収入が公的年金だけで、その年金の収入が合計400万円以下なら、多くの人は所得税の確定申告をしなくてかまいません。国税庁は、公的年金等の収入金額が400万円以下で、年金以外の所得金額が20万円以下の場合は確定申告の必要がないとしています(公的年金等に係る確定申告不要制度)。ただし、外国の年金のように源泉徴収されない年金を受けている人は、この制度を使えません。
一方で、「申告しなくてよい」と「申告しても戻るものがない」は別の話です。医療費控除や生命保険料控除などを入れると、年金から差し引かれた所得税が戻ることがあります。確定申告をしない場合でも、医療費控除などを住民税の計算に入れたいときは、市区町村への住民税の申告が必要です。まず、年明けに日本年金機構から届く「公的年金等の源泉徴収票」を手元に用意してください。
確定申告が要らない3つの条件
次の3つがすべてそろうと、所得税の確定申告は不要です。日本年金機構の源泉徴収票の案内でも、同じ条件が示されています。
| 条件 | どこで確かめるか | 間違えやすい点 |
|---|---|---|
| 公的年金等の収入金額の合計が400万円以下 | 公的年金等の源泉徴収票の「支払金額」欄(天引き前の額) | 年金の支払者が複数あれば合計する。過去の勤務により会社などから支払われる年金や、確定給付企業年金法にもとづく年金も公的年金等に入る |
| その公的年金等の全部が源泉徴収の対象 | 受け取っている年金の種類 | 外国の制度にもとづく年金で源泉徴収されないものを受けていると、この制度は使えない |
| 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下 | 個人年金保険、パート収入、家賃収入などの有無と、その所得額 | 収入ではなく所得(収入から経費などを差し引いた額)で見る |
国税庁が公的年金等として挙げているのは、国民年金・厚生年金・共済組合などの年金、過去の勤務により会社などから支払われる年金、確定給付企業年金などです。生命保険会社の個人年金保険は公的年金等に当たりません。保険料を負担した本人が受け取る個人年金は「公的年金等以外の雑所得」で、年金の額からそれに対応する払込保険料を差し引いた額が所得になります。20万円の判定には、こちらが入ります。
国民年金法や厚生年金保険法などにもとづく遺族年金は、原則として所得税が課税されません。日本年金機構の公的年金等の源泉徴収票は、老齢または退職を理由とする年金を受け取った人に送られます。
3条件に当てはまらない人は、公的年金等に係る雑所得の金額から所得控除を差し引いて残額があれば、確定申告で税額を精算します(国税庁No.1600)。自分が当たるかどうかは、源泉徴収票と他の所得の資料を持って税務署で確認してください。
出典:国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係、国税庁 No.1610 個人年金、国税庁 No.1605 遺族の方に支給される公的年金等
年金を2か所から受けている人、年金のほかに給与がある人
日本年金機構は、2か所以上の年金の支払者に扶養親族等申告書を提出している人や、年金以外に給与所得がある人などは、多くの場合確定申告が必要だと案内しています。当てはまる人は、すべての源泉徴収票を持って税務署に確認してください。
出典:日本年金機構 「令和7年分公的年金等の源泉徴収票」の送付について
申告しなくてよい人でも、所得税が戻ることがある
確定申告の義務がない人でも、年金から源泉徴収された所得税が納め過ぎになっていれば、確定申告をして取り戻せます。これを還付申告といいます。日本年金機構は、還付申告ができる例として次を挙げています。
- 社会保険料控除、生命保険料控除などを受けようとする場合
- ふるさと納税などの寄附金控除を受けようとする場合
- 災害などの損失について雑損控除を受けようとする場合
- 医療費控除を受けようとする場合
- 扶養親族等申告書を提出していない場合
- 扶養親族等申告書を提出した後に扶養親族等が増えた場合
日本年金機構の説明では、扶養親族等申告書を提出している場合、年金からの源泉徴収税額は、年金支給額から年金から天引きされた社会保険料(介護保険料と、国民健康保険料(税)または後期高齢者医療保険料)と各種控除額を差し引いて計算します(65歳以上の退職共済年金の受給権者が申告書を提出した場合は別の式です)。配偶者控除や障害者控除などは、この申告書を出すことで源泉徴収の計算に入ります。申告書を提出していない場合は、年金支給額から社会保険料と公的年金等控除・基礎控除相当を差し引いて計算します。一方、名古屋市は、医療費控除、本人が納付書や口座振替などで払った社会保険料の控除、生命保険料控除などを「公的年金等の源泉徴収票に記載されていない控除」として挙げています。こうした控除があれば、還付申告で所得税が戻る可能性があります。
出典:日本年金機構 「令和7年分公的年金等の源泉徴収票」の送付について(確定申告をすることができる方・源泉徴収税額の算出方法)、名古屋市 年金収入が400万円以下の場合、市民税・県民税の申告は?
