産休に入ると給与が止まります。出産手当金はその穴を埋めるお金ですが、給与のように毎月は入りません。請求して、審査を経て、まとめて振り込まれます。
だから知りたいのは制度の定義ではなく、最初の入金がいつになるかです。そしてそこは、自分で選べます。
産後56日の終わりを待つ決まりはない
協会けんぽは、よくあるご質問で「出産手当金は、産前分、産後分など複数回に分けて申請することも可能です」と書いています。まとめて1回という条件はどこにも付いていません。
分けられる理由は期間の区切り方にあります。産前分の対象期間は出産日で閉じます。出産が済んだ時点で日数も休んだ日も確定するので、その分だけを先に請求できます。産後56日が終わるのを待つ必要があるのは、産後分だけです。
産前42日と産後56日を足すと98日。予定日どおりに生まれた場合でも、まとめて出すか分けて出すかで、1回目の入金は2か月近く動きます。
分けると増えるのは事業主の証明
ただし手間は増えます。同じ質問の続きに、こう書いてあります。
- 事業主の証明欄については、毎回証明が必要
- 医師または助産師の証明欄は、1回目の申請が出産後であり、証明によって出産日等が確認できたときは、2回目以降の申請書への証明は省略可能
2つの証明で条件が違うところが要点です。事業主の証明は逃げられません。申請書の3ページ目は事業主記入用で、申請期間のうち出勤した日を丸で囲み、出勤していない日に報酬を支給していればその日付と金額を書く欄になっています。期間が変われば書く内容も変わるため、毎回もらうことになります。
医師・助産師の証明のほうは条件つきで1回に減らせます。鍵は1回目を出産後に出すことです。申請書の2ページ目には「今回の出産手当金の申請は、出産前の申請ですか、出産後の申請ですか」という選択欄があり、出産前を選ぶと出産日はまだ書けません。出産日が確認できていない証明では、2回目の省略が成り立たなくなります。
つまり、証明の手間をいちばん軽くしたい人の順番はこうなります。産前分の申請を出産後に1回目として出し、産後56日が過ぎてから産後分を2回目として出す。これで医師・助産師の証明は1回で済み、事業主の証明だけが2回になります。
自分の産前産後期間を先に確定する
金額の話より先に、対象になる日を確定させてください。協会けんぽは「産前産後期間一覧表」というPDFを出しています。出産日を縦、出産月を横にとった表で、交差するところに産前開始日と産後終了日が載っています。うるう年の場合はかっこ書きです。
出産日以前42日・翌日以後56日で数えると、4月10日に生まれた場合は産前開始日が2月28日(うるう年は2月29日)、産後終了日が6月5日になります。まだ生まれていない段階では、予定日をこの表に当てはめれば産前休業の始まる日が分かります。
出産日は産前に入り、産後は翌日から数える
数え方は2か所でつまずきます。
協会けんぽは「出産日は出産の日以前の期間に含まれます」と明記しています。生まれた日は産前42日の側です。そして産後は「出産の翌日以後56日目まで」なので、翌日を1日目として数えます。出産日を産後の1日目と数えると、産後の終わりが1日ずれます。
多胎妊娠の場合は産前が98日に延びます。産後の56日は変わりません。
予定日より遅れた日数は、そのまま足される
予定日ちょうどに生まれる人のほうが少数です。ここは制度が読者側に有利にできています。
支給期間の起点は「出産の日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日」です。遅れたときは起点が予定日のまま動かないので、産前の枠が後ろに伸びます。協会けんぽの説明では、支給期間は「出産予定日前42日+出産予定日から遅れた出産日までの日数+産後56日」になります。5日遅れれば5日分、対象日が増えます。
早く生まれた場合は起点が実際の出産日に変わるため、産前の日数はそのぶん短くなります。産後の56日は動きません。
1日あたりいくらになるか
計算式は傷病手当金と同じ形です。
支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 3分の2
