床下浸水だけなら、火災保険の水災は出ないことが多いです。多くの商品で水災の支払条件は三つあり、再調達価額の30%以上の損害、床上浸水、地盤面から45cmを超える浸水のどれかに当たる必要があります。床下に水が回っただけでは、ふつうはどれにも当たりません。逆に床上まで来ていれば、深さにかかわらず条件を満たす契約が一般的です。まず保険証券で「水災」が補償に入っているかと、対象が建物だけか家財も含むかを確認し、片づける前に浸水の跡を写真に残してください。この記事の制度の記述は2026年9月22日時点の公開情報によります。
水災が出るかは、三つの条件のどれかに当たるかで決まる
火災保険は火災だけの保険ではなく、台風・暴風雨・豪雨による洪水、高潮、土砂崩れなどの損害も「水災」として補償します。ただし水災には、火災や風災にはない支払条件が付いています。
東京海上日動のFAQと三井住友海上の商品ページは、どちらも次の条件を挙げています。
| 条件 | 内容 | 床下浸水で当たるか |
|---|---|---|
| ① 損害の大きさ | 保険の対象(建物または家財)に、再調達価額の30%以上の損害が生じた | 床下だけでは届きにくい |
| ② 床上浸水 | 居住部分の床を超える浸水を被った結果、損害が生じた | 当たらない |
| ③ 浸水の高さ | 地盤面から45cmを超える浸水を被った結果、損害が生じた | 床が高い家では当たることがある |
再調達価額は、同じものを新しく建て直す、または買い直すのに必要な金額です。②と③は「浸水を被った結果、損害が生じた」という書き方で、浸水そのものではなく、浸水によって壁や床、家財が損害を受けたことが前提になります。
この三つは業界でほぼ共通の書き方ですが、日本損害保険協会は「損害額が一定割合以上に達するものや、床上浸水による損害であれば、補償の対象としている商品もあります」と、商品ごとに条件が違うことを前提に説明しています。免責金額や支払割合を別に定めている契約もあるので、最後は自分の約款で確かめます。
床下浸水が「出ない」と言われる理由
②の床上浸水には定義があります。東京海上日動は「居住の用に供する部分の床(畳敷または板張等のものをいい、土間、たたきの類を除きます。)を超える浸水」としています。玄関の土間やたたきに水が入っても、居住部分の床を超えていなければ床上浸水にはなりません。
床下浸水は、その床に達していない状態です。②に当たらず、地盤面から45cmを超えていなければ③にも当たらず、基礎や床下の損害が再調達価額の30%に届くことはまれなので①にも当たりません。東京海上日動のFAQは、床下浸水のみで①②のいずれにも当たらなければ補償対象外と明記しています。
それでも、あきらめる前に確かめる点が二つあります。
- 地盤面からの高さ。 高基礎の家や、道路より低い土地に建つ家では、床下でも地盤面から45cmを超えて浸水していることがあります。この場合は③に当たりえます。壁や基礎に残った水の跡を、メジャーと一緒に撮っておいてください。
- 家財と設備。 家財を保険の対象にしている契約なら、家財側で条件を見ます。床下収納や物置の中身、屋外の設備がどう扱われるかは商品で違うので、証券に「家財」の記載があるかを見たうえで保険会社に聞きます。
該当する人、該当しない人
水災の請求を検討できるのは、火災保険に水災の補償を付けている人です。保険料を抑えるために水災を外している契約や、古い契約で水災が縮小払いになっている契約もあります。証券の補償一覧に「水災」があるかが最初の分かれ目です。
次の場合は、水災ではなく別の枠になります。
- 地震の津波や、地震で壊れた堤防からの浸水。 火災保険の水災ではなく地震保険の扱いです。
- 賃貸で借りている部屋。 建物の保険は大家が掛けているので、借主が請求できるのは自分で掛けた家財の保険です。
- 車の浸水。 火災保険ではなく、自動車保険の車両保険で見ます。
- 給排水設備の事故や、上階からの漏水。 水災ではなく「水濡れ」の補償で、条件も別です。
請求までの順番
- 証券を出す。 「水災」が補償に入っているか、対象が建物か家財か、免責金額がいくらかを見ます。証券が濡れて読めなければ、保険会社か代理店に契約者名で照会できます。
- 片づける前に撮る。 浸水の跡が分かる壁面、床、基礎、家財の損害、屋外の様子を、日付が残る形で撮ります。浸水の高さはメジャーを写し込みます。同じ写真が罹災証明書の申請にも使えます。
