高用量インフルエンザHAワクチン「エフルエルダ」は、2026/27シーズンには接種できません。厚生労働省が2026年7月21日の事務連絡で、令和8年度の定期接種には高用量を使わないと決めています。公費の対象から外れただけでなく、製品そのものが国内で発売されていないため、自費でも打てません。今シーズン75歳以上の人が受けるのは、これまでと同じインフルエンザHAワクチンです。自己負担額と実施期間だけは市区町村ごとに違うので、そこは住んでいる市区町村の予防接種のページで確かめてください。
2026年7月21日の事務連絡で、何が決まったのか
通知を出したのは厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課で、宛先は都道府県・市町村・特別区の衛生主管部(局)です。文書名は「令和8年度のインフルエンザに係る定期の予防接種について」。結論の部分はこう書かれています。
これを踏まえ、令和8年度のインフルエンザの定期接種は、引き続きインフルエンザHAワクチンのみを用いることとし、高用量インフルエンザHAワクチンについては、令和8年度の定期接種では使用しないことといたしました。
同じ文書の前段で、第64回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(令和8年2月12日)で高用量を定期接種に位置づける方針が了承されていたこと、その後に製造販売業者から「製造工程における技術的な課題により、令和8年度のインフルエンザの流行期からの高用量インフルエンザHAワクチンの供給が困難である旨の報告」を受けたことが説明されています。
2日後の第66回分科会(令和8年7月23日)の資料でも、方針として「企業の薬事承認・供給状況を踏まえ、令和8年度からの定期接種化を見送る方針とする」と明記されました。見送りの理由は制度の見直しではなく、物が間に合わなかったことでした。
自費でも打てません。発売されていないからです
公費の対象から外れただけなら、「全額自己負担で打つ」という選択が残ります。今回はその余地がありません。
サノフィ社が2026年7月に自治体と医療機関向けに出した「『エフルエルダ®筋注』発売時期変更のご案内」には、こう書かれています。
高用量インフルエンザHAワクチン「エフルエルダ®筋注」(以下、エフルエルダ)について、2026年秋頃の発売に向けて準備を進めておりましたが、国内製造委託先における一部製造プロセスの確立・検証に関して、想定を上回る期間を要しており、当初の計画どおりの供給が困難となりました。
つまり、日本ではまだ一度も発売されていません。医療機関が注文できる流通経路がないので、かかりつけ医に希望を伝えても在庫は出てきません。
製品の中身に問題が見つかったわけではないことも、同じ案内に書かれています。「これらの事項は、臨床試験で確認されたエフルエルダの有効性及び安全性に影響を与えるものではございません」「なお、日本以外のエフルエルダには影響ございません」。国内での製造プロセスを確立する段階でつまずいた、という説明です。
「2026年10月1日から75歳以上」という説明が、まだ検索に残っている
2025年秋から2026年2月までの決定を伝える記事やクリニックの告知が、いまも多く残っています。嘘ではなく、途中までは正しい内容です。日付の順に並べると、どこで向きが変わったかが分かります。
| 時期 | 何が起きたか |
|---|---|
| 令和6(2024)年12月 | 高用量インフルエンザHAワクチンの60歳以上に対する使用について、薬事承認 |
| 令和7(2025)年10月22日 | 第32回ワクチン小委で、定期接種に使うワクチンとして追加することは妥当とされた |
| 令和7(2025)年11月19日 | 第72回予防接種基本方針部会で、対象者を75歳以上とすることが了承された |
| 令和8(2026)年2月12日 | 第64回分科会で定期接種化の方針が了承。ただし3価の製剤が未発売のため、政省令案は情報が確定次第あらためて諮問することとされた |
| 令和8(2026)年7月21日 | 厚生労働省の事務連絡で、令和8年度の定期接種では使用しないと決定 |
| 令和8(2026)年7月23日 | 第66回分科会で、令和8年度からの定期接種化を見送る方針を確認 |
迷ったときは、その説明が7月21日より前のものかどうかを見てください。2月の分科会の時点では「令和8年度の流行期から使う」方針だったので、そこで止まっている説明は現在の扱いと食い違います。
政省令はまだ出ていません。「75歳以上」は方針の段階です
もうひとつ、法令の側も整っていません。高用量ワクチンは、定期接種で使うワクチンとしてまだ政省令に書かれていないからです。
第64回分科会の資料には、定期接種化にあたって必要な政省令案について「3価の高用量インフルエンザワクチンの用法及び用量等、必要な情報が確定次第、あらためて本分科会において諮問を行う方針とする」と書かれています。国内で承認されているのは4価の高用量ワクチンで、定期接種に使う予定だったのは、これから発売される3価のほうでした。その3価の情報が固まらない限り政省令に進めない、という段取りです。
資料で示されていた規定案は次の内容でした。あくまで案であり、まだ施行されていません。
- 接種対象者は「65歳以上の者及び60から64歳の厚生労働省令で定める者」と規定し、高用量については「75歳以上の者」と規定する
- 使用するワクチンは、現行のインフルエンザHAワクチンまたは高用量インフルエンザHAワクチンのいずれかとする
- 高用量を用いる場合は1回筋肉内に注射し、どちらを使う場合も毎年度1回行う
- 長期療養特例は適用除外とする
「75歳以上なら無料になるはずだ」と窓口で押しても根拠になる条文がない、というのが現在の状態です。
承認は60歳以上。それなのに定期接種の案が75歳以上だった理由
薬事承認上の用法・用量は「60歳以上の者に1回、0.7mLを筋肉内接種する」です。公費で行う範囲が75歳以上に絞られていたのは、別の判断が入っているためです。
