結論から先に
契約書の「極度額」は、連帯保証人がこれから払う金額ではありません。責任を負う上限を区切った枠です。借主が自分で家賃を払っている間、枠の中は空のままで、保証人に請求は来ません。
国土交通省の対応事例集は、保証人に説明すべき内容をこう書いています。
極度額は保証人が負担すべき金額の上限を画する「枠」であること、賃借人自らが債務を履行すれば、枠の中は空のままで保証人が負担することはないこと
「極度額 240万円」と書かれた紙を見せられて、240万円を払う約束だと受け取ってしまう人がいます。そこが最初の読み違いです。
ただし枠である以上、枠の中までは責任が及びます。仮に家賃10万円の部屋で借主が滞納し、原状回復費を含めて請求が35万円になったとします。極度額240万円の枠内なので、その35万円は保証人に回ります。確かめる順番は、まず枠の額、次にその枠が何を想定した額なのか、です。
署名の前に見る3か所
国土交通省の賃貸住宅標準契約書(連帯保証人型)は、極度額を頭書の「(6)連帯保証人及び極度額」と、末尾の記名押印欄の2か所に書く形にしています。連帯保証人が契約時に自分の責任額を目で確認できるようにするためです。手元の契約書でも、この2か所を先に開いてください。
1. 極度額の欄が埋まっているか。 空欄なら、その場で金額を聞いて記入してもらいます。民法465条の2第2項は「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めています。空欄のまま押印しても保証契約は立ち上がらず、貸主の側も請求できません。片方だけが得をする話ではなく、どちらにとっても不安定な紙になります。
2. 書面か電磁的記録になっているか。 465条の2第3項が民法446条2項・3項を準用しているため、極度額の定めは書面、または内容を記録した電磁的記録で残す必要があります。電話で「家賃2年分くらいで」と聞いただけの状態は、あとで額を争うときに何の役にも立ちません。
3. その額が家賃の何か月分か。 同省の記載方法の例は「~円(契約時の月額賃料の~か月相当分)」「契約時の月額賃料の~か月分」「~円」の3通りです。実額だけが書いてあるなら、自分で家賃で割って月数に直してください。この月数が、次の節の国の調査数値と比べる物差しになります。
もうひとつ、見落としやすい注記があります。同省は「極度額は賃料の増減があっても変わるものではなく、契約時の額が適用されます」としています。更新で家賃が上がっても、枠は契約時の金額で据え置きです。逆に家賃が下がっても枠は縮みません。
枠の額が妥当かどうかを、国の調査で見る
極度額に法律上の上限はありません。国土交通省の対応事例集は「極度額は当事者間の合意により設定されるものであり、公序良俗に反するような高額な設定でない限りは無効とはなりません」としています。だから「高すぎるから無効」とは言えず、判断は水準の比較になります。
同省は極度額の目安づくりのために3つの調査を行い、「極度額に関する参考資料」として公表しています。
| 調査 | 分かること | 数値 |
|---|---|---|
| 裁判所の判決における連帯保証人の負担額(91件) | 実際に保証人が負担を命じられた額 | 平均で家賃の約13.2か月分。最小2か月分、中央値12か月分、最大33か月分 |
| 家賃債務保証業者に対する損害額(13社・20,886件) | 滞納が損害に至った場合の金額 | 賃料帯別に下の表 |
| 家賃滞納発生に係る調査(120社・約59万戸) | 滞納から明渡しまでの期間 | 合意解約での明渡し完了は平均4.5か月経過時点、未納家賃の平均4.1か月分 |
判決の91件は、最高裁1件と東京地裁90件で、裁判年月は1997年11月から2016年10月までの分です。負担総額には未払い家賃だけでなく原状回復費用や損害賠償費も含まれています。最大が33か月分という幅も一緒に見てください。
保証業者の損害額は、業者が貸主に立て替えて払ったあと借主に求償しても回収できなかった残額です。賃料帯ごとの中央値はこうなっています。
| 月額賃料 | 損害額の中央値 | 平均値 | 最高額 |
|---|---|---|---|
| 4万円未満 | 11.5万円 | 17.7万円 | 178.4万円 |
| 4万〜8万円未満 | 19.0万円 | 28.2万円 | 346.0万円 |
| 8万〜12万円未満 | 35.6万円 | 50.0万円 | 418.6万円 |
| 12万〜16万円未満 | 49.9万円 | 71.2万円 | 369.3万円 |
| 16万〜20万円未満 | 64.8万円 | 97.3万円 | 478.5万円 |
| 20万〜30万円未満 | 85.8万円 | 126.2万円 | 606.8万円 |
| 30万〜40万円未満 | 104.5万円 | 156.8万円 | 887.4万円 |
| 40万円以上 | 270.0万円 | 437.3万円 | 2,445.3万円 |
