職場に健康診断の案内が回ってきて、パートの自分だけ名前がなかった。よくある場面ですが、法律の側では「パートだから対象外」とは書かれていません。線を引いているのは雇用形態ではなく、契約期間と勤務時間の2つです。
会社に実施義務が生じるのは、次の両方に当てはまる人です。
- 契約期間 — 期間の定めのない契約で働いている。有期契約でも、契約期間が1年以上、更新で1年以上使われることが予定されている、またはすでに1年以上引き続き使われているなら、ここに含まれます
- 労働時間 — 1週間の労働時間数が、その事業場で同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上ある
両方そろえば、会社は1年以内ごとに1回、医師による健康診断を行わなければなりません。費用は会社が持ちます。
そして間違えやすいのが2つ目です。よく見かける「週30時間以上」という言い方は目安であって、条文側の基準ではありません。分母は自分の職場の通常の労働者の所定労働時間なので、職場によって境目の時間が変わります。
自分が対象かは、同じ仕事の正社員の時間から逆算する
要件の文言を、そのまま置きます。岡山産業保健総合支援センターは、常時使用する短時間労働者の条件をこう書いています。
期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年(労働安全衛生規則第45条において引用する同規則第13条第1項第2号に掲げる業務に従事する短時間労働者にあっては6月。)以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
「4分の3」は割合です。分母が決まらないと計算できません。
| 職場の通常の労働者の週の所定労働時間 | 4分の3にあたる時間 |
|---|---|
| 40時間 | 30時間 |
| 38時間45分 | 約29時間4分 |
| 37時間30分 | 約28時間8分 |
| 35時間 | 26時間15分 |
週40時間の職場なら、たしかに30時間が境目です。けれども週37時間30分の職場では、28時間ちょっとで4分の3に届きます。「30時間に足りないから自分は対象外」と早合点すると、本来受けられる健診を1年ぶん落とします。
もう一点。比べる相手は「同種の業務に従事する通常の労働者」です。会社全体の平均でも、本社の正社員でもありません。自分と同じ仕事をしている正社員がいるなら、その人の所定労働時間が分母になります。
今日できることは2つだけです。まず雇用契約書(労働条件通知書)を出して、自分の1週間の所定労働時間を書き写します。次に、同じ仕事の正社員の1週間の所定労働時間を調べます。こちらは就業規則に載っているので、見当たらなければ総務に「就業規則の所定労働時間の条文を確認したい」と伝えれば済みます。この2つの数字がそろえば、あとは割り算です。
4分の3に届かないとき — 「望ましい」の範囲に入ることがある
4分の3に足りなくても、そこで終わりではありません。同じ資料に、こう続きます。
1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満である短時間労働者であっても上記の①の要件に該当し、1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数のおおむね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施することが望ましいとされています
読み飛ばしやすいのは「①の要件に該当し」のところです。労働時間が2分の1以上でも、契約期間の条件は外れません。1つ目の要件は満たしたままである必要があります。
そして望ましい、であって義務ではありません。ここを取り違えて「義務ですよね」と押すと、話がこじれるだけで健診にはたどり着けません。聞き方を変えます。
- 聞く相手:健診の案内を出している担当(総務・人事)
- 聞く時期:案内が回る前。年度の初めか、前の年に案内が来た時期の1か月ほど前
- 聞く文言:「私の週の所定労働時間は◯時間で、同じ部署の正社員は◯時間です。4分の3に届いているか確認したいのですが、今年の定期健康診断の対象に入っていますか。入っていない場合、希望者として受けられる枠はありますか」
この聞き方だと、答えが「対象に入っている」「対象ではないが希望者枠がある」「どちらでもない」の3つに分かれます。3つ目だった人は、この記事の後半にある自分で受ける方法へ進んでください。
費用は会社。受診した時間が有給かどうかは職場ごとに違う
費用については、厚生労働省がはっきり書いています。
労働安全衛生法等で事業者に義務付けられている健康診断の費用は、法により、事業者に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています。
対象に入っているのに実費を求められたら、根拠にできるのはこの一文です。
