正社員には家族手当が出ているのに、同じ職場のパートには出ていない。その理由を会社に聞いていいのかどうかで迷う人は多いはずです。2026年10月1日から、この「聞ける」ということが、雇い入れのときに渡す書面に書かれるようになります。ただし、すでに働いている人のところへ案内が自動で届く仕組みではありません。動くのは自分からで、宛先は直属の上司ではなく人事・労務の担当です。会社が応じないときは、勤務先のある都道府県の労働局にある雇用環境・均等部(室)が無料で間に入ります。
10月1日に変わるのは、権利があると紙に書かれること
パート・有期雇用労働法では、雇い入れのときに文書で知らせなければならない事項が決まっています。昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口。この四つです。
2026年10月1日から、ここに一つ加わります。正社員との待遇の相違の内容と理由について、説明を求めることができる旨。つまり「聞いていいですよ」と、会社の側から先に伝える形です。
説明を求める権利そのものは、前からありました。大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月から、労働者が求めれば会社は説明しなければならないことになっています。それなのに使われてこなかったのは、多くの人がその権利を知らなかったからです。今回の改正は新しい権利を作るものではなく、知らないまま働き続ける人を減らすための一手です。
厚生労働省は2026年9月4日時点で、この改正を令和8年(2026年)10月1日施行・適用としています。
そもそも自分はこの法律の対象か
パート・有期雇用労働法が守るのは、短時間労働者と有期雇用労働者です。
短時間労働者は、同じ会社の通常の労働者より1週間の所定労働時間が短い人。有期雇用労働者は、期間の定めのある契約を結んでいる人。呼び名がパートでもアルバイトでも準社員でも、このどちらかに当たれば対象に入ります。
見落とされやすいのが、フルタイムで無期契約の人です。正社員と同じ時間働いていて、契約に期間の定めもない。肩書きが「契約社員」でも、短時間でも有期でもないため、この法律の枠からは外れます。手当の差について会社と話すこと自体はできますが、法にもとづく説明義務を根拠にはできません。自分の契約書の、所定労働時間と契約期間の欄。まずはそこからです。
比べる相手は「通常の労働者」です。多くの職場では正社員が該当しますが、正社員がいない事業所なら、無期でフルタイムの人を基準に置きます。誰と比べるのかは説明を求めるときの前提になるので、先に決めておくと話が早く進みます。
すでに働いている人には、10月が来ても紙は届かない
ここが実務では一番効いてきます。
新しく加わるのは「雇い入れのときの明示」です。在職中の人は、その時点では雇い入れられていません。だから10月1日を過ぎても、勤続5年のパートの手元に何かが配られるわけではないのです。
有期契約で働いている場合は事情が少し違います。契約の更新は新しい契約を結び直すことなので、更新のたびに労働条件が明示されます。10月以降に更新日が来る人は、そこで渡される労働条件通知書に新しい項目が入っているかを見てください。
無期のパートには更新日がありません。何も起きないまま時間が過ぎます。自分から言う以外に道はない、というのがこの層の現実です。
家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇に、線が引き直された
改正はもう一つ、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しを含んでいます。手当ごとに、どこまでが不合理な差にあたるのかを具体化したものです。10月1日から適用されます。
家族手当については、継続して勤務することが見込まれるパート・有期雇用の人には、正社員と同一の支給が必要だと明確にされました。週3日勤務でも、契約の更新が繰り返されていて今後も続く見込みがあるなら、「パートだから対象外」という説明は通りにくくなります。
