整骨院や接骨院(柔道整復師の施術所)では、病院と同じように保険証を出して窓口で一部だけ払うことが多いため、どんな症状でも健康保険が使えると思われがちです。実際に健康保険が使えるのは、急性または亜急性の外傷による骨折、脱臼、打撲、捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)の施術に限られます。骨折と脱臼は、応急手当の場合を除き、あらかじめ医師の同意が必要です。
単なる肩こりや筋肉疲労、病気からくる痛み、仕事中や通勤途中のけがは、健康保険の対象になりません。協会けんぽは、「健康保険が使える」と説明を受けて受診しても、対象外であれば治療費の全額または一部を自己負担することがあるとしています。
この記事では、保険が使える場合と使えない場合、窓口で一部負担だけで済む「受領委任」の仕組みと署名の注意、あとから照会が来たときの対応を、厚生労働省と協会けんぽの案内で確かめます。
健康保険が使えるけが
厚生労働省は、整骨院や接骨院で骨折、脱臼、打撲及び捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)の施術を受けた場合に保険の対象になるとしています。もう少し詳しい基準が、平成9年の厚生省通知「柔道整復師の施術に係る算定基準の実施上の留意事項」にあります。
- 療養費の支給対象となる負傷は、急性または亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫で、内科的な原因による疾患は含まれない
- 急性または亜急性の、外からの力による筋や腱の断裂(いわゆる肉ばなれ。挫傷を伴う場合もある)も算定してよい
- 単なる肩こり、筋肉疲労に対する施術は、療養費の支給対象外
協会けんぽ香川支部の案内は、健康保険が使える例として「日常生活やスポーツで足をひねった」「家の階段で転倒し足首を捻挫した」を挙げ、外傷性が明らかな骨折・脱臼・打撲・捻挫が対象だと説明しています。いつ、どこで、どうしてけがをしたかがはっきりしているかが、一つの目安になります。
骨折・脱臼は医師の同意が要る
骨折と脱臼(不全骨折を含む)の施術は、医師の同意を得たものでなければなりません(平成9年通知)。応急手当をする場合は同意がなくてもかまいませんが、応急手当のあとの施術には医師の同意が必要です。
同じ通知によると、医師の同意は患者本人が医師から得ても、施術者が直接医師から得てもよく、どちらの場合も医師が患者を診察したうえで、書面または口頭で与えるものとされています。整骨院で「骨折かもしれない」と言われたら、医師の診察を受けて同意を得る流れになります。
健康保険が使えない場合
協会けんぽの案内は、健康保険の対象にならない場合として次のものを挙げています。
- 単なる肩こり、筋肉疲労
- 慰安目的のあん摩・マッサージ代わりの利用
- 病気(神経痛・リウマチ・五十肩・関節炎・ヘルニアなど)からくる痛み・こり
- 脳疾患後遺症などの慢性病
- 過去の交通事故等による後遺症
- 症状の改善が見られない長期の治療
- 医師の同意のない骨折や脱臼の治療(応急処置を除く)
- 仕事中や通勤途上に起きた負傷
- 「ついでに他の部分も」「家族に付き添ったついでに」といった「ついで」の受診
- 保険医療機関(病院・診療所など)で同じ負傷等の治療中の場合
厚生労働省も、単なる肩こりや筋肉疲労などに対する施術は保険の対象にならず、こうした症状で施術を受けた場合は全額自己負担になるとしています。
仕事中・通勤中のけがは労災
協会けんぽは、負傷原因が労働災害に当たる場合や、通勤途上に負ったけがには健康保険は使えないとしています。通勤中に駅の階段で足をひねった、職場で物を運んでいて腰を痛めたといった場合は、勤め先に伝えて労災の手続きを確かめます。
交通事故のけが
交通事故など第三者の行為によるけがの場合は、協会けんぽへ連絡するよう案内されています。
病院と同時に通う場合
整形外科などで同じけがの治療を受けている間は、整骨院で施術を受けても保険の対象になりません(厚生労働省)。
窓口で一部だけ払う「受領委任」と署名
整骨院の施術に対する健康保険の給付は「療養費」です。厚生労働省の説明では、療養費は本来、患者がいったん全額を払い、自分で保険者に請求する「償還払い」が原則です。柔道整復については例外として、患者は自己負担分だけを払い、残りを柔道整復師が患者に代わって保険者に請求する「受領委任」が認められています。多くの整骨院・接骨院で、病院と同じように自己負担分だけで施術を受けられるのはこのためです。
その代わり、柔道整復師が患者に代わって保険請求をするので、施術を受けるときに必要書類に患者のサインが要ります(厚生労働省・協会けんぽ)。この書類が「療養費支給申請書」です。
