結論:離婚届では年金は動かない
離婚が成立しても、年金の記録は結婚前の持ち主に付いたままです。分割は自動では起きません。年金事務所に「標準報酬改定請求書」を出して、はじめて相手の厚生年金記録の一部が自分の記録に移ります。パンフレットも「情報通知書の請求のみでは、年金は分割されません」と念を押しています。
期限は、離婚等をした日の翌日から起算して5年。2026年(令和8年)4月1日より前に離婚等をした場合は2年です。
そしてここが落とし穴なのですが、機構のページの見出しは「分割請求および情報提供請求の期限」です。本文も、情報提供の請求について「この請求は、合意分割の請求期限内に行う必要があります」としています。最初の一枚を取る側にも、同じ期限がかかります。
順番は三段です。
| 段階 | 出すもの | 出す先 |
|---|---|---|
| 1 | 年金分割のための情報提供請求書 | お近くの年金事務所 |
| 2 | 按分割合を決める | 当事者間の合意/まとまらなければ家庭裁判所 |
| 3 | 標準報酬改定請求書 | お近くの年金事務所 |
提出先について、機構の案内は少しばらついています。制度案内のページもパンフレットも、1と3のどちらについても「お近くの年金事務所にご提出ください」。一方、請求書に付く記入方法の案内では「原則として、請求者の住所地を管轄する年金事務所へ提出してください」と書き方が変わります。答えを出しているのは機構のQ&Aで、合意分割の請求について「住所地を管轄する年金事務所以外の年金事務所においても手続きが可能です」と明示しています。住所地から離れた事務所でも門前払いにはなりません。
1年半前に離婚した人に残っている時間
一般論より、日付を置いたほうが早いはずです。
たとえば2025年2月20日に離婚が成立した場合。2026年4月1日より前なので期限は2年、起算日は翌日の2月21日、最終日は2027年2月20日です。この記事が出る2026年8月末の時点で、残りは半年を切っています。
この5か月あまりに、次のことが全部入ります。
- 情報提供請求書を出す
- 通知書が届くのを待つ
- 按分割合を話し合う
- まとまらなければ家庭裁判所に申し立てる
- 標準報酬改定請求書を出す
3と4の見通しが立たないうちに1を止めておく理由はありません。通知書がないと2も3も4も動かないうえ、1にも同じ期限がかかっているからです。
救済もあります。期限内に審判または調停を申し立て、審判の確定や調停の成立が期限を過ぎたあと、または期限前6か月以内になったときは、確定または成立の日の翌日から6か月以内に限って請求できます。裏返せば、申立てだけは期限内に済ませておくことが条件です。なお家庭裁判所の手続きにどのくらいかかるかは、裁判所のページには示されていませんでした。所要期間が読めない以上、逆算ではなく前倒しで動くほうが安全です。
もう一つ、期限とは別に効く1か月があります。パンフレットによれば、すでに離婚等が成立していて相手方が亡くなった場合、死亡した日から起算して1か月を過ぎると分割請求ができなくなります。制度案内のページはこの1か月を、合意または裁判手続きで按分割合を決めた後、分割手続き前に当事者の一方が亡くなった場合に請求が認められる期間として説明しています。いずれにしても、割合が決まったところで止めておくと危ないという話です。なお当事者の一方が亡くなっている場合、情報提供の請求そのものはできません。
「半分もらえる」ではない。動くのは厚生年金の記録だけ
制度の名前が年金分割なので、相手の年金の半分が自分に振り込まれるように読めます。実際に分かれる範囲は、それよりずっと狭いのです。
機構は「年金分割の効果は、厚生年金の報酬比例部分(厚生年金基金が国に代行して支給する部分を含む。)に限られ、国民年金の老齢基礎年金等には影響はありません」と書いています。相手が自営業でずっと国民年金だけだったなら、分ける対象そのものが存在しません。
しかも分かれるのは金額ではなく記録です。分割の対象は標準報酬月額と標準賞与額であって、受給権や年金額そのものではありません。この違いが、二つの形で効いてきます。
- 受け取れるのは自分の年齢から。 相手がすでに年金を受け取っていても、分割を受けた側は「自身の生年月日に応じた受給開始年齢に達しなければ、年金を受給できません」。
- 受給資格は自分の記録で満たす。 相手が受給資格期間を満たしていても、それが一緒に移ってくるわけではありません。機構は、分割を受けた人も自身の分割前の公的年金加入期間等により受給資格要件を満たしていなければ年金を受給できない、と説明しています。
年金分割は老後の受取額を底上げする手続きで、離婚直後の生活費にはなりません。
自分は合意分割か、3号分割か
制度は二本立てです。名前は似ていますが、相手の合意が要るかどうかが決定的に違います。
| 合意分割 | 3号分割 | |
|---|---|---|
| 対象になる離婚日 | 2007年(平成19年)4月1日以後 | 2008年(平成20年)5月1日以後 |
