夫と死別した後に再婚していない女性は、子や扶養している家族がいなくても、寡婦控除を受けられます。条件は、その年の合計所得金額が500万円以下であることと、事実上の婚姻関係にある相手がいないことの二つです。所得税の控除額は27万円です。
判定はその年の12月31日の現況で、毎年あらためて行います。所得税法の定義には、死別から何年までという期間は書かれていません。
ただし、生計を一にする子がいて「ひとり親」に当たる間は、寡婦控除ではなくひとり親控除(35万円)になります。
死別した人の寡婦の要件
所得税法2条1項30号は、寡婦を「ひとり親に該当しないもの」のうち、次のどちらかに当たる人としています。
- イ 夫と離婚した後婚姻をしていない人。 扶養親族がいること、合計所得金額が500万円以下であること、事実上婚姻関係と同様の事情にある人がいないこと、の三つを満たす人
- ロ 夫と死別した後婚姻をしていない人、または夫の生死の明らかでない一定の人。 イのうち、合計所得金額500万円以下と、事実婚の相手がいないことの二つを満たす人
ロには、扶養親族の要件が入っていません。タックスアンサーNo.1170も、死別の場合について「扶養親族の要件はありません」と書いています。離婚した人は扶養親族がいないと寡婦に当たりませんが、死別した人は扶養している家族がいなくても当たります。
No.1170の注では、ここでいう「夫」は民法上の婚姻関係にある人です。
「夫の生死の明らかでない一定の人」の範囲は、所得税法施行令11条に並んでいます。船舶の沈没や航空機の墜落などのときに乗っていて3か月以上生死が明らかでない人、死亡の原因となる危難に遭った後1年以上生死が明らかでない人、3年以上生死が明らかでない人などです。
死別からの年数は問われない
ロの要件は「夫と死別した後婚姻をしていない」ことで、死別からの期間は書かれていません。所得税法85条1項は、寡婦に当たるかどうかの判定をその年12月31日の現況によるとしています。死別から何年たっていても、その年の12月31日に要件を満たしていれば、その年分の寡婦控除の対象です。
夫が亡くなったその年も同じで、12月31日に再婚していなければ、その年から判定の対象になります。
子がいる間はひとり親控除になる
寡婦の定義は「ひとり親に該当しないもの」から始まります。ひとり親に当たる人は、寡婦控除ではなくひとり親控除を受けます。
タックスアンサーNo.1171によると、ひとり親は、婚姻をしていない人などのうち、次の三つすべてに当てはまる人です。
- 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
- 生計を一にする子がいること。子は、総所得金額等が一定額以下(令和8年分は62万円以下)で、ほかの人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人に限られる
- 合計所得金額が500万円以下であること
控除額は、ひとり親控除が35万円、寡婦控除が27万円です。
子が就職して所得が62万円(令和8年分の額)を超えた、子が結婚して配偶者の同一生計配偶者になった、といった事情で子が2の条件から外れ、ほかに条件に当たる子もいなければ、その年の12月31日の判定でひとり親には当たりません。死別した人は、寡婦の要件(所得と事実婚)で判定することになり、要件を満たせばその年分から寡婦控除27万円に変わります。
合計所得金額500万円の数え方
合計所得金額は、所得税法2条1項30号イ(2)で、純損失や雑損失の繰越控除を適用しないで計算した総所得金額、退職所得金額、山林所得金額の合計額とされています。収入から経費や給与所得控除などを引いた後の「所得」の合計です。
- 給与だけの人。 令和8年分の「年末調整のしかた」は、本年中の給与の収入金額が6,777,778円以下であれば合計所得金額が500万円以下になるとしています
- 遺族年金。 タックスアンサーNo.1605は、国民年金法や厚生年金保険法などに基づいて遺族に支給される遺族年金は、原則として所得税も相続税も課税されないとしています。課税されない給付なので、合計所得金額には入りません
- 夫の未支給年金。 同じNo.1605は、遺族が受け取る未支給年金は遺族の一時所得の収入金額に当たるとしています
- 退職金。 合計所得金額には退職所得金額も入ります。日本年金機構のお知らせは、500万円を超える所得があると所得税の控除対象にならないが、退職所得を除くと500万円以下になる場合は地方税の控除対象になるとしています
寡婦控除から外れるとき
再婚したとき
要件は「死別した後婚姻をしていない」ことなので、その年の12月31日に再婚していれば寡婦に当たりません。
事実婚の相手がいるとき
「事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者」の範囲は、所得税法施行規則1条の3と「年末調整のしかた」に書かれています。住民票の続柄で判断する仕組みです。
