家族の医療費は、同じ健康保険に入っている家族の分なら、同じ月のものを合算して高額療養費の上限と比べられます。これを世帯合算といいます。ただし70歳未満の人の自己負担は、何でも足せるわけではありません。1人・1か月・1つの医療機関ごとに数え、さらに入院と外来、医科と歯科を分けたうえで、21,000円以上になったものだけが合算の対象です。70歳以上の人の自己負担は、金額にかかわらず合算できます。
まず、家族それぞれがどの健康保険に入っているかを確かめます。同じ保険なら、その月の領収書を人ごと・医療機関ごとに分けて、21,000円に届いているものを拾い出します。合算した払い戻しは窓口では受けられないことが多く、後から加入先へ申請します。
合算できるのは「同じ健康保険」の家族だけ
世帯合算の「世帯」は、住民票の世帯とは範囲が違います。厚生労働省のQ&Aは、自己負担の合算は同一の医療保険に加入する家族を単位に行うと説明しています。協会けんぽも、ここでいう世帯とは協会けんぽに加入している被保険者とその被扶養者だとしています。
この考え方から、次のような違いが出ます。
- 会社員の夫と、夫の被扶養者になっている妻と子ども:合算できる
- 被扶養者のまま進学先で一人暮らしをしている子ども:住所が別でも合算できる
- 共働きで、夫婦がそれぞれ自分の勤め先の健康保険に入っている:同じ家に住んでいても合算できない
- 健康保険に入っている45歳の子どもと、後期高齢者医療制度に入っている80歳の親:同居していても合算できない
共働きの場合は、子どもがどちらの被扶養者かで足せる相手が決まります。子どもの医療費が多い月に合算を考えるなら、子どもが入っている側の保険で数えます。
国民健康保険は、国保に加入している同じ世帯の人の分を合算します。横浜市は、同じ世帯で同じ月に21,000円以上の自己負担を2回以上支払った場合、それらを合算して限度額を超えた分を支給すると案内しています。国保の世帯の扱いの細かな点は、住んでいる市区町村の国保窓口で確認してください。
21,000円は「1人・1か月・1医療機関」ごとに見る
70歳未満の人の自己負担を合算できるかどうかは、レセプト1枚ごとに決まります。厚生労働省のQ&Aによると、レセプトは医療機関や薬局が、ある個人の診療費を医療保険に請求するために暦月単位で作る請求書です。70歳未満の人は、レセプト1枚あたりの1か月の自己負担が21,000円以上でなければ、合算に加えられません。
協会けんぽの説明を、領収書を分けるときの手順に置き換えると次のようになります。
- 月で分ける。1日から末日までの暦月ごと。
- 人で分ける。家族一人ひとり別に。
- 医療機関で分ける。病院・診療所ごとに。
- 同じ医療機関でも「医科入院」「医科外来」「歯科入院」「歯科外来」を分ける。
- 院外処方の薬局の支払いは、処方せんを出した医療機関の分に足す。
こうして分けた1件ずつが21,000円以上かどうかを見ます。健康保険法施行令第41条も国民健康保険法施行令第29条の2も「二万千円…以上のものに限る」としているので、ちょうど21,000円の支払いも合算に入ります。
5の薬局の扱いで、届かないと思っていた分が届くことがあります。たとえば内科の外来で16,000円、その処方せんで薬局に6,000円払ったなら、合わせて22,000円になり、合算の対象です。逆に、同じ月に別々の診療所3か所で10,000円ずつ払っても、どれも21,000円に届かないので1円も足せません。
4は、同じ病院に入院中、退院後の外来にも通ったような月に関わります。入院分と外来分は別々に21,000円と比べます。厚生労働省のQ&Aは、内科・外科などの複数の診療科にかかった場合、平成22年4月から旧総合病院でもレセプトが一本化され、1つの医療機関としてまとめて請求できるようになったと説明しています。医科と歯科、入院と外来はそれでも別のレセプトです。
対象になるのは保険診療の自己負担だけです。入院中の食費や居住費、差額ベッド代、先進医療の費用は、21,000円の判定にも上限との比較にも入りません。
計算例:1人ずつでは届かないが、合わせると超える
協会けんぽに加入する会社員の夫(40代・標準報酬月額30万円、区分ウ)と、被扶養者の妻の例で考えます。同じ月に次の支払いがあったとします。数字はすべて仮定です。
- 夫:A病院に入院。医療費25万円、自己負担75,000円
- 妻:B病院の外来。医療費8万円、自己負担24,000円
- 夫:C診療所の外来。医療費3万円、自己負担9,000円
上限額は区分ごとの計算式で決まります。協会けんぽの表では、令和8年8月〜令和9年7月診療分の区分ウは「85,800円+(総医療費−286,000円)×1%」です。
夫のA病院の分だけを見ると、医療費25万円は286,000円を下回るので、上限は85,800円です。自己負担75,000円は上限に届かず、これだけでは払い戻しはありません。妻の分も同じく届きません。
合算すると、次のようになります。
