地震で住宅ローンが払えないとき、自然災害債務整理ガイドラインはどう使う?
自然災害債務整理ガイドラインを使えば、災害で住宅ローンなどが払えなくなった人も自己破産せず、信用情報に傷をつけずに債務を減額・免除できる可能性があるため、返済が厳しいと感じた時点で登録支援専門家への無料相談を検討する価値があります。
目次(15項目)
熊本地震で自宅が半壊した知人から、住宅ローンの返済をどうすればいいのかと相談されたことがあります。地震保険で足りない分は自分の貯金で埋めるしかないと思い込んでいる人が多いのですが、実は自己破産をせずに借金を減らせる制度があります。「自然災害債務整理ガイドライン」という枠組みで、災害救助法が適用された地域で住宅ローンや事業性ローンの返済が難しくなった個人が対象です。仕組みを知らないまま金融機関と独力で交渉し、条件の悪い返済計画を組んでしまう人も見かけます。まずは自分が対象になるかどうかから確認してください。地震に限らず、水害や台風で同じ状況になった人にも共通する内容です。
自然災害債務整理ガイドラインとは何か
対象になる災害は、平成27年9月2日以降に発生し、災害救助法が適用されたものです。制度そのものは平成28年4月から本格的に運用されています。銀行や信用金庫、日本政策金融公庫、貸金業者など多くの金融機関が加入する形で運用され、被災者が裁判所の破産手続を経ずに、既存の借金を減額したり免除してもらったりできます。運営するのは一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関で、大規模な災害が起きるたびに適用対象として名前が挙がります。
制度の名称は長いものの、中身は金融機関の同意を得たうえで、簡易裁判所の特定調停を使って借金を整理する仕組みです。破産と違い、財産の一部を手元に残しながら生活を立て直せます。
対象になる人、ならない人
災害救助法が適用された地域に住んでいた個人、またはそこで事業を営んでいた個人が対象です。法人は対象に含まれません。住宅ローンだけでなく、車のローン、事業性ローン、カードローンなど幅広い債務が対象になります。既存の借金が災害と無関係に膨らんでいた場合や、災害前から返済を滞納していた場合は、通常の債務整理と同じ扱いになることがあります。
被災した住宅のローンが残ったまま新居のローンを組む必要がある、いわゆる二重ローンの人にとっても、既存分の減免は生活再建の助けになります。
賃貸住宅に住んでいて住宅ローンがない人でも、車のローンや事業性ローンなど他の債務を抱えていれば対象になり得ます。持ち家か賃貸かではなく、災害によって返済が難しくなった債務があるかどうかが判断の軸です。対象になるかどうかは個別の事情で変わるため、借入先の金融機関か登録支援専門家に相談するのが確実です。
り災証明書は先に取っておく
申し出の際には、住民票の写し、給与明細や課税証明書などの陳述資料、預貯金通帳の写しを含む財産目録、債権者一覧表、直近2ヶ月の家計収支表、そしてり災証明書や被災証明書が必要になります。事業者の場合は直近6ヶ月の事業収支実績表も求められます。
り災証明書は市区町村の窓口かオンラインで申請できますが、発行までに数週間かかることもあります。相談自体はり災証明書が届く前でも始められるので、被害を受けた時点でまず登録支援専門家に連絡し、証明書は並行して申請しておくと手続きが早く進みます。
熊本地震では、マイナンバーカードを使ってマイナポータルからり災証明書を申請できる自治体も増えました。熊本市や八代市、宇土市など複数の市町村がオンライン申請に対応していますが、オンラインで申請できるのは住居のり災証明書に限られ、住居以外の建物は窓口での申請が必要です。お住まいの自治体がオンライン申請に対応しているかは、各市町村の公式サイトで確認してください。
手続きはどう進むか
まず借入先の金融機関か、弁護士会・司法書士会の相談窓口に連絡します。ガイドラインの利用を希望すると伝えると、登録支援専門家が手続きを代わりに進めてくれます。登録支援専門家は財産目録と調停条項案、つまりどの借金をどれだけ減らすかという案を作成し、対象となる金融機関全員に提示します。金融機関は原則として1ヶ月以内に同意するかどうかを回答する決まりです。
