事業者に事実と違う説明をされた、帰ってくれないので仕方なく契約した、といった場合、その契約は消費者契約法4条で取り消せることがあります。取り消せる期間は、誤認に気づくか困惑から抜け出し、取り消せると知った時から1年、契約の時から5年のどちらか早い方までです(7条1項)。霊感などの特別な能力を持ち出して不安をあおる勧誘の場合だけは、3年・10年に延びています。
期間を過ぎてから取消しを伝えても効力はありません。一方で、取消しそのものは事業者に意思表示をすれば足り、取り消せると知らずに受け取った物は、手元に残っている分を返せばよいのが原則です。
この記事では、どんな勧誘なら取り消せるのか、1年はいつから数えるのか、取り消すときの伝え方と返す物の範囲を、消費者契約法の条文と消費者庁の逐条解説で確かめます。
消費者契約法で取り消せる契約
消費者契約法は、個人(事業として、または事業のために契約する場合を除く)と事業者との間の契約に使われます(2条)。消費者庁は、この法律が不当な勧誘による契約の取消しと、不当な契約条項の無効などを定めていると説明しています。
取消しの対象になる勧誘は、4条に並んでいます。大きく分けると次のとおりです。
誤認させる勧誘(4条1項・2項)
- 重要事項について事実と異なることを告げる(不実告知)
- 将来の価額や受け取る金額など、変動が不確実な事項について断定的判断を示す
- 消費者の利益になることを告げながら、重要事項について不利益になる事実を、故意か重大な過失で告げない(消費者が説明を拒んだ場合は除く)
困惑させる勧誘(4条3項)
- 住居や職場から帰ってほしいと言ったのに帰らない(不退去)
- 勧誘の場所から帰りたいと言ったのに帰さない(退去妨害)
- 勧誘することを告げずに、自分では帰りにくい場所に連れて行って勧誘する
- 契約するか相談するために電話などで人と連絡したいと言ったのに、威迫する言動を交えて妨げる
- 社会生活上の経験が乏しいことにつけこんで、進学・就職・結婚や容姿などへの不安をあおる、恋愛感情などを利用して「契約しないと関係が終わる」と告げる
- 加齢や心身の故障で判断力が著しく低下していることにつけこんで、生活の維持への不安をあおる
- 霊感などの特別な能力による知見として不安をあおり、契約が必要不可欠だと告げる
- 契約する前に義務の内容を実施してしまう、契約のための活動の損失の補償を求める
分量が多すぎる契約(4条4項) 事業者が、消費者にとっての通常の分量を著しく超えると知りながら勧誘した場合も取り消せます。
取消しの対象にならない例
消費者庁の逐条解説は、不実告知の「事実と異なること」は、客観的に真実かどうかを判断できる内容についてのものだとしています。「新鮮」「安い」「お買い得」「居住環境に優れた立地」のような主観的な評価は対象にならず、取消しは認められないという例が挙がっています。
また、「○○日には届く」と言われたのに配送が遅れた、ツアーでハーバービューの部屋のはずが手配ミスで違った、といった例は、約束した内容が守られなかった債務不履行の問題で、「事実と異なることを告げる」行為には当たらないとしています。この場合は、消費者契約法の取消しではなく、債務不履行の問題として扱われます。
断定的判断についても、逐条解説は、「当社の住宅は雨漏りしません」という説明は、住宅の性能の話で将来の変動が不確実な事項には当たらず、4条1項2号での取消しは認められないとしています。
チラシや広告も「勧誘」になりうる
逐条解説は、最高裁の平成29年1月24日の判決を紹介しています。不特定多数の消費者に向けた新聞折込チラシの配布について、不特定多数に向けたものであることから直ちに「勧誘」に当たらないとはいえない、とした判決です。店頭や訪問での説明だけでなく、広告の書き方が問題になることもあります。
取り消せる期間:1年と5年、霊感商法は3年と10年
7条1項は、4条1項から4項までの取消権について、次のように定めています。
- 追認をすることができる時から1年間(霊感などによる勧誘の取消権は3年間)行わないときは、時効によって消滅する
- 契約の締結の時から5年(霊感などによる勧誘の取消権は10年)を経過したときも、同様とする
二つの期間のうち、どちらか一方が過ぎた時点で取消権は消えます。逐条解説は、期間の経過後に取消しの意思表示をしても効力はないとしています。
この期間は、制度ができたときから同じではありません。逐条解説によると、平成28年の改正前は「追認をすることができる時から6か月間」でしたが、期間を過ぎてしまう消費者が一定数いたため1年に延ばされました。霊感などによる勧誘の取消権は、令和4年の臨時国会での改正で3年・10年になりました。古い資料で「6か月」と書かれているものは、改正前の内容です。
「追認できる時」はいつか
1年の数え始めである「追認をすることができる時」について、逐条解説は、取消しの原因となっていた状況が消え、かつ取消権を持っていることを知った時だとしています。勧誘の種類ごとの説明は次のとおりです。
- 誤認させる勧誘の場合:事業者の説明で誤認したことに気づき、かつ取消権を持っていることを知った時
