結論から
住民票を移すかどうかの判断基準はひとつしかありません。生活の本拠が下宿先に移ったかどうかです。移ったのなら、移すのが法律上の義務になります。総務省は「入学・就職・転勤等に伴う引越し等により住所を移した方は、速やかに住民票の住所変更の届出を行って下さい」と案内し、そのすぐ下に「法律上の義務です。正当な理由がなく届出をしない場合、5万円以下の過料に処されることがあります」と書き添えています。
そのうえで、家族の話し合いが止まりやすい誤解を先に外しておきます。住民票を移しても、親の扶養からは外れません。 税の扶養控除も健康保険の被扶養者も、住民票がどこにあるかでは判断していないからです。
では何が変わるのか。効いてくるのは3つだけです。選挙、20歳になったときの国民年金の窓口、そして下宿先で住民票の写しや印鑑証明が必要になったとき。この3つを押さえれば判断できます。
基準は「住んでいる場所」ではなく「生活の本拠」
住民基本台帳法は第4条で、住所の意味を勝手に変えてはいけないと定めています。たどっていくと地方自治法を経て民法第22条にたどりつき、そこには「各人の生活の本拠をその者の住所とする」とだけ書かれていました。
判断材料は寝泊まりの回数ではありません。生活の中心がどちらにあるかです。4年間そこで暮らし、長期休みにたまに帰るだけなら、生活の本拠は下宿先に移っています。平日だけ寮で過ごし、週末ごとに実家へ戻り、荷物も郵便物も実家にあるという暮らしなら、実家のままだという整理も成り立つでしょう。
ここで効いてくるのが、住民票が何に使われているかです。総務省は住民票について「国民健康保険、国民年金、児童手当、選挙人名簿への登録など各種行政サービスの基礎となっています」と説明しています。どちらの役所にサービスを受け持ってもらうか、という選択でもあるわけです。
判断するのは市区町村です。迷ったら下宿先の役所の住民記録担当に電話して、暮らし方をそのまま伝えてください。住んでいる日数、家財の置き場所、生活費の出どころといった具体的な点を確認されます。
届出は2回。順番が決まっている
移すと決めたら、手続きは前後2回に分かれます。同じ市区町村の中での引っ越しなら、転居届の1回だけです。
| 手続き | いつ | 根拠 |
|---|---|---|
| 転出届(実家の役所) | 引っ越し前に、あらかじめ | 住民基本台帳法24条 |
| 転入届(下宿先の役所) | 転入した日から14日以内 | 同22条 |
| 転居届(同じ市区町村内) | 転居した日から14日以内 | 同23条 |
転出届で受け取る転出証明書を、転入届に添えて出す流れになります。入居日が4月1日なら、3月のうちに実家の役所で転出届、4月1日から4月14日までに下宿先の役所で転入届、という並びです。役所が開いている日は限られるので、入居日が決まった時点で両方をカレンダーに書き込んでおくと取りこぼしません。
マイナンバーカードも持って行ってください。総務省は「入学・就職・転勤等に伴う引越し等により住所を移した方は、引越し先の市区町村にマイナンバーカードを持参し、住民票の住所の変更手続とあわせて、必要な手続を行ってください」と案内しています。カードの記載を直しておかないと、住民票のコンビニ交付や各種の本人確認でつまずきます。
誤解を先に外す — 扶養は住民票では動かない
税のほうから見ます。扶養控除の要件は「納税者と生計を一にしていること」で、国税庁はこの言葉について「必ずしも同居を要件とするものではありません」と明言しています。続けて「勤務、修学、療養等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、『生計を一にする』ものとして取り扱われます」。修学のための別居は、はじめから想定されている形なのです。
健康保険も同じ構造でした。健康保険法第3条第7項は被扶養者の範囲を列挙していて、その第1号は「被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの」(かっこ書きは省略)。ここに同じ世帯にいることという条件はありません。同一世帯であることが要件になるのは、続く第2号の「三親等内の親族で前号に掲げる者以外のもの」からです。子は別居していても被扶養者でいられる、という書き分けになっています。