協会けんぽは、申請書の委任欄に記入するときは、傷病名・日数・金額をよく確認するよう求めています。また、白紙の用紙にサインしたり印鑑を渡したりすると間違いにつながるおそれがあるとしています。香川支部の案内も、「療養費支給申請書の内容をよく確認し、必ず自分で署名しましょう」としています。
窓口で払う一部負担金は、10円未満を四捨五入する取り扱いです(厚生労働省、平成9年通知)。
領収証を必ずもらう
協会けんぽは、領収証は必ずもらい、金額などに違いがあれば協会けんぽに連絡するよう案内しています。領収証は医療費控除を受けるときにも必要なので、保管しておきます。
あとから照会が届くことがある
協会けんぽは、柔道整復師の請求の中に健康保険の対象とならない治療の請求や不適切な請求が一部あるとして、調査が必要と判断した場合に、電話や文書で負傷原因、治療年月日、治療内容などを照会することがあるとしています。照会があったら、本人が回答書に記入するよう求めています。
そのため、次のものを残しておくと答えやすくなります。
- 受診の記録(けがをした部位、施術を受けた日、施術の内容)
- けがをした日時と場所、原因のメモ
- 領収証
受領委任が止まる場合
協会けんぽは、施術の必要性を個別に確かめる必要があると考えられる場合に、受領委任の取り扱いを中止して、全額をいったん払う償還払いに変えることがあるとしています。対象になる事例として、次のものを挙げています。
- 保険者が施術の内容や回数の照会を繰り返しても回答しない
- 複数の施術所で同じ部位の施術を重ねて受けている
- 長期かつ頻回な施術を続けて受けている
- 前月までの連続する12か月の間に、通算して8か月以上かつ9部位以上の施術を受けている(令和9年1月から)
施術が長引くとき
協会けんぽと香川支部は、施術が長期にわたっても良くならない場合は内科的な要因も考えられるとして、一度医師の診断を受けるよう勧めています。症状の改善が見られない長期の治療は、健康保険の対象外の例にも挙がっています。
はり・きゅう、マッサージとの違い
同じ「療養費」でも、はり・きゅうとマッサージは条件が違います。厚生労働省によると、どちらも保険を使うにはあらかじめ医師が出した同意書または診断書が必要です。
- はり・きゅう: 主に神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症などの慢性的な痛みを主な症状とする病気の治療が対象です。病院などで同じ病気の治療を受けている間は、保険の対象になりません。
- マッサージ: 筋麻痺や関節拘縮などで、医療上マッサージが必要な場合が対象です。疲労回復や慰安、病気の予防のためのマッサージは対象になりません。
協会けんぽが整骨院(柔道整復)の対象外に挙げている五十肩や神経痛は、はり・きゅうでは保険の対象になる病気として挙がっています。ただし、医師の同意書または診断書があることが前提です。
受診前と受診時の確認
- いつ、どこで、どうしてけがをしたかを確かめる(急なけがか、疲れや持病による痛みか)
- 仕事中・通勤中なら勤め先に伝えて労災を確かめる。交通事故なら保険者に連絡する
- 病院で同じけがを治療中なら、整骨院では保険が使えない
- 骨折・脱臼の疑いなら、医師の診察と同意を得る
- 窓口では負傷の原因を正確に伝え、申請書の傷病名・日数・金額を確かめて自分で署名する
- 領収証を受け取り、受診の記録と一緒に保管する
この記事で確認できなかったこと
2026年11月7日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- 健康保険組合や国民健康保険での照会のしかたと、受領委任から償還払いへの変更の基準。今回読んだのは協会けんぽの案内です。
- 整骨院が出す施術内容の明細書の扱い(発行の有無や料金)。
- 「亜急性」が具体的にどの程度の期間を指すか。
- 保険が使えない部分を自費で受けた場合に、その費用が医療費控除の対象になるか。
参考資料
- 厚生労働省 柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて — 保険の対象、肩こり・筋肉疲労は全額自己負担、受領委任とサイン、10円未満四捨五入、はり・きゅう・マッサージの条件
- 厚生労働省 柔道整復師の施術に係る算定基準の実施上の留意事項等について(平成9年保険発第57号) — 急性・亜急性の外傷性、医師の同意、肉ばなれ、肩こりは対象外
- 協会けんぽ 柔道整復師のかかり方 — 対象外の例、署名と白紙の注意、領収証、照会、償還払いへの変更
- 協会けんぽ香川支部 整骨院・接骨院のかかり方(令和7年6月号) — 使える例・使えない例、自分で署名