年の途中で海外の支店や子会社に1年以上の予定で転勤・出向する人は、出国の日までに、勤務先でその年の年末調整を受けます。国税庁のタックスアンサーNo.2517は、1年以上の予定で海外に転勤することになった場合、給与等の支払者はその人が海外に出国する日までに年末調整をしなければならないとしています。12月を待ちません。
このときの年末調整は、12月に行うものと基本的に同じですが、違いが2つあります。生命保険料や社会保険料などの保険料控除は、出国する日までに支払ったものに限られます。扶養控除や配偶者控除は、出国の時の現況で判定します。
出国したあと、海外での勤務に対して支払われる給与は、使用人であれば原則として日本で源泉徴収されません。この記事では、出国前に出す書類、出国後の給与と賞与の扱い、予定が変わったときの扱いを順に整理します。
1年以上の予定かどうかで、居住者か非居住者かが分かれる
No.2875によると、所得税法の「居住者」は、国内に住所を有するか、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人で、それ以外の個人が「非居住者」です。住所は生活の本拠で、客観的事実によって判定します。
No.2517は、役員や使用人が海外の支店などに1年以上の予定で転勤した場合は一般的に非居住者、1年未満であれば居住者になるとしています。No.1920も、国外に居住することになった人は、在留期間があらかじめ1年未満であることが明らかな場合を除いて、原則として非居住者と推定されるとしています。
赴任期間が1年未満の予定なら、居住者のままです。この場合は出国前の年末調整はなく、その年の最後の給与のときに通常どおり年末調整を受けます。
出国の日までの年末調整
対象になる人
No.2517が出国前の年末調整の対象としているのは、扶養控除等(異動)申告書を出している居住者で、その年中に支払うことが確定した給与等の支給額が2,000万円以下の人です。「年末調整のしかた」も、年の途中で海外の支店へ転勤したことなどにより非居住者となった人を年末調整の対象とし、年末調整を行う時を「非居住者となった時」としています。
会社に出す書類
No.1920は、年の途中で海外に転勤または出向する人がすることとして次の3つを挙げています。
- 給与所得者の保険料控除申告書を出す。控除する保険料は、非居住者となる日までに支払った金額で計算する
- 扶養控除等申告書の記載内容に変更がないかを確かめ、変更があれば異動申告書を出す
- 基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書を出す
12月の年末調整で毎年出している書類と同じものを、出国前に出すということです。
保険料控除は、出国の日までに払った分だけ
No.2517は、社会保険料や生命保険料などの保険料控除は、出国する日(居住者であった期間)までに支払われたものに限られるとしています。
年払の保険料をいつ払うかで差が出ます。国税庁の質疑応答事例は、生命保険料が居住者期間に払われたものか非居住者期間に払われたものかは支払の時点で判定し、年払の場合はその支払の時点で居住者であれば支払額の全額が控除の対象になるとしています。一方、前納保険料は按分計算をするので、非居住者期間内に支払期日が来る部分は控除の対象になりません。同じ事例は、非居住者だった期間の給与から差し引いた社会保険料も社会保険料控除の対象にならないとしています。
扶養と配偶者は、出国の時で判定する
No.2517によると、扶養控除、特定親族特別控除、配偶者控除・配偶者特別控除などは、出国の時に控除の対象になる人について控除できます。判定のしかたは次のとおりです。
- 生計を一にしていたかどうか、親族関係にあったかどうか:出国の時の現況
- 合計所得金額:出国の時の現況で見積もった、その年の1月1日から12月31日までの合計所得金額
「年末調整のしかた」も、年齢の判定は12月31日ではなく、所得者本人が年の途中で出国して非居住者となる場合は出国の時の現況によるとしています。
日本に残る配偶者がパートで働いている場合は、出国後に働く分も含めた1年分の所得を、出国の時に見積もることになります。
基礎控除と所得金額調整控除
No.2517は、出国の時にその年の合計所得金額が2,500万円以下の人は基礎控除を控除できるとしています。また、出国の時にその年の給与等の収入金額が850万円を超える人で、本人が特別障害者であるか、年齢23歳未満の扶養親族や特別障害者である同一生計配偶者・扶養親族がいる人は、所得金額調整控除を受けられます。年末調整でこれらの控除を受けるには、それぞれの申告書を出す必要があります。
確定申告が必要な人は、出国までに
出国前の年末調整で済まない人もいます。No.1920は、給与収入が2,000万円を超える人や、主たる給与以外に一定の収入があるなど確定申告が必要な人(確定申告で控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額または予定納税の額がある場合を除く)が「出国」するときは、その出国の時までに確定申告(準確定申告)をしなければならないとしています。
ここでいう「出国」は、納税管理人の届出をしないで国内に住所と居所を持たなくなることです。No.1923は、非居住者が確定申告書の提出、税務署からの書類の受け取り、税金の納付や還付金の受け取りなどを処理する必要があるときは、納税管理人を定め、納税地を所轄する税務署長に「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を出す必要があるとしています。納税管理人は法人でも個人でも構いません。
出国したあとの給与と賞与
No.2517によると、出国後の源泉徴収は、使用人と役員で扱いが違います。
