業者が自宅などに来て品物を買い取る取引は、特定商取引法で「訪問購入」と呼ばれます。売ったあとで考え直した場合、法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内なら、書面か電子メールなどでクーリング・オフ(契約の解除)ができます。この8日の間は、品物を業者に渡すことを拒めます(消費者庁 特定商取引法ガイド)。
ただし、どんな品物でも、どんな頼み方でも対象になるわけではありません。自動車や持ち運びが容易でない家電、家具、本などは対象外で、自分から自宅での契約をはっきり求めた場合などもクーリング・オフの規定は適用されません。この記事では、対象になる取引、8日の数え方と手続き、品物がもう他の業者に渡っている場合を、消費者庁の解説と法律の条文で確かめます。
「訪問購入」に当たる取引
特定商取引法第58条の4は、物品の購入を業として営む者(購入業者)が、営業所等以外の場所で売買契約の申込みを受けたり契約を結んだりして行う物品の購入を「訪問購入」としています。消費者庁は例として消費者の自宅を挙げています。
対象外の品物
政令第34条で決められた品物は、訪問購入の規定の対象外です。消費者庁が示す具体例は次のとおりです。
- 自動車(二輪のものを除く)
- 家庭用電気機械器具(持ち運びが容易なものを除く)。エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ、マッサージチェアなど
- 家具。たんす、机、いす、ソファー、ベッド、テーブル、げた箱、金庫など
- 書籍。事典、全集、写真集、雑誌、単行本など
- 有価証券
- レコード、CD、DVD、ブルーレイディスク、ゲームソフトなどのコンピューター用ソフト
この一覧には、貴金属、着物、時計、バッグなどは挙がっていません。消費者庁の事例でも、自宅で買い取られた金の指輪がクーリング・オフの対象として扱われています。
規定が適用されない取引
特定商取引法第58条の17は、次の取引を規定の適用から外しています。
- 売主が営業のため、または営業として結ぶ契約、海外にいる人との取引、国や地方公共団体が行う取引など(すべての規定が対象外)
- 売主が自宅で契約の申込みや締結をすることを自分から請求した場合、いわゆる御用聞き取引や常連取引、引越しで家を出る際に売主のほうから業者に取引を持ちかけた場合(クーリング・オフや書面交付などの規定が対象外。業者が名前や目的を名乗る義務と、勧誘を受ける意思の確認、断った人への再勧誘の禁止は残る)
ここで迷いやすいのが「自分から請求した」の範囲です。消費者庁の逐条解説は、次のように線を引いています。
- 請求に当たる例:「○○を△△円で売るから来て」と言った、「いくらでも良いので買い取ってほしい」と言った、前もって聞いた買取価格について「あの値段なら売りたいので来て」と言った
- 請求に当たらない例:明確な取引の意思がないまま「見積もりをしてほしいので来て」と頼んだ、問い合わせをしたら業者から訪問したいと言われて承諾しただけ、着物の買取を頼んだら当初売るつもりのなかった指輪まで買い取られた(指輪の分)
つまり、取引の意思が固まらないまま査定や見積もりを頼んで来てもらっただけなら、この適用除外には当たりません。また、事前に価格に同意していても、訪問後に手数料や搬出料などを差し引いて実質的に買取額を下げるような場合は、請求に当たらないとされています。
引越しについては、逐条解説は、例えば業者に連絡した日から2週間程度後に退去する予定の人が、「引越しを予定しており、家財を処分しようと思うので自宅に査定に来てほしい」と自分から電話するような場合を挙げています。この場合は、クーリング・オフなどが適用されない取引に当たり得ます。
業者に課されているルール
訪問購入をする業者には、次のような義務があります(消費者庁 特定商取引法ガイド)。
- 飛込み勧誘の禁止。 勧誘を頼んでいない人に、自宅などで勧誘したり、勧誘を受ける意思があるかを確かめたりしてはいけない。査定を頼まれただけなのに、査定を超えて買取を勧めることも法に触れる
- 名乗る義務。 勧誘の前に、業者名、勧誘が目的であること、買い取ろうとする品物の種類を告げる
- 再勧誘の禁止。 契約しないと言った人に、その場で勧誘を続けたり、後日あらためて勧誘したりしてはいけない
- 書面の交付。 申込みや契約のときに、品物の種類・特徴、買取価格、代金の支払時期と方法、引渡しの時期と方法、クーリング・オフと引渡し拒絶に関する事項、業者の名称・住所・電話番号などを書いた書面を渡す。クーリング・オフと引渡し拒絶の事項は赤枠の中に赤字で書き、文字は8ポイント以上
- 引渡し拒絶の告知。 クーリング・オフの期間中に品物を直接受け取るときは、引渡しを拒めることを告げる
- うそや脅しの禁止。 勧誘やクーリング・オフの妨害のためにうそを言う、大事なことを故意に言わない、脅して困らせることは禁止
クーリング・オフのしかた
8日の数え方
クーリング・オフができるのは、契約書面(申込みの書面を先に受け取っていればその書面)を受け取った日から起算して8日を経過するまでです(第58条の14)。受け取った日を1日目として数えます。