- 足せるもの:夫のA病院75,000円と妻のB病院24,000円。どちらも21,000円以上
- 足せないもの:夫のC診療所9,000円。21,000円未満
- 合算した自己負担:99,000円
式の「総医療費」に入れるのは、合算の対象になった受診の医療費だけです。健康保険法施行令第42条は、区分ウの基準額を、合算した自己負担に係る療養の費用の額から計算すると定めています。この例ではA病院25万円とB病院8万円の合計33万円で、C診療所の3万円は入りません。
上限は85,800円+(330,000円−286,000円)×1%=86,240円です。払い戻しの見込みは99,000円−86,240円=12,760円になります。C診療所の9,000円は、合算にも払い戻しにも入りません。
令和8年8月〜令和9年7月診療分の区分ウなら、「1%」の部分は小さいので、およその見当は「合算額が8万6千円前後を超えたか」で付けられます。実際の支給額は加入先がレセプトをもとに計算します。
区分は被保険者の標準報酬月額で決まり、妻や子どもの医療費も被保険者の区分で計算します。上限額は令和8年8月に見直され、令和9年8月からは所得区分がさらに細かく分かれる予定です。上の式は期間を限った例として読み、診療月ごとの額は協会けんぽの高額療養費のページで確かめてください。見直しの中身は「高額療養費の自己負担上限が2026年8月から上がる?」にまとめています。
70歳以上の家族がいるとき
70歳から74歳の人は、健康保険や国保に入ったまま高齢受給者として扱われ、上限額の体系が70歳未満と別になります。協会けんぽは、70歳以上の人は自己負担額をすべて合算できるとしています。21,000円の線はありません。また、協会けんぽの表では、70歳以上の一般や低所得の区分に、外来だけに使う個人ごとの上限と、入院を含む世帯ごとの上限の2段があります。現役並み所得の区分は、世帯ごとの上限だけです。
たとえば、会社員の子どもの被扶養者になっている72歳の親がいる世帯では、70歳未満の家族の21,000円以上の分と、親の分を合わせて考えます。厚生労働省のQ&Aは、69歳以下と70歳以上が同じ世帯にいる場合の手順を次のように示しています。
- 70歳以上の人の外来の自己負担を個人ごとに合算し、70歳以上の外来の上限額を当てはめて差額を支給する(外来の上限がある区分の人)。
- 70歳以上の人の入院分の自己負担と、1のあとに残った自己負担を合計し、70歳以上の世帯の上限額を当てはめて差額を支給する。
- 69歳以下の人の自己負担と、2のあとに残った自己負担を合計し、世帯全体の上限額を当てはめて差額を支給する。
順番に上限を当てはめるので、親の外来分だけで払い戻しが出て、さらに家族全体でも払い戻しが出る、という月もあります。
75歳になると、健康保険や国保から後期高齢者医療制度に移ります。前の節のとおり、子ども世帯の健康保険とは合算できません。75歳以上の夫婦が同じ世帯でどちらも後期高齢者医療制度に入っているなら、厚生労働省のリーフレットには、2人の自己負担を合算して上限を超えた分が支給される例が載っています。親の分は親が加入する後期高齢者医療広域連合(窓口は市区町村)で確認します。
健康保険の被保険者(夫や親)が75歳になる月は、被扶養者だった70歳未満の家族の基準が10,500円に下がる
75歳の誕生日で保険が切り替わる月には特例があります。月の途中で後期高齢者医療制度に移ると、その月は前の保険と後期高齢者医療の両方で上限まで払うことになるため、厚生労働省は75歳到達月の限度額をそれぞれ本来の2分の1にする特例を設けています。
健康保険法施行令第41条・第42条では、次の療養がこの特例の対象です。いずれも、誕生日が月の初日の場合は対象外です。
- 75歳になった被保険者本人が、誕生日の前日までにその月に受けた療養
- 被保険者が75歳になって後期高齢者医療制度に移り、被扶養者でなくなった家族が、同じ月の誕生日の前日までに受けた療養
- 被扶養者だった家族自身が75歳になって後期高齢者医療制度に移ったときに、その人がその月の誕生日の前日までに受けた療養(たとえば会社員の子どもの被扶養者だった親。本人は70歳以上なので、下の10,500円の基準は関係しません)
この療養の分は、まず本人ごとに半分の基準額と比べます。令和8年8月〜令和9年7月診療分の区分ウで70歳未満の家族なら、85,800円が42,900円、式の286,000円が143,000円になります(同施行令第42条第2項)。厚生労働省の資料は、この特例は個人ごとに限度額を当てはめ、なお負担が残る場合は通常の限度額で世帯合算をするとしています。上の2つ目に当たる70歳未満の家族、つまり75歳になった被保険者の被扶養者だった人の分は、合算の基準も21,000円以上から10,500円以上に下がります。たとえば、夫が75歳になった月の妻(60代)の分は、夫の誕生日の前日までの受診について、1件10,500円以上なら合算に入ります。
