台風で自宅の瓦やカーポートの屋根が飛び、隣の家や車を壊してしまっても、原因が台風の風だけであれば、法律上の賠償責任は生じない可能性が高いとされています。責任が生じるのは、瓦のずれを放置していたなど、設備の管理に問題があった場合です。そのため壊された側がまず連絡するのは、隣の家ではなく自分の火災保険や車両保険です。壊した側は、謝罪や状況の確認はしても、保険会社に相談する前に支払いを約束しないでください。以下は2026年9月20日時点で確認した内容です。
賠償責任が決まるのは、風の強さより「管理に問題があったか」
建物や塀、カーポートのように土地に固定された設備による損害は、民法717条が扱います。条文は次のとおりです。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
瑕疵(かし)は、その設備が本来備えているはずの安全性を欠いた状態を指します。条文が責任を認めているのは、瑕疵が「あることによって」損害が出たときです。瑕疵がなく、台風の風だけで飛んだのであれば、この条文による責任は生じません。
三井住友海上の公式FAQも、同じ考え方を示しています。台風で屋根や瓦が飛んで隣家や車に損害を与えた場合、被害の原因が自然災害であれば「不可抗力」によるものとして、法律上の損害賠償責任を負わない可能性が高い、という説明です。
逆に、瓦のずれや割れ、カーポートの固定の緩みに気づいていながら直していなかった、といった事情があれば、瑕疵として責任を問われる余地があります。どこからが瑕疵に当たるかを一律に決めた基準はなく、争いになれば個別の事情から判断されます。
対象ごとの考え方は次のとおりです。
| 飛んだ・倒れた物 | 根拠になる条文 | 問われること |
|---|---|---|
| 瓦、屋根材、カーポート、塀、看板など固定された設備 | 民法717条1項 | 設置や保存に瑕疵があったか |
| 庭木 | 民法717条2項(竹木の栽植・支持に準用) | 植え方や支え方に瑕疵があったか |
| 植木鉢、物干し竿、自転車など固定されていない物 | 民法709条 | 片付けなかったことなどに過失があったか |
賃貸住宅では、717条の順番に注意が必要です。まず責任を負うのは占有者、つまり住んでいる人で、占有者が必要な注意をしていたときに所有者(大家)が責任を負います。
壊された側は、隣に請求する前に自分の保険を確かめる
隣の家に請求できるのは、相手の設備に瑕疵や過失があったと具体的に示せる場合に限られます。相手が責任を認めなければ、話し合いの間は修理が進みません。先に自分の保険で直せるかを確認しておけば、隣との話を待たずに修理を手配できます。
日本損害保険協会の説明では、風水災による損害は次の保険で補償されます。
- 建物や家財の損害は、風災の補償が付いた火災保険。商品によって、損害額が一定額以上になったときだけ支払うもの、免責金額を決めておくもの、損害額の全額を補償するものに分かれます。
- 車の損害は、任意の自動車保険に付けた車両保険。台風や洪水による損害に保険金が支払われます。
- ケガは傷害保険。
連絡の前後で押さえておく点は4つあります。
- 片付けや応急処置の前に、壊れた箇所と飛んできた物を写真に残します。どこの家から飛んできたか分かる角度の写真もあると、後で話を整理しやすくなります。
- 保険証券で、風災が補償に入っているかと免責金額(自己負担額)を確認します。
- 日本損害保険協会は、保険金の請求に自治体の罹災証明書の提出は原則不要と案内しています。証明書の発行を待たずに保険会社へ連絡して構いません。
- 保険給付を請求する権利は、保険法95条により3年で時効にかかります。
車両保険を使うと翌年の等級が下がります。台風による損害での下がり方は台風で車が冠水したときの記事にまとめています。修理費が小さいときは、使わない場合と比べてから決めてください。
壊した側は、支払いを約束する前に保険会社へ連絡する
自分の家の物が隣を壊したと分かったら、まず相手にケガがないかを確認し、状況を写真に残します。そのうえで、加入している保険に個人賠償責任保険が付いているかを調べます。
個人賠償責任保険は、日本損害保険協会のQ&Aによれば「住宅の管理」または「日常生活」に起因する法律上の損害賠償責任を補償する保険です。単独の契約より、火災保険・傷害保険・自動車保険の特約として付いていることが多く、被保険者には生計を共にする同居の親族が含まれます。自分名義の契約に見当たらなくても、家族の自動車保険に付いていることがあります。
