サイズが合わない、色が思っていたものと違う。通販で届いたものを返したいとき、最初に開く場所は商品ページではありません。注文したときの「注文を確定する」画面です。
特定商取引法第15条の3第1項は、通信販売について、商品の引渡しを受けた日から起算して8日を経過するまでは申込みの撤回と契約の解除ができると定めています。返送にかかる費用は購入者の負担です(同条第2項)。ただしこの8日は、販売業者が返品についての特約を広告に表示していた場合には、その特約のほうが通ります。
ここに、画面で注文したときだけの条件がもう一つ付きます。条文のただし書は、電子消費者契約などに当たる場合には「当該広告に表示し、かつ」主務省令で定める方法でも表示していた場合、と書いています。その方法は施行規則第44条にあり、「申込みとなる操作を行うための表示」に見やすく明瞭に表示することです。注文確定画面を指しています。
つまり商品ページに「返品不可」と大きく書いてあっても、注文確定画面にその表示がなければ、条文が特約を優先させる条件はそろっていません。確かめる順番は、返送の準備より先です。
条文が求めているのは、二つの画面の表示
| どこに | 何を表示するか | 根拠 |
|---|---|---|
| 広告(商品ページ、カタログ、ご利用ガイドなど) | 申込みの撤回・解除に関する事項。返品特約があればその内容 | 法第11条第5号 |
| 同じく広告 | 顧客にとって見やすい箇所で明瞭に判読できるように、その他容易に認識できるように表示 | 施行規則第24条第3号 |
| 注文確定画面 | 商品の分量と、法第11条第1号から第5号までの事項(返品特約を含む) | 法第12条の6第1項 |
| 同じく注文確定画面 | 見やすい箇所で明瞭に判読できるように、その他容易に認識できるように表示 | 施行規則第44条 |
広告のほうは行政規制としての表示義務です。注文確定画面のほうは、表示義務であると同時に、返品特約が第15条の3の8日より優先するための条件にもなっています。二重になっている点は、消費者庁の解説ページにも条文番号としては現れますが、「だから買った側は何を見ればいいのか」という形では書かれていません。
電子消費者契約という言葉は、電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律第2条第1項が定めています。画面に表示される手続に従って、自分の使う端末から送信して申込みの意思表示をする契約です。通販サイトやアプリでの注文は、これに当たります。電話やはがきで注文した場合、条文に出てくるのは広告での表示だけです。
「表示していた」と言いにくい形は、ガイドラインに並んでいる
消費者庁の「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」は、インターネットで広告する場合について、顧客にとって容易に認識できるよう表示していないおそれがある方法を具体的に挙げています。
- 商品の説明箇所に、返品特約について何の表示もしていない
- 「返品不可」「到着後○日以内に限り返品可」と書いてはあるが、膨大な画面をスクロールしなければたどり着けない箇所にある
- 「返品について」といった標題を設けないために、説明が埋没している
- 目につきにくいページの隅のような箇所にある
- 極めて小さな文字で表示している
- ご利用ガイドなどの共通ページで、何十条にも及ぶ購入規約の他の項目と区分されず埋没している
逆に望ましい形として挙げられているのは、価格や電話番号のように消費者が必ず確認する事項の近くに、価格と同じ文字の大きさで、色文字や太文字を使い、パソコンなら標準設定で12ポイント以上の文字で表示することです。
自分が見た画面がどちらに近かったかは、あとから思い出しても材料になりません。スクリーンショットが残っていれば材料になります。なお、このガイドラインは行政規制の運用基準です。ガイドラインの例に当てはまる表示だから特約が当然に無効になる、と一対一で決まるものではありません。争いになったときに自分の側から出せるものとして残しておく、という位置づけになります。
訪問販売と混ぜると、送料で損をする
同じ8日でも、訪問販売と通信販売は別の条文です。消費者庁が見出しに「クーリング・オフ制度」と書いているのは訪問販売の側だけです。
| 訪問販売(法第9条) | 通信販売(法第15条の3) | |
|---|---|---|
| 8日の起算日 | 法定の書面を受け取った日 | 商品の引渡しを受けた日 |
| 返送にかかる費用 | 販売業者の負担(第9条第4項) | 購入者の負担(第15条の3第2項) |
| 特約で消えるか | 消えない。不利な特約は無効(第9条第8項) | 広告の表示があれば特約が優先(第15条の3第1項ただし書) |
| 通知の方法 | 書面または電磁的記録(第9条第1項) | 条文に定めがない |
| 効力が生じる時 | 通知を発した時(第9条第2項) | 同じ規定が置かれていない |
