単価は基本給だけで割らない
残業代が思ったより少ないとき、時間数より先に見る場所があります。1時間あたりの単価です。
割増賃金の基礎から外していい賃金は、労働基準法第37条第5項と労働基準法施行規則第21条で限られています。家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金。この7つです。列挙ですから、ここに無いものは単価に入ります。役職手当、資格手当、営業手当、精皆勤手当、どれも単価の側です。
鹿児島労働局は、皆勤手当を算入しなければならないのかという質問に、算入しなくてもよい賃金は上の7つに限られると答えています。つまり「基本給 ÷ 所定労働時間」だけで出した額が明細の単価になっているなら、そこが差の出どころかもしれません。
今日やること
明細を1枚と、雇用契約書か就業規則(賃金規程)を出してください。書き写すのは3つだけです。
- 支給欄の手当の名前と額を、ぜんぶ
- 1日の所定労働時間と、年間の休日日数
- 残業代として書かれている額と、その時間数
これが揃えば、あとは電卓で足ります。賃金規程が手元になくても、所定労働時間と年間休日は雇用契約書に書かれているはずです。
手順1:単価に入る賃金を足す
支給欄を上から見て、次のように分けます。
| 明細の項目 | 単価に入れるか |
|---|---|
| 基本給 | 入れる |
| 役職手当・資格手当・営業手当・精皆勤手当・その他の手当 | 入れる |
| 家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当 | 外せる(ただし次の節の条件あり) |
| 賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 外せる |
| 臨時に支払われた賃金 | 外せる |
迷ったら「7つの中に名前があるか」だけで一度分けてしまって構いません。細かい判断は次の節でやります。
手順2:1月平均所定労働時間で割る
施行規則第19条第1項第4号は、月によって定められた賃金について「その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額」と書いています。大阪労働局も、月ごとに所定労働時間が違うときは1年間の1か月平均で計算すると説明しています。
暦の都合で月の労働日数は毎月ずれますから、実務ではこの平均を使う会社がほとんどです。出し方はこうなります。
(365 − 年間休日日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12
うるう年にあたる年は365を366に置き換えます。仮に年間休日が120日、1日8時間だとすると、(365 − 120) × 8 ÷ 12 で約163.3時間。基礎に入る賃金の合計が26万円なら、単価は約1,592円です。ここは仮の数字ですので、自分の年間休日日数と所定労働時間に置き換えてください。
手順3:率をかける
大阪労働局が示している率は次のとおりです。
| 働いた種類 | かける率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 1.25 | 法第37条第1項・平成6年政令第5号 |
| 時間外のうち月60時間を超えた分 | 1.5 | 法第37条第1項ただし書 |
| 時間外が深夜(22時〜5時)に及んだ分 | 1.5 | 施行規則第20条第1項 |
| 月60時間超かつ深夜に及んだ分 | 1.75 | 施行規則第20条第1項 |
| 法定休日の労働 | 1.35 | 平成6年政令第5号 |
| 法定休日の労働が深夜に及んだ分 | 1.6 | 施行規則第20条第2項 |
| 所定労働時間内の深夜 | 0.25を加算 | 法第37条第4項 |
月60時間超の5割は、中小企業にも適用されています。秋田労働局は「令和5年4月1日から、中小企業においても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられます」と案内しています。猶予はもう残っていません。
3割5分が付くのは労働基準法第35条の休日、つまり毎週1回(または4週で4日)の休みに働いたときです。週休2日の会社でもう一方の休みに出た分は、この3割5分ではなく時間外労働として数えます。どちらが法定休日かは就業規則に書いてあります。
60時間を超えた分の割増については、労使協定で有給の休暇(代替休暇)を与えると定めていて、実際に取得したときは、その分の支払を要しないとされています(法第37条第3項)。明細で5割になっていないなら、この協定の有無を先に確かめる話になります。
「家族手当」「住宅手当」と書いてあっても外せないことがある
ここが一番取りこぼされます。7つの名前に合っていれば無条件で外せる、という話ではありません。
鹿児島労働局は「独身でも家族手当が支払われるなど一律に必ず支払われる賃金については、上記の名称であっても算入しなければなりません」と書いています。扶養家族がいない人にも同額出ている家族手当は、家族手当として外せないわけです。
住宅手当も同じ考え方で、大阪労働局は「全員に一律に定額で支給されるなど、住宅に要する費用に応じて算定されない賃金は除外賃金にあたりません」と説明しています。全員に月1万円という作りなら、単価に入ります。
自分の明細がどちら側かは、賃金規程の支給条件で見分けられます。「扶養家族1人につき」「家賃の一定割合」のように人や費用に応じて額が動くなら外せる側、誰でも同額なら入る側です。両方の労働局が書いているのは、名称ではなく一律かどうかで分かれる、という点でした。
明細と合わないとき、給与担当に聞く言葉
計算が違っていても、いきなり外へ持ち込む前にできることがあります。ずれる理由は、単価の中身か時間の数え方のどちらかにほぼ集まります。
給与担当に聞くのは3つです。
- 「残業代の1時間あたりの単価は、いくらで計算していますか」
- 「その単価に入れている手当と、外している手当を教えてください」
- 「固定残業代があるなら、何時間分としていくらですか」
外している手当の名前が出てきたら、7つの中にあるか、そして一律支給かを確かめます。一律なのに外れていれば、そこが差の原因です。
説明が条文と合わない、あるいは答えが返ってこないときは、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署に相談できます。持っていくものは、明細(できれば数か月分)、就業規則か賃金規程、タイムカードなど時間の記録の3点です。これを先に集めておくと、窓口で時間の確認から始めずに済みます。
さかのぼれるのは3年分
差が見つかったとき、過去のどこまで請求できるかには上限があります。労働基準法第115条は賃金の請求権を5年としていますが、同法附則第143条第3項が「当分の間」これを3年と読み替えています。退職手当だけは5年のままです。
3年は長いようでいて、毎月1か月分が後ろから落ちていきます。差が出ていると分かった月の明細から先に保存してください。紙で受け取っているなら捨てない。Web明細なら、その月のうちにPDFで手元に落としておく。会社のシステムは過去分の閲覧期間が限られていることがあります。
なお「当分の間」の読み替えですから、この3年は将来変わりうる部分です。確かめるときは e-Gov 法令検索の労働基準法を開いて、第115条と附則第143条を並べて見てください。
「課長だから出ない」と言われたときだけの話
残業代そのものが付かないと説明されることもあります。労働基準法第41条第2号は「監督若しくは管理の地位にある者」について、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないと定めていて、説明の根拠はここです。ただし条文は地位のことを言っていて、肩書きの名前で決まるとは書いていません。当てはまるかどうかは単価の計算とは別の話になるので、この記事では単価に絞ります。