台風の計画運休で出社できない。その日の給料は引かれるのか、休業手当は出るのか
台風の日の賃金は会社が休業を決めたか自分が行けなかったかで分かれ、前者は不可抗力と認められなければ平均賃金6割以上の休業手当が出るため、まず就業規則の休業と特別休暇の条文を開いてください。
目次(8項目)
台風が近づいた晩、鉄道会社が翌朝からの計画運休を発表する。朝になると駅のシャッターは下りたままで、出社する手段がない。この日の給料は引かれるのか、という質問がこの季節に増えます。
分かれ道は、その日の休みを決めたのが会社なのか自分なのかです。会社が事業所を閉めたなら休業手当の話になり、会社は通常どおり開いていて自分が行けなかったなら、賃金は原則として発生しません。法律の話に入る前に、就業規則の「休業」と「特別休暇」の条文を開いてください。台風や暴風警報のときの扱いを社内で決めている会社は珍しくなく、そこに書いてあれば法律の最低線より手厚い扱いになります。
まず、賃金は「働いた分」に対して出ている
働いていない時間に賃金は発生しない。ここが出発点です。台風の日に出社しなかった分だけ給料が減ること自体は、それだけを取れば違法ではありません。月給制でも、就業規則に欠勤控除の定めがあれば同じです。
この原則に例外を置いているのが労働基準法26条です。使用者の責に帰すべき事由で休業させた場合、使用者は休業期間中の労働者に平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならない、と定めています。裏返すと、会社の責任と言えない休業なら、この条文は働きません。台風の日の給料をめぐる食い違いは、ほぼすべてが「会社の責任と言えるのか」という一点に集まります。
会社が休みにした日 — 「不可抗力」と認められるかで分かれる
厚生労働省が企業向けに公開しているQ&Aは、不可抗力による休業の判断を次のように説明しています。①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること。この両方を満たすと、使用者の責に帰すべき事由に当たらないと扱われ、休業手当の義務が外れます。
このQ&Aは感染症の流行期に整理されたもので、表題に台風の字はありません。それでも示されているのは労働基準法26条そのものの読み方なので、台風でも同じ枠組みで判断されます。
台風の接近は①を満たします。判断が割れるのは②のほうです。店舗が浸水して営業できない、停電で機械が動かないという状況なら、注意を尽くしても避けられません。一方、設備は無傷で在宅勤務の仕組みもあるのに一律で休みにした場合、②を満たすとは限りません。会社の事情ごとに結論が変わる部分なので、「台風だから休業手当は出ない」と言い切る説明は疑ってかかってください。
平均賃金は、直前3か月に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った額です。日給制や時給制の人には最低保障の計算方法が別に用意されています。休業手当は、この平均賃金の6割以上です。
「6割」は下限であって、上限ではない
休業手当の話をすると、6割で決まっていると受け取られがちです。26条が定めているのは最低ラインで、これを上回る扱いを禁じてはいません。就業規則で「会社都合の休業日は通常の賃金を支払う」としている会社もあります。自社の規則を見ないまま6割を前提に計算すると、本来もらえる額を見落とします。
もう一点、休業手当は労働基準法上の賃金です。所得税と社会保険料の対象になり、給与明細でも賃金の欄に「休業手当」として並びます。手当という言葉から非課税の給付を想像すると、振り込み額を見て戸惑うことになります。
その日が「欠勤」として処理された場合の波及も見ておいてください。皆勤手当が付いている職場では手当が消えますし、賞与の査定に出勤率を使う会社もあります。台風の日の1日が翌月以降まで響くかどうかは、就業規則の賃金規程に書いてあります。
会社は開いていて、自分が行けなかった日
会社は通常どおり営業していて、交通機関が止まったせいで出社できなかった。この場合、休業を決めたのは会社ではないので26条の出番はなく、賃金は原則として出ません。
ただ、これで終わる会社ばかりではありません。就業規則や労働協約に「交通機関の運休により出勤できない場合は特別休暇とする」「不就労時間を賃金控除の対象としない」といった定めを置いている会社があります。テレワークが可能な職種なら、自宅勤務に振り替えれば通常どおりの賃金です。