| 分ける対象 | 婚姻期間中の厚生年金記録 | 2008年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間 |
| 相手の合意 | 必要 | 不要 |
| 分ける割合 | 按分割合を決める(上限50%) | 一律2分の1 |
| 情報通知書 | 取れる | これだけなら取れない |
どちらに当たるかは、次の順で決まります。
- 婚姻期間中に、自分が第3号被保険者だった期間があるか。 相手が会社員や公務員で自分が扶養に入っていた時期です。分からなければ年金事務所で記録を確認できます。記入方法にも「ご自身の第3号被保険者であった期間が分からない場合は、年金事務所で記録を確認することができます」とあります。
- その期間が2008年4月1日より前にもあるか。共働きだった時期はあるか。 どちらかがあれば、そこは3号分割では拾えません。合意分割が要ります。
- 相手が障害厚生年金の受給権者か。 相手が障害厚生年金を受けていて、分割の対象期間をその年金額の基礎としている場合は、3号分割の請求が認められません。
両方に当てはまるなら、選ぶ必要はありません。機構は「合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます」としています。合意分割を請求すれば、3号分割は一緒に処理されます。
3号分割だけになる人は、情報通知書が取れません。 記入方法にはっきり書かれています。
情報提供を受けようとする期間が平成20年4月1日以降の国民年金第3号被保険者期間のみの場合は、情報提供請求ができません。
割合が一律2分の1で決まっていて、話し合う余地がないためです。この場合は情報通知書を飛ばして、離婚後に標準報酬改定請求書を出す流れになります。
なお婚姻期間のうち、当事者以外の人が絡む第3号被保険者期間は対象から外れます。これを外さずに分割すると、後からその第三者がいると分かった時点で年金分割が無効になることがあると記入方法が注意しています。相手側の事情が分からなければ、請求書の該当欄に「不明」と記入して構いません。
最初に取る一枚 「年金分割のための情報通知書」
話し合いの土台になるのが情報通知書です。「年金分割のための情報提供請求書」に次の書類を添えて出します。
- 個人番号を記入するならマイナンバーカード等。基礎年金番号を記入するなら基礎年金番号通知書または年金手帳等
- 婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本または当事者それぞれの戸籍抄本)。請求日から6か月以内に交付され、婚姻日と離婚日が確認できるもの。離婚前に情報通知書を請求するなら、離婚日の確認は求められません
- 事実婚関係を含む場合は、その事実を明らかにできる書類(住民票など)
交付先の扱いが、この請求の使いどころです。
| 誰が請求したか | 離婚の状況 | 通知書が届く相手 |
|---|---|---|
| 二人で共同 | — | それぞれに交付 |
| 一人で | 離婚前 | 請求者のみに交付 |
| 一人で | 離婚後 | 請求者と相手の双方に交付 |
離婚前に一人で請求すれば、相手に知られる前に対象期間を把握できます。すでに離婚している人は、請求した時点で相手にも届くと考えてください。相手が受け取ったところから話が始まります。
受け取り方は選べます。請求書の「通知書等の交付方法」欄で、年金事務所の窓口での交付か、郵送かを丸で囲む形です。窓口での受け取りは年金事務所に提出した場合に限られます。急ぐなら窓口を選んでおくほうが手戻りがありません。郵送を選ぶ場合で送付先が本人の住所と違うときは送付先住所欄に書きますが、その住所を相手に知られたくないときは欄に「別紙に記入」と書き、別紙を封筒に入れて出す扱いが用意されています。
50歳以上で老齢年金の受給資格期間を満たしている人は、請求書の所定欄に記入すると分割後の老齢厚生年金の見込額も試算してもらえます。障害厚生年金を受けている人には障害厚生年金の見込額です。示されるのは按分割合の上限50%とした場合と、分割しなかった場合。希望する割合での試算も頼めます。この見込額は希望した人にだけ知らされ、相手方には伝わりません。
交付までの日数は機構のページに示されていません。窓口で「交付までどのくらいかかりますか」と聞いて、その日を手帳に書き入れておいてください。
そして取り直しには制限があります。
情報提供の再請求は、前回、情報提供を受けた日の翌日から起算して3か月を経過している場合に限り行うことができます
期限が残り半年を切っている人にとって、3か月は重い数字です。ただし例外が列挙されていて、そのひとつが「按分割合を定めるための裁判手続に必要な場合」です。家庭裁判所に出すために取り直すなら、3か月を待たずに請求できます。窓口では再請求理由の欄でこれを選びます。
按分割合の上限は50%
合意分割で決めるのが按分割合です。当事者双方の対象期間標準報酬総額の合計額に対して、分割を受ける側が分割後に持つ割合を指します。
