子どもの歯列矯正にかかった費用は、医療費控除の対象になります。ただし「子どもだから対象」ではありません。国税庁の条件は「歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合」で、噛み合わせの治療として必要かどうかで分かれます。
まず見るのは、歯科医院で受けた説明の中身です。不正咬合の治療として進めているなら対象に入り、見た目を整えることが目的なら対象外になります。
もう一つ、控除の計算より前に確かめたいことがあります。矯正歯科治療には公的医療保険が使える場合があり、医療費控除とは別の制度です。保険が使えれば自己負担そのものが下がります。
分かれ目は年齢ではなく「必要と認められるか」
国税庁のタックスアンサーNo.1128は、歯列矯正を二つに分けています。
発育段階にある子供の成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正のように、歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象になります。
同じ歯列矯正でも、容ぼうを美化するための費用は、医療費控除の対象になりません。
読み落としやすいのは「年齢や矯正の目的などからみて」という書き方です。子どもの例が先に挙がっているため「子どもは対象、大人は対象外」と受け取られがちですが、要件に書かれているのは年齢そのものではありません。
| 状況 | 医療費控除 | 理由 |
|---|---|---|
| 発育段階の子どもの不正咬合の治療 | 対象 | 成長を阻害しないために行う矯正として国税庁が例示 |
| 大人が噛み合わせの治療のために受ける矯正 | 年齢や目的からみて必要と認められれば対象 | 国税庁は年齢を要件に挙げていない |
| 見た目を整えることが目的の矯正 | 対象外 | 「容ぼうを美化するための費用」に当たる |
大人の矯正でも、必要と認められる治療なら対象になり得ます。逆に、子どもでも美容目的なら対象外です。判断の軸は一つで、治療として必要かどうかです。
なお、金やポーセレンを使った治療費については、国税庁は「現在、金やポーセレンは歯の治療材料として一般的に使用されているといえますから、これらを使った治療の対価は、医療費控除の対象になります」としています。材料が高価だから対象外になる、という切り方はしていません。
先に確かめるのは、公的医療保険が使えるかどうか
矯正歯科治療は多くが自費ですが、保険診療になる場合があります。日本矯正歯科学会が挙げているのは次の三つです。
| 保険が使える場合 | 内容 |
|---|---|
| 厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常 | 66疾患が列挙されている。唇顎口蓋裂、ゴールデンハー症候群、ダウン症候群など |
| 永久歯の萌出不全に起因した咬合異常 | 前歯および小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る) |
| 顎変形症 | 顎離断等の手術を必要とするものに限る。その手術の前後の矯正歯科治療 |
病名が当てはまれば必ず保険になる、というわけではありません。これらを保険で行えるのは「地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関のみ」です。かかりつけの歯科医院が自費でしか扱っていない場合、同じ病名でも保険にはなりません。
届け出をしている医院は、地方厚生局のサイトで確認できます。「施設基準届出受理医療機関名簿」から県別のPDFを開き、上の表の1番目と2番目に対応する「矯診」、3番目に対応する「顎診」の記載を探します。
保険が使える場合でも、支払った自己負担分は医療費控除の対象になります。保険の適用と医療費控除は、どちらかを選ぶものではありません。
いくら戻るのか。引き算には順番がある
控除額の計算は、国税庁の式では次の順です。
- その年に実際に支払った医療費を合計する
- 保険金などで補填される金額を差し引く
- さらに10万円を差し引く(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセントの金額)
- 残った額が控除額。最高200万円
この計算で出る額は「所得から差し引ける金額」です。そのまま戻ってくる現金ではありません。還付される所得税は、控除額に自分の税率をかけた分です。
仮に、その年の矯正費用が60万円、ほかの医療費が5万円、保険金などの補填がない人を考えます。合計65万円から10万円を引いて、控除額は55万円です。所得税の税率が10パーセントの人なら所得税は5万5千円減ります。これは税率を仮に置いた計算で、実際の税率は所得で変わります。
控除する年は支払った年。歯科ローンは契約した年にまとめる