住宅手当は、転居を伴う配置変更の範囲が正社員と同じであれば同一の支給が必要、という整理です。転勤がある正社員にだけ住宅手当を出す運用そのものが否定されたわけではなく、転勤の有無で線を引くなら、その線が実態と合っているかが問われます。
夏季休暇と冬季休暇は、正社員と同一の付与が必要とされました。年末年始やお盆に正社員だけ特別休暇が付き、パートは欠勤か有給消化になっている職場は、見直しの対象に入ります。
ただし指針は、不合理と判断されやすい例とそうでない例を示すものです。実際の結論は、職務の内容、責任の範囲、配置変更の有無といった個別事情で動きます。「指針にこう書いてあるから必ずもらえる」とまでは言えません。説明を求めて、返ってきた理由が指針の考え方と食い違っていないかを見る。この順で進めるのが現実的です。
均等と均衡、ものさしが二つある
会社から返ってくる説明を読むには、法律が二つのものさしを持っていることを知っておく必要があります。
一つは、職務の内容と配置変更の範囲がどちらも正社員と同じ場合。このときは、パートであることを理由にした差別的な取扱いが禁止されます。同じ仕事で同じ異動の範囲なら待遇も同じ、という強い縛りです。
もう一つは、どちらかが違う場合。ここでは差そのものは認められますが、その差が不合理であってはならない、という縛りに変わります。仕事の内容、責任の重さ、異動の範囲、そのほかの事情に照らして釣り合いが取れているか。判断はここで行われます。
会社の説明が「正社員は責任が重いから」で止まっているとき、確かめるのは責任の中身です。クレームを最終的に引き受けるのは誰か。売上の目標を負っているのか。部下の評価をしているのか。抽象的な重さではなく、具体的な業務で線が引けるかどうかが問われます。
家族手当より先に、差が付きにくい項目がある
手当の中には、以前から差を付けにくいものとして指針が扱ってきた項目があります。通勤手当、食事手当、慶弔休暇、健康診断を受けるときの勤務免除。更衣室や休憩室、給食施設の利用も同じ扱いです。
これらは仕事の責任の重さと結び付けにくい費用や環境です。「正社員だから」という理由が通りにくいのは、そのためです。通勤手当が正社員だけ全額で、パートは上限付きという運用が続いているなら、家族手当より先にそこを聞くほうが答えが出やすいところです。
慶弔休暇も見落とされます。親族に不幸があったとき、正社員は特別休暇、パートは欠勤か有給消化。この差が就業規則に書かれたまま残っている職場は珍しくありません。
口頭でざっと説明されて終わり、は改正の想定外
三つ目の改正は、会社が講じる雇用管理上の措置です。待遇の相違について、資料を活用して説明するか、書面を交付する。この形が求められます。
立ち話で「うちは昔からそうなっている」と言われて終わるのは、改正後の説明としては足りていません。求めるときに「判断の根拠になる資料もいただけますか」と一言添えておくと、対応する側も準備をして臨みます。
賃金の決め方についても、公正な評価にもとづくべきことが示されました。正社員への転換制度がある会社には、その内容と実績を明らかにする努力が求められ、ウェブサイトでの公表が望ましいとされています。こちらは義務ではありません。
聞く前に、自分の側の材料をそろえる
手ぶらで人事に行くと、話が「制度の一般論」で終わります。先にそろえるのは次の四つです。
- 労働条件通知書または雇用契約書。週の所定労働時間、契約期間、更新の有無、業務内容の記載を見ます
- 直近3か月分の給与明細。手当の欄で、自分に何が支給され、何が支給されていないかを確認します
- 就業規則と賃金規程のうち、手当に関する条文。事業場に備え付ける義務があるので、閲覧を求められます
- 正社員の配置変更の範囲。転勤があるのか、事業所をまたぐ異動があるのか。求人票や社内の告知で分かることがあります
給与明細を3か月分そろえるのは、支給が毎月なのか特定月だけなのかを見分けるためです。家族手当は毎月、住宅手当は毎月、賞与は年2回。ここが混ざると話が噛み合いません。
そのまま使える言い方を、先に決めておく
以前、パート勤務の知人から相談を受けたことがあります。詰まっていたのは制度の中身ではなく、最初の一言でした。言葉に詰まって「なんとなく聞いてみた」形になると、雑談として処理されます。文面を決めてから向かいます。