- 非居住者となった使用人の、海外での勤務に対する給与は国内源泉所得に当たらないため、源泉徴収の必要はありません。
- 内国法人の役員として受ける報酬は、海外勤務に対するものでも国内源泉所得に当たり、20.42%の税率で源泉徴収が必要です。ただし、海外支店の支店長など使用人としての立場で常時海外で勤務している役員は、源泉徴収の必要はありません。
国内で払われる賞与
海外で勤務している使用人に、国内で賞与などが支払われ、その計算期間に日本で勤務した期間が含まれている場合は、日本での勤務期間に対応する金額に20.42%の税率で源泉徴収が必要です(No.2517)。たとえば夏に出国し、冬の賞与の計算期間に出国前の国内勤務が入っていれば、その部分が対象になります。
出国した月の給与
給与の計算期間の途中で非居住者になった場合について、No.2517は、計算期間が1か月以下の給与であれば、計算期間に日本での勤務期間が含まれていても源泉徴収をしなくてもよいとしています。ただし、給与の全額が日本での勤務に対応する場合は20.42%の源泉徴収が必要です。国税庁の質疑応答事例は、基本給と計算期間の違う残業手当を同じ日に払う場合も、基本給と残業手当の合計額について、その全額が国内勤務によるものかどうかで判定してよいとしています。
予定が変わったとき
1年未満で帰国することになった
国税庁の質疑応答事例は、事情の変更が生じたときに居住者・非居住者の再判定を行うものの、遡って区分が変わることはないとしています。1年以上の予定で出国した人は出国の時から非居住者として扱われ、勤務期間が1年未満になることが明らかになった場合は、その明らかになった日以後が居住者です。出国時に遡って居住者になることはありません。
反対に、1年未満の予定で出国した人の海外勤務が1年以上になることが明らかになった場合は、その日以後が非居住者です。
同じ年のうちに帰国した
7月に2年の予定で出向して出国時に年末調整を受けた人が、10月に出向を取りやめて帰国した例について、国税庁の質疑応答事例は、居住者だった期間(1月から7月と10月から12月)に支払う給与を合計して年末調整を行うとしています。年末調整は「その年中に支払うべきことが確定した給与等」を対象とし、年の途中に非居住者期間があった人も居住者期間内に支払うべき給与を合計するという理由です。
翌年以降に帰国した
海外勤務を終えて帰国した年について、No.2518は、帰国日以後に扶養控除等(異動)申告書が出されていれば、帰国日以後年末までに支給期が来る給与等を対象に年末調整をするとしています。社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除は帰国日以後に支払った保険料や掛金が対象で、扶養控除や配偶者控除、基礎控除などは国内で勤務する従業員と同じ扱いです。帰国後に支給期が来る給与等は、非居住者期間の勤務に対応する部分が含まれていても、総額が居住者に対する給与として源泉徴収されます。
確認の順番
- 赴任期間が1年以上の予定かを会社に確かめる。1年未満なら出国前の年末調整はない
- 出国日までに、保険料控除申告書、扶養控除等申告書の異動、基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書などを会社に出す
- 保険料は出国の日までに払った分を書く。年払の時期と出国日の前後を確かめる
- 配偶者や扶養親族の所得は、出国の時に1年分を見積もる
- 給与収入が2,000万円を超えるなど確定申告が必要なら、出国までに準確定申告をするか、納税管理人を届け出る
- 出国後に国内で払われる賞与の計算期間に、国内勤務が入っているかを確かめる
この記事で確認できなかったこと
2026年11月2日時点で、次の点は今回読んだ国税庁の資料では確かめられていません。
- 令和9年分以後に、出国後に国内で払われる賞与などの源泉徴収の税率がどうなるか。No.2517は20.42%と書き、No.2518は令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税になると注記しています。
- 住民税の扱い(出国する年と翌年の住民税をどこにどう納めるか)。住んでいる市区町村に確認してください。
- 出国時の年末調整で渡される源泉徴収票の交付時期。
- 海外の赴任先の国での課税や、租税条約による日本の所得税の免除の個別の要件。No.2517は、要件は租税条約によって異なるとしています。
参考資料
- 国税庁 タックスアンサーNo.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収 — 出国前の年末調整、保険料控除と扶養の判定、出国後の使用人・役員の給与、国内払いの賞与
- 国税庁 タックスアンサーNo.1920 海外勤務と所得税額の精算 — 非居住者の推定、出国前に出す書類、準確定申告
- 国税庁 タックスアンサーNo.2875 居住者と非居住者の区分
- 国税庁 タックスアンサーNo.2518 海外出向者が帰国したときの年末調整
- 国税庁 タックスアンサーNo.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任
- 国税庁 質疑応答事例 業務の都合により1年未満で帰国したり、海外勤務が1年以上となった場合の居住者・非居住者の判定
- 国税庁 質疑応答事例 非居住者であった期間内の社会保険料、生命保険料
- 国税庁 質疑応答事例 年の中途で出国し非居住者となった者が後発的事由により帰国し居住者となった場合の年末調整
- 国税庁 質疑応答事例 給与の計算期間の中途で非居住者となった者に支給する超過勤務手当
- 国税庁 令和8年分 年末調整のしかた — 年末調整の対象となる人と行う時、年齢などの判定時点