国民健康保険法施行令第29条の2にも同じ10,500円の定めがあります。国保から後期高齢者医療制度に移った本人の分に加えて、健康保険の被保険者本人が75歳で後期高齢者医療制度に移り、被扶養者だった家族が月の途中で国保に入ったときは、国保に入った日以後のその月の分が対象です。横浜市の国保の案内も、この2つの場合について該当月の限度額を半額にするとしています。
10,500円に下がるのは、この特例の対象になる療養の分だけです。同じ国保の世帯で親が75歳になって後期高齢者医療制度に移っても、国保に残る70歳未満の家族の基準は21,000円のままです。会社員の子どもの被扶養者だった親が75歳になった場合も、被保険者である子どもや、ほかの家族の基準は変わりません。
夫の誕生日の前後で、妻の医療費は夫の健康保険の分と国保の分に分かれます。この月の領収書は、誕生日の前と後で分けて保管しておくと、申請のときに確かめやすくなります。
払い戻しは後から申請する
横浜市の案内では、マイナ保険証で限度額適用認定証等の情報の利用に同意するか、限度額適用認定証を医療機関に出せば、受診時の支払いは1か月あたりの自己負担限度額までになります。それでも、別の医療機関や家族の分を足した世帯合算の分は、加入先への支給申請で受け取ります。
- 協会けんぽ:健康保険高額療養費支給申請書を、加入している都道府県支部へ出す
- 国民健康保険:横浜市の場合、対象になった月の翌々月の下旬に支給申請書兼申立書が届き、返送する。届き方は自治体ごとに違う
- 加入先によっては、「支給対象となります」と申請を勧める通知を送ったり、自動で口座に振り込んだりするところもある(厚生労働省のQ&A)。横浜市の国保は、一度申請すると2回目以降は原則として自動振込になる(要件あり)
申請の期限は、診療を受けた月の翌月1日から2年です。2年の時効にかかっていなければ、さかのぼって申請できます。厚生労働省のQ&Aは、支給までに受診した月から少なくとも3か月程度かかるとしています。支払いが苦しいときは、協会けんぽには高額療養費の支給見込額の8割相当を無利子で借りられる高額医療費貸付制度があります。
確定申告で医療費控除を使う場合、横浜市は先に高額療養費の支給申請をするよう案内しています。
多数回該当と年間上限の数え方
高額療養費を受けた月が直近12か月で3回以上あると、4回目から上限が下がります(多数回該当)。協会けんぽでは、多数回該当は同じ被保険者、同じ保険者での受診に適用されます。退職して被保険者から被扶養者に変わった場合などは月数が通算されません。横浜市の国保は、同じ世帯で3回以上該当したときに4回目から下がると案内しています。
令和8年8月からは、8月から翌年7月までの自己負担に年間上限も設けられました。協会けんぽは、年間上限の申請でも70歳未満は21,000円以上のものだけを合算するという同じ扱いになるとしています。協会けんぽでの年間上限の申請受付は令和9年8月からです。医療費と介護サービスの自己負担を1年単位で合わせる高額医療・高額介護合算療養費は、これとは別の制度です。
この記事で確認できなかったこと
2026年10月27日時点で、次の点は今回の資料では確認できていません。
- 令和9年8月の所得区分の細分化のあとも、21,000円の基準が変わらないかどうか。2026年10月27日に読んだ現行の健康保険法施行令・国民健康保険法施行令は「二万千円…以上」としていますが、見直し資料には21,000円の記載がありませんでした。
- 子ども医療費助成で窓口負担が0円や少額になった子どもの分を、世帯合算でどう扱うか。厚生労働省のQ&Aは、自治体の助成で窓口の支払いが上限額より低くなる場合があるとだけ書いています。住んでいる自治体と加入先に確認してください。
- 70歳以上と70歳未満が混ざる世帯の計算の順番は、平成30年8月版の厚生労働省リーフレットのQ&Aによります。令和8年8月以降の版に同じQ&Aがあるかは確認していません。
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。
参考資料
- 全国健康保険協会(協会けんぽ) 高額療養費
- 厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
- 厚生労働省 高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)
- 厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)
- 横浜市 高額療養費支給制度(国民健康保険)
- 横浜市 高額療養費の支給例(1)
- e-Gov法令検索 健康保険法施行令(第41条・第42条)
- e-Gov法令検索 国民健康保険法施行令(第29条の2)
- 厚生労働省 75歳到達月の患者負担の限度額が2倍となることについて(特例創設時の資料)