上司に連絡するとき、「休みます」ではなく「在宅で対応できますか」と切り出すだけで結果が変わることがあります。休むかどうかを会社に決めさせるより、働ける方法を添えて聞くほうが話が早い。
暴風警報や特別警報が出ている時間帯に、無理をして出勤しようとする必要はありません。出勤途上のけがは通勤災害の問題になり、会社にとっても避けたい事態です。連絡だけは早めに入れて、誰が何を指示したかを記録に残してください。
シフト制やパート、派遣で働いている人
月給制の人より影響が大きいのが、シフト制と時給制で働いている人です。1日休めばその日の賃金がそのまま消えます。
会社が事業所を閉めた場合の考え方は、雇用形態にかかわらず同じです。労働基準法26条はパート・アルバイトにも適用されるので、不可抗力と認められない休業なら休業手当の対象になります。すでにシフトが確定していた日を会社の都合で消された場合は、その日について休業手当を求められる余地があります。
派遣で働いている人は、休業手当を払う相手が派遣先ではなく派遣元です。派遣先が台風で閉まっても、派遣元が別の就業先を用意できたかどうかが判断に入ります。連絡先を間違えると、そこで止まります。まず派遣元の担当者へ。
「その日は有給にしておくね」と言われたら
台風の翌週に多いのが、申し出ていないのに年次有給休暇へ振り替えられていた、という相談です。
年次有給休暇は労働者が請求する時季に与えるものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。厚生労働省のQ&Aにも同じ趣旨が明記されています。休業手当の負担を避けるために有給を消化させるのは、この原則に反します。
一方で、自分から「その日は有給を使いたい」と申し出るのは自由です。無給になるより手取りが減らない分、選択肢としては十分あり得ます。問題になるのは、聞かれもしないまま処理されていた場合です。給与明細と勤怠記録を並べて、有給の残日数が勝手に減っていないか確かめてください。
年10日以上の有給が付与される人については、会社が時季を指定して年5日取得させる義務があります。これは計画的な取得を促すための仕組みで、台風の日を事後的に有給へ振り替える根拠にはなりません。
会社の判断を待つ前に、自分でできること
三つあります。どれも会社に聞かずに進められます。
就業規則を開く。社内ポータルか事務所の書棚にあります。「休業」「特別休暇」「欠勤」「テレワーク」の各条を見れば、その日の扱いはたいてい書いてあります。見せてもらえない場合、労働基準法は就業規則の周知を使用者の義務としているので、その旨を伝えれば出てきます。
連絡は文字で残す。電話だけだと、あとから「聞いていない」になります。チャットやメールで、運休の状況と自分の判断、会社からの指示を残しておくと、明細に疑問が出たときの材料になります。
運行情報を保存する。鉄道会社の運休告知はあとから消えます。画面を保存しておけば、いつの時点でどこが止まっていたかを示せます。
明細を見て納得できないとき
相談窓口へ行く前に、給与の担当部署へ計算の根拠を聞いてください。休業手当なのか、欠勤控除なのか、有給の消化なのか。呼び名が違えば根拠になる条文も変わります。この確認を飛ばすと、窓口のほうも答えを出せません。
社内で解決しないときは、勤務先を管轄する労働基準監督署か、都道府県労働局の総合労働相談コーナーへ持ち込めます。厚生労働省の「確かめよう労働条件」というサイトに、労働局・労働基準監督署・総合労働相談コーナーの所在地と連絡先の一覧があります。平日の夜間と土日祝日に無料で電話相談できる窓口も、同じサイトから探せます。
持っていくのは、就業規則の該当条文、給与明細、勤怠記録、当日のやり取りの控え。これが揃っていれば話は早く進みます。
動くなら早いほうがいい理由もあります。賃金を請求する権利には時効があり、経過措置で年数の扱いが変わってきた分野です。何年残っているかを自分で判断するより、明細に違和感を覚えた月のうちに問い合わせておくほうが確実です。数か月分がまとまってから気づくと、記録のほうが先に消えていることもあります。
この記事の内容は2026年8月19日時点の制度にもとづきます。休業手当の水準や有給休暇の扱いは法律で決まっているため頻繁には動きませんが、会社ごとの取り決めは改定されます。就業規則は最新版で確認してください。
参考資料
掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。
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