秋の予防接種の案内が市区町村から出はじめました。60代前半で心臓や腎臓に持病を抱えている方が「自分も公費の枠に入るのでは」と考えるのは自然なのですが、ここは線の引き方がかなり特殊です。
結論を先に書くと、60歳から64歳で定期接種の対象になるのは、心臓・腎臓・呼吸器またはHIVによる機能障害が身体障害者手帳1級に相当するときだけ。通院して薬を続けている段階では入りません。判定材料は病名ではなく等級なので、手帳が手元にあるなら1ページ目の等級欄を先に見てください。手帳がないなら、後半の自費と補助の探し方に飛んでもらったほうが早いです。
なお期間や金額は毎年決め直されます。この記事の数字は2026年9月6日に自治体ページを開いて確認した令和8年度分です。
条文が二段構えなので、政令だけでは範囲が決まらない
対象者を決めているのは予防接種法施行令の第三条第一項です。インフルエンザの欄は二つに分かれています。
一 六十五歳以上の者
二 六十歳以上六十五歳未満の者であって、心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能の障害又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有するものとして厚生労働省令で定めるもの
二号の末尾に注目してください。「厚生労働省令で定めるもの」と投げているので、政令をいくら読んでも範囲は確定しません。受け取っているのは予防接種法施行規則の第二条の四で、そこにはこう書かれています。
心臓、腎臓又は呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者及びヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者
「自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度」。この一節が実質です。名古屋市も八王子市も、案内ではこれを「身体障害者手帳1級相当」という一行に置き換えています。どちらのページも2026年9月1日の更新で、令和8年度分の記載でした。
自治体のページだけを読むと、「1級相当」がどこから来た基準なのか分かりません。逆に条文だけでは、自分が当てはまるかどうかを測る物差しがない。政令から省令へ二つ続けて開いて、ようやく窓口が何を見て判定しているのかが見えました。
見られているのは病名ではなく、いまの機能の等級
そもそも聞かれているのは、「持病があるかどうか」ではありません。
挙がっているのは四つ。心臓、腎臓、呼吸器、そしてHIVによる免疫の機能障害です。糖尿病、高血圧、脂質異常症、がんの治療中といった状態は、病名としてはこの四つに入りません。毎月通院して薬を飲んでいても、それだけでは二号の入り口に立てないということです。
一方で、原因になった病気が何であるかは問われません。糖尿病から腎症が進み、腎臓の機能障害で1級の身体障害者手帳を持っているなら、それは腎臓の欄で対象になります。呼吸器も同じで、原因が喫煙でも職業性のものでも、いま認定されている等級だけを見ます。
だから確認の順番は、病名から入らないほうが速いです。手帳を持っているか、持っているならその等級は何級か。この二問で大半は決まります。
同じ表の中でも、ワクチンごとに条件が違う
見落としやすいのがここです。施行令第三条第一項の表には高齢者向けの疾病が複数並んでいますが、年齢の書き方が同じではありません。
| 疾病 | 一号(年齢だけで対象) | 二号(60〜64歳) |
|---|---|---|
| インフルエンザ | 六十五歳以上の者 | 心臓・腎臓・呼吸器またはHIV |
| 新型コロナウイルス感染症 | 六十五歳以上の者 | 心臓・腎臓・呼吸器またはHIV |
| 肺炎球菌感染症(高齢者がかかるものに限る) | 六十五歳の者 | 心臓・腎臓・呼吸器またはHIV |
| 帯状疱疹 | 六十五歳の者 | HIVのみ |
インフルエンザと新型コロナは「六十五歳以上」。毎年めぐってくる枠です。肺炎球菌と帯状疱疹は「六十五歳の者」で、「以上」が付きません。案内が来るのは65歳になる年度の一度きり。そこを逃すと、同じ条件では戻ってきません。
帯状疱疹だけ、60代前半の入り口が狭い
表の右下だけ、条件が一つ落ちています。帯状疱疹の二号は「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害」だけで、心臓・腎臓・呼吸器が入っていません。