医療費控除の対象は「その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費」です。国税庁は「未払いの医療費は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります」としています。治療が終わっていても、払っていない分はその年に入れられません。
矯正は総額が大きく、分割やローンを使うことが多い治療です。払い方によって、どの年の控除になるかが変わります。
| 払い方 | 控除する年 |
|---|---|
| 歯科ローン(信販会社が立替払) | 立替払をした年、つまりローン契約が成立した年に全額 |
| 歯科医院へ直接分割払い | 実際に支払った年ごとに分ける |
| 金利・手数料相当分 | どちらも対象外 |
国税庁の表現は「信販会社が立替払をした金額は、その患者のその立替払をした年(歯科ローン契約が成立した時)の医療費控除の対象になります」です。返済が何年も続く場合でも、控除は契約した年に一度で計上します。翌年以降の返済額を毎年の医療費に書き足すことはできません。
一度にまとめて計上するので、医療費はその年に集まります。差し引く10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5パーセント)は1年分で済むため、2年に分けて払うより控除額が大きくなることがあります。
金利と手数料については、国税庁は「歯科ローンに係る金利および手数料相当分は医療費控除の対象になりません」と明記しています。ローン会社の明細で、治療費の元本と金利・手数料を分けて記録しておきます。
出す書類に診断書は挙がっていない
確定申告で必要な書類について、国税庁が挙げているのは「医療費控除の明細書」の作成と添付です。診断書は挙がっていません。医療保険者から交付を受けた医療費通知がある場合は、それを添付することもできます。
ただし領収書は捨てられません。国税庁は「確定申告期限等から5年を経過する日までの間、医療費の領収書の提示または提出を求める場合があります」としています。自費の矯正は金額が大きいので、治療が終わっても領収書を5年分まとめて保管しておきます。
子どもの通院に付き添った交通費も入る
矯正は通院の回数が多くなります。交通費についても国税庁の記載があります。
小さいお子さんの通院に付添が必要なときなどは、付添人の交通費も通院費に含まれます。
子ども本人の運賃だけでなく、付き添った人の分も通院費に入ります。領収書が出ない公共交通機関を使う場合は、通院日・区間・金額を控えておきます。
対象にならない費用と、控除額が出ない人
- 容ぼうを美化するための歯列矯正の費用
- 歯科ローンの金利および手数料相当分
- その年にまだ払っていない分(払った年の控除になります)
- 保険金などで補填される金額(合計から差し引きます)
控除額が出ない人もいます。医療費の合計から補填額を引いた残りが10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5パーセント)に届かない場合、差し引く額のほうが大きいので控除額は0です。矯正の支払いが2年に分かれているときは、どちらの年も届かないことがあります。
医療費控除を受けられるのは、自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合です。子どもの矯正費用は、実際に払った人の申告にまとめます。
手元の領収書と説明書きで確かめる順番
- 診断や治療計画の説明書きを見て、不正咬合の治療として進めているかを確かめる
- 病名が上の保険適用の三つに当てはまりそうなら、地方厚生局の名簿でその医院の「矯診」「顎診」の届け出を確認する
- 領収書を年ごとに分け、歯科ローンを使った年があれば契約年を確認する
- ローン明細から、治療費の元本と金利・手数料を分けて書き出す
- 通院日と交通費を一覧にする(付き添いの分も含む)
- 合計から保険金などの補填を引き、10万円または総所得金額等の5パーセントを超えるか確かめる
判断に迷う点があれば、治療の目的は歯科医院に、控除の可否は所轄の税務署に聞くのが早いです。
参考資料
- 国税庁 タックスアンサー No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費(歯列矯正の判定、歯科ローン、通院費)
- 国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(計算式、支払った年の要件、提出書類と領収書の保管)
- 日本矯正歯科学会 矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは(66疾患・萌出不全・顎変形症、届出医療機関の探し方)