ただし実務では、別居扱いになると勤め先の健康保険から仕送りの状況をたずねる書類が回ってくることがあります。保険者によって扱いが分かれる部分なので、移す前に親の勤務先の担当部署へ確認しておくと安全です。
変わること1 — 選挙は日数の隙間に注意する
ここがいちばん実害の出やすいところです。選挙人名簿に登録されるのは、その市区町村に住所を持つ満18歳以上の日本国民で、住民票がつくられた日、他の市区町村からの転入者なら転入届をした日から引き続き3か月以上、住民基本台帳に記録されている人になります。登録は毎年3月・6月・9月・12月の原則1日に行われるほか、選挙が実施されるときにも行われます。
一方、転出しても旧住所の名簿からすぐに消えるわけではありません。総務省の説明は「転出したときはすぐには抹消せず、転出したことを表示しておいて、転出日から4カ月を経過したときに抹消します」です。
この2つを並べると、転入直後は新住所でまだ登録されず、旧住所側に残っている期間があると分かります。どちらで投票するのかは、実家の市区町村の選挙管理委員会に転出日を伝えて聞けば、その場で答えてもらえます。
住民票を移さずに下宿している場合は、選択肢が決まっています。期日前投票は「選挙人名簿登録地の市区町村で行う投票が対象」なので、下宿先では使えません。使えるのは不在者投票です。手順は次のとおり。
- 実家(名簿登録地)の選挙管理委員会に、投票用紙・投票用封筒・不在者投票証明書を請求する。直接でも郵便でもよく、自治体によってはオンライン請求もできる
- 届いた書類のうち不在者投票証明書の入った封筒は開封せずに、下宿先の市区町村の選挙管理委員会へ、投票日の前日までに持参する
- 投票用紙にあらかじめ記入してはいけない。記載はその場で行う
請求から投票までに郵送の往復が挟まります。選挙の日程が出たらすぐ請求するのが現実的です。
変わること2 — 20歳になったときの国民年金
日本国内に住むすべての人は、20歳になった時から国民年金の被保険者になります。学生には保険料の納付が猶予される学生納付特例があり、日本年金機構が案内する申請先は「住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口」です。年金事務所でも、許認可を受けた学校でも申請でき、郵送と電子申請にも対応しています。
住民票を移していれば下宿先の役所、移していなければ実家の役所。届いた書類を親が処理するのか本人が動くのかが、ここで変わります。
見落とされやすいのが所得の見方です。日本年金機構は対象者について「家族の方の所得の多寡は問いません」と明記しています。審査されるのは学生本人の前年所得だけで、親の収入は関係ありません。所得の基準額そのものは改正で動くので、その年の数字は日本年金機構のページで確かめてください。
変わること3 — 現地で書類が要るとき
住民票の写しや印鑑登録証明書は、住民登録をしている市区町村で扱われます。移していなければ実家の役所です。アルバイトの契約、奨学金、車の登録、賃貸契約の更新などで求められたとき、その都度実家に頼むことになります。
ただし住民票の写しについては、マイナンバーカードのコンビニ交付という抜け道があります。カードの記載住所が最新であることが前提なので、移したなら記載変更を済ませておく。移さないなら、実家の住所のまま使い続けることになります。
印鑑登録は移した先でやり直しです。転出すると元の登録は効力を失うため、実印が必要になる予定があるなら、転入届のときにまとめて登録しておくと二度手間になりません。
今日できること
入居日がまだ決まっていなくても、進められることがあります。
- 暮らし方を言葉にする。「平日だけ下宿」なのか「実質そこで暮らす」なのか。これが決まらないと判断は前へ進みません
- 入居日が決まったら、転出届と転入届の期限を同時にカレンダーへ書き込む。転入は入居日から14日以内です
- 20歳になる年なら、学生納付特例の申請先が実家と下宿先のどちらになるかを確認しておく
- 移さないと決めたなら、実家の選挙管理委員会の連絡先を控えておく。不在者投票の請求先はそこです