給料をPayPayなどのスマホ決済の口座で受け取る「賃金のデジタル払い」は、会社が労使協定を結んでいて、そのうえで自分が説明を受けて同意したときだけ使える受け取り方です。会社は銀行口座などでの受け取りも選択肢として示さなければならず、希望しない人に強制することはできません。厚生労働省は、本人の同意がない場合や強制した場合、使用者は労働基準法違反となり罰則の対象になり得るとしています。
使えるのは、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座だけです。2026年7月1日現在の指定は4社で、口座の受入上限は10万円から30万円です。上限を超えた分は、自分が登録した銀行口座などに送られます。
この記事では、デジタル払いが認められる条件、同意書に書くこと、4社の上限と手数料、破綻や不正出金のときの扱い、やめるときの手続きを、厚生労働省の資料で確かめます。
給料の受け取り方の原則と例外
労働基準法第24条は、賃金は原則として通貨で、直接労働者に、全額を支払わなければならないと定めています(「確かめよう労働条件」の賃金の支払方法のQ&A)。銀行振込みは、この原則の例外として、労働者の同意を得た場合に認められてきた方法です。
厚生労働省によると、2022年11月の労働基準法施行規則の改正で、銀行など金融機関の預貯金口座への振込みと、一定の要件を満たす証券総合口座への払込みに加えて、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座への支払いが認められました。
ただし、現金化できないポイントや暗号資産での賃金支払いは認められていません(厚生労働省)。
使える条件は「労使協定」と「本人の同意」
会社が先に労使協定を結ぶ
使用者向けリーフレットと局長通達(基発1128第4号)によると、会社がデジタル払いを始めるには、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)と、次の事項を書いた協定を結ぶ必要があります。
- 対象となる労働者の範囲
- 対象となる賃金の範囲とその金額
- 取り扱う指定資金移動業者の範囲
- 実施開始時期
労働者向けリーフレットは、デジタル払いで受け取るには自分の勤め先でこの労使協定が結ばれていることが前提で、使えるサービスも協定で決められているとしています。
会社にも導入の義務はない
厚生労働省のよくある質問は、デジタル払いは受け取り方の選択肢の一つで、労働者だけでなく使用者に対しても導入を強制するものではないとしています。協定がない会社で希望するときは、まず会社と労働組合や過半数代表とで、導入するかどうかを話し合うことになります。使いたいサービスが協定に入っていないときも、会社や労働組合などに相談するよう、労働者向けリーフレットは案内しています。
本人が説明を受けて同意する
協定があっても、デジタル払いを使うかどうかは一人ひとりが決めます。厚生労働省の案内では、次の点がはっきり書かれています。
- 希望しない人は、これまでどおり銀行口座などで受け取れる
- 賃金の一部だけをデジタル払いで受け取り、残りを銀行口座などで受け取れる
- 一度デジタル払いを選んでも、あとで銀行口座などに戻せる
会社は、デジタル払いを示すときに、銀行口座か証券総合口座への支払いも選択肢として一緒に示さなければなりません。同意書の様式例の裏面は、選択肢を「現金か資金移動業者口座か」の二つだけにした場合や、形式的に選択肢を示しても実質的に強制している場合は、使用者は第24条に違反し罰則の対象となり得るとしています。
説明は会社から指定資金移動業者に任せることができますが、同意は会社自身が取らなければなりません(使用者向けリーフレット、局長通達)。同意は書面でも電磁的記録でもよいとされています。
同意書に書くこと
厚生労働省の同意書の様式例では、次の事項を自分で決めて書きます。
- デジタル払いで受け取りたい賃金の範囲と金額(定期賃金・賞与・退職金ごと)
- 使う指定資金移動業者名、サービス名、口座番号(アカウントID)、名義人
- 支払開始の希望時期
- 代替口座にする銀行口座など(金融機関名・店舗名、口座番号、名義人)
代替口座は、受入上限を超えた分を受け取るときや、業者が破綻して保証機関から弁済を受けるときに使われる口座です。労働者向けリーフレットは、改姓で名義が変わった口座や解約した口座が登録されたままだと、自動出金や弁済に時間がかかる可能性があるとして、定期的に確かめるよう求めています。
受け取る金額について、同意書の裏面と労働者向けリーフレットは、資金移動業者の口座は「預金」をするためではなく支払いや送金に使うためのものなので、実際に支払いなどに使う見込みの額を設定するよう求めています。
同意したあとは、各社のアプリなどから利用を申し込みます。申し込みの中で、業者が破綻したときに残高の弁済を受けるための保証契約を保証機関と結びます(労働者向けリーフレット)。
指定されている4社と受入上限
厚生労働省の指定資金移動業者一覧(2026年7月1日現在)と各社のサービス概要によると、指定は次の4社です。
| サービス名 | 業者 | 受入上限 | 上限を超えたとき |
|---|---|---|---|
| PayPay給与受取 | PayPay | 20万円 | 代替口座に自動送金 |
| COIN+(スタンダード) | リクルートMUFGビジネス | 30万円 | 上限を超える前払申請ができない |
| 楽天ペイ給与受取 | 楽天Edy | 10万円 | 代替口座に自動送金 |
| au PAY 給与受取 | auフィナンシャルサービス | 10万円 | 代替口座に自動送金 |
COIN+は、デジタル払いをすでに働いた分の賃金の前払いに限っていて、労働者が「給与受け取りサービス」で前払申請し、会社が「Airワーク給与支払」で承認する仕組みです。再申請をしなければ、賃金は給料日に全額が本人名義の預貯金口座などに振り込まれるとしています。