全員の同意が得られると、その案をもとに簡易裁判所へ特定調停を申し立てます。裁判所が調停条項を認めれば、借金の減額や免除が正式に成立する流れです。同意を得るまでのやり取りに時間がかかることもあり、申し込んでから成立まで数ヶ月を要した例もあります。
同意しない金融機関が一部にとどまる場合でも、他の借入先の同意を得ながら交渉を続けられることがあります。ただし調停条項案は対象となる金融機関全員の同意が前提になるケースが多く、交渉の進め方は登録支援専門家の経験によって差が出やすい部分です。たとえば住宅ローンの残高が2,500万円ほど残っていて自宅が全壊し、再建も難しい場合は、担保になっていた住宅の処分価値を差し引いた残債について減額や免除を求める案が作られます。実際にどこまで減額されるかは収入や他の資産、家計の状況によって個別に判断されるため、被害の程度が近くても結果が同じになるとは限りません。
申出をすると返済はどう扱われるか
正式に債務整理の申出をすると、対象になっている借金の返済や督促は手続きが終わるまで一時的に止まります。返済を続けながら並行して交渉を進める必要はなく、その分の資金を生活再建の費用に回せるようになります。これは被災した家計にとって小さくない意味を持ちます。申出前にすでに滞納していた分の扱いは個別に確認が必要なので、申出のタイミングは登録支援専門家に相談してから決めてください。
先に修繕や借り換えを進めると使えなくなる
見落とされがちな注意点があります。手続きを始める前に自己資金で住宅を修繕してしまったり、被災した住宅のローンとは別に新しいローンをすでに組んでしまったりすると、この制度が使いにくくなります。ガイドラインは「今ある借金をどう整理するか」を前提にした仕組みのため、状況が先に動いてしまうと調整の対象が複雑になるのが理由です。
修繕業者への支払いを急ぎたい気持ちは分かりますが、まとまった修繕費用がかかりそうな場合ほど、契約や支払いの前に一度相談窓口へ連絡しておいたほうが選択肢を残せます。
弁護士・司法書士への報酬はかからない
国の負担により、登録支援専門家となる弁護士や司法書士への報酬は原則として発生しません。戸籍謄本や不動産登記事項証明書といった書類の取り寄せにかかる実費だけは自己負担になります。数千円ほどで収まることが多いものの、申立てまでにいくつかの書類をそろえる必要があるため、事前に登録支援専門家へ何が必要か確認しておくと二度手間になりません。
費用を心配して相談をためらう人もいますが、話を聞いてもらうだけなら電話一本で済みます。
手元に残せる財産の目安
債務整理が成立しても、生活再建に必要な財産まで失うわけではありません。現預金や被災者生活再建支援金、義援金などを合わせて、最大500万円を目安に手元に残せます。これは自己破産で認められる自由財産の枠組みよりも広く、災害からの生活再建を優先する考え方に基づいています。
新型コロナウイルス特則が適用された事例ではこの目安が99万円とされたこともあり、災害の種類や運用によって基準が変わる点には注意が必要です。今回の熊本地震でどの基準が適用されるかは、登録支援専門家に確認するのが早道です。
被災者生活再建支援金と一緒に使えるか
住宅の被害程度に応じて支給される被災者生活再建支援金や義援金は、自然災害債務整理ガイドラインとは別の制度として受け取れます。ただしこれらの支援金は、債務整理の際に手元へ残せる500万円の枠の中に含めて計算される仕組みです。先に受け取れる支援金の見込み額を把握しておくと、登録支援専門家との話し合いが進めやすくなります。
り災証明書に記載される被害区分は全壊、大規模半壊、半壊などに分かれており、区分によって支援金の金額も変わります。証明書の交付を受けたら、まず区分と支援金の目安を確認したうえで相談に臨むと、話が早く進みます。
個人事業主・自営業者が気をつけたいこと
自宅と店舗、あるいは事業用の不動産を兼ねている個人事業主は、住宅ローンと事業性ローンの両方が対象になることがあります。この場合は直近6ヶ月分の事業収支実績表も提出書類に加わり、必要書類の準備に時間がかかりやすくなります。
売上が落ち込んだままの状態で申出を検討しているなら、被災した店舗の状況を示す資料もあわせて準備しておくと、登録支援専門家との最初の面談が進めやすくなります。事業の継続をあきらめる前に、まず債務の整理だけでも相談してみる価値はあります。