この表を読むときの注意が1つあります。集計対象は損害が確定した案件だけで、同省は「損害の発生していない件数は含まれません」と明記しています。滞納が起きた場合の金額であって、保証人になった人の平均負担額ではありません。滞納そのものの頻度については、同じ資料が参考として日管協短観の家賃滞納の発生率を引き、2008年下期から2017年上期までの平均で7.5%としています。なお数値は平成28年・29年のデータをもとにした2018年の調査結果で、現在の相場として読むものではありません。資料そのものと更新の有無は、同省の対応事例集が参照先として挙げている「賃貸住宅標準契約書」のページで確認できます。
実務の設定水準も同省が調べています。仲介事業者458社への調査(2020年8月20日〜9月30日)で、物件によって設定の考え方を変えていない173社に月数を聞いたところ、13か月以上24か月以下が51.4%、6か月以下と7か月以上12か月以下がそれぞれ19.7%でした。表示方法は実額が41.0%、賃料の月数が38.8%です。
つまり、家賃の12〜24か月分というあたりが実務と判決の両方で出てくる水準です。手元の極度額が家賃の40か月分や50か月分なら、月数の根拠を聞く理由があります。管理会社への聞き方は「この物件の極度額は家賃の何か月分で設定していますか。滞納と原状回復費をそれぞれ何か月分で見込んでいますか」です。同省の調査では、設定の考え方を変えている134社のうち約9割が家賃滞納を、約8割が原状回復費用を想定損害として見込み、月数は家賃滞納が12か月超、原状回復費用が3か月でした。先方の答えがこの内訳で返ってくるかどうかで、額の根拠があるかが見えます。
署名したあと、滞納しているかどうかを貸主に聞ける
保証人になった人がいちばん不安なのは、借主が払っているかどうか分からないまま年が過ぎることです。ここには使える条文があります。
民法458条の2は、保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合、保証人の請求があったときは、債権者は遅滞なく、主債務の元本と利息・違約金・損害賠償などについて「不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない」と定めています。親族や友人から頼まれて保証人になった人は、この「委託を受けて保証をした場合」にあたります。
標準契約書も同じ義務を契約の条文に落としています。第17条第4項は「丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない」という形です。丙が連帯保証人、甲が貸主、乙が借主です。
今日できることは、この請求を送ることです。宛先は貸主で、実務では管理会社が窓口になります。同省の解説は「貸主からの情報提供は、書面又は電子メール等の電磁的記録によって行うことが望ましい」としているので、電話ではなくメールか書面で出してください。文面はこれで足ります。
◯◯(物件名・部屋番号)の賃貸借契約について、連帯保証人の◯◯です。民法458条の2に基づき、情報提供を請求します。本日時点の賃料・共益費の滞納の有無、滞納があるときはその額、損害賠償の額を、書面またはメールでご回答ください。
早めに聞く意味は、金額が時間とともに膨らむところにあります。同省の調査では、滞納1,000件のうち1か月経過時点で942.9件は全額回収されています。残る57.1件のうち27.0件が未回収で、そこから合意解約の提案までが平均3.1か月、合意解約による明渡し完了までが平均4.5か月、判決にもとづく強制執行の完了までは平均9.1か月かかっていました。強制執行まで進んだ案件の未納家賃は平均9.7か月分で、強制執行の経費は平均50.7万円です。1か月分の滞納の段階で知るのと、9か月分になってから知るのとでは、できることが変わります。
貸主の側にも、保証人へ知らせておく動機があります。同省の解説は、借主が継続的に支払いを怠っているのに貸主が保証人へ通知せず契約を更新させている場合には、保証債務の履行請求が信義則に反して否定されることがあり得るとし、1997年11月13日の最高裁判決を挙げています。そのうえで「保証人の請求がない場合でも、保証人へ積極的に情報提供することが望ましい」と書いています。請求を出すのは、相手にとって不都合な行為ではありません。
保証はいつ終わるのか
保証人を引き受けると、いつまで続くのかが気になります。終わりは2系統で考えます。
ひとつは更新です。標準契約書第17条第1項は「連帯保証人は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする」としています。同省の解説は、賃貸借契約の更新があった場合にも特段の事情がない限り連帯保証契約の効力が及ぶと解されているとして、同じ1997年11月13日の最高裁判決を引いています。借主が住み続ける限り、保証も続く前提です。
もうひとつが元本の確定です。民法465条の4第1項は、個人根保証契約の元本が確定する場合として次の3つを挙げています。