- 本人が住民票で世帯主の場合:同じ世帯の人の住民票に、世帯主との続柄が「世帯主の未届の夫」など、事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄の記載がされた人
- 本人が世帯主でない場合:本人の住民票に、世帯主との続柄が「世帯主の未届の妻」などと記載されているときの、その世帯主
日本年金機構のお知らせも、住民票の続柄欄に「夫(未届)」「妻(未届)」、またはこれらと同様の記載がある場合を除く、としています。
所得が500万円を超えた年
所得の要件はその年ごとに見ます。ある年に500万円を超えて外れても、翌年に500万円以下に戻れば、ほかの要件を満たす限り、その年分はまた対象です。
妻と死別した男性の場合
寡婦控除は、夫と死別・離婚した女性のための控除です。タックスアンサーNo.1172は、以前あった寡夫控除は令和2年分からひとり親控除に変わったとしています。
ひとり親控除には生計を一にする子がいることが必要です。妻と死別した男性は、要件を満たす子がいればひとり親控除35万円の対象になり、いなければ、寡婦控除やひとり親控除は受けられません。日本年金機構のお知らせの表でも、男性の欄はひとり親だけで、扶養親族がいない死別の「寡婦」は女性の欄にだけあります。
どこで申告するか
会社員など給与を受け取っている人
国税庁の給与所得者向けのページによると、扶養控除等申告書は、その年の最初の給与の支払を受ける日の前日までに勤務先へ出します。年末調整では、勤務先がこの申告書の情報から寡婦控除などの額を確かめます。
年の途中で夫が亡くなって寡婦に当たることになった人について、「年末調整のしかた」は、勤務先に対し、本年の中途で本人が寡婦などに該当することとなった人の異動申告が忘れずに行われているかを確かめるよう求めています。年末調整を行う時までに申告があれば、その申告に基づいて年末調整を行うとしています。
年金を受け取っている人
日本年金機構の令和9年分扶養親族等申告書のお知らせは、本人が寡婦・ひとり親に当たるかを、申告書を出す必要があるかの判断に入れています。前年の申告から変更がない場合でも、該当する控除を受けるには毎年の提出が必要だとしています。
申告しそびれた年
タックスアンサーNo.2030によると、確定申告の義務がない人でも、源泉徴収された所得税が納め過ぎのときは還付申告ができ、還付申告書はその年の翌年1月1日から5年間提出できます。寡婦控除を入れずに年末調整が終わった年分は、この還付申告で控除を受ける道があります。
住民税の寡婦控除
地方税法314条の2第1項8号は、寡婦である所得割の納税義務者について、市町村民税の所得から26万円を控除するとしています。寡婦に当たるかどうかは、前年の12月31日(前年の途中で死亡した場合は死亡の時)の現況で判定します。
夫が亡くなった年の配偶者控除
国税庁の質疑応答事例「配偶者控除とひとり親控除の双方適用」は、控除対象配偶者だった妻が9月に死亡した従業員について、配偶者控除は死亡の時点で、ひとり親控除は12月31日の時点で判定し、両方の要件を満たせば両方を受けられるとしています。所得税法85条1項・3項がこの判定時期の根拠です。
この事例はひとり親控除についてのものです。夫が亡くなった年に、妻が寡婦控除と配偶者控除の両方を受ける場合を名指しした資料は、今回読んだ範囲にはありませんでした。
この記事で確認できなかったこと
2026年10月28日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられませんでした。
- 夫が亡くなった年に、妻が寡婦控除と、亡くなった夫についての配偶者控除の両方を受けられるかを名指しした国税庁の資料
- 姻族関係終了届や復氏届を出した場合に、寡婦の判定が変わるか。所得税法2条1項30号の要件には、氏や姻族関係のことは書かれていません
- 住民税の寡婦控除の所得要件で、退職所得をどう扱うかの法令上の書き方。日本年金機構のお知らせの記載(退職所得を除くと500万円以下なら地方税の控除対象)だけを確かめました
- ひとり親の子の所得要件(令和8年分62万円以下)が、令和9年分以降も同じ額か
参考資料
- 国税庁 タックスアンサーNo.1170 寡婦控除
- 国税庁 タックスアンサーNo.1171 ひとり親控除
- 国税庁 タックスアンサーNo.1172 寡夫控除
- 国税庁 タックスアンサーNo.1605 遺族の方に支給される公的年金等
- 国税庁 タックスアンサーNo.2030 還付申告
- 国税庁 令和8年分 年末調整のしかた
- 国税庁 給与所得者(従業員)の方へ(令和8年分)
- 国税庁 質疑応答事例 配偶者控除とひとり親控除の双方適用
- 日本年金機構 令和9年分 扶養親族等申告書についてのお知らせ(PDF)
- e-Gov法令検索 所得税法(2条・80条・85条)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(11条)
- e-Gov法令検索 所得税法施行規則(1条の3)
- e-Gov法令検索 地方税法(314条の2)