帰りにスーパーへ寄って転んだ。通勤災害は「寄り道の最中」か「経路に戻った後」かで分かれる

この記事の要点

分かれ目は寄り道の有無ではなく、合理的な経路に復した後かどうかです。経路沿いの店なら店を出た歩道はもう経路の上、経路から外れた店なら戻るまで通勤ではありません。病院では保険証を出す前に「通勤災害です」と伝えます。会社が証明を拒んでも請求はできます。

  1. 分かれ目は「合理的な経路及び方法に復した後」かどうか。復した後は再び通勤になる(石川労働局)
  2. 経路沿いの店なら中断で、店を出た歩道はもう経路の上。経路から外れた店なら逸脱で、いつもの道に戻るまで通勤ではない
  3. 「最少限度」とは逸脱・中断の原因となった行為の目的達成に必要な最少限度の時間・距離(昭和48年通達)。分数の基準はない
どうする?編集部 · · 読了 約9分
目次(10項目)
  1. 分かれ目は、寄り道をしたかどうかではない
  2. あなたの「店を出た直後」は、経路の上か外か
  3. 「最小限度」には、公表された物差しがある
  4. 経路に戻れば通勤に戻る行為、戻らない行為
  5. けがをした日にやること
  6. 請求書が聞いてくることを、先にメモしておく
  7. 会社が「それは労災じゃない」と言ったとき
  8. 健康保険証を出してしまった後
  9. 出るお金と、出ないお金
  10. 自分の事案は、監督署に聞く

分かれ目は、寄り道をしたかどうかではない

会社を出て、駅前のスーパーで夕飯の材料を買った。店を出て歩き出したところで段差につまずいて手首を折った。

これが通勤災害になるかどうかは、寄り道をしたかどうかでは決まりません。石川労働局の説明にそのまま書かれています。

逸脱、中断が「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの」をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行うものである場合には、逸脱、中断の間を除き、合理的な経路及び方法に復した後は再び通勤となります

区切りは「合理的な経路及び方法に復した後」です。 店の出口ではありません。ここを店の出口だと思い込むと、答えが逆になる場面が出てきます。

引用の形にも一つ注意点があります。省令が定めているのは「やむを得ない事由」ではなく「行為」のほうです。法7条3項も「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」と書いており、省令に並ぶのは買い物や通院といった行為の一覧です。事由のリストを探しても見つかりません。

あなたの「店を出た直後」は、経路の上か外か

冒頭の場面で決めることは一つです。そのスーパーは、いつもの通勤経路のにありましたか。それとも経路から外れたところにありましたか。昭和48年の通達が、逸脱と中断をこう分けています。

「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう

この二つで、店を出た直後の歩道の扱いが変わります。

そのスーパーの位置寄った行為店を出た直後の歩道
いつもの経路沿い中断(経路はそれていない)もう経路の上。復した後にあたる
経路から外れた場所逸脱(経路をそれている)まだ経路の外。戻るまでは逸脱の間
経路上の店で新聞やタバコを買う程度ささいな行為そもそも逸脱・中断として扱われるとは限らない

駅から家までの道沿いのスーパーなら、店を出て歩道に立った時点でいつもの経路に戻っています。一方、経路を二本外れた通りのスーパーなら、店を出た歩道はまだ経路の外です。同じ「店を出た直後」でも、前者は通勤、後者は逸脱の間になります。

決められないときは、地図を出して線を二本引いてください。いつもの経路と、その日に実際に歩いた線です。二本が重なっている区間で転んだのか、離れている区間で転んだのか。それが判断の材料になります。この二本は、後で請求書にそのまま書くことになります(後述)。

「最小限度」には、公表された物差しがある

何分までなら最小限度なのか。分数の基準はありませんが、考え方は昭和48年12月1日の通達(庁保険発第24号・保険発第105号)に定義されています。

「最少限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最少限度の時間、距離等をいうものである

時計ではなく目的が基準です。夕飯の材料を買うのに必要な時間と距離を超えたかどうかを見る、という物差しになります。買い物を終えた後に店内のイートインで一時間座っていた、というような時間は目的の外に出ます。レシートの時刻を残しておく意味はここにあります。

経路に戻れば通勤に戻る行為、戻らない行為

省令が定める行為は、労災保険法施行規則8条の五つです。条文のほうが範囲がはっきりします。

行為
日用品の購入その他これに準ずる行為
職業訓練、学校教育法1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
選挙権の行使その他これに準ずる行為
病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