下の2行が、期限の守り方を変えます。訪問販売なら8日目に出した通知でも、発した時点で効力が生じます。通信販売の第15条の3には、その規定がありません。受け取った日のうちに連絡してしまえば、この違いを気にする必要がなくなります。
8日を過ぎていても、注文確定画面の不表示は別の条文に残る
第12条の6第1項が注文確定画面への表示を義務付けていることには、もう一つの効き目があります。第15条の4第1項第2号が、この義務に違反して表示をしなかった行為により「表示がされていない事項が存在しない」と誤認し、それによって申し込んだときは、申込みの意思表示を取り消すことができるとしています。
期間は8日ではありません。第15条の4第2項が第9条の3第2項から第5項までを準用しており、そのうち第4項が、取消権は追認をすることができる時から1年行わないと時効で消滅し、契約締結の時から5年を経過したときも同様とする、と定めています。
要件には因果関係が入っています。表示がなかったという事実だけでなく、それによって返品できると誤認し、だから注文した、という関係です。残しておく価値があるのは、注文時の画面と、返品の条件をどこで確認しようとしたかの記録になります。
取り消したあとの返還については、同じく準用される第9条の3第5項が、給付を受けた当時その意思表示が取り消せるものだと知らなかった場合は、現に利益を受けている限度で返還の義務を負う、としています。
今日できること
これから注文するとき、手を動かすのは1か所です。
- 「注文を確定する」ボタンのある画面で、返品に関する記載を探す
- 商品名、金額、返品の記載が1枚に収まるようにスクリーンショットを撮る
- 記載が見当たらなければ、見当たらないその画面を撮る
すでに届いているものを返したい場合は、次の順になります。
- 受取日を確定する。配送業者の追跡画面、置き配の通知、注文履歴のステータスのどれかで出ます。受取日を1日目として数え、8日目を出す
- 同じ商品をもう一度カートに入れ、注文を確定する手前まで進める。今の注文確定画面に返品の表示があるかどうかは、これで自分の目で見られます。ここも撮っておく
- 商品ページ側は、価格のすぐ近くと、「ご利用ガイド」「返品について」のリンク先の両方を見る
- 返すと決めたら、日付の残る方法で連絡する
連絡の文面は、これだけで足ります。
○月○日に受け取りました注文番号○○○について、特定商取引法第15条の3により売買契約を解除します。返送先の住所と、返金の方法をご連絡ください。
販売業者から「規約で返品不可です」としか返ってこないときは、消費者ホットライン188に電話します。局番なしの3桁で、住んでいる地域の消費生活センター等につながります。土日祝日は、都道府県や市区町村のセンターが開所していない場合に国民生活センターが10時から16時まで受け付けています(一部地域や年末年始などを除きます)。電話する前に手元へ置くのは、注文番号、受取日、撮っておいた画面です。
返品ではなく、別の話になる場合
届いたものが壊れていた、説明と違うものだった、というときは、8日や返品特約とは筋が変わります。引き渡された商品が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任について定めがあるときは、その内容も広告に表示しなければならない事項です(施行規則第23条第5号)。まず広告のその欄を探してください。定めが見当たらないのに「返品不可だから対応しない」と言われているなら、そこは返品特約の話ではありません。
外しやすいところ
- 8日は受け取った日から起算します。 注文日でも発送日でもありません。
- 返送の送料は購入者の負担です(第15条の3第2項)。 訪問販売と逆になる点です。
- 返品特約の表示が条文の条件を満たしていれば、8日は使えません。 表示を確かめる作業が、返送の準備より先に来ます。
- 第15条の3は商品と特定権利の売買契約についての条文です。 役務、つまりサービスの提供契約は書かれていません。一方、注文確定画面の表示義務(第12条の6)と取消し(第15条の4)は、役務提供契約も対象に入っています。
- 条文は通知の方法を定めていません。 電話だけで伝えると、言った言わないが残りません。
- 法令は改正されます。 条文番号と文言は、e-Gov法令検索で現行のものを確認できます。
参考資料
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」および「特定商取引に関する法律施行規則」
- e-Gov法令検索「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」通信販売・訪問販売
- 消費者庁「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」
- 国民生活センター「全国の消費生活センター等」