正社員の方に支給されている家族手当が、私には支給されていません。この待遇差の内容と理由について、パート・有期雇用労働法にもとづく説明をお願いします。あわせて、判断の根拠になった資料をいただけますか。
メールで送っておくと、日付と内容がそのまま記録になります。口頭で伝えた場合も、その日のうちに「本日お願いした件です」と一通送っておくと後で困りません。
宛先は人事・労務です。直属の上司は制度を知らないことがあり、「うちはそういう決まりだから」で会話が止まります。上司を飛ばすのが気まずければ、上司に伝えたうえで人事にも同じ内容を送る形で構いません。
説明を求めたことを理由に、不利益な扱いはできない
これを心配して動けない人がいます。
説明を求めたことを理由に解雇したり、契約を更新しなかったり、シフトを減らしたりすることは、パート・有期雇用労働法で禁じられています。会社の側も、そこを踏み越えれば別の問題を抱えます。
それでも空気が変わったと感じたら、記録を取ってください。日時、相手の氏名、言われた内容。シフト表は変更前のものを写真で残しておきます。あとで相談するとき、この記録があるかないかで話の進み方が変わります。
会社が答えない、答えが説明になっていないとき
相談先は、勤務先のある都道府県の労働局にある雇用環境・均等部(室)です。費用はかかりません。「◯◯労働局 雇用環境均等」で検索すると連絡先が出ます。各労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナーからつないでもらう方法もあります。
ここでは、会社への助言・指導・勧告といった行政の関与が受けられます。それでも折り合わない場合は、第三者が間に入って解決案を出す調停の手続きに進めます。個別労働紛争解決制度の枠組みで、裁判のように弁護士費用や長い期間を前提にせずに済むところが、実務上は大きい違いです。
相談の段階では、会社に連絡がいくかどうかを自分で選べます。まず状況を話して見通しだけ聞く、という使い方もできます。
派遣で働いている場合は、聞く相手が違う
派遣スタッフの待遇は労働者派遣法が定めていて、説明義務を負うのは派遣元の会社です。派遣先に聞いても、答える立場にないので話が進みません。
比較の相手も、方式によって違います。派遣先の正社員と比べる方式か、派遣元が労働組合などと結んだ労使協定で待遇を決める方式か。日本では後者を採る派遣会社が多く、その場合は同種の業務の一般的な賃金水準が基準になります。まず派遣元の担当者に、自分の待遇がどちらの方式で決まっているのかを確かめてください。
10月を待たずに、9月のうちにできること
- 労働条件通知書か雇用契約書を探し出し、週の所定労働時間と契約期間を書き出す
- 給与明細3か月分を並べ、支給されていない手当の名前を控える
- 就業規則と賃金規程の手当の条文を閲覧し、支給要件を読む
- 正社員に転勤や事業所間の異動があるかを確認する
- 有期契約なら、次の更新日をカレンダーに入れる
ここまでやれば、10月に入ってから送る一通のメールが具体的になります。「家族手当が出ていません」ではなく「賃金規程◯条の家族手当について、支給要件のどこに当たらないのかを説明してください」と書けるかどうかで、返ってくる中身が変わります。
この記事で確かめていないこと
指針の改正後の条文そのものは読んでいません。内容は厚生労働省の解説ページで確認したもので、施行までに細かい文言が動く可能性は残ります。
個々の会社が10月にどう対応するかも分かりません。労働条件通知書の書式を改めるところ、在職者にも案内を配るところ、何もしないところに分かれます。
記載は2026年9月4日時点のものです。厚生労働省の同一労働同一賃金特集ページに施行後のリーフレットが追加されるので、10月以降はそちらも見てください。
参考にした公式ページ
厚生労働省のWebマガジン「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります」と、同省の同一労働同一賃金特集ページを開いて書きました。施行日、根拠となる法律の名称、相談窓口の名称は、この二つで確認しています。