一方、受診にかかった時間の賃金は、費用とは扱いが分かれます。 厚生労働省は一般健康診断と特殊健康診断を分けたうえで、一般健康診断については、受診のための時間の賃金は労使間の協議によって定めるべきものとし、円滑な受診を考えれば事業者が支払うことが望ましい、という位置づけを示しています。有害業務に就く人が受ける特殊健康診断は別で、受診に要した時間は労働時間であり賃金の支払いが必要とされています。
つまり、いま話題にしている年1回の定期健康診断では、受診時間が有給になるかどうかは職場の取り決めしだいということになります。就業規則や労使協定に定めがある職場もあります。シフトを出す前に確認しておけば、無給の職場だと分かったときに公休日へ回せます。
聞く文言はこれで足ります。「健診の受診時間は勤務時間として扱われますか。無給なら、公休の日に受けられる日程を選びたいのですが」。
案内が来ないまま1年が終わりそうなときの順番
- 雇用契約書で、自分の1週間の所定労働時間を確認する
- 同じ仕事の正社員の1週間の所定労働時間を、就業規則か総務で確認する
- 2の数字に0.75を掛けて、1がそれ以上かを見る
- 以上なら、前の節の文言で総務に照会し、実施予定の時期を聞く
- それでも実施されないなら、事業場を管轄する労働基準監督署へ
5まで行く場合、持って行くものを先に決めておくと話が早く終わります。事業場の名称と所在地、自分と同じ仕事の通常の労働者それぞれの1週間の所定労働時間、直近で健康診断を受けた時期(一度もないならその旨)。この3点があれば、対象に当たるかどうかの判断がその場で進みます。罰則は労働安全衛生法第120条第1号にあり、第66条第1項から第3項までに違反した者は50万円以下の罰金です。ただし罰則が向くのは会社であって、罰則があるから健診が受けられる、という関係ではありません。
対象外だった年に、自分で受けられるもの
会社の義務の外にいる年でも、受け皿はあります。分かれ目は年齢です。
40歳から74歳なら、加入している医療保険者に特定健康診査の実施義務があります。高齢者の医療の確保に関する法律第20条は「保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、四十歳以上の加入者に対し、特定健康診査を行うものとする」と定めていて、厚生労働省の説明では対象者は40歳から74歳です。
申し込む先は、自分がどの健康保険に入っているかで変わります。
| 加入している保険 | 申し込む先 |
|---|---|
| 勤め先の健康保険(協会けんぽ・健保組合)の被保険者 | その保険者 |
| 家族の扶養に入っている | 扶養している人の勤め先の保険者 |
| 国民健康保険 | 住んでいる市区町村 |
多くの保険者は受診券を郵送します。まず、届いた封筒を捨てていないか確かめてください。見当たらなければ、保険証(またはマイナ保険証で確認できる資格情報)に書かれた保険者名を控えて問い合わせます。
40歳未満は、この法律の対象ではありません。市区町村が独自に若い世代向けの健康診査を用意している例はありますが、あるかどうか、何歳からか、自己負担がいくらかは自治体ごとに違います。全国共通の制度としては当てにできないので、「(お住まいの市区町村名) 健康診査」で探すか、国民健康保険の窓口に直接聞くのが確実です。
対象に入ったあと、何を受けて、記録がどう残るか
定期健康診断の項目は、労働安全衛生規則第44条第1項に11個並んでいます。既往歴および業務歴の調査、自覚症状および他覚症状の有無の検査、身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査、胸部エックス線検査および喀痰検査、血圧の測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、尿検査、心電図検査。このうち第3号・第4号・第6号から第9号まで・第11号は、厚生労働大臣が定める基準に基づいて医師が必要でないと認めるときに省略できる、と同条第2項にあります。どの項目を何歳で省略できるかは告示で決まるため、省略された項目があっても、その場で不備とは限りません。
受けたあとの扱いはこうなります。結果は本人に通知されます(労働安全衛生法第66条の6)。会社は健康診断個人票を作成し、5年間保存します(労働安全衛生規則第51条)。常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断を行ったときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長へ結果を報告します(労働安全衛生規則第52条)。紙の報告書を思い浮かべる人もいますが、条文の文言は電子申請です。
入社したばかりで「去年の定期健診に間に合わなかった」という人は、別の入口があります。雇入時の健康診断は、常時雇用する労働者を雇い入れる際に実施することになっているので、入社の時期しだいでは、定期健診を待たずにそちらで受けている場合があります。自分の入社時に受けたかどうかは、総務に聞けばすぐ分かります。