分科会の資料では、高用量は標準量と比べて優れた免疫原性、発症予防効果、入院予防効果が確認されており、標準量に対する相対的な有効性は「年齢が上がるほど高い傾向にある」と整理されています。あわせて費用対効果の分析が行われ、65歳以上全員に導入する方針でも良好だが、75歳以上に導入する場合が最も優れるという結果が示されました。
この分析には前提があり、資料自身が数字の出どころを書いています。ワクチン価格は事務局が企業への聞き取りをもとに高用量5,000円・標準量1,500円、接種費用3,200円と設定した仮定の値で、実際の販売価格ではありません。有効性も、標準量に対する高用量の発症予防効果を24.2%、入院予防効果を14.4%とする海外の研究値を当てはめたもので、資料には「論文の通常型ワクチンは国内で上市されているワクチンとは異なることに留意が必要」という注記が付いています。将来の自己負担額を見積もる材料にはなりません。
今シーズン、75歳以上の人が実際に受けるワクチン
定期接種そのものは例年どおり動いています。使うワクチンは標準量のインフルエンザHAワクチンで、回数も毎年度1回のまま、対象者の範囲も変わりません。2種類の違いは次のとおりです。
| インフルエンザHAワクチン(標準量) | 高用量インフルエンザHAワクチン | |
|---|---|---|
| 各株のHA量 | 15μg | 60μg |
| 用法・用量 | 13歳以上は0.5mLを皮下に1回、またはおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回 | 60歳以上に1回、0.7mLを筋肉内 |
| 高齢者への定期接種 | 平成13年から実施 | 実施なし(令和8年度も見送り) |
| 国内での発売 | 流通している | 未発売 |
厚生労働省の季節性インフルエンザワクチンのページも、「定期接種に使用するワクチン」の欄は「インフルエンザHAワクチンを使用します」の一行だけです。高用量に関する記載はありません。
自己負担額と実施期間は市区町村が決めるので、全国共通の金額はありません。たとえば横浜市は令和8年度の実施期間を「2026年(令和8年)9月下旬から2026年(令和8年)12月31日まで」、自己負担額を2,300円としており、本人を含む同一世帯全員が市民税非課税の人、生活保護を受けている人、中国残留邦人等で支援給付を受けている人は所定の書類を用意すれば無料になります。金額も期間も自治体ごとに違うので、横浜市の数字をそのまま当てはめないでください。
今シーズンに限って言えば、「高用量が出るまで待つ」という選択肢は取れません。発売日が公表されていないので、いつまで待つことになるのか分かりません。
自治体のページで見る場所と、電話で聞く一文
市区町村の高齢者インフルエンザ予防接種のページを開いたら、「高用量」という語があるかどうかを先に見ます。書いてある自治体は、たとえば横浜市のようにはっきり書いています。
高用量インフルエンザワクチンについては、厚生労働省より、令和8年度の定期接種では使用しない旨の通知がありました。そのため、令和8年度の定期接種では従来の標準量ワクチンのみを使用します。
一方で、何も書いていない自治体のほうが多数です。その場合も扱いは同じで、従来のインフルエンザHAワクチンで実施されています。事務連絡が全国の都道府県・市町村・特別区に宛てて出ているためです。
それでも確かめたいときは、予防接種の担当課に「令和8年度の定期接種で使うワクチンは、従来のインフルエンザHAワクチンですか」と聞けば足ります。医療機関に高用量の在庫を順番に問い合わせる必要はありません。どこにも入っていません。
いつ打てるようになるのか — 現時点で日付は示されていません
ここがこの記事でいちばん変わりうる部分です。2026年10月3日時点の状況を書きます。
厚生労働省は第66回分科会の資料で、「今後の定期接種化の時期については、薬事承認状況及び供給に関する状況を踏まえ、あらためて審議会において議論を行うこととしたい」としています。サノフィ社も「できるだけ早く日本の皆さまの下へエフルエルダをお届けできるよう、引き続き発売の準備を進めております。詳細が確定次第、改めてご案内申し上げます」と書くにとどめています。
再び定期接種で使えるようになるには、少なくとも次の三つが順に必要です。
- 定期接種に使う予定だった3価の製剤について、薬事承認が下りること
- 流行期に間に合う量の供給が確保されること
- 分科会で改めて議論され、政省令が整うこと
このうちどれも、完了予定日が公表されていません。「2027年度から始まる」と書いているページもありますが、審議会が時期を決めたわけではないので、確定した日付として扱わないでください。更新を追うなら、厚生労働省の予防接種・ワクチン情報のページと、住んでいる市区町村の予防接種のページの2か所で足ります。
参考資料
- 厚生労働省 第66回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料1「高用量インフルエンザワクチンについて」(2026年7月23日)— 見送りの方針、経緯の年表、承認されている2種類のワクチンの用法
- 厚生労働省 第64回同分科会 資料1-4(2026年2月12日)— 規定案の内容、政省令を保留した理由、費用対効果分析の前提と結果
- 厚生労働省事務連絡「令和8年度のインフルエンザに係る定期の予防接種について」(令和8年7月21日)— 使用しないという決定の本文。岡山県のページに掲載
- サノフィ株式会社「『エフルエルダ®筋注』発売時期変更のご案内」(2026年7月)— 発売延期の理由と、有効性・安全性への影響がないという説明。同じ岡山県のページに添付
- 厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」— 定期接種の対象者、使用するワクチン、流行シーズン
- 横浜市「高齢者インフルエンザ定期予防接種」— 高用量を使わない旨の記載例、実施期間と自己負担額の書き方
自己負担額と実施期間は、上のどの資料にも書かれていません。住民票がある市区町村の発表が唯一の出どころです。
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。