規定が適用されず、当事者が合意しても更新することはできないとしています。住み続けるには、次の再契約が必要です。
住み続けたいときは再契約
定期借家は期間満了で終わりますが、貸主と借主の双方が合意すれば、改めて再契約をして住み続けられます(国交省Q&A Q2)。
令和6年11月の国交省のパンフレットは、再契約について次のように説明しています。
- 更新ではなく新たな契約を結ぶ扱いなので、最初の契約と同じこと(事前説明など)を改めて行う必要がある(Q5)
- 敷金の精算は最終的な退去時に行えばよく、再契約時に必ず行う必要はない(Q6)
標準契約書は、貸主に再契約の意向があるときは終了の通知の書面にその旨を書き添えることとし(第18条)、再契約した場合の原状回復は再契約の賃貸借が終わる日までに行うと定めています。終了の通知に再契約のことが書かれているか、再契約の条件(家賃や期間)がどうなるかを、通知を受け取った時点で確かめておくと、引っ越すかどうかの判断がしやすくなります。
確認の順番
- 契約書と、契約時に受け取った説明書面で、定期借家かどうかを確かめる
- 出たい理由が転勤・療養・親族の介護などのやむを得ない事情か、部屋の床面積が200㎡未満かを確かめる。当たれば、申入れの日から1か月で終了する
- 当たらなければ、契約書の中途解約の条項で予告期間と支払いを確かめる
- 期間満了で出る場合は、契約期間が1年以上か、終了の通知がいつ届いたかを確かめる
- 住み続けたい場合は、終了の通知に再契約の意向が書かれているかを見て、貸主と再契約の条件を話し合う
この記事で確認できなかったこと
2026年11月7日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- 転職、結婚、家族が増えたことなど、転勤・療養・親族の介護以外の事情が「やむを得ない事情」に当たるか。
- 法律上の途中解約の申入れを、書面でしなければならないか(条文には方法の定めがありませんでした)。
- 法律上の途中解約をした場合に、契約書の違約金の条項がどう扱われるか。
- 床面積にバルコニーなどが含まれるか。
- 平成12年3月1日より前に結んだ普通借家契約から切り替えた契約の扱いの細部。国交省のQ&A(Q13)は、居住用の建物では当分の間、合意しても定期借家に切り替えられないとしています。
参考資料
- e-Gov法令検索 借地借家法 — 38条(書面による契約、事前説明、終了の通知、途中解約、不利な特約の無効)
- 国土交通省 定期建物賃貸借 Q&A — 途中解約(Q6〜Q9)、終了の通知と遅れた場合(Q10〜Q12)、再契約(Q2)
- 国土交通省 定期建物賃貸借(概要・パンフレット) — 制度の説明とパンフレットの案内
- 国土交通省 パンフレット「定期借家制度をご存じですか」 — 普通借家との比較表、特約がある場合の途中解約
- 国土交通省・日本賃貸住宅管理協会「大家さんのための定期建物賃貸借契約」(令和6年11月) — 事前説明の誤り、1年未満の契約の通知、再契約と敷金
- 国土交通省 『定期賃貸住宅標準契約書』について — 標準契約書の位置づけ(使用は義務ではない)
- 国土交通省 定期賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型) — 第2条(終了の通知)、第11条(借主からの解約)、第18条(再契約)と解説