- 困惑させる勧誘の場合:困惑から抜け出し、かつ取消権を持っていることを知った時。帰らない・帰さないの場合は、通常は事業者が家から出て行った時や、消費者がその場所から帰った時が考えられるとしています
- 分量が多すぎる契約の場合:合理的な判断ができない事情がなくなり、かつ取消権を持っていることを知った時
逐条解説は、取消権が時効で消えていることの立証責任は事業者にあるとしています。たとえば消費者がいつ誤認に気づいたかが争いになった場合、事業者は、消費者から苦情が持ち込まれた日時などを積み重ねて立証することになる、と書いています。
5年の数え始めは、契約を結んだ時です。逐条解説は、事業者から届く契約の諾否の通知などの日付で消費者にも分かると説明しています。
取り消すときの伝え方
逐条解説によると、取消権は、事業者に意思表示をすることで使えます。取消しの意思表示が事業者に届けば取消しは有効になり、方法は問われません。ただし、あとで取消しの意思表示をしたかどうかが争われないように、裁判外で取消権を使う場合は、内容証明郵便や配達証明郵便が使われることが多いとしています。
取り消した後に返すもの
取り消すと、契約は初めから無効だったことになります(11条1項・民法121条、逐条解説)。事業者は受け取った代金を返し、消費者は受け取った物を返すことになります。
消費者が返す範囲について、6条の2は、受け取った当時、取り消せると知らなかったときは、「当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において」返せばよいとしています。
逐条解説は、サプリメントを1箱1万円で5箱(5万円)買い、2箱を食べた後で、勧誘のときに成分について不実告知があったと分かって取り消した例を挙げています。この場合、消費者は手元に残っている3箱を返せばよく、代金5万円の返還を受けられるという考え方です。民法の原則どおり食べた2箱分の価値まで返すとすると、事業者は物を使わせてしまえば代金を受け取れることになり、取消しを認めた意味がなくなるため、平成28年の改正でこの条文が設けられたと説明しています。
ただし、逐条解説の注は、受け取った物を転売した場合や、それで他の出費を免れた場合など、利益が残っているときはその利益を返すことになると考えられ、物を使ったことによる利益があればその分も返すことになると考えられる、としています。
民法の取消しとの関係と相談先
6条は、消費者契約法の取消しの規定が、民法96条(詐欺・強迫による取消し)の適用を妨げないとしています。逐条解説によると、民法の取消権の期間は追認できる時から5年・行為の時から20年で、消費者契約法の期間はそれより短く定められています。
迷ったときは、消費者ホットライン188に電話し、郵便番号などを入力すると、近くの市区町村や都道府県の消費生活センターなどの相談窓口を案内してもらえます。消費者庁の案内では、土日祝日も、市区町村や都道府県の消費生活センターが開いていない場合は国民生活センターが相談を補うなど、施設点検日や年末年始を除いて原則毎日利用できます。
確認の順番
- 相手が事業者で、自分が事業のためでなく契約した個人かを確かめる
- 勧誘のどの行為が4条のどれに当たるかを書き出す(何を言われたか、何を言われなかったか、帰ってくれたか)
- 契約を結んだ日と、誤認に気づいた日(または困惑から抜け出した日)を確かめ、5年と1年のどちらが先に来るかを数える。霊感などによる勧誘なら10年と3年
- 取消しを事業者に伝える。逐条解説によると、裁判外では内容証明郵便や配達証明郵便が使われることが多い
- 受け取った物のうち、手元に残っているものを確かめる
- 判断がつかなければ、消費者ホットライン188に相談する
この記事で確認できなかったこと
2026年11月7日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- 消費者庁の「知っていますか?消費者契約法-早分かり!消費者契約法-」(令和8年6月)の内容。PDFから文字を取り出せませんでした。
- 消費者庁のページにある、消費者契約法の見直しに関する意見募集の後の改正の動き。
- 取消しを伝える文面の例。逐条解説には書かれていませんでした。
- クレジットカードで払った代金の扱い(カード会社への対応)。
参考資料
- e-Gov法令検索 消費者契約法 — 2条(定義)、4条(取消し)、6条、6条の2(返還義務)、7条(行使期間)
- 消費者庁 消費者契約法 — 法律の概要と改正の経過
- 消費者庁 逐条解説 第7条 — 「追認をすることができる時」、6か月から1年への伸長、霊感の3年・10年、意思表示と内容証明郵便、立証責任
- 消費者庁 逐条解説 第4条 — 主観的評価と債務不履行の例、断定的判断の例、チラシと「勧誘」の最高裁判決
- 消費者庁 逐条解説 第6条の2 — サプリメントの例、現存利益
- 消費者庁 消費者契約法 逐条解説(目次) — 各条の解説PDFの一覧
- 消費者庁 消費者ホットライン — 188番、土日祝日の扱い