自己破産・個人再生とどう違うか
自己破産や個人再生でも借金を減らすことはできますが、手続きが成立すると個人信用情報機関に事故情報が記録されます。その後数年間、クレジットカードやローンの新規契約に影響が出ることが多いです。自然災害債務整理ガイドラインを使った場合、この個人信用情報への登録は行われません。将来住宅を再建する際に新たなローンを組みたい人にとって、この差は小さくありません。
保証人がいる借金の場合も、保証人への影響を抑えられる調整が行われることがあります。破産という言葉に抵抗を感じて相談を先延ばしにしている人ほど、この制度の存在を早く知ってほしいところです。名前だけでも知っておけば、いざというときに選択肢を狭めずに済みます。
金融機関の同意が得られず特定調停が不成立に終わった場合でも、その後に自己破産や個人再生といった通常の手続きへ切り替える道は残っています。ガイドラインの利用を先に試みたこと自体が、後の手続きで不利に働くわけではありません。
これまでどれくらい使われてきたか
この制度は東日本大震災をきっかけに整備され、その後の熊本地震や豪雨災害など、災害救助法が適用されるたびに使われてきました。運営機関の集計では、2024年6月30日時点で自然災害を理由に登録支援専門家へ支援を委嘱した件数は1,354件、そのうち債務整理が成立したのは596件です。大きな数字ではありませんが、制度が実際に機能し続けていることは分かります。件数が伸び悩む背景には、制度自体を知らないまま独力で返済を続けてしまう被災者が一定数いる、という指摘もあります。
熊本地震で今使える相談窓口
令和8年熊本地震の被災者向けには、専門家による無料相談がすでに始まっています。日本司法書士会連合会は0120-315199(サイガイキュウキュウ)で、令和8年7月31日から10月30日までの平日午後5時から8時まで、ローンや借金の返済、名義変更、住宅の損害に関する相談を無料で受け付けています。借入先が銀行の場合は、全国銀行協会相談室でも案内を受けられます。
窓口によって受付期間や対応時間が異なります。電話をかける前に、それぞれの公式サイトで最新の案内を確認してください。
相談は早いほうがいい理由
住宅ローンの返済が厳しいと分かった時点で滞納を続けると、延滞情報が個人信用情報に記録され、ガイドラインを使えたはずの選択肢が狭くなることがあります。滞納する前、あるいは滞納し始めてすぐの段階で相談すれば、金融機関との調整もスムーズに進みやすくなります。
ローンの返済猶予だけを金融機関に個別で頼む方法もありますが、猶予は支払いを先送りするだけで、総額が減るわけではありません。生活再建の見通しが立たないまま返済を続けるより、制度を使って身軽になったうえで再建に集中するほうが、結果的に早く立ち直れることもあります。
今日からできること
まず借入先の金融機関か、日本司法書士会連合会や弁護士会の無料相談窓口に電話をかけてください。り災証明書がまだ手元になくても、被害の状況と借入先の一覧さえ整理できていれば最初の相談は十分に進みます。修繕業者との契約や新しいローンの申し込みを急いでいる場合は、契約前に一本電話を入れるだけで、後から選べる手段が変わることもあります。
熊本以外に住んでいて今回は直接の被害がなかった人も、将来大きな地震や水害に遭った際にこの制度を思い出せるようにしておくと安心です。ガイドラインの適用地域や基準は災害ごとに公表されるため、実際に利用する場面が来たら、借入先の金融機関や運営機関の告知を確認してから動いてください。
参考資料
- 政府広報オンライン「大規模な自然災害でローンの返済が困難になったかたへ」
- 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関
- 全国銀行協会「大規模な自然災害でローンの返済が困難になったら」
- 日本司法書士会連合会「令和8年熊本地震に係る災害時無料相談の開始について」
- デジタル庁「罹災証明書(り災証明書)をオンラインで申請する方法【令和8年熊本地震】」
掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。
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