「源泉徴収税額」が0円なら、所得税は戻らない
所得税の還付は、源泉徴収などですでに納めた所得税がある場合にだけ生じます。源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄が0円なら、医療費控除などを申告しても所得税は戻りません。
年金から所得税が源泉徴収されるのは、年金額が一定以上の人です。日本年金機構の案内では、所得税の源泉徴収の対象となる年金額は次のとおりです(2026年9月3日更新の案内)。
| 年齢 | 令和8年分 | 令和9年分以降 |
|---|---|---|
| 65歳未満 | 155万円以上 | 164万円以上 |
| 65歳以上 | 205万円以上 | 214万円以上 |
自分の年に所得税が差し引かれたかは、この表ではなく源泉徴収票の金額で確かめてください。年分によっては、税制改正の影響で還付が出やすい年金額の範囲を日本年金機構が示すこともあります。令和7年分では、65歳以上で年金額198万円超242万円以下の人などが、確定申告で還付を受けられる場合があると案内されていました。
出典:国税庁 No.2030 還付申告、日本年金機構 扶養親族等申告書の提出と源泉徴収の対象となる年金額、日本年金機構 令和7年分 公的年金等の源泉徴収票の見方
還付申告は翌年1月1日から5年間
還付申告書は、確定申告の期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。日本年金機構も、還付申告は確定申告の受付開始日より前に提出できると案内しています。昨年分の医療費控除を出し忘れていても、5年以内なら申告できます。
医療費控除の控除額は、実際に支払った医療費から保険金や高額療養費などで補てんされた額を差し引き、さらに10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、その5%の金額)を差し引いた額です(最高200万円)。控除額がそのまま戻るわけではありません。申告には医療費控除の明細書を作り、確定申告書に添付します。計算の詳しい手順は医療費が年10万円を超えたときの記事で扱っています。
出典:国税庁 No.2030 還付申告、国税庁 No.1120 医療費控除
住民税は別。確定申告しないなら市区町村への申告が要ることがある
所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合があります。国税庁と日本年金機構の案内にも、この注意が書かれています。
横浜市と名古屋市の案内をまとめると、確定申告をしない人で次に当てはまる人は、市区町村に市民税・県民税の申告をします。
- 公的年金等に係る雑所得以外に所得がある(20万円以下でも)
- 源泉徴収票に載っていない控除を受けたい(医療費控除、自分で納付書や口座振替で払った社会保険料の控除、生命保険料控除など)
名古屋市は、公的年金等の収入300万円で医療費を15万円払った人の質問に、「申告が必要となる場合があります」と答え、上の2つに当てはまる人は市民税・県民税申告書の提出が必要としています。横浜市は、公的年金しか収入がなく、源泉徴収票の内容に追加するものがなければ申告の必要はないと説明しています。
所得税が源泉徴収されておらず還付がない人でも、医療費控除を住民税の計算に入れたいときは、確定申告をしない場合、この住民税の申告をします。控除によって住民税がいくら変わるかは、市区町村に確認してください。
所得税の確定申告書を税務署に出した人は、同時に住民税の申告をしたものとみなされるため、改めて住民税の申告をする必要はありません(横浜市・名古屋市)。
横浜市の場合、申告先は1月1日時点の住所地の区役所税務課で、期限は毎年3月15日(土日に当たるときは翌開庁日)です。郵送でも提出でき、令和8年度分(令和7年中の所得)はeLTAXによる電子申告も受け付けていました。医療費控除を申告するときは「医療費控除の明細書」が必要で、領収書では受け付けていません。申告先・期限・書類は市区町村ごとに案内があるので、お住まいの市区町村の「市民税・県民税(住民税)の申告」のページで確かめてください。
出典:横浜市 市民税・県民税の申告について、名古屋市 年金収入が400万円以下の場合、市民税・県民税の申告は?
