親の予診票を整理していて、肺炎球菌ワクチンの案内が出てきた。日付を見ると去年の分で、親はもう66歳になっている。秋の予防接種の時期に、こういう相談が増えます。結論から言うと、高齢者の肺炎球菌ワクチンを公費で受けられるのは、いまは65歳の1年間だけです。66歳になった時点で定期接種の対象から外れ、同じ注射でも任意接種として自費になります。ただし、65歳のあいだに入院などで受けられなかった人には特例があり、自治体が独自に費用を補助している場合もあります。まず確かめるのは、本人の誕生日と、過去に一度でも肺炎球菌ワクチンを打ったことがあるかの2点です。
公費で受けられるのは「65歳の1年間」に絞られた
高齢者の肺炎球菌ワクチンは、予防接種法にもとづく定期接種です。ただ、対象の決め方が2024年4月に変わりました。
それまでは65歳のほかに70歳・75歳・80歳と5歳刻みの年に当たる人も対象になる経過措置があり、「今年は70歳だから受けられる」という案内が届いていました。厚生労働省のページには、65歳を超える方を対象とした経過措置は2024年3月31日に終了したと明記されています。2024年4月以降の対象は次のとおりです。
- 65歳の方
- 60〜64歳で、心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方
- 60〜64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
つまり、70歳や75歳の節目に案内が来ることは、もうありません。「5年ごとに受けられると聞いた」という記憶は、経過措置の時代の話です。私自身、親の予診票の束を見るまでそう思い込んでいました。
「65歳の方」とは、65歳の誕生日を迎えてから66歳の誕生日を迎えるまでの期間を指します。年度で区切るインフルエンザの高齢者接種と違い、こちらは本人の誕生日が起点になります。法律上の年齢は誕生日の前日に上がるため、案内によっては「65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日まで」と書かれています。期間の端は市区町村のページで確かめてください。いずれにしても、66歳の誕生日を過ぎた日から公費の枠は閉じます。
66歳になった翌日から、同じ注射が「任意接種」になる
対象を外れても、ワクチンそのものが打てなくなるわけではありません。医療機関で任意接種として受けられます。変わるのは費用と、万一のときの救済の仕組みです。
定期接種なら、市区町村が費用の大半を負担し、本人は自治体が決めた自己負担額を払います。金額は自治体ごとに違い、無料のところから数千円のところまで幅があります。生活保護世帯や住民税非課税世帯を無料にしている自治体も多いので、該当しそうなら窓口で確認を。任意接種になると、この補助がなくなり全額が自己負担です。医療機関が自由に価格を決めるため、同じ市内でも数千円の差が出ます。受ける前に電話で「肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)の自費の料金」を聞いてから予約したほうが、後で驚きません。
もう一つの違いは健康被害が起きたときの窓口です。定期接種は予防接種法にもとづく救済制度の対象で、申請先は市区町村です。任意接種は医薬品副作用被害救済制度という別の仕組みになります。給付の内容が同じではないため、「どうせ同じ注射だから」と軽く考えないほうがいい部分です。
一度でも打っていれば、65歳でも公費の対象にならない
ここを見落として窓口で断られる人がいます。厚生労働省のページには、既にニューモバックスNPを接種したことがある方は定期接種の対象とはなりません、とあります。過去に自費で受けた人も、経過措置の時代に70歳で受けた人も含みます。定期接種は生涯で1回きりです。
一方で、プレベナー13やバクニュバンスといった別の種類(結合型ワクチン)を打ったことがある人は、ニューモバックスNPの定期接種の対象に含まれます。同じ「肺炎球菌ワクチン」でも、種類が違えば扱いが変わります。
親が過去に受けたかどうか記憶があいまいなら、次の順で探します。
- 医療機関の接種済証や領収書。数年前のお薬手帳に貼られていることがある
- 市区町村の予防接種担当課。定期接種として受けた記録なら残っている
- かかりつけの医療機関のカルテ。自費で受けた分はここにしか記録がない
記録が見つからず本人も覚えていない場合、医師の問診で「受けたことがない」として進めることになります。ただし後で述べるように、5年以内の再接種は副反応が強く出やすいので、記録探しに手間をかける価値はあります。
65歳のあいだに入院や療養で受けられなかった人の特例
「65歳の年はちょうど手術と入院が重なって、それどころではなかった」という人向けの救済があります。長期療養特例と呼ばれ、対象年齢のあいだに長期にわたる療養で接種できなかった人は、その事情がなくなってから1年以内であれば定期接種として受けられます。
適用されるかどうかを決めるのは市区町村です。療養していた事実を示す医師の診断書や意見書を求められることが多く、様式は自治体ごとに用意されています。「1年以内」の起点は接種できる状態になった日なので、退院してすぐ動くのが安全です。66歳を過ぎてから思い出した場合でも、療養期間と回復日を医療機関に証明してもらえれば道は残っています。
対象になる療養は入院に限りません。免疫を抑える治療を受けていたなど、法令で定められた事情であれば対象になります。どれに当たるかは市区町村と医師が判断します。該当しそうなら、自己判断で自費にする前に市区町村への電話が先です。
66歳を過ぎた人の補助は、国ではなく自治体の独自事業
定期接種の枠は国が法令で決めていますが、それとは別に、自治体が独自の予算で費用を補助している場合があります。66歳以上の未接種者に一部を助成する自治体や、前回の接種から5年以上たった人の再接種に助成を出す自治体です。全国一律の制度ではないので、隣の市でやっていても自分の市にあるとは限りません。
