先に決まるのは金額ではなく、出す窓口
亡くなった方が入っていた医療保険によって、給付の名前も申請先も変わります。同じ5万円でも、協会けんぽへ郵送する人と、市区町村の窓口へ行く人に分かれます。
| 亡くなった方 | 給付の名前 | 出す先 |
|---|---|---|
| 会社員など本人(協会けんぽ) | 埋葬料、または埋葬費 | 加入していた協会けんぽ支部 |
| その被扶養者 | 家族埋葬料 | 同じ支部(請求するのは被保険者) |
| 健康保険組合の加入者 | 埋葬料(費)。組合独自の上乗せがあることも | その健康保険組合 |
| 国民健康保険 | 葬祭費 | 市区町村の国保の窓口 |
| 後期高齢者医療(原則75歳以上) | 葬祭費 | 市区町村の後期高齢者医療の窓口 |
| 仕事中・通勤中の死亡 | 労災の葬祭料(葬祭給付) | 所轄の労働基準監督署 |
共通しているのは、申請しなければ出ないという一点です。死亡届を出しても、火葬許可を取っても、この給付は動き出しません。役所や健保の側から「まだ受け取っていませんよ」と知らせてくる仕組みにはなっていないのです。
今日やるのは、保険者名を読むところまで
手元に亡くなった方の保険証か資格確認書があれば、そこに保険者の名前が印字されています。「全国健康保険協会」なら協会けんぽ。「○○健康保険組合」なら組合健保。市区町村名が入っていれば国民健康保険か後期高齢者医療です。ここが分かれば、あとはその窓口の言葉で調べられます。
マイナ保険証しか使っていなかった場合でも困りません。協会けんぽは提出先の案内で「ご加入されている協会けんぽ支部へご郵送ください。ご加入の支部は、『資格情報のお知らせ』または『マイナポータル(健康保険証>資格情報)』にてご確認いただけます」と書いています。紙の「資格情報のお知らせ」が家の中にあるか、マイナポータルの資格情報を見るか、どちらでもたどり着けます。
保険者が健康保険組合だったときは、もう一つ見る価値があります。組合健保は独自の上乗せ(付加給付)を置いていることがあり、その有無も額も組合ごとに違うので、こちらで一般化できません。組合名と「埋葬料 付加金」で検索するか、組合に「埋葬料に付加金はありますか」と電話で聞いてください。
名前が4つあるのは、請求する人が違うから
協会けんぽの給付には埋葬料・家族埋葬料・埋葬費という似た名前が並びます。違いは金額ではなく、誰が請求者になるかです。
- 埋葬料 5万円 — 被保険者本人が亡くなったとき、その人に生計を維持されていた人へ
- 家族埋葬料 5万円 — 被扶養者が亡くなったとき、被保険者へ
- 埋葬費 — 埋葬料を受けられる人がいないとき、実際に埋葬を行った人へ。5万円の範囲内で、実際にかかった額
埋葬料と家族埋葬料は定額です。埋葬費だけが実費精算で、5万円が上限になります。
「生計を維持されていた」の幅は、思っているより広い
ここが公式の説明でいちばん読み落とされる箇所です。協会けんぽは埋葬料の対象について、こう書いています。
被保険者によって生活費の一部でも維持されている方であればよく、民法上の親族や遺族であることは問われません。
同居していなくてもよく、戸籍上の家族でなくてもよい、という意味です。仕送りを受けていた、家賃を出してもらっていた、二人分の食費を亡くなった方の口座から払っていた——こうした関係があれば、埋葬料の請求者になり得ます。「自分は親族ではないから」と最初から諦める必要はありません。
逆に、あなたが亡くなった方を扶養していた側なら、向きが反対です。その場合は埋葬料ではなく、実際に埋葬を行った人として埋葬費を請求する形になります。
埋葬費に数えられる費用
埋葬費は実費精算なので、何を積めるかが結果に直結します。協会けんぽは「実際に埋葬に要した費用」として、霊柩車代、霊柩運搬代、霊前供物代、火葬料、僧侶の謝礼等の実費額を挙げています。