源泉徴収票を見ながら決める順番
- 「支払金額」欄を足す。 年金の源泉徴収票が複数あれば合計し、400万円以下か確かめます。この欄は、所得税や社会保険料が差し引かれる前の額です。400万円を超えていれば確定申告不要制度は使えません。
- 年金以外の所得を書き出す。 個人年金保険、パート、家賃などがあれば、それぞれの所得額を合わせて20万円以下か確かめます。超えていれば確定申告不要制度は使えません。その場合、所得の合計から所得控除を差し引いて残額があれば、確定申告で税額を精算します。
- 「源泉徴収税額」欄を見る。 金額があれば、医療費控除などで還付申告できる可能性があります。0円なら所得税は戻りません。
- 源泉徴収票に載っていない控除を書き出す。 医療費、口座振替などで払った社会保険料、生命保険料、ふるさと納税などです。「社会保険料の額」欄に載っているのは、年金から天引きされた分だけです。
- 出す先を決める。 還付申告をするなら税務署へ確定申告書を出します(住民税の申告も兼ねます)。確定申告をしないで控除を入れたいなら、市区町村へ住民税の申告をします。
公的年金等の源泉徴収票は、日本年金機構からはがきで送られます。令和7年分は2026年1月8日から15日にかけて順次送付され、マイナポータルへの電子送付やねんきんネットでの内容確認もできました。なくした場合は、原則として過去5年分の再交付を受けられます。ねんきんネットからの申請(郵送は発送まで1週間程度)、ねんきん自動音声送付受付サービス(050-3319-3152、送付まで2週間程度)、年金事務所の窓口のいずれかで申し込みます。
税務署で確定申告書を作る場合、源泉徴収票の添付は不要ですが、内容を申告書に書き写すため持参が必要です。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、自宅でも作成・提出できます。
出典:日本年金機構 令和7年分 公的年金等の源泉徴収票の見方、日本年金機構 「令和7年分公的年金等の源泉徴収票」の送付について、日本年金機構 公的年金等の源泉徴収票をなくしたとき
扶養親族等申告書との関係
日本年金機構から届く扶養親族等申告書は、年金から源泉徴収する所得税に配偶者控除や障害者控除などを受けるための書類です。申告内容は市区町村に提供され、住民税額の決定にも使われます。出していても、医療費控除や生命保険料控除はこの書類では反映されません。逆に、出さなかった年や、出した後に扶養親族が増えた年は、還付申告で控除を受けられることがあります。提出が必要かどうかは扶養親族等申告書の記事で確認できます。
出典:日本年金機構 扶養親族等申告書は、どうして日本年金機構へ提出するのですか
問い合わせ先
- 所得税の確定申告・還付申告: 住所地を管轄する税務署。国税庁ホームページの「税についての相談窓口」から探せます。
- 住民税の申告: 1月1日時点で住んでいた市区町村の住民税(市民税・県民税)の担当窓口。
- 源泉徴収票の内容・再交付、扶養親族等申告書: 日本年金機構(ねんきんネット、年金事務所)。
個別の税額や、申告したほうが有利かどうかは、源泉徴収票と支払いの記録を持って税務署や市区町村に確認してください。