ここで大事なのは、保険会社に連絡する前に「全額お支払いします」と約束しないことです。理由は2つあります。
- この保険が支払われるのは、法律上の賠償責任を負った場合だけです。台風が原因で責任がないと判断されれば、保険からは出ません。先に約束していると、その分を自分で負担することになりかねません。
- 同じQ&Aは、請求に必要な書類として、被害物件の写真、修理費の請求書または見積書とともに、「事前に保険会社の承認を得た示談額等を記載した」示談書を挙げています。金額を決めるのは、保険会社の承認のあとです。
示談交渉を保険会社が代わりに行うサービスは、付いている商品と付いていない商品があります。連絡したときに、あわせて確認してください。
この保険で支払われない場合として挙げられているのは、地震・噴火・津波に起因する賠償責任です。台風はそこに含まれていないため、責任があると判断されれば補償の対象になります。
責任がないと判断された場合は、相手にも自身の火災保険や車両保険を使ってもらうことになります。伝え方に迷うときは、保険会社や代理店に説明の仕方を相談できます。なお、自宅の壊れた部分は、自分の火災保険の風災で請求します。
台風が近づいているなら、今日のうちにできること
固定されていない物は、飛ばなければ責任の問題も起きません。ベランダや庭の植木鉢、物干し竿、自転車、ゴミ箱は室内に入れるか、まとめて固定します。
瓦や雨どい、カーポート、塀にぐらつきや割れを見つけても、風雨が強まってから屋根に上がるのは危険です。地上から写真を撮っておき、台風が過ぎてから修理を手配してください。賃貸なら、気づいた不具合を管理会社か大家に伝えておきます。
あわせて、火災保険と自動車保険の証券を出し、風災の補償、車両保険、個人賠償責任の特約が付いているかを見ておくと、被害が出たときにどこへ連絡するかで迷いません。
話が進まないときの相談先
| 困っていること | 相談先 | 連絡先(2026年9月20日時点) |
|---|---|---|
| 補償の対象か、請求の手順が分からない | 契約している保険会社・代理店 | 保険証券に記載の事故受付窓口 |
| 保険会社の対応や支払いに納得できない | そんぽADRセンター(日本損害保険協会) | 03-4332-5241(全国共通)。月〜金曜の午前9時15分〜午後5時、祝日・休日と12月30日〜1月4日を除く |
| 隣人との賠償の話し合いがまとまらない | 法テラス・サポートダイヤル | 0570-078374。平日9時〜21時、土曜9時〜17時 |
そんぽADRセンターが扱うのは損害保険会社とのトラブルで、相談や手続きの費用は原則無料です。隣人どうしの賠償の争いは対象ではないため、法テラスで弁護士会や自治体の法律相談など、状況に合った窓口を案内してもらいます。
台風のあとには「保険金で直せる」と勧誘する修理業者とのトラブルも増えます。日本損害保険協会は、業者と契約する前に保険会社か代理店へ相談するよう呼びかけています。
確認できていない点
- どの程度の劣化や放置が瑕疵に当たるかについて、公的に示された一律の基準は見つけられませんでした。争いになった場合の見通しは、弁護士への相談が必要です。
- 特約の名称、免責金額、示談交渉サービスの有無は保険会社と契約ごとに違います。本文で引用した三井住友海上のFAQは、同社の特定の商品についての回答です。
- 法テラスの災害関連Q&Aは旧URLが移転しており、内容を確認できなかったため、この記事の根拠には使っていません。
参考資料
- e-Gov法令検索 民法(第709条・第717条)
- e-Gov法令検索 保険法(第95条 消滅時効)
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A 問92 個人賠償責任保険は、どのような保険ですか
- 日本損害保険協会 風水雪災等による損害を補償する損害保険
- 日本損害保険協会 令和7年台風第22号に伴う災害により被害を受けられた皆様へ
- 日本損害保険協会 相談対応、苦情・紛争の解決(そんぽADRセンター)
- 三井住友海上 よくあるご質問(台風で屋根や瓦が飛ばされ、隣の家やその車に損害を与えた場合)
- 法テラス トップページ(サポートダイヤルの番号と受付時間)