上限が5万円なので、火葬料と霊柩車代だけで届いてしまうことも多いはずです。全部を積み上げるより、金額の大きいものから領収書を確保するほうが早く終わります。
領収書の宛名は、葬儀社に頼む前に決めておく
埋葬費で請求するとき、協会けんぽが挙げている添付書類は「領収書(支払った方のフルネームおよび埋葬に要した費用額が記載されているもの)」と「埋葬に要した費用の明細書(費用の内訳がわかるもの)」です。
葬儀社の領収書は、頼まないと「○○家」で出てきます。これでは支払った方のフルネームになりません。支払いの場で「フルネームと金額が入った領収書にしてください」と一言添えるのが確実です。もう受け取ってしまっていても、事情を話して書き直しを頼めます。
なお、定額の埋葬料・家族埋葬料では領収書は求められていません。自分がどちらの請求者かを先に決めておけば、集める書類が半分になります。
事業主の証明が取れなくても、代わりの書類がある
被保険者本人が亡くなったときの申請には「事業主による死亡の証明」が要ります。ただし、会社がすでに解散している、退職後だった、担当者と連絡が取れないといった事情は珍しくありません。
協会けんぽは申請書のページで、この場合の代わりになる書類を挙げています。
- 埋葬許可証または火葬許可証のコピー
- 死亡診断書、死体検案書または検視調書のコピー
- 亡くなった方の戸籍(除籍)謄(抄)本
- 住民票など
埋葬許可証でなく火葬許可証でもよく、戸籍は抄本でもかまいません。住民票も挙がっています。手元に早く来るものから選べば足ります。ただし申請書のページには「場合によっては、ここに掲載のない添付書類が必要となることもありますのでご了承ください」とも書かれています。封をする前に加入支部へ電話し、「事業主証明の代わりに死亡診断書のコピーを付けます。ほかに要るものはありますか」と聞いておくと、返戻で往復せずに済みます。同じ電話で「受付からお支払いまでの目安は何日ですか」も確かめておくと、入金の時期が読めます。
国保・後期高齢者医療の葬祭費は、額が自治体で違う
市区町村が出す葬祭費には全国共通の額がありません。実際に開いた自治体のページを並べると、幅がはっきりします。
| 自治体・制度 | 額 | 受け取る人 |
|---|---|---|
| 奈良市 国民健康保険 | 30,000円 | 葬祭を行った方 |
| 大阪市 後期高齢者医療 | 50,000円 | 被保険者の葬祭を行った方 |
| 横浜市 後期高齢者医療(神奈川県広域連合) | 50,000円 | 葬儀を行った方(喪主) |
| 世田谷区 国民健康保険 | 70,000円(1人あたり) | 葬祭を行いその費用を支払った方 |
自分の額は、住んでいた市区町村名と「葬祭費」で検索するか、役所の国保・後期高齢者医療の窓口で確認してください。**額は条例で決まるので改定されます。**この記事の数字は幅を示すためのもので、自分の分は必ず自治体のページで見てください。
持ち物も自治体ごとに違います。上の4ページを重ねてみて、四つとも挙げていたのは次の2点だけでした。
- 申請者名義の口座が分かるもの(通帳、口座番号の分かるものなど)
- 葬祭を行った人が確認できるもの(葬儀の領収書、会葬礼状など)
葬祭日まで挙げていたのは横浜市だけでした。
ここに、亡くなった方の保険証・資格確認書を求める自治体、申請者の本人確認書類を求める自治体、横浜市のように「喪主の印かん(朱肉を使用するもの)」を挙げる自治体が重なります。出向く前に住んでいた市区町村のページを一度見ておくと、二度手間になりません。
退職して3か月以内に亡くなったときは、健保が先
いちばん間違えやすいのがこの分岐です。すでに会社を辞めていても、協会けんぽから埋葬料(費)が出る場合があります。協会けんぽが挙げているのは次の三つです。
- 被保険者が資格喪失後3か月以内に亡くなったとき
- 傷病手当金または出産手当金の資格喪失後の継続給付を受けている期間に亡くなったとき