協会けんぽが挙げている例では、平均が17万円のとき、30で割って5,670円(10円未満四捨五入)、その3分の2で1日あたり3,780円(1円未満四捨五入)になります。支給開始日は、最初に出産手当金が支給された日を指します。
加入して12か月に満たない人は、次の2つのうち低いほうを使います。1つは支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額。もう1つは全被保険者の標準報酬月額の平均額で、支給開始日が令和7年4月1日以降の場合は32万円です(この金額は改定されることがあるため、協会けんぽの出産手当金のページで最新の値を確認してください)。
休んだ日に出ている手当は差し引かれる
「給与が出ていないから満額」と思っていると、通知書を見て驚くことがあります。
差し引かれるのは、出勤していない日に対して支給された報酬です。協会けんぽが例に挙げているのは、有給休暇の賃金、出勤の有無に関わらず支給している手当(通勤手当・扶養手当・住宅手当など)、食事や住居などの現物支給です。逆に、残業手当のように出勤した日に対して支払われたものや、見舞金のような一時的なものは含まれません。
全額が消えるわけでもありません。その給与の日額が出産手当金の日額より少なければ、差額が支給されます。
傷病手当金を受けている途中で産休に入ったら
つわりや切迫早産で先に休み、傷病手当金を受けている人もいます。この場合、両方を丸ごと受け取ることはできません。
協会けんぽの整理はこうです。重複しては受給できず、傷病手当金の支給額が出産手当金の支給額より多い場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。金額が入れ替わることがあるのは、2つの給付で支給開始日が違い、平均をとる12か月の範囲がずれるからです。産休に入る前に傷病手当金を受けていた人は、産休開始で自動的に切り替わると考えて、支給決定通知書の額を見比べてください。
出す先と、振り込みまでの見込み
紙の申請書は、加入している協会けんぽの支部へ郵送します。支部は都道府県ごとに分かれていて、勤務先が加入している支部が提出先です。電子申請を使う場合、支部を選ぶ必要はありません。
協会けんぽは、審査の結果支払い可能であれば受付日から10営業日以内に支払うとしています。これは書類に不備がない場合の目安です。記入もれや証明の食い違いがあると返戻されて出し直しになり、そのぶん後ろにずれます。逆に、添付書類を足しすぎるのも避けてください。協会けんぽは賃金台帳や出勤簿の写しなど不要な書類を添付しないよう案内しています。
保険料の免除は、この申請とは別の道すじ
出産手当金の申請書を出しても、社会保険料は止まりません。産前産後休業中の健康保険料・厚生年金保険料の免除は、事業主が「産前産後休業取得者申出書」を日本年金機構へ提出して成立します。本人が協会けんぽへ出す書類ではありません。
日本年金機構は提出時期を、産前産後休業期間中、または産前産後休業終了後の終了日から起算して1か月以内としています。免除された期間も、将来の年金額の計算では保険料を納めた期間として扱われます。休業期間が変わったときは、事業主が変更(終了)届を出します。
今日できること
産休に入る前でも、入ったあとでも、手を動かせることがあります。
- 予定日を産前産後期間一覧表に当てはめる。 産前開始日と産後終了日を紙に書き出す。ここが決まらないと申請期間の欄が書けません
- 申請書を先に落としておく。 協会けんぽのサイトに手書き用・記入例・入力用の3種類があります。書式は3ページ組で、1ページ目が本人の口座、2ページ目が本人と医師・助産師、3ページ目が事業主です
- 勤務先の担当者に、分けて出すかどうかを伝える。 「産前分と産後分の2回に分けて出したいので、事業主の証明を2回お願いします」と先に言っておくと、産後に頼むときの調整が短くなります
- 公金受取口座を登録しているか確認する。 登録済みで「1.希望する」を選べば、申請書に振込先を書く必要がありません
- 出勤していない日に出ている手当を給与明細で拾う。 通勤手当や住宅手当が止まっているかどうかで、受け取れる額が変わります
最初の入金を早めたい人がやることは、結局ひとつです。出産後、産後分を待たずに産前分の申請書を出す。事業主の証明を1回多く頼むかわりに、2か月ほど手前でお金が動きます。