結論:給与の多い方に、1枚だけ出す
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、2か所から給与を受け取っていても、出せる先が1か所に限られます。国税庁の手続き案内の備考に「2以上の給与の支払者から給与の支払を受ける場合には、そのいずれか一の給与の支払者に対してのみ提出することができます」と書かれています。この手続きの根拠は所得税法194条です。
では2か所のうち、どちらが主たる給与なのか。金額で自動的に決まるわけではありません。国税庁のタックスアンサーNo.2520は、主たる給与を「『給与所得者の扶養控除等申告書』を提出している人に支払う給与」と定義しています。申告書を出した側が主たる給与になる、という順番です。選ぶのは働いている本人になります。
実務で選ばれるのは給与の多い方です。扶養や基礎控除が織り込まれた甲欄が使われるのは主たる給与の側だけなので、金額の大きい方に当てた方が、毎月の天引きと年末の精算のずれは小さくなります。
出さなかった方は「乙欄」で引かれる
申告書を出していない勤務先の給与は、源泉徴収税額表の乙欄で計算されます。甲欄は申告書を出している人に使う列、乙欄はそれ以外の人に使う列、という区別です(国税庁 No.2511)。
同じ給与額でどれだけ違うのか。令和8年分(2026年分)の月額表から3行だけ抜き出します。左の金額はいずれも「その月の給与から社会保険料等を差し引いたあとの額」です。
| 社会保険料控除後の月給 | 甲欄(扶養0人) | 乙欄 |
|---|---|---|
| 80,000円 | 0円 | 2,450円 |
| 120,000円 | 890円 | 4,300円 |
| 160,000円 | 2,910円 | 9,800円 |
80,000円の乙欄には、表そのものに金額が載っていません。「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額の3.063%に相当する金額」と書かれているだけです。80,000円で計算すると2,450円になります(1円未満は切り捨て。この行だけ表の金額ではなく計算例です)。
甲欄には税額0円の行がありますが、乙欄にはありません。令和8年分の月額表で甲欄(扶養0人)が0円で済むのは、社会保険料控除後の月給105,000円未満までです。掛け持ち先の給与が月8万円でも、乙欄なら初月から所得税が引かれます。この金額は年ごとに改定されるので、自分の年の額は国税庁「源泉徴収税額表」で確かめてください。
なお、パート・アルバイトに日給や時間給で払う給与は、あらかじめ雇用契約の期間が2か月以内と決められていれば、甲欄でも乙欄でもなく日額表の丙欄で計算されます(No.2511)。丙欄に当たる人は扶養控除等申告書そのものを出す必要がありません。短期の掛け持ちがこれに当たることもあるので、2か所目の契約期間と給与の計算単位を見てください。
また、2か所目が雇用ではなく業務委託のときは、受け取るお金が給与に当たりません。この申告書は給与の支払を受ける人が出すもので、国税庁の案内も対象者を「給与所得者」としています。ここまでの話は当てはまらないことになります。明細の名目が「給与」か「報酬」かを先に見てください。
いま自分が甲欄か乙欄か、今日のうちに確かめる
給与明細に「甲欄」「乙欄」と印字されることは、まずありません。確かめ方は二つあります。
一つは記憶をたどる方法です。甲欄が使われるのは扶養控除等申告書を出している人だけなので、その勤務先で用紙を書いた覚えがなければ甲欄にはなりません。入社時の書類一式に入っていることがあるので、控えが手元にあれば開いてみてください。
もう一つは、給与担当に「私の所得税は甲欄と乙欄のどちらで計算されていますか」と尋ねる方法です。その場で答えが出ます。あわせて「主たる給与を別の勤務先に変えたい場合、何日までに言えば次の給与から反映されますか」まで確認しておけば、年末に慌てずに済むはずです。年末調整の用紙が配られる前に聞いてください。
出す期限と、年の途中で掛け持ちを始めたとき
国税庁が示す提出時期は「その年の最初に給与の支払を受ける日の前日(中途就職の場合には、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日)までに」です。年の初めに1回、年の途中で入ったならその勤務先の初回給与の前日まで、という建て付けになっています。
年の途中で2か所目を始めたなら、その勤務先で最初の給与を受け取る前に、どちらを主たる給与にするかを決めておきます。2か所目の方が多くなる見込みであれば、申告書はそちらに出し、元の勤務先には出さない(すでに出していれば取り下げる)という形です。
2か所に出してしまったと気づいたら
両方の勤務先で用紙を書いてしまうことは起こります。年末調整の対象になるのは扶養控除等申告書を提出している人なので(No.2665)、そのままだと2か所で年末調整が行われ、どちらかが誤りになります。
やることは三つです。
- どちらを主たる給与にするか決める。
- 主たるにしない方の給与担当に「扶養控除等申告書を出しましたが、こちらは従たる給与です。乙欄に直してください」と伝える。
- 「今月の給与計算に間に合いますか」と締め日を確認する。
伝えるのが遅れて1年分が甲欄のまま計算されてしまった場合も、最後は確定申告で精算できます。放置したまま終わりにはならないので、気づいた時点で言ってください。年末調整の用紙を渡された場面が、伝える最後の機会です。
扶養する家族がいるなら、2か所目に出せる申告書がある
配偶者や子を扶養していて主たる給与の額が小さいと、控除を使い切れないことがあります。このときに限って、2か所目に出せる書類があります。所得税法195条の「従たる給与についての扶養控除等申告書」です。
条件は、主たる給与の支払者から支給されるその年中の給与の金額(給与所得控除後の金額)が、次の二つの合計に満たないと見込まれるときに限られます(No.2520)。
- 主たる給与から控除される社会保険料等の額
- その人の障害者控除額・寡婦控除額・ひとり親控除額・勤労学生控除額・配偶者(特別)控除額・扶養控除額・特定親族特別控除額・基礎控除額の合計額
比べる相手は額面ではなく、給与所得控除を引いたあとの金額です。これを2か所目の勤務先を経由して出すと、月額表の乙欄で求めた税額から扶養親族等1人につき1,610円が差し引かれます(令和8年分 月額表の備考、No.2520)。
ただし一方通行の制約が付きます。No.2520は「主たる給与の支払者に申告した源泉控除対象配偶者や源泉控除対象親族を、年の中途で従たる給与の支払者に申告替えすることはできますが、従たる給与の支払者に申告した源泉控除対象配偶者や源泉控除対象親族を年の中途で主たる給与の支払者に申告替えすることはできません」と述べています。従たる側に移した扶養は、その年のうちは主たる側へ戻せません。
年末調整は主たる給与だけ。残りは確定申告で精算する
年末調整を行うのは、扶養控除等申告書を出している主たる給与の勤務先です(No.2665)。従たる給与は原則として年末調整の対象外で、精算は本人の確定申告になります(No.2520)。申告が必要になる線は、年末調整されなかった給与収入と、給与・退職以外の所得との合計が20万円を超えるかどうかです(No.1900)。
ただし同じNo.1900には、この線を越えても申告が要らない場合が併記されています。給与の収入金額の合計額から所得控除の合計額(雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除を除く)を差し引いた金額が150万円以下で、かつ給与・退職以外の所得の合計が20万円以下なら、申告は不要です。掛け持ちの合計額が小さい人はこちらに当たることもあるため、20万円だけで決めないでください。