探し方は、市区町村のサイトで「肺炎球菌 助成」と検索するのが早道です。定期接種のページとは別のページに載っていることが多く、年度の途中で予算が尽きて受付を締める自治体もあります。窓口は予防接種担当課で、保健センターや健康推進課など名称は自治体で異なります。電話で「66歳だが独自の助成はあるか」と聞けば、あるかないかはその場で分かります。
助成があっても、任意接種であることは変わりません。救済制度は任意接種の仕組みが適用されます。
「5年たったら2回目」の話をどう扱うか
肺炎球菌ワクチンは時間の経過で効果が下がるため、5年以上あけて再接種する考え方があり、医療機関でそう勧められることもあります。ただ、公費の対象は1回だけで、2回目以降は任意接種として自費です。
再接種を検討するとき、間隔が短いと副反応の問題があります。厚生労働省のQ&Aでは、過去5年以内に再接種した場合、注射部位の痛みや赤み、硬くなる反応が初回より高い頻度で、強く出るとされています。前回の日付が分からないまま2回目を打つのは避けたいところです。ここでも記録探しが効いてきます。
再接種が必要かどうかは、年齢や持病、前回からの年数で判断が変わります。かかりつけ医に前回の接種日を伝えて相談してください。
医療機関で「プレベナーにしませんか」と言われたら
高齢者の肺炎球菌ワクチンとして定期接種に位置づけられているのは、ニューモバックスNP(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)だけです。厚生労働省のページにも、その他のワクチンは定期接種としては使用できないと書かれています。
医療機関によっては、より新しい結合型ワクチン(プレベナー20など)を勧めるところがあります。医学的に意味のある提案ですが、こちらを選ぶと65歳であっても定期接種の補助は使えず、全額自費です。価格も多くの場合23価より高いので、勧められた時点で「それは定期接種の対象ですか、自費ならいくらですか」と確認してください。公費で1回受けたうえで、後から任意で別の種類を追加する組み合わせもあり、どちらが合うかは持病や年齢で変わります。
過去に肺炎になった人、いま持病がある人
「肺炎球菌の肺炎に一度かかったから、もう免疫がある」と考えて見送る人がいますが、厚生労働省のQ&Aでは、過去に肺炎や肺炎球菌感染症にかかった人も定期接種の対象になるとされています。かかった経験は、対象から外す理由になりません。
持病があって接種してよいか迷う場合は、予診の場で医師が判断します。免疫を抑える薬を使っている、発熱している、といった事情があれば当日に見送りになることがあります。その日が65歳の最終盤だと期間を逃す可能性があるので、誕生日が近い人は早めに日程を取るのが無難です。
インフルエンザと同じ日に受けられるか
秋は高齢者のインフルエンザ接種と時期が重なります。肺炎球菌ワクチンは不活化ワクチンで、医師が必要と認めれば同じ日に別の腕へ接種する扱いが認められており、65歳の誕生日が秋に来る人は、1回の受診で両方を済ませる相談ができます。ただ、同時接種に応じるかどうかは医療機関ごとの判断です。予約の電話で「肺炎球菌とインフルエンザを同じ日に打てますか」と先に聞いておくと、当日に片方だけ断られることを防げます。
同じ日に受けない場合、不活化ワクチン同士の間隔に法令上の制限はありません。翌週にもう一方を受けても差し支えない扱いですが、日取りは体調を見ながらかかりつけ医と決めてください。
案内が来ないまま65歳が終わりそうなとき
65歳の誕生月に案内や予診票を郵送する自治体は多いものの、全員に届くとは限りません。年度の初めにまとめて送る自治体、申し込んだ人にだけ予診票を出す自治体、そもそも個別通知をしない自治体があります。転入して間もない人は、前の住所に送られていることもあります。
案内が手元になくても、65歳であれば対象です。定期接種は「通知が来た人」ではなく「要件に当たる人」に対して行われるので、届かないからといって権利がなくなるわけではありません。誕生日から数か月たっても何も来ない場合は、市区町村の予防接種担当課に電話して、予診票を郵送してもらうか、窓口や指定医療機関で受け取れるかを聞いてください。66歳の誕生日まで残り1か月を切っているなら、電話した日に医療機関の予約まで取るつもりで動いたほうが確実です。
今週のうちに親と確かめる順番
窓口に電話する前に、手元で分かることを整理しておくと一度で済みます。
- 本人の生年月日を確認し、66歳の誕生日まであと何か月あるかを数える
- 過去に肺炎球菌ワクチンを打った記録を探す。接種済証・お薬手帳・領収書
- 市区町村の予防接種担当課に電話し、自己負担額、予診票の受け取り方、指定医療機関の一覧を聞く
- 66歳を過ぎている場合は「独自の助成があるか」「長期療養特例に当たるか」を同じ電話で聞く
- 医療機関に予約するときは、ワクチンの種類がニューモバックスNPかを確かめる
この記事の時点と、変わりうるところ
この記事は2026年9月8日時点で、厚生労働省の高齢者肺炎球菌感染症のページを確認して書いています。定期接種の対象者(65歳、60〜64歳の障害要件)、使用ワクチン、経過措置の終了日は、そのページの記述にもとづきます。
変わりうるのは、自治体の自己負担額と独自助成の有無、そして定期接種に使えるワクチンの種類です。結合型ワクチンを定期接種に加えるかどうかは国の審議会で議論が続いており、将来変わる可能性があります。この記事では検討段階の話は書いていません。自分の自治体の金額と助成は、本文の窓口で当年度の情報を確認してください。
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。
確認に使った資料
- 厚生労働省「肺炎球菌感染症(高齢者)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html