国民健康保険料が払えないとき、法律の側に用意されている手は一つではありません。保険料そのものを軽くする減免、納める時期を先に延ばす徴収猶予、そして病院の窓口で払う一部負担金を軽くする措置が、それぞれ別の条文に書かれています。ただし、どれも「いくら減るか」は法律に書かれていません。要件と金額を決めているのは、住んでいる市区町村の条例、または加入している国民健康保険組合の規約です。まず手元の納入通知書を用意して、そこに書かれた担当へ連絡してください。
減免と徴収猶予は、同じ条文の中の別の措置
国民健康保険法第77条は、次の一文だけです。
市町村及び組合は、条例又は規約の定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる。
ここに2つの措置が並んでいます。保険料を減免すること、そしてその徴収を猶予すること。条文は「又は」でつないでいて、減免と猶予は同じものではありません。相談のときに「減免したい」とだけ伝えると、猶予のほうは検討されないまま終わることがあります。保険料の額を下げてほしいのか、払う時期を先に延ばしてほしいのか、自分がどちらを求めているかを分けて話してください。
なお、猶予される期間の長さ、猶予中の延滞金の扱い、担保が必要かどうかは、この第77条には書かれていません。ここは条例と市区町村の案内で確認する部分です。
「いくら減るか」の答えが人によって違う理由
第77条で金額や割合を決めているのは法律ではなく、「条例又は規約」です。市町村であれば条例、国民健康保険組合であれば規約。つまり、どの事情を「特別の理由」として拾うかも、減らす幅も、自治体や組合ごとに決められています。
ですから、ほかの市に住む人から聞いた「うちは何割減った」という話は、そのままあなたに当てはまりません。確認するのは、次の4点です。
- どの事由が減免・徴収猶予の対象として条例・規約に挙げられているか
- 申請できる時期(いつまでに出すか)
- どの期(納期)の保険料が対象になるか
- 申請に必要な書類
このうち必要書類は自治体ごとに違うため、電話で最初に聞くのは「何を持っていけばよいか」で構いません。
請求されるのは世帯主。本人が被保険者でなくても
第76条第1項は、保険料を誰から徴収するかを定めています。
被保険者の属する世帯の世帯主(当該市町村の区域内に住所を有する世帯主に限る。)から保険料を徴収しなければならない
被保険者が子どもや配偶者だけで、世帯主自身は会社の健康保険に入っている場合でも、条文は世帯主から徴収すると書いています。世帯主が被保険者であることは要件になっていません。一方で「当該市町村の区域内に住所を有する世帯主に限る」という限定が付いているので、世帯主が別の市区町村に住んでいる場合の扱いは、この条文だけでは決まりません。
通知書の宛名が自分になっているかを確認してください。相談や申請の窓口に立つのも、通知書の宛名になっている人が基本です。
通知書が「保険料」か「国民健康保険税」かを見る
同じ第76条第1項には、ただし書があります。
地方税法の規定により国民健康保険税を課するときは、この限りでない。
市町村は、国民健康保険料として徴収するか、地方税法にもとづく国民健康保険税として課するかのどちらかを選んでいます。手元の通知書に「保険料」と書いてあるか「保険税」と書いてあるかで、根拠になる規定が変わります。
減免についても、保険料なら第77条と条例、保険税なら地方税法の側の規定が出てきます。通知書の名称と、そこに記載された担当課を確認してから連絡すると、たらい回しを避けられます。この記事では、保険税として課される場合の地方税法側の規定は確認していません。
病院の窓口で払う分は、第44条の別の手続き
保険料の話とは別に、受診したときに窓口で払う一部負担金についても条文があります。第44条第1項です。
市町村及び組合は、特別の理由がある被保険者で、保険医療機関等に第四十二条又は前条の規定による一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し、次の各号の措置を採ることができる。
挙げられている措置は3つです。
| 措置 | 条文の書き方 |
|---|---|
| 減額 | 一部負担金を減額すること |
| 免除 | 一部負担金の支払を免除すること |
| 徴収猶予 | 保険医療機関等に対する支払に代えて、一部負担金を直接に徴収することとし、その徴収を猶予すること |
第2項は、措置を受けた後に窓口でどう払うかを定めています。減額の措置を受けた人は「その減額された一部負担金を保険医療機関等に支払うをもつて足り」、免除または徴収猶予の措置を受けた人は「一部負担金を保険医療機関等に支払うことを要しない」とあります。
ここも「することができる」という書き方で、申請すれば必ず通る制度ではありません。何を特別の理由とするかの具体的な基準は第44条には書かれていないため、市区町村・組合の案内で確認してください。保険料を滞納している人がこの措置を受けられるかどうかも、条文からは判断できません。
相談する前に手元へ置くもの
- 納入通知書(名称が「保険料」か「保険税」か、納期限、金額、宛名、担当課)
- 収入や支出が変わった事実を示せるもの(給与明細、離職を証明する書類、医療費の領収書など、手元にあるもの)
- 聞くことを分けたメモ。保険料の減免、徴収猶予、受診予定があれば一部負担金の措置
納期限を過ぎてから相談できるかどうかは、条例の定め方によります。申請できる時期も条例で決まるため、納期限の前に一度連絡しておくほうが選べる手は多くなります。
この記事で確認していないこと
今回読んだのは国民健康保険法の第44条・第76条・第77条です。次の点は、この3条には定めがないか、政令・条例の範囲なので扱っていません。
- 低所得世帯の均等割・平等割の軽減(いわゆる7割・5割・2割軽減)の要件
- 延滞金の割合と、猶予が認められた場合の延滞金の扱い
- 分割納付が認められるかどうか
- 滞納が続いた場合の資格確認に関する取り扱い
- 各市区町村の具体的な減免割合・申請期限・必要書類
自分の条件に当てはまるかどうかは、市区町村の国民健康保険の担当か、加入している国民健康保険組合に確認してください。
参考資料
- e-Gov法令検索 法令API 国民健康保険法 第七十七条(保険料の減免等)
- e-Gov法令検索 法令API 国民健康保険法 第七十六条(保険料)
- e-Gov法令検索 法令API 国民健康保険法 第四十四条(一部負担金の減免等)
いずれも2026年11月3日に取得し、改正法「医療法等の一部を改正する法律」(令和七年法律第八十七号)による2026年10月1日施行の現行条文として表示されたものです。