妊娠中でも、注射のインフルエンザワクチンは「接種できない人」として扱われていません。添付文書で接種してはいけない人は四つ挙がっていますが、そこに妊娠は入っていないからです。不安の元になっている「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種する」という一文は、禁忌とは別の欄に置かれた書き方です。まず開くのは国立成育医療研究センターのページ、次に住んでいる市区町村の「妊婦 インフルエンザ 助成」のページになります。ただし鼻にスプレーするタイプだけは妊娠していることが明らかな人を対象から外しているので、そこは注射と分けて考えてください。
添付文書で妊娠は、禁忌ではなく別の欄に書かれている
インフルエンザHAワクチン「生研」の添付文書(2026年7月改訂・第10版)で、接種してはいけない人として挙がっているのは次の四つです。
- 明らかな発熱を呈している者
- 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
- 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
- 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
妊娠はこの四つのどれでもありません。妊娠について書かれているのは別の項で、原文は「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること」です。
つまり、一律に止めているのではなく、接種するかどうかの判断を医師に預ける書き方になっています。検索して出てきたこの一文だけを見ると「妊娠中はだめだと書いてある」と読めてしまうのですが、禁忌の欄と妊婦の欄は別で、妊娠は禁忌の側にありません。
検索で上位に出る厚生労働省のページは、2009年のもの
「妊婦 インフルエンザ 厚生労働省」で上位に出てくる同省の「妊娠・基礎疾患等をお持ちの方々へ」を開くと、ページの上部に、2009年に流行した新型インフルエンザ(A/H1N1)の情報提供のために開設したもので、掲載内容は2011年3月31日までのものだと明記されています。今シーズンの判断材料として読むページではありません。
現行の「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(令和7年12月19日版)のほうは通して読みましたが、妊婦を対象にした問いはありませんでした。国に妊婦向けにまとまった一枚が見当たらないため、読む先は国立成育医療研究センターの記載と、住んでいる市区町村の助成のページになります。
妊娠週数で線は引かれていない
国立成育医療研究センターは、医療関係者向けのページで「インフルエンザシーズン中の妊婦へのインフルエンザワクチン接種を妊娠週数に関わらず推奨」と記載しています。
一般向けの「妊娠中のお薬Q&A」の書き方はこうです。
インフルエンザワクチンは接種してもワクチンの成分による感染をおこすことのない不活化ワクチンです。妊娠中の不活化ワクチン接種は問題ないと考えられています。
同じページには、妊娠初期に接種した妊婦の研究でも先天異常発生率の増加はみられなかったこと、むしろ妊娠中は母親のインフルエンザ感染を予防することが大切で、予防接種を受けることが勧められることも書かれています。
「安定期に入るまで待つ」という線は、ここには引かれていません。ただし持病や治療中の内容によって判断が変わることはあります。予約の電話で妊娠週数と通院先を先に伝えて、そのうえで接種する医師の判断に従ってください。
生後6か月まで受けられない赤ちゃんとの関係
添付文書の用法及び用量は「6ヵ月以上3歳未満のものには0.25mLを皮下に」から始まります。生後6か月未満の接種量は定められていないため、生まれたばかりの赤ちゃん自身は接種の対象に入りません。
国立成育医療研究センターの医療関係者向けページには、「妊婦にワクチンを接種することで、生後6か月までの児のインフルエンザ罹患率を減少させるとの報告」があると書かれています。報告として紹介されている記載なので、確実に防げるという意味ではありません。それでも、出産予定日が流行期に重なる人にとっては、受けるかどうかを決める材料の一つになります。
鼻にスプレーするタイプは、妊娠中は接種しないと書かれている
フルミスト点鼻液(2026年8月改訂・第6版)は注射とは別のワクチンで、予防接種を受けることが適当でない者に「妊娠していることが明らかな者」が明記されています。対象年齢も2歳以上19歳未満で、注射と条件が違います。
大人はそもそも対象年齢に入らないので迷う場面がありませんが、10代で妊娠している場合はこの記載が直接関わります。「インフルエンザの予防接種」とひとまとめにせず、勧められているのが注射か経鼻かを確かめてください。
なお、この経鼻ワクチンは免疫機能に異常のある疾患を有する者、免疫抑制治療中の者も接種の対象外としています。同居の家族が接種を受ける場合の妊婦への配慮については、確認した添付文書に記載が見当たりませんでした。書かれていない以上、判断するのは接種する医師です。
