親が老人ホームに入所すると、年末調整の扶養控除は、同居老親等の58万円ではなく、その他の老人扶養親族の48万円になります。国税庁のタックスアンサーNo.1180は、老人ホーム等へ入所している場合は「その老人ホームが居所となり、同居しているとはいえません」としています。
一方で、施設に入ったことだけで扶養から外れるわけではありません。扶養親族の条件は「生計を一にしていること」で、同居は要件ではないからです。国税庁は、別居していても常に生活費や療養費などの送金が行われていれば生計を一にするものとして扱うとしています。
病院への入院は扱いが違い、治療のための入院なら長期でも同居のままです。この記事では、70歳以上の親を扶養している人が年末調整で確かめることを、入所・入院・別居の場合に分けて整理します。金額は令和8年分(2026年分)のものです。
70歳以上の親の扶養控除は、同居かどうかで10万円違う
No.1182によると、控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人(老人扶養親族)の扶養控除額は次のとおりです。
- 同居老親等:58万円
- 同居老親等以外の老人扶養親族:48万円
令和8年分では、昭和32年1月1日以前に生まれた人が70歳以上に当たります(「年末調整のしかた」)。60代の親は老人扶養親族ではなく一般の控除対象扶養親族で、扶養控除は38万円です。同居しているかどうかで額は変わりません。
同居老親等は、老人扶養親族のうち、納税者またはその配偶者の直系尊属(父母・祖父母など)で、納税者または配偶者のいずれかとの同居を常況としている人です。妻の両親と同居している夫が、妻の親を自分の扶養親族として申告する場合も、配偶者の直系尊属なので同居老親等に入ります。
配偶者を亡くしたあとも、その親と暮らしている人がいます。国税庁の質疑応答事例は、配偶者の死亡で婚姻関係は解消されるものの、その父母との姻族関係が直ちに否定されるわけではなく、生存している配偶者が婚姻関係を終了させる意思表示をしない限り、死亡した配偶者の直系尊属も「配偶者の直系尊属」に含まれるとしています。夫を亡くした妻が同居している夫の母を扶養している場合も、同居老親等の対象から外れません。
老人ホームへの入所と、病院への入院で扱いが分かれる
国税庁の質疑応答事例は、病気の治療のための入院である限り、その期間が結果として1年以上といった長期にわたる場合でも、同居に該当するものとして取り扱って差し支えないとしています。同じ回答の中で、老人ホームなどへ入所している場合は、その老人ホームが居所となり同居しているとはいえない、と続けています。
「年末調整のしかた」は、同居老親等に当たるかどうかについて次の例を挙げています。
| 状況 | 同居老親等か |
|---|---|
| 同居していた親が、病気などの治療のため入院して別居している | 当たる |
| 親が老人ホームなどへ入所している | 当たらない(施設が居所) |
| 親が同じ敷地内の別棟に住み、食事を一緒にするなど日常生活を共にしている | 当たる |
| 所得者が転勤で住所を変えたため、親と別居している | 当たらない |
国税庁の資料が使っている言葉は「老人ホーム等」「老人ホームなど」です。「老人ホーム」と名の付かない施設(サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなど)がこれに含まれるかを個別に挙げた記述は、今回読んだ資料にはありませんでした。
いつの時点で判定するか
「年末調整のしかた」は、老親等が同居老親等に当たるかどうかは年末調整を行う日の現況で判定するとしています。年の途中まで同居していても、年末調整の時点で老人ホームに入所していれば、同居老親等には当たりません。同居していた月数で控除額を按分する仕組みは、国税庁の資料には書かれていません。
施設に入っても扶養親族のままでいられる条件
「生計を一にする」は同居を要件としない
扶養親族は、納税者と生計を一にする親族で、合計所得金額が一定以下の人です(No.1180)。No.1180のQ&Aは、「生計を一にする」とは必ずしも同居を要件とするものではなく、勤務、修学、療養等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には生計を一にするものとして取り扱われるとしています。
施設に入った親に生活費や療養費を常に送っていれば、別居でも扶養親族として申告できます。同居老親等の58万円にはならず、70歳以上なら48万円、70歳未満なら38万円です。
同じQ&Aは、親族が同一の家屋に起居している場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、生計を一にするものとして扱うとしています。
親の所得が62万円を超えると扶養親族にならない