二号は教育訓練なら何でもよいわけではなく、職業能力の開発向上に資するものに限られます。五号の介護は親族が限定列挙されていて、しかも継続的または反復して行われるものに限るという条件が付きます。一度だけ様子を見に行った、という寄り道はここに入りません。

一方、これらに当たらない寄り道は、経路に戻っても通勤には戻りません。通達が挙げているのは麻雀を行う場合、映画館に入る場合、バーやキャバレー等で飲酒する場合です。石川労働局も「通勤の途中で映画館に入る場合、バーで飲酒する場合など」を逸脱・中断の例として挙げています。逸脱の例と中断の例に分かれているのではなく、どちらにもなりうる例として並んでいます。

飲食の扱いは一段細かく分かれます。同じ通達が、経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶やビール等を飲む場合はささいな行為として逸脱・中断に当たらないとしたうえで、飲み屋やビヤホール等で長時間にわたって腰をおちつけるに至った場合は逸脱・中断になる、と書き分けています。さらに日常生活上必要な行為の例として「独身労働者が食堂に食事に立ち寄る場合」を挙げています。飲食店に入ったから外れる、という切り方ではありません。

けがをした日にやること

まず病院で、保険証を出す前に**「通勤中のけがです」**と言ってください。順番が逆になると後の手間が増えます。

用紙と提出先は次のとおりです。どれも最終的な宛先は所轄労働基準監督署長です。 施行規則1条3項が「事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長」と定めているので、自宅の近くではなく勤め先を管轄する署になります。

場面様式出す先
労災指定医療機関で受診様式第16号の3(療養給付たる療養の給付請求書)その医療機関を経由して所轄労働基準監督署長へ
指定外の病院で立て替えた様式第16号の5(1)(療養給付たる療養の費用請求書)所轄労働基準監督署長へ
休んで賃金が出ない様式第16号の6(休業給付支給請求書)所轄労働基準監督署長へ

16号の3を「病院に出す」で終わりだと思うと、その先が見えません。病院はいったん受け取って監督署へ回す窓口で、判断するのは監督署です。用紙は厚生労働省のダウンロードページにあります。

様式を探すときに引っかかるのが給付の名前です。労働局の一覧は「療養(補償)等給付」「休業(補償)等給付」と括弧付きで書かれています。括弧の中が付くのが業務災害、括弧の外の「等」が複数業務要因災害の分(複数事業労働者療養給付など)、何も付かない「療養給付」「休業給付」が通勤災害にあたります。通勤災害で必要なのは「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)ではなく「休業給付支給請求書」のほうです。

請求書が聞いてくることを、先にメモしておく

その日のうちに書き留めるものは、請求書の記入欄から逆算すると決まります。厚生労働省のパンフレットによれば、通勤災害の欄では通常の通勤の経路・方法・所要時間と、災害発生の日に実際にたどった経路・方法・所要時間の両方を書かせます。地図を貼ってそれに書き入れることも、別紙にして一緒に出すこともできます。

もう一つ、同じ様式は「災害発生の事実を確認した方の氏名」を求めます。該当者がいない場合は災害発生の報告を受けた事業場の方の職名と氏名を書く欄です。店を出た直後に転んだのなら、レジの店員や、駆け寄ってくれた通行人が候補になります。その場で名前を聞いておかないと、後から探す手立てがありません。

まとめると、当日のメモはこの7項目です。

  1. 会社を出た時刻
  2. いつもの経路と、その所要時間
  3. 経路を外れた(または経路上で寄り道を始めた)地点と時刻
  4. そこで何をしたか(レシートがあれば捨てない)
  5. 経路に戻った地点と時刻
  6. けがをした地点
  7. 見ていた人の名前と連絡先

2と7は、後から思い出して書けるものではありません。

会社が「それは労災じゃない」と言ったとき

請求書には事業主の証明欄があります。ここでつまずく人が多いのですが、会社の判断で結論が決まるわけではありません。厚生労働省のQ&A(1-5)が正面から書いています。

労災として認められるかどうかは事業主が決めるわけではありません

会社が事業主証明を拒否するなどで、事業主証明が得られない場合であっても、労災保険の請求はできますので、労働基準監督署にご相談ください

パンフレットの記入案内も同じで、会社が廃止されている場合や事業主証明が得られない場合でも労災請求はできる、最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署に相談を、と書かれています。

会社に頼むときは、労災かどうかの判断を求めないほうが話が早く進みます。求めるのは記載内容が事実と相違ないことの証明です。「通勤災害に当たるかどうかは監督署が判断するので、日付と勤務時間の欄だけ証明をお願いします」と切り出してください。それでも断られたら、証明欄を空けたまま監督署へ持ち込み、窓口で拒否された経緯を伝えます。

