正月に高齢の親と餅を食べるとき、家族が前もってできるのは、餅を小さく切っておくこと、先にお茶や汁物で喉を潤してもらうこと、一口を少なくしてよく噛んでもらうこと、食べている様子を見守ることです。いずれも消費者庁が年末年始の高齢者の事故として挙げている予防のポイントです。
詰まったときは、咳ができるうちはできる限り咳をさせます。声が出ず強い咳もできなければ窒息と判断し、大声で助けを呼んで119番とAEDを頼み、すぐに背中の肩甲骨の間を手のひらの付け根で強く叩きます(背部叩打法)。呼びかけに反応がなくなったら心肺蘇生に切り替えます。
この記事では、消費者庁、政府広報オンライン、東京消防庁の資料から、事故がいつ、誰に多いか、食卓で何をするか、詰まったときの手順を順に確かめます。
1月、とくに三が日に集中している
消費者庁は2022年12月27日の公表資料で、厚生労働省の人口動態調査の調査票情報をもとに、65歳以上の餅による窒息死亡事故を集計しています。2018年が363人、2019年が298人で、計661人でした。
- 1月に起きたもの:282件(43%)
- 正月三が日:127件(19%)
- 元日だけで:67件(10%)
この集計は消費者庁が独自に行ったもので、公表されている統計の数値とは一致しない場合があると注記されています。政府広報オンラインは同じ期間の分析として、12月が14%、男性の死亡者数は女性の2.6倍と紹介しています。
救急搬送でも同じ傾向です。東京消防庁の管内(稲城市と島しょ地区を除く東京都)では、2020年から2024年の5年間に、餅などをのどに詰まらせて救急搬送された人が338人いました。月別では1月が135人、12月が42人で、この2か月で全体の半数以上です。年齢では65歳以上から増え、80歳代が最も多く、搬送された人の約9割以上が65歳以上でした。初診時の程度は約7割が中等症(入院が必要)以上です。東京消防庁の「餅など」には団子なども含まれます。
なぜ高齢者の喉に詰まりやすいのか
消費者庁の別添資料は、理由を二つの面から説明しています。
一つは体の変化です。高齢になると噛む力や飲み込む力が弱くなり、唾液の量も少なくなります。咳などで押し返す力も弱まっているので、一度詰まると重い窒息事故につながる可能性があるとしています。
もう一つは餅の性質です。餅は温度が下がるにつれて硬くなり、くっつきやすさも増します。お椀の中では柔らかく見えても、口に入れて喉を通るころには温度が下がって硬くなり、餅同士がくっついたり、粘膜に貼り付いたりしやすくなります。さらに、正月の雑煮の餅は久しぶりに食べることが多く、食べ慣れていないことにも注意が必要だと書いています。
食卓で家族がすること
消費者庁が挙げる予防のポイントは五つです。
- 餅は小さく切り、食べやすい大きさにする。 政府広報オンラインは、あらかじめ小さく切っておくよう勧めています。
- 飲み物や汁物を飲み、喉を潤してから食べる。 ただし、よく噛まないうちに飲み物や汁物で流し込むのは危険です。政府広報オンラインは、うまく飲み込めないからといってお茶などで無理やり流し込もうとするのは危険で、お茶や汁物は唾液の補助と考えるよう書いています。
- 一口の量を、無理なく食べられる量にする。
- ゆっくりよく噛んでから飲み込む。 政府広報オンラインは、少量ずつ口に入れてよく噛み、口の中の餅を全部飲み込んでから次を入れるようにとしています。よく噛むと唾液も出やすくなります。
- 高齢者が餅を食べるときは、周りの人も食事の様子に注意を払い、見守る。 少なめの量を口に入れているか、しっかり噛んでいるかを見ます(政府広報オンライン)。
東京消防庁の「事故を防ぐポイント」も同じ内容に、乳幼児と一緒に食べるときの見守りと、いざというときのために応急手当の方法をよく理解しておくことを加えています。
帰省先で親と食べるなら、雑煮をよそう前に餅を切っておく、最初に汁を一口飲んでもらう、親の隣の席に座る、といったことは食卓の準備の段階で決めておけます。
詰まったかもしれないときのサイン
次のような様子があれば、喉に詰まっている(気道閉塞)ことが疑われます(政府広報オンライン、消費者庁)。
- 咳込んだり、苦しそうにしている
- 声を出せず、親指と人差し指で喉をつかむしぐさをする(窒息のサイン、チョークサイン)
- 顔色が悪い。東京消防庁は、顔色が急に真っ青になったときも挙げています
