水が引いたあと、まずやりたくなるのは片づけです。濡れた畳を出して、泥をかき出して、家具を運び出す。ところが罹災証明書の手続きでいちばん困る人は、この片づけを丁寧にやり切った人だったりします。
罹災証明書は、市区町村が住まいの被害の程度を証明する紙です。被災者生活再建支援金、住宅の応急修理、税や保険料の減免、義援金の配分。公的な支援はたいていこの紙を入口にします。そしてどれだけ壊れたかは、片づいた部屋からは読み取れません。
だから順番があります。撮る、それから片づける。手数料は無料で、申請の受付は市区町村の窓口です。
今日いちばんに開く場所は一つだけ。被害を受けた建物がある市区町村のサイトで「罹災証明書」を検索してください。申請の期限がそこに書いてあり、その日数は全国共通ではありません。
片づける前の10分が、あとの手続きを決める
明石市は申請の案内の中に、こう書いています。「調査の前に片付けや修理、汚れの除去等を行ってしまうと被害の確認ができず、証明書を交付できない場合があります」。
引っかかるのは「汚れの除去」まで入っていることです。浸水した壁の泥の跡は、被害の高さを示す証拠でもあります。きれいに拭き取ると、そこに水が来たことを示すものが消えます。
何を撮るか。横浜市が例として挙げているのは、被害箇所、外観の四方向、表札、浸水状況の深さ。そして「なるべく日付の分かるもの」という条件が付いています。
外観の四方向というのは、建物の東西南北から一枚ずつという意味です。正面だけを撮って裏側の崩れを撮り忘れる、というのがよくあるので、家の周りを一周してください。表札は、その写真がどの家のものかを示すために要ります。浸水の深さは、壁の跡にメジャーや箒を立てかけて一緒に写すと、あとから見て高さが分かります。
スマホで撮れば日付は自動で記録されます。ただし転送やスクリーンショットを挟むと、日時の情報が落ちることがあります。元の写真はそのまま残しておくこと。
撮り終えたら、片づけて構いません。生活を戻すほうが先です。写真だけ消さずに、アルバムを一つ作ってまとめておくと、あとで探す手間が減ります。
期限は法律ではなく、市区町村が決めている
ここが調べていていちばん意外だったところです。申請の期限に全国共通の日数はありません。
明石市は「原則、災害発生日から3か月」。横浜市は「原則被災した日から6か月以内」で、甚大な被害の場合は延長されることがあると添えています。同じ制度なのに、倍の開きがある。
つまり、よその市の解説記事を読んで「3か月あるから急がなくていい」と考えるのも、「3か月で切られる」と焦るのも、どちらも自分の市には当てはまらないかもしれません。確かめるのは自分が住む市区町村のページです。
起算日の書き方も少し違います。明石市は「災害発生日から」、横浜市は「被災した日から」。二つのページを並べて読むまで、この一語の差には気づきませんでした。台風のように被害が数日にまたがる災害では、ここが効いてきます。自分の被災日をどこから数えるかは、窓口で聞くのが早い。
そしてどちらも「原則」と書いています。期限を過ぎたからといって、門前払いと決まったわけではありません。過ぎてしまっていても、まず相談してみてください。
住んでいる建物か、それ以外かで紙が分かれる
罹災証明書の対象は住まいです。明石市の説明では「世帯が生活の本拠として日常的に使用している建物」。
では倒れた塀、飛んだカーポート、水没した車、泥をかぶった家財はどうなるか。これらは罹災届出証明書という別の書類の扱いになります。明石市は、こちらを「被害の程度ではなく、被害の状況を市に届け出たという事実を証明するもの」と説明しています。区分を判定するための調査は入りません。
名前が一文字違いなので、窓口でも混ざりがちです。申請書を出す前に「住んでいる建物の被害か、それ以外か」を伝えると、必要な紙がすぐ決まります。
なお車の被害は、車両保険のほうが実際の支援につながる場面が多くなります。罹災届出証明書を取ること自体が目的にならないよう、何のために使う紙なのかを先に決めてください。
判定は6段階。どこに入るかで使える支援が変わる
現地調査や写真の判定を経て、どの区分に入るかが決まります。横浜市が挙げている区分は、全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、準半壊に至らない(一部損壊)の6つです。
このうち「中規模半壊」は比較的あとから加わった区分で、古い解説記事だと載っていません。手元の情報が何年のものか、日付だけでも見ておくと迷いません。