健康保険証を出してしまった後

反射的に保険証を出してしまうのは、よくある流れです。やり直せますが、途中でお金が要ります。

厚生労働省のQ&Aが示す順番は、加入している健康保険組合または協会けんぽへ労働災害であったことを報告し、医療費返納の通知と納付書が届いたら納入したうえで、労災保険へ請求する、というものです。この「納入」は、健康保険が負担していた分を返す手続きです。窓口で3割を払っていたなら残りの7割にあたり、手首の骨折で手術や入院があれば数万円から十数万円の立替になります。金額は治療内容で変わるので、通知が届くまで正確な額は分かりません。

用意できないときに止まってしまわないよう、逃げ道も示されています。

健康保険から給付された医療費の返納が難しい場合、請求人に多大な経済的負担が生じることも少なくないことから、健康保険に対する返納が完了する前であっても労災保険へ請求できます

全額を用意してからでないと請求できない、という順序ではありません。返納の目処が立たないまま止めてしまうと、時効だけが進みます。通勤災害で使うのは様式第16号の5(1)です。

その時効は日ごとに動きます。厚生労働省のQ&Aによれば、療養給付は療養の費用を支出した日ごと、休業給付は賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、それぞれ翌日から2年です。まとめて2年ではなく、古い日の分から順に落ちていきます。

出るお金と、出ないお金

休業給付は、福井労働局の説明で休業4日目から給付基礎日額の60%相当額、これに休業特別支給金の20%相当額が加わります。給付基礎日額は原則として労働基準法の平均賃金に相当する額です。

最初の3日間は通勤災害の弱いところです。業務災害なら事業主が労働基準法に基づく休業補償を支払う義務を負いますが、通勤災害にその義務はありません。ここは無補償になると見込んで、有給休暇を充てるかどうかを先に決めておくほうが慌てません。

一部負担金もあります。鳥取労働局の説明では200円(健康保険の日雇特例被保険者は100円)で、休業給付を支給する際に政府が自動的に減額する形なので、窓口で払う場面はありません。

自分の事案は、監督署に聞く

寄り道が最小限度だったか、店の前の歩道が経路の上だったか。この線の上にいる事案は、労働基準監督署が事実を見て決めます。

聞く先を間違えないでください。厚生労働省の労災保険相談ダイヤル(0570-006031、受付8時30分~17時15分、土日祝・年末年始を除く)はありますが、福井労働局は、請求書の記載方法や支給要件など制度全般はダイヤル、具体的な事案については各労働基準監督署へと案内を分けています。「私の場合は通勤災害になりますか」はダイヤルの守備範囲ではありません。勤め先を管轄する監督署の労災課に電話してください。

かけるときは、けがの話から始めないほうが早く進みます。順番はこうです。

  1. 「通勤の帰りに寄り道をして、けがをしました。事案の相談です」
  2. 「寄ったのは○○で、いつもの経路の上(または経路から○メートル外れたところ)にあります」
  3. 「経路を外れたのは○時○分から○時○分まで、○○をしていました」
  4. 「転んだのは店を出た歩道で、いつもの経路に戻った後(または戻る前)です。この場合、通勤災害として請求できますか。できる場合、どの様式になりますか」

2を先に言うのが要点です。逸脱か中断かで質問の意味が変わるため、そこが決まらないと相手は答えを出せません。メモの7項目を手元に置いておけば、聞き返されても即答できます。

Photo by Mitchell Luo on Unsplash
#労災保険 #通勤災害 #逸脱・中断 #休業給付 #労働基準監督署

参考資料

  1. e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法施行規則(第1条・第8条)
  2. 厚生労働省 労働者災害補償保険法 第7条
  3. 厚生労働省 通勤災害の取扱いについて(昭和48年12月1日 庁保険発第24号・保険発第105号)
  4. 厚生労働省 石川労働局 通勤災害
  5. 厚生労働省 鳥取労働局 労災給付の種類
  6. 厚生労働省 福井労働局 休業(補償)等給付
  7. 厚生労働省 労災保険給付の請求手続(パンフレット)
  8. 厚生労働省 労災保険に関するQ&A 1-5 会社が責任を認めない場合
  9. 厚生労働省 労災保険に関するQ&A 2-1 健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか。
  10. 厚生労働省 労災保険に関するQ&A 7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。
  11. 厚生労働省 労災保険給付関係請求書等ダウンロード

掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。

ご注意 この記事は一般的な情報を整理したものです。症状・家計・契約・法律関係など、個別判断が必要な場合は、医師・税理士・弁護士・行政窓口などにも確認してください。

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