まず呼びかけて、声が出せるかを確かめます。
詰まったときの手順
消費者庁の別添資料と政府広報オンラインの説明(いずれも日本救急医療財団の「救急蘇生法の指針2020(市民用)」をもとにしたもの)を、順番に並べるとこうなります。
- 咳ができるなら、できる限り強く咳をさせる。 詰まったものを自力で出せることもあります。
- 声が出ない、強い咳もできないときは窒息と判断する。 大声で助けを呼び、周りの人に119番通報とAEDを持ってくるよう頼みます。そして、すぐに異物除去を始めます。
- 救助者が1人のときは、相手に反応がある間は、119番より異物除去を優先する。 東京消防庁も、大声で応援を呼んでも誰も来ない場合は、119番通報とAEDの搬送をせずにすぐ異物除去を始めるとしています。
- 背部叩打法。 相手の後ろから、手のひらの付け根で、左右の肩甲骨の間あたりを数回以上力強く叩きます。東京消防庁は、相手が倒れている場合は手前に引き起こして横向きにし、自分の足で相手の胸を支えて背中を叩くとしています。
- 背中を叩いても出てこないときは、腹部突き上げ法。 政府広報オンラインによると、相手の後ろに回ってウエスト付近に手を回し、片方の手で握りこぶしを作って親指側をへその少し上(消費者庁の資料では、へその上方でみぞおちより十分下)に当て、もう片方の手でこぶしを握って、すばやく手前上方に突き上げます。妊婦、乳児、高度肥満の人には行いません。 行った場合は内臓を傷めている可能性があるので、救急隊にそのことを伝えるか、すぐ医師の診察を受けさせます。
- 呼びかけに反応がない、または途中で反応がなくなったら、すぐに心肺蘇生を始める。
途中でどうすればよいか分からなくなったら、119番に通報すると通信指令員がすべきことを指導してくれます。落ち着いて指示に従ってください(消費者庁、政府広報オンライン)。
東京消防庁は、事例として「自宅で食事中に雑煮の餅を詰まらせた。家族が取り除こうと試みたが、次第に意識を失った」(80代、死亡)と、「朝食に餅を食べていたところ、突然息ができないと苦しみだし、除去しようとしたが反応が無くなった」(70代、重症)を挙げています。どちらも、詰まったあとに取り除こうとしても間に合わなかった例です。
帰省前に準備しておけること
- 雑煮やお汁粉の餅は、器に入れる前に小さく切っておく
- 食卓では親の隣か向かいに座り、食べ終わるまで様子が見える位置にいる
- 背部叩打法の位置(左右の肩甲骨の間)と、手のひらの付け根で叩くことを家族で確かめておく
- 119番に電話すれば、途中から指示を受けられることを家族で共有しておく
東京消防庁はYouTubeの公式チャンネルで窒息の応急手当を動画で解説しています。政府広報オンラインは、心肺蘇生の手順を別の記事で案内しています。消費者庁は、総務省消防庁の「応急手当WEB講習」も参考として挙げています。
この記事で確認できなかったこと
2026年11月5日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- 餅を何センチ程度に切ればよいかという具体的な大きさ。資料は「小さく切り、食べやすい大きさに」とするだけです。
- 掃除機やノズルで吸い出す方法、口の中に指を入れてかき出す方法の是非。今回の資料には書かれていません。
- 2020年以降の全国の死亡者数。消費者庁の集計は2018〜2019年分、東京消防庁の数字は東京消防庁管内の救急搬送です。
- 嚥下の力が落ちている人に、餅をやめて代わりの食べ物にするべきかどうかの目安。医師や歯科医師などに相談する内容で、今回の資料にはありません。
参考資料
- 消費者庁 年末年始に増加する高齢者の事故に注意しましょう! — 予防の5つのポイント
- 消費者庁 公表資料(2022年12月27日) — 見出し「死亡事故の4割が1月に、約2割が正月三が日に発生」
- 消費者庁 別添 高齢者の事故に関するデータとアドバイス等 — 2018〜2019年の死亡661人の内訳、餅が硬くなる性質、背部叩打法・腹部突き上げ法
- 政府広報オンライン 餅による窒息に要注意!喉に詰まったときの応急手当は? — 窒息のサイン、手順、救助者1人のときの優先順位、予防の4つのポイント
- 東京消防庁 餅などによる窒息事故に注意! — 2020〜2024年の救急搬送338人、月別・年齢別・程度別、倒れている人への背部叩打法