楽天ペイ給与受取とau PAY 給与受取は、会社ごとの「企業コード」をあらかじめ会社から受け取って入力する必要があります。
指定の要件として、制度の概要は口座残高の上限を100万円以下にすることを挙げていますが、実際の受入上限は各社が決めていて、上の表のとおりです。使用者向けリーフレットによると、この上限額は会社と業者の個別の調整で引き上げることはできません。
お金を引き出すときの手数料
指定の要件として、ATMや預貯金口座への出金などで1円単位で現金化でき、少なくとも毎月1回は手数料なしで払い出せることが求められています(制度の概要)。2回目以降の手数料は各社で違います。サービス概要に書かれている内容は次のとおりです。
- PayPay: 毎月初回の送金は無料。2回目以降はPayPay銀行宛て0円、それ以外の金融機関宛て100円
- COIN+: 送金手数料は無料
- 楽天ペイ: 毎月初回の送金は無料。2回目以降は楽天銀行宛て1万円以上0円(9,999円以下は100円)、それ以外の金融機関宛て210円
- au PAY: 毎月初回の送金は無料。2回目以降はauじぶん銀行宛て0円、それ以外の金融機関宛て220円
上限を超えた分を代替口座へ自動で出金するときの手数料は、自分の負担になる可能性があると労働者向けリーフレットは書いています。
給料日の扱いについて、局長通達は、資金移動業者の口座への支払いでは、所定の賃金支払日の午前10時頃までに送金や支払いに使える状態になり、その日のうちに賃金の全額を払い出せる状態になっていることを求めています。会社は、デジタル払いで受け取る人にも、賃金の種類ごとの金額、控除した額、振り込んだ額を書いた計算書(給与明細)を給料日に渡します。
破綻・不正出金・使わないままのとき
業者が破綻したら
同意書の裏面によると、銀行が破綻したときの預金保険制度は、資金移動業者には適用されません。その代わりに、保証機関から口座残高の全額が速やかに弁済される仕組みになっています。4社のサービス概要では、いずれも破綻時などから6営業日以内に、保証機関が代替口座に保証額を振り込み、労働者からの請求は不要とされています。
身に覚えのない出金があったら
本人の意思に反して不正に出金された場合、本人に過失がなければ損失の全額が補償されます。過失がある場合でも、一律に補償しない扱いにはされず、少なくとも個別対応になります。ただし、親族による払い戻しや、本人が業者に虚偽の説明をした場合などは別です(同意書の裏面、局長通達)。
補償を受けるための通知期限は、少なくとも損失発生日から30日以上とされています。各社のサービス概要では、PayPayとCOIN+は損害が発生した日から60日以内、楽天ペイは30日以内、au PAYは損害の発生を知った日から30日以内に、業者と警察に申告するとしています。不正に気づいたら、すぐに業者に連絡します。
長く使わなかったら
口座残高は、最後に残高が変動した日から少なくとも10年間は有効です(制度の概要)。PayPay・楽天ペイ・au PAYのサービス概要では、5年が経つ前日に通知があり、その後さらに5年間変動がなければ残高が失効するとしています。
やめるとき・転職するとき・業者が指定を外れたとき
- デジタル払いをやめるときや、転職・退職するときは、会社のほか業者への届け出が必要な場合があります。保証機関との保証契約が解約になる可能性もあります(労働者向けリーフレット)。
- 業者が指定を取り消されたり辞退したりした場合、会社は速やかに本人に別の受け取り方法を確かめ、以後は本人が指定する別の方法で賃金を払わなければなりません(使用者向けリーフレット、局長通達)。
確認の順番
- 会社にデジタル払いの労使協定があるか、どのサービスが対象かを確かめる
- 銀行口座など、ほかの受け取り方も示されているかを確かめる(示されていなければ会社に確認する)
- 対象のサービスの受入上限、2回目以降の出金手数料、不正出金の通知期限を比べる
- 毎月スマホ決済で使う額を決め、その額だけをデジタル払いにする
- 同意書に受け取る範囲と金額、口座情報、開始時期、代替口座を書いて会社に出す
- アプリから利用を申し込み、代替口座の名義と口座が今も有効かを確かめる
この記事で確認できなかったこと
2026年11月8日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- 各社アプリでの申し込み画面と、会社への届け出が必要になる具体的な場面。
- 4社の手数料や受入上限が、サービス概要の掲載後に改定されていないか。
- 賞与や退職金をデジタル払いで受け取るときに、受入上限との関係で実務上どう扱われるか(同意書の様式例には項目があります)。
- デジタル払いを選んだことが、源泉徴収票や年末調整の書類の受け取り方に影響するか。
参考資料
- 厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について — 強制の禁止、一部受け取り、よくある質問、指定資金移動業者一覧(4社、2026年7月1日現在)
- 厚生労働省 制度概要 — 指定の要件(残高上限100万円以下、破綻時の保証、不正出金の補償、10年、毎月1回手数料なし)
- 厚生労働省 労働者向けリーフレット — 労使協定が前提、同意で示す事項、代替口座、保証契約、やめるとき
- 厚生労働省 使用者向けリーフレット — 協定の記載事項、説明の委託、同意は会社が取る、上限を引き上げられない、指定取消しのとき
- 厚生労働省 賃金の口座振込み等について(基発1128第4号) — 同意書の記載事項、午前10時頃までに利用可能、計算書の交付
- 厚生労働省 同意書の様式例 — 記入項目と裏面の留意事項(預金保険の対象外、補償、選択肢の提示)
- PayPayのサービス概要・COIN+のサービス概要・楽天ペイ給与受取のサービス概要・au PAY 給与受取のサービス概要(いずれも厚生労働省掲載) — 受入上限、保証の流れ、補償の期限、手数料、有効期間
- 厚生労働省 確かめよう労働条件 賃金の支払方法のQ&A — 賃金支払の5原則と通貨払いの例外