- 保険会社に連絡する。 事故受付の窓口に、浸水の日時、場所、床上か床下か、おおよその高さを伝えます。必要書類はここで指示されます。
- 修理の見積もりを取る。 損害額の確認に使います。①の30%判定にも、見積もりの金額が材料になります。
- 罹災証明書は別に申請する。 市区町村の窓口です。保険の判定とは別に動きます。申請期限は自治体ごとに違うので、罹災証明書の申請期限と写真の撮り方を先に見てください。
内閣府は住まいの被害を「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」で判定しており、最新版は令和8年6月です。水害では浸水の深さも判定に使われます。ただし、その区分と保険会社の判定は別のものなので、罹災証明書の区分が軽くても保険が出ないとは限らず、逆も同じです。
保険が出ないとき、片づけの費用は雑損控除の候補になる
水災が対象外でも、損害と片づけの支出が消えるわけではありません。所得税には雑損控除があり、国税庁は対象となる災害に「震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害」を挙げています。台風や大雨による浸水はここに入ります。
控除額は、次の二つのうち多い方です。
- (損害金額 + 災害等関連支出 − 保険金などで補てんされる金額)−(総所得金額等 × 10%)
- (災害関連支出 − 保険金などで補てんされる金額)− 5万円
災害等関連支出は、国税庁の説明では「災害により滅失した住宅、家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額」などです。床下の泥出しや消毒、乾燥の費用がここに含まれるかは、支出の内容によって判断が分かれるので、領収書を持って税務署に確認してください。領収書は申告のときに添付または提示が求められます。
二つ目の式は、損害の大きさに関係なく、片づけの支出が5万円を超えれば使えます。床下浸水で保険が出なかった人にとっては、こちらが現実的な入口です。控除しきれない分は翌年以後3年間繰り越せます(令和5年4月1日以後の特定非常災害は5年)。
保険金を受け取った場合は、その分を損害から差し引いて計算します。保険が出た人も出なかった人も、まず領収書と写真を残しておくのは同じです。
損害が大きいなら、災害減免法との選択がある
住宅や家財の損害が時価の2分の1以上で、その年の所得金額の合計が1,000万円以下なら、雑損控除の代わりに災害減免法で所得税を軽減または免除できます。
| その年の所得金額の合計 | 軽減または免除される所得税 |
|---|---|
| 500万円以下 | 全額 |
| 500万円超 750万円以下 | 2分の1 |
| 750万円超 1,000万円以下 | 4分の1 |
国税庁は、雑損控除と災害減免法のどちらか有利な方を選択できるとしています。手続きは確定申告書に適用を受ける旨と被害の状況、損害金額を書いて税務署に出します。床下浸水や浅い床上浸水では損害が時価の半分に届くことはまれなので、この制度は床上に深く浸水した人や家財を大きく失った人向けです。
2026年9月22日時点で確かめていないこと
- 内閣府の運用指針にある、浸水の深さと被害区分の対応(全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・一部損壊)。この記事では深さの数字を書いていません。市区町村の窓口か、内閣府のページから運用指針を開いて確認してください。
- 災害救助法の住宅の応急修理や、被災者生活再建支援金の対象区分と金額。罹災証明書の区分が出てから、使いたい制度の側で確認します。
- 自治体の床下消毒、災害ごみの無料回収の有無。市区町村のサイトで「災害ごみ」「消毒」を検索してください。
- 各社の免責金額、縮小払い、水災の細かな条件。ここに書いた三つの条件は東京海上日動と三井住友海上の公開情報で、他社の契約は約款で確かめてください。
参考にした公式ページ
- 東京海上日動火災保険 FAQ「台風により川が氾濫し、床上浸水して、壁の張り替えが必要な場合、補償されますか?」
- 三井住友海上「水災の補償内容 - GK すまいの保険」
- 国税庁 No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
- 国税庁 No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除
- 内閣府(防災担当) 災害に係る住家の被害認定