送金をしていても、親自身の所得が多ければ扶養親族になりません。令和8年分の扶養親族の所得要件は、合計所得金額62万円以下です。「年末調整のしかた」は、公的年金等に係る雑所得だけの場合、本年中の公的年金等の収入金額が172万円以下(65歳未満の人は122万円以下)なら合計所得金額が62万円以下になるとしています。
ここに入らないのが非課税の年金です。No.1180のQ&Aは、扶養親族に当たるかを判定する合計所得金額には非課税とされる所得は含まれないとし、厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などを非課税所得の例に挙げています。父が亡くなって遺族年金を受けている母の場合、老齢年金の額で判定し、遺族年金は足しません。
所得要件は前年までと違います。令和7年分は58万円以下でした。去年の資料の数字で判断しないでください。
兄弟で仕送りしている場合は1人だけ
施設の費用や生活費を兄弟で分けて負担している家庭もあると思います。No.1180のQ&Aは、郷里にいる母の生活費を兄弟で送金している場合について、兄弟のうちだれか1人だけが扶養控除の対象にでき、均等に送金していても兄弟がそれぞれ重複して控除の対象とすることはできないとしています。
誰が申告するかを兄弟で決め、他の兄弟の扶養控除等申告書には書かないようにします。
勤務先への申告と、求められる書類
扶養控除等(異動)申告書のチェック欄
令和8年分の扶養控除等(異動)申告書の裏面は、源泉控除対象親族が同居老親等である場合は「老人扶養親族」欄の「同居老親等」に、同居老親等以外の老人扶養親族である場合は同欄の「その他」にチェックを付けるよう求めています。親が施設に入ったら、「同居老親等」から「その他」へ直す異動申告をします。
勤務先は、申告書をもとに控除額を計算します。「年末調整のしかた」は勤務先に対し、申告された老人扶養親族が同居を常況としているかどうか等を所得者本人に確認するよう求めています。
別居の親への送金の確認
No.1180のQ&Aは、地方に住む両親を扶養しているとして扶養控除等申告書が出された場合について、法令上、勤務先に証明する書類の提出までは求められていないとしています。ただし、正しい扶養控除の計算のため、銀行振込や現金書留で送金している事実を振込票や書留の写しなどの提示を受けて確認するよう勤務先に勧めています。会社から求められたら、送金の記録を見せられるようにしておきます。
確認の順番
- 親のその年12月31日現在の年齢を確かめる。令和8年分は昭和32年1月1日以前の生まれなら70歳以上
- 親の合計所得が62万円以下かを確かめる。65歳以上で公的年金だけなら年金収入172万円以下が目安。遺族年金などの非課税の年金は数えない
- 別居なら、常に生活費や療養費などを送っているかを確かめる
- 年末調整を行う日に、親が老人ホームに入所しているか、病院に入院しているかを確かめる。入所なら同居老親等ではない
- 扶養控除等申告書の「同居老親等」「その他」のチェックを実情に合わせて直す
- 兄弟で負担しているなら、申告するのを1人に決める
この記事で確認できなかったこと
2026年11月2日時点で、次の点は今回読んだ国税庁の資料では確かめられていません。
- 親の施設利用料を、子が親に送金するのではなく施設へ直接払っている場合に、「常に生活費、療養費等の送金が行われている場合」と同じ扱いになるかどうか。
- サービス付き高齢者向け住宅やグループホームなど、施設の種類ごとに「老人ホーム等」に当たるかどうか。
- 年末調整が終わったあと12月31日までに親が老人ホームに入所した場合の扱い。
- 住民票の世帯を分けたこと(いわゆる世帯分離)が、生計を一にするかどうかの判定にどう影響するか。国税庁の資料が示す基準は送金や起居の実態です。
- 住民税の同居老親等の扶養控除の額。住んでいる市区町村に確認してください。
参考資料
- 国税庁 令和8年分 年末調整のしかた — 扶養親族(生計を一にするの扱い、公的年金等だけの場合の収入の目安)、老人扶養親族、同居老親等の判定例
- 国税庁 タックスアンサーNo.1180 扶養控除 — 控除額、扶養親族の要件、老人ホーム入所と入院の注
- 国税庁 タックスアンサーNo.1180 扶養控除 Q&A — Q1「生計を一にする」の意義、Q3 地方に住む両親、Q5 兄弟で扶養、Q6 遺族厚生年金
- 国税庁 タックスアンサーNo.1182 お年寄りを扶養している人が受けられる所得税の特例
- 国税庁 質疑応答事例 「同居」の範囲(長期間入院している場合)
- 国税庁 質疑応答事例 死亡した配偶者の父母に係る扶養控除
- 国税庁 令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 — 裏面「記載についてのご注意」1⑶・2⑸