判定の基準そのものは、内閣府が「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」としてまとめています。最新版は令和8年6月のものです。実務向けの資料なので読み通す必要はありませんが、判定が自治体の裁量で適当に決まるわけではない、という点は知っておくと窓口での話がしやすくなります。
区分は支援の中身に直結します。ただし同じ「半壊」でも制度ごとに扱いは違います。証明書が出たあとに調べるのは、使いたい制度の側の条件です。
申請できる人、窓口、持っていくもの
明石市が挙げている申請者は、被害を受けた本人および世帯構成員、そして所有者。横浜市は「自然災害により被害を受けた本人」とし、代理人が行く場合は委任状が必要だとしています。
窓口は市区町村ですが、置き場所は自治体ごとにばらつきます。明石市は税務室税制課、横浜市は「被害を受けた建物等が所在する区の区役所」。政令指定都市では、住んでいる区ではなく建物のある区。住所の区へ先に行ってしまわないように。
持ち物は、本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証)、被害状況の写真、申請書。明石市は郵送での申請に返信用封筒を求めています。手数料は明石市・横浜市ともに無料です。
オンラインで受け付ける自治体も増えました。避難所や親戚の家にいて役所まで行けないなら、サイトの「申請方法」の欄が先です。
交付までの日数は、調査のやり方で変わる
日数の目安を出しているのは明石市です。現地調査で2〜3週間、写真判定なら1週間程度。写真で足りると判断されたほうが早く出ます。
被害が広い範囲に及んだ災害では、この目安どおりには進みません。調査に入れる人手が限られるためで、順番を待つあいだに支援制度の申請期限が先に来てしまう、ということも起きます。急ぐ事情があるなら、申請のときにそれを伝えておいてください。制度によっては、罹災証明書の交付前でも申請を受け付ける運用が取られます。
判定に納得できないときは、期限内なら調べ直してもらえる
出てきた区分が実感と合わない、というのはよくあることです。外から見えない床下や基礎の被害は、最初の調査で拾いきれないことがあります。
このときは再調査を申請できます。明石市の条件は、交付日から3か月以内、そして交付済みの罹災証明書を原本ですべて返却すること。コピーを取ってから出す人がいますが、返すのは原本全部です。手元に何部あるか数えてから窓口へ行ってください。
内閣府の実施体制の手引きにも「罹災証明書の交付と第2次調査・再調査の実施」という章が立てられていて、一次の調査で終わりにしない仕組みが制度として想定されています。納得できない判定をそのまま受け入れる必要はありません。
再調査を頼むときは、最初の調査で見られなかった場所を具体的に伝えるのが近道です。床下に潜って撮った写真、業者が出した所見、内壁を剥がしたときの記録。新しい材料があると、そのぶん話が進みます。
保険の請求とは、別々に動く
火災保険や地震保険の請求と、罹災証明書は別の制度です。保険会社は自社の基準で損害を認定するので、罹災証明書が「準半壊」でも保険は別の区分になる、というずれは普通に起きます。
重なるのは写真です。片づける前に撮った同じ一組が、保険の請求にも罹災証明書の写真判定にも使えます。最初の10分が、そのまま両方の入口になります。
保険の請求手続きそのものは別の記事にまとめています。地震による損害の請求は地震保険の一部損の判定と請求の流れを、災害後に訪ねてくる「無料点検」への対応は台風のあとの屋根点検業者への断り方を見てください。
今日のうちに終わらせること
撮影と、期限の確認。この2つだけです。
家の周りを一周して四方向、被害箇所、表札、浸水の跡。それから市区町村のサイトで「罹災証明書」を開いて、申請期限と窓口と持ち物を控える。ここまでで、あとの手続きの選択肢は残ります。
この記事で確かめていないこと
期限や窓口は明石市と横浜市の公式ページで確認しましたが、この2市の数字がそのまま他の自治体に当てはまるわけではありません。日数も窓口の部署名も、自治体ごとに違います。
どの区分が支援制度でどう扱われるかも、制度ごとに条件が異なります。使いたい制度が決まったら、その制度の案内で対象の区分を確かめてください。
参考にした公式ページ
- 内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定」— 被害認定基準運用指針(令和8年6月)と実施体制の手引き
- 明石市「罹災証明書・罹災届出証明書について」— 申請期限3か月、再調査の期限、交付までの日数、片付け前の注意
- 横浜市「被災した場合の証明書の交付-罹災証明書(火災を除く)」— 申請期間6か月、写真の撮り方、6区分、火災の窓口