受ける時期は、流行の入口から逆算する
厚生労働省は「日本では、インフルエンザは例年12月~3月頃に流行し、例年1月末~3月上旬に流行のピークを迎えますので、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましい」としています。
13歳以上の用法は0.5mLを1回、または1〜4週間の間隔をおいて2回です。1回で組むなら、予約を10月に入れて11月中に受けると、12月中旬という目安の内側に収まります。
出産予定日が近い人は、入院や里帰りの日程と重なるかどうかを先に見てください。助成を使える医療機関も、助成が使える期間も市区町村ごとに違うので、里帰りの直前に詰め込むより、動ける時期に済ませるほうが選択肢が残ります。
費用は全額自己負担が原則で、妊婦向けの助成を置く市区町村がある
妊婦のインフルエンザワクチンは定期接種ではありません。料金は医療機関が決め、原則として全額自己負担です。そのうえで、妊婦を対象に費用の一部を助成する市区町村があります。
実際に市区町村のページを二つ開いて確かめた例です(2026年9月27日確認)。
| 立川市 | 秋田市 | |
|---|---|---|
| 助成額 | 1回2,000円(1回まで) | 1回あたり上限1,000円 |
| 対象 | 市に住民登録があり妊娠届を提出した妊婦 | 接種日時点で市に住民票がある妊娠中の人 |
| 市外で受けたとき | 全額払って償還払い | 償還払い(電子申請・郵送・窓口) |
| 持ち物 | 母子手帳または妊娠届、住所がわかる本人確認書類、市の助成申込書 | 本人確認書類、母子健康手帳など妊娠を証明できる書類、申請書兼委任状 |
金額も期間も市区町村が毎年決め直します。ここに挙げたのは二つの例であって、全国共通の金額ではありません。助成そのものを置いていない市区町村もあります。
助成の受け取り方は二つ。里帰り先で受けるとき
- 窓口で差し引く形:指定された医療機関で受け、助成額を引いた差額だけ払う
- 償還払い:いったん全額を払い、あとから市区町村に申請して戻してもらう
里帰り出産などで住んでいる市区町村の外で受けるときは、後者になります。上の表の二市も、市外で受けた分はこの扱いでした。助成は住んでいる市区町村の制度ですから、申請先は里帰り先の市町村ではなく、住民票のある市区町村です。
償還払いで落としやすいのが申請の期限です。接種できる期間の終わりと、申請の締切が別に設けられていることがあります。秋田市は申請期限を接種期間の終わりより後ろに置いています。領収書と接種済証は、申請が済むまで捨てないでください。
当日その場で止まる条件
厚生労働省が接種を受けられない人として示しているのは、接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことがある人、明らかに発熱している人、重篤な急性疾患にかかっている人の三つです。妊娠中かどうかに関わらず、当日の体調でその場で延期になります。
これとは別に、事前に医師へ相談が必要な人という区分があります。心臓血管系・腎臓・肝臓などの基礎疾患がある人、けいれんの既往がある人、本剤の成分または鶏卵・鶏肉その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある人です。鶏卵アレルギーは「受けられない人」ではなく「相談が必要な人」の側に置かれています。診断名と過去に実際に出た症状を、予診票に具体的に書いてください。
自分の市区町村のページで確かめること
検索語は「(市区町村名) 妊婦 インフルエンザ 予防接種 助成」です。見る項目は五つに絞れます。
- 助成額と回数
- 接種できる期間の開始日と終了日
- 指定医療機関・協力医療機関の一覧に、通っている産院や内科が入っているか
- 市外で受けたときの扱いと、償還払いの申請期限
- 持ち物(母子健康手帳、本人確認書類、申込書が要るかどうか)
助成がない市区町村では、医療機関が決めた料金を全額払うことになります。金額は医療機関ごとに違うので、予約の電話で先に聞いておくと、当日の持ち合わせで困りません。
確認に使った資料
- 厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」
- 厚生労働省「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(令和7年12月19日版。妊婦の項は見当たらず)
- インフルエンザHAワクチン「生研」添付文書(2026年7月改訂・第10版)
- フルミスト点鼻液 添付文書(2026年8月改訂・第6版)
- 国立成育医療研究センター「妊娠中のお薬Q&A」
- 国立成育医療研究センター「インフルエンザについて(医療関係者向け)」
- 立川市「【妊婦】インフルエンザ任意接種助成」(保健医療部 健康推進課 予防接種係 042-523-2111)
- 秋田市「妊婦さんのインフルエンザワクチン接種費の一部助成について」(秋田市保健所健康管理課 018-883-1179)
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。