上限は50%で、それを超えて取ることはできません。下限は分割を受ける側の元々の持分です。それより低い割合には定められません。分割を受ける側の持分が減らないように、また分割を受ける側の持分が分割する側を超えないように決める、というのがパンフレットの説明です。
割合を決める方法は二通り。当事者間で合意するか、合意できないときに家庭裁判所の手続きで定めてもらうかです。
話がまとまらないとき、そして費用の全体像
按分割合について話し合いがまとまらない、あるいは話し合いそのものができない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申し立てます。
- 申立先 調停は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所。審判は申立人または相手方の住所地の家庭裁判所、もしくは合意で定める家庭裁判所
- 書類 申立書とその写し、年金分割のための情報通知書の原本、進行に関する照会回答書、送達場所等届出書。東京家庭裁判所は申立書3通と、情報通知書の原本1通・コピー2通を求めています
- 通知書の条件 「離婚後又は内縁関係解消後に交付されたもの」であること
すでに離婚している人には、ここが有利に働きます。いま取る通知書は離婚後の交付なので、そのまま家庭裁判所に出せます。二回取り直す前提で日程を組む必要があるのは、離婚前に取ってしまった人だけです。
かかるお金は印紙だけではありません。
| 何に | いくら |
|---|---|
| 家裁の申立て | 収入印紙1,200円分(審判はさらに確定証明の150円分)+連絡用郵便切手(裁判所ごとに異なる) |
| 合意書を二人で年金事務所に持参 | 公証人の費用はかからない。様式は年金事務所に備えてある |
| 二人で行けず公証人を使う | 私署証書の認証で1万1000円(日本公証人連合会) |
| 戸籍謄本・住民票 | 自治体の窓口で交付手数料。生存証明と婚姻期間書類で有効期間が違う(後述) |
二人そろって年金事務所に行けるなら、公証人の費用は要りません。合意書の様式は年金事務所に備えてあり、そこに署名して持参する形です。ただし持参は二人(それぞれ代理人でも可)がそろう必要があります。相手と顔を合わせたくない、あるいは相手が動かないなら、公正証書か公証人の認証を受けた私署証書に切り替えるか、家庭裁判所に行くことになります。
本番はこちら。標準報酬改定請求書に要る書類
情報通知書はあくまで材料で、記録を動かすのは標準報酬改定請求書です。ここで初めて出てくる書類があり、しかも有効期間が情報提供請求のときと違います。
| 書類 | 期限 |
|---|---|
| 相手方(合意分割は二人)の生存を証明できる書類(戸籍謄本・戸籍抄本・住民票のいずれか) | 請求日前1か月以内に交付されたもの |
| 婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本・戸籍抄本) | 請求日から6か月以内に交付されたもの |
| 年金分割の割合を明らかにすることができる書類 | 公正証書の謄抄本、公証人の認証を受けた私署証書、年金事務所の様式による合意書、審判書の謄抄本と確定証明書、調停調書の謄抄本のいずれか |
生存証明の1か月が曲者です。 話し合いに備えて先に戸籍一式を取り、半年かけて合意に至ってから請求書を出すと、生存証明の分だけ取り直しになります。順番は、割合が決まって請求書を出す目処が立ってから戸籍や住民票を取る、です。
ただし逃げ道があります。請求書に個人番号(マイナンバー)を記入すれば、生存を証明する書類は省略できます。1か月の縛りを気にしなくてよくなるので、番号が分かるなら記入しておくほうが手数が減ります。
標準報酬改定請求そのものは、必ずしも二人で行く必要がありません。公正証書の謄本など割合を明らかにできる書類があれば、当事者の一方だけで請求できます。年金事務所の様式による合意書で進める場合だけは、二人がそろって持参する形です。3号分割だけであれば、第3号被保険者だった側からの請求で手続きが進みます。
なお家庭裁判所で住所または氏名の秘匿決定を受けている場合は、秘匿事項届出書面謄本と秘匿決定謄本もあわせて必要になります。
分割したあとに動くもの
増える方向ばかりではない点も押さえておきましょう。振替加算は、老齢厚生年金の受給権者のうち、その額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240月以上である人などには支給されません。この月数には離婚時みなし被保険者期間も含まれるため、分割を受けたことで240月に届くと、振替加算は止まります。
増える報酬比例部分と、止まる振替加算。差し引きは記録によって変わります。50歳以上なら情報提供請求で見込額を出しておく意味が、ここにもあります。
窓口に行く前に予約しておくと待ち時間が減ります。機構の予約受付専用電話は0570-05-4890(050から始まる電話からは03-6631-7521)、平日8時30分から17時15分です。基礎年金番号が分かるものを手元に置いてかけてください。