- その継続給付を受けなくなった日後3か月以内に亡くなったとき
そして市区町村の側は、この人を葬祭費の対象から外していることがあります。奈良市は「他の健康保険などから葬祭費に相当する給付(埋葬料等)を受けることができる場合、奈良市国民健康保険から葬祭費の支給はしません」、世田谷区は「加入していた健康保険等の支給対象である場合、国民健康保険からは支給されません」と書いています。
つまり両方から受け取ることはできず、先に当たるべきは健保のほうです。役所へ先に行くと、断られてから協会けんぽに出し直すことになります。
一方で、被扶養者だった家族が資格喪失後に亡くなったときは扱いが違います。協会けんぽは「被保険者の資格喪失後に被扶養者だったご家族が亡くなった場合については、家族埋葬料は支給されません」としています。3か月の救済は本人が亡くなったときの話で、被扶養者には及びません。
期限は2年。ただし数え始める日が違う
協会けんぽは時効について「健康保険給付を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日から2年で時効になります」としたうえで、埋葬料(費)の起算日を「死亡した日の翌日(ただし、埋葬費については埋葬を行った日の翌日)」と分けています。
| 給付 | 起算日 |
|---|---|
| 埋葬料・家族埋葬料 | 死亡した日の翌日 |
| 埋葬費 | 埋葬を行った日の翌日 |
| 市区町村の葬祭費 | 葬祭を行った日の翌日 |
市区町村の側も2年です。開いた4自治体は、いずれも「葬祭を行った日の翌日から2年」としていました。
死亡から埋葬まで日が空くことはあるので、埋葬料のつもりで数えていた人が実は埋葬費の請求者だった、という場合には期限がずれます。**カレンダーに2年後の日付を書き込んでおいてください。**四十九日、一周忌、相続の話し合いと続くうちに、2年は思ったより早く来ます。
仕事中・通勤中に亡くなったときは、健保ではない
業務中や通勤中の死亡は労災の扱いになり、健康保険の埋葬料ではなく労災保険の葬祭料(葬祭給付)を所轄の労働基準監督署に請求します。様式は業務災害が第16号、通勤災害が第16号の10。厚生労働省は「遺族に限らず、葬祭を行った方へ一定額が支給されます」としていて、請求できる人を遺族に限っていません。
金額は、厚生労働省のページが「330,000円+給付基礎日額の30日分(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)」としています。ただし福井労働局のページには315,000円という記載が残っていて、公的なページの間でも数字が分かれています。請求書を取りに行ったときに窓口で額を確かめてください。
手を動かす順番
- 保険者名を読む。保険証が無ければ「資格情報のお知らせ」かマイナポータルで確認する
- 亡くなったのが本人か被扶養者か、仕事中だったかを切り分ける
- 協会けんぽなら、自分が「生計を維持されていた人」かを判定する。当たれば埋葬料(定額・領収書不要)、いなければ埋葬費(実費・領収書と明細書)
- 埋葬費なら、支払いの場で領収書の宛名をフルネームにしてもらう
- 事業主証明が取れなければ、埋葬・火葬許可証、死亡診断書等、戸籍(除籍)謄(抄)本、住民票などのうち一番早く手に入るものを用意する
- 出す前に窓口へ電話し、追加書類の有無と支払いまでの目安を聞く
- 2年後の日付をカレンダーに書き込む
この記事で扱っていないこと
遺された家族の保険の切り替えには踏み込んでいません。会社員本人が亡くなると、その被扶養者だった家族はその健康保険を失うので、国民健康保険に入るか、別の家族の被扶養者になるかを決めることになります。給付の申請とは窓口も期限も別の話です。葬祭費の申請で役所へ行くなら、同じ窓口で「亡くなった人の扶養に入っていた家族の保険は、いつまでに何をすればいいですか」と併せて聞いておくと、一度で済みます。