- 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行または担保権の実行を申し立てたとき(手続の開始があったときに限る)
- 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
- 主たる債務者または保証人が死亡したとき
標準契約書は3号だけを第17条第3項に書き写し、「丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする」としています。同省の解説は、1号と2号を排除する趣旨ではないと補足しています。
実際に問題になるのは3号です。借主が亡くなったあとの家賃について、同省の解説は「保証人は、借主の死亡時までに生じている債務についてのみ(極度額を限度として)責任を負い、死亡後に生じた債務については責任を負わない」との読み方を示し、借主死亡後の賃料は保証人の責任範囲に含まれないとしています。ただし同じ箇所に「具体的な保証人の責任範囲は事案や解釈により異なり得るため、平成29年民法改正後の裁判例の蓄積が待たれる」とも書かれており、確定した結論ではありません。請求を受けたら、死亡日より後に発生した分がいくら含まれているかを内訳で出してもらうのが先です。
なお保証人が亡くなった場合も元本は確定します。相続人が、その後に発生する家賃まで引き継ぐ構造にはなっていません。
古い契約の保証人になっている人の確かめ方
極度額の規定は2020年4月1日に施行されました。それより前に結んだ保証契約には極度額の欄がないため、「自分の保証はもう無効なのか」と考える人がいます。答えは逆です。
国土交通省の対応事例集はQ&Aでこう答えています。
施行前に既に締結している賃貸借契約は、改正民法施行後に初めて合意更新がされるまでは、そのまますべて有効です。賃貸借契約に基づく債務を保証する保証契約も、改正民法施行後に初めて保証契約が合意更新されるまでは、極度額の定めがなくても有効です。
分かれ目は更新のやり方にあります。同省の整理では、賃貸借契約が2020年4月1日以降に合意更新されたなら、その時点から改正民法が適用されます。契約書に「期間満了の◯月前までに双方から何も通知がなければ従前の契約と同一の条件で更新したものとする」と書いてある自動更新も、合意更新の一種と解されています。一方、借地借家法にもとづく法定更新なら、更新後もそのまま改正前の民法が適用されます。
保証契約は賃貸借契約とは別の契約で、当事者も違います。そのため合意更新のときの扱いは3通りに分かれ、保証契約もあわせて合意更新するか、保証契約を結び直すか、保証契約については何もしないかです。何もしなかった場合、判例は賃貸借契約が更新されれば特段の事情がない限り保証契約も継続するとしており、極度額を定めることは必要とされないと整理されています。
だから確かめる手がかりは、更新のときに自分のところへ連絡が来たかどうかです。更新のたびに保証人として書類にサインしてきたなら、どこかで保証契約も合意更新されている見込みがあり、その回以降は極度額の設定が必要になります。何年も連絡が来ていないなら、古い保証契約がそのまま続いている可能性が高いです。管理会社に「保証契約は更新のときに合意更新していますか。極度額は設定されていますか」と聞けば、どちらなのかが分かります。
同省は、改正前の契約を合意更新するときには保証契約も合意更新するか結び直して極度額を設定することが望ましいとしています。保証人の側から極度額の設定を申し出ることにも意味があります。枠が決まっていない状態より、上限が紙に書かれている状態のほうが、保証人には有利です。
そもそも自分は連帯保証人なのか
ここまでの話は、個人が連帯保証人になる契約に限った話です。家賃債務保証会社を使う契約では、保証人は法人なので、民法465条の2の「保証人が法人でないもの」にあたらず、極度額の定めは要りません。
国土交通省は、標準契約書を改定した際の報道発表で「近年、住宅の賃貸借においては、新規契約の約6割が機関保証を利用している」として、連帯保証人型とは別に家賃債務保証業者型の標準契約書を新たに作成したと説明しています。新しく借りる契約では、保証会社だけで済み個人の保証人を立てない形が多数です。
手元の書類がどちらなのかは、保証会社との保証委託契約書があるか、賃貸借契約書に連帯保証人の記名押印欄があるかで分かります。両方ある契約もあります。保証会社を使っていても個人の連帯保証人を併せて求める物件があり、その場合は個人の側に極度額の定めが必要です。
最後に混同されやすい点を1つ。保証人になる前に公証役場へ出向いて保証意思の確認を受ける手続きは、法務省のパンフレットが説明するとおり、個人が事業用の融資の保証人になる場合の手続きです。住まいの賃貸借の連帯保証には適用されません。手数料1通1万1,000円を見込む別制度なので、賃貸の契約書に公証人が出てこないことを不備と考える必要はありません。