業者がクーリング・オフについてうそを言ったり脅したりしたせいで、期間内にできなかった場合は、8日を過ぎていてもクーリング・オフできます。この場合の期間は、業者があらためてクーリング・オフできる旨を書いた書面を渡し、それを受け取った日から8日です。
通知の方法
クーリング・オフは、書面か電磁的記録(電子メールやウェブサイトの専用フォームなど)で行い、通知を発信した時点で効力が生じます(第58条の14第2項)。消費者庁は、後のトラブルを避けるため、書面なら特定記録郵便、書留、内容証明郵便などで送り、電子メールなら送信したメールを保存し、専用フォームなら画面のスクリーンショットを残すことをすすめています。
クーリング・オフしたあと
- 業者は、損害賠償や違約金を請求できない
- すでに品物を渡していれば、業者の負担で返してもらえる。代金を受け取っていれば返すが、その費用と利息は業者の負担で、利息を付けて返す必要はない
- これらに反する特約で売主に不利なものは無効(第58条の14第6項)
8日の間は品物を渡さなくていい
売主は、クーリング・オフの期間中、契約で引渡しの期日が決められていても、品物の引渡しを拒めます(第58条の15)。消費者庁は「クーリング・オフ期間内は物品を手元に置いておくことができます」と説明しています。その場で持ち帰ろうとされても、8日が過ぎるまで手元に置いておけば、考え直す前に品物が他へ渡ってしまうことを避けられます。
品物がもう他の業者に渡っている場合
業者が、クーリング・オフ期間内に買い取った品物を別の業者など第三者に渡したときは、次のことを売主に遅滞なく通知しなければなりません(第58条の11)。
- 第三者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人なら代表者の氏名
- 第三者に渡した年月日、品物の種類・名前・特徴など
あわせて、第三者に対しても、その品物が訪問購入で買い取ったものであり、売主がクーリング・オフできることなどを書面で知らせなければなりません(第58条の11の2)。そのうえで法律は、クーリング・オフによる解除を第三者にも主張できるとしています。ただし、第三者がそうした事情を知らず、知らないことに過失もなかった場合は除かれます(第58条の14第3項)。
消費者庁の事例には、金の指輪を売った翌日に解約を申し出たところ、「解約は受け付けない旨の書面に印鑑を押している」「もう別の業者に売って溶かされている」と断られたケースがあります。消費者庁は、書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフでき、できないとする特約は無効だと説明しています。
困ったときの相談先
業者が応じない、書面をもらっていない、自分のケースが適用除外に当たるかわからない、といったときは、消費者ホットライン「188」に電話すると、近くの市区町村や都道府県の消費生活センターなどの相談窓口につながります。相談は無料で、通話料は窓口につながった時点からかかります(消費者庁)。
確認の順番
- 売った品物が政令の対象外(自動車、持ち運びが容易でない家電、家具、本、CD・DVDなど)でないかを見る
- 業者を呼んだときの頼み方が「見積もり・査定の依頼」だったか、「この値段で売る」とはっきり求めたかを思い出す
- 受け取った書面の日付を確かめ、その日を1日目として8日以内かを数える
- 8日以内なら、書面(特定記録郵便など)か電子メールなどでクーリング・オフを通知し、記録を残す
- まだ品物を渡していなければ、8日の間は渡さない
- 業者が応じなければ188に相談する
この記事で確認できなかったこと
2026年11月7日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- クーリング・オフしたときに、受け取った代金をすでに使ってしまっていた場合の返し方。
- 業者が法律で決められた書面を渡さなかった場合に、いつまでクーリング・オフできるか(今回読んだガイドの説明は書面の受領日からの数え方だけでした)。
- 引越しの際の適用除外で、業者側に違反行為があった場合の細かい扱い(逐条解説は、違反行為がなかった取引に限るなどの条件を示していますが、ここでは扱いきれませんでした)。
参考資料
- 消費者庁 特定商取引法ガイド 訪問購入 — 定義、適用除外、業者の義務、クーリング・オフ、引渡し拒絶、第三者への通知
- 消費者庁 事例 訪問購入(解約を拒否され指輪は溶かしたと言われた) — 特約の無効、期間内の引渡し拒絶
- 消費者庁 施行令第34条で規定する物品の具体例 — 対象外の品物
- 消費者庁 特定商取引に関する法律の解説 第5章の2 訪問購入 — 「請求した者」に当たる例・当たらない例、査定のみの依頼、引越しの例
- e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律 — 第58条の4、第58条の6、第58条の9、第58条の14、第58条の15、第58条の17
- 消費者庁 ご存知ですか?訪問購入のルール — 2013年の改正時のリーフレット(飛込み勧誘の禁止、引渡しの拒絶)
- 消費者庁 消費者ホットライン — 188、相談は無料