つまり、心臓の機能障害で1級の手帳を持っている63歳の方は、インフルエンザと新型コロナと肺炎球菌については60〜64歳枠で対象になりますが、帯状疱疹については対象外です。同じ手帳を持って同じ窓口に行っても、ワクチンによって答えが変わる。四つを並べて比べないと見えない差です。
自己負担額は国ではなく市区町村が決めている
対象者と実施期間の枠組みは国が決めますが、窓口でいくら払うかを決めているのは住んでいる市区町村です。同じ制度でも金額はそろいません。
| 八王子市 | 名古屋市 | |
|---|---|---|
| 自己負担額 | 2,500円(助成は期間内1回のみ) | 1,500円(免除制度あり) |
| 実施期間 | 令和8年10月1日〜令和9年1月31日 | 令和8年10月1日〜令和9年1月31日 |
| 60〜64歳が出すもの | 身体障害者手帳等の写し | 身体障害者手帳の写しまたは医師の診断書 |
期間はそろっているのに、金額は1,000円離れています。検索で出てきた「高齢者は◯円」という記述は、その自治体が決めた額でしかありません。自分の住所地のページを開くまでは、金額は分からないものとして扱ってください。
「対象になる」と「無料になる」は別の話
公費という言葉から全額補助を思い浮かべると、当日に金額を言われて面食らいます。定期接種の対象に入るというのは、費用の一部を市区町村が持つという意味で、窓口負担がゼロになるとは限りません。八王子市なら2,500円、名古屋市なら1,500円を接種する人が払います。無料と書いている自治体もありますが、それはその自治体がそう決めたからです。
免除の仕組みを置いているところもあります。名古屋市の令和8年度の案内には免除制度がある旨の記載がありました。誰がどの条件で免除されるのか、申請の締め切りはいつなのか。どちらも自治体ごとに違うので、自分の市区町村のページを見るしかありません。しかも免除の手続きを接種より前に済ませる形になっていると、当日の窓口では間に合わない。予約より先に開いておくページです。
窓口に出すもの — 手帳の写しか、医師の診断書か
60〜64歳で受ける場合、65歳以上の人には要らない書類が一枚増えます。
八王子市は「身体障害者手帳等の写し(60歳から64歳の方のみ)」。名古屋市は身体障害者手帳の写し、または医師の診断書を接種時に提出するとしています。名古屋市のほうは診断書という道が明示されていますが、八王子市の案内は手帳を軸にした書き方です。
手帳をまだ取っていない状態で「主治医に書いてもらえば通るはず」と考えるのは危険です。診断書を認めるかどうかは自治体側の運用で、しかも診断書には文書料がかかり、額は医療機関が決めます。自己負担額を上回ることもあるので、書いてもらう前に予防接種担当へ一本電話を入れておくと無駄がありません。聞くことは二つで足ります。手帳がなくても対象になるか、なるなら診断書に何を書いてもらえばいいか。
電話で聞くときは、等級から先に言う
予防接種担当に問い合わせるとき、「持病があるんですが対象になりますか」と切り出すと、たいてい話が長くなります。担当が判定に使っているのは病名ではないので、そこから病名を聞き取り、手帳の有無を確かめ、と往復が増えるだけ。
順番を変えると早く終わります。「身体障害者手帳の1級を持っています。心臓の機能障害です。60歳から64歳の定期接種の対象になりますか」。等級と機能の名前を先に出せば、担当はその場で表と突き合わせられます。手帳がないなら「手帳はありません。医師の診断書でも対象になりますか」と最初に言ってしまう。自治体で扱いが割れるのはまさにそこなので、聞き直しが一往復減ります。
ついでに二つ確かめておくと、当日の手戻りがなくなります。予診票は郵送されるのか、医療機関で受け取るのか。それと、実施医療機関の一覧がどこに載っているか。この二つは対象かどうかとは別の話ですが、聞きそびれると結局もう一度かけ直すことになります。
予診票が郵送されない自治体がある
「案内のハガキが来ないから自分は対象外なのだろう」。これで受け損ねる人がいます。
八王子市は助成券などを配付していません。実施医療機関に事前予約し、接種当日に医療機関で予診票を受け取るという流れです。通知が届くかどうかは対象かどうかとは別の話で、自治体の事務のやり方の違いにすぎません。
自分の市区町村がどちらの型かは、サイトで「予診票」「接種券」「申込」のあたりを見れば分かります。郵送型なら届く時期が書いてあり、非郵送型なら医療機関へ直接予約するよう案内されています。65歳以上と60〜64歳で扱いが分かれている場合もあるので、自分の年齢の側の記載を探してください。
国のページを先に開くと、今年の話が載っていない
制度を調べるとき厚生労働省から入るのは自然ですが、この件では遠回りになります。
厚生労働省の新型コロナワクチンのページを2026年9月6日に開いた時点で、更新日は2026年3月3日でした。令和8年度については「詳細が決まり次第お知らせいたします」という状態です。一方、八王子市と名古屋市のページは9月1日付けで、令和8年度の実施期間も自己負担額も出ていました。
制度の枠組みを知りたいときは国、自分がいつどこでいくら払うかを知りたいときは市区町村。今回のように国の更新が半年前で止まっている場面では、国から入っても空振りになります。
誕生日が接種期間の途中に来る場合
64歳で、この秋に65歳になる。この並びの方は、待つという選択肢があります。
八王子市は「接種当日に八王子市に住民登録がある65歳以上の方」、名古屋市は「接種日において満65歳以上の方」。どちらも接種日の年齢で判定します。年度末時点の年齢ではありません。手帳がなくて60〜64歳枠に入れない方でも、誕生日を過ぎてから予約すれば一号のほうで対象になります。
ただし期間の終わりが壁になります。両市とも令和9年1月31日まで。12月や1月に65歳になるなら日程がかなり詰まるので、先に医療機関の予約枠が埋まっていないかを確かめておくほうが安全です。誕生日が2月以降なら、その年度は待っても間に合いません。自費で先に打つか、翌年度に回すかの判断になります。
対象から外れたとき、補助はどこにあるか
四つの機能障害に当たらなかった場合、公費の枠は使えません。それでも探し先はいくつか残ります。
勤め先の健康保険組合や共済組合が接種費用を補助していることがあります。これは自治体ではなく保険者の制度なので、市区町村サイトを探しても出てきません。加入している健保のサイトで「予防接種 補助」を探すか、総務に聞くのが確実です。
市区町村が定期接種とは別に独自の助成を置いていることもあります。その場合は「任意接種の助成」という見出しで載っていて、対象は子どもや妊婦に限られていることが多いです。
どこにも当たらなければ全額自費です。金額は医療機関がそれぞれ決めているので、同じ市内でも差が出ます。かかりつけがあるなら、値段だけで初めての医療機関に移るより、予防接種の記録が一か所に残るほうを優先してもいいと思います。
来年もう一度読むときに、見直す場所
この記事のうち、年が変われば確かめ直す必要があるのは次の部分です。ここだけ押さえておけば、条文の側は当分変わりません。
- 実施期間(令和8年度は10月1日〜令和9年1月31日)
- 自己負担額(八王子市2,500円、名古屋市1,500円)
- 手帳がないときに診断書を認めるかどうかの運用
- 新型コロナの定期接種について国が出す年度ごとの案内
逆に、施行令第三条第一項の対象者の表と、施行規則の「日常生活活動が極度に制限される程度」という表現は、法令が改正されない限りそのままです。60〜64歳の線引きを毎年調べ直す必要はありません。
今日のうちに手を動かす順番
- 身体障害者手帳の等級欄を見る。1級でなければ、この枠は使えないと考えて自費・補助の側へ切り替える
- 「(市区町村名) 高齢者インフルエンザ 定期接種」で検索し、実施期間と自己負担額を控える
- そのページ内に「60歳」「64歳」の記載があるか探す。無ければ予防接種担当へ電話して、持ち物と診断書の可否を聞く
- 実施医療機関に予約する。60〜64歳枠なら、予約の時点で手帳を持っていることを伝えておく
手帳の写しは接種当日に出します。コピーを一枚とって、予診票と一緒にしておくと当日あわてません。
確認に使った資料
- 予防接種法施行令 第三条第一項(e-Gov 法令API で全文を取得。対象疾病と年齢の表)
- 予防接種法施行規則 第二条の四ほか(同上。「厚生労働省令で定める者」の中身)
- 八王子市「令和8年度(2026年度)高齢者インフルエンザ予防接種について」2026年9月1日更新
- 名古屋市「令和8年度高齢者を対象としたインフルエンザ予防接種」2026年9月1日更新
- 厚生労働省「新型コロナワクチンの接種について」2026年3月3日更新
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。