親が別の市区町村の特別養護老人ホームや有料老人ホームに入り、住民票を施設の住所へ移しても、介護保険は入所前に住んでいた市区町村が引き続き担当します。介護保険法13条が定める「住所地特例」です。要介護認定、介護サービスの給付、介護保険料の賦課・徴収も、入所前の市区町村が行います。
住民票は、生活の本拠になる施設の市区町村へ移します。介護保険の届書は、介護保険法施行規則25条により、特例の適用を受けるようになった日から14日以内に、保険者である入所前の市区町村へ出します。窓口や出し方、住民票の手続きで済ませられるかどうかは、入所前の市区町村の案内で確かめます。
法律では「入所前の市町村の被保険者とする」
介護保険は、住民票のある市区町村の被保険者になるのが原則です。介護保険法13条1項は、その例外として、住所地特例対象施設に入所・入居して施設の所在地に住所を変更した人のうち、入所の際に別の市町村に住所があった人は「当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とする」と定めています。
自治体の案内は、この特例の理由を財政の偏りで説明しています。新宿区のページによると、施設の入所者を一律に施設所在地の被保険者にすると、介護保険施設が集中して建てられている市区町村の給付が増え、財政上の不均衡が生じるためです。
保険者が入所前の市区町村のままなので、手続きの相手もその市区町村です。神戸市は、特例の対象になった人の転出入後の要介護認定、介護保険の給付、介護保険料の徴収等も保険者の市町村が行うとしています。北九州市は、市外の対象施設に入所して住民票を移した人について「介護保険料は北九州市に納付します」と書いています。
対象になるのは要介護認定を受けている人だけではありません。新宿区と神戸市は、認定の有無に関わらず要件に当てはまれば対象としています。新宿区の案内では、65歳以上の人と、40歳以上65歳未満で医療保険に加入している人が対象です。
対象になる施設とならない施設
2026年10月1日施行の介護保険法13条1項が挙げる住所地特例対象施設は、介護保険施設、特定施設、養護老人ホームの3つです。法律の定義と施行規則をたどると、次のようになります。
| 区分 | 含まれる施設 | 外れるもの |
|---|---|---|
| 介護保険施設(法8条25項) | 指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護医療院 | 定員29人以下の地域密着型介護老人福祉施設 |
| 特定施設(法8条11項・施行規則15条) | 有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム | 地域密着型特定施設 |
| 養護老人ホーム(法13条1項3号) | 老人福祉法11条1項1号の入所措置がとられた入所 | ― |
養護老人ホームは2か所に出てきます。施行規則15条は特定施設の一つとして挙げ、13条1項3号は老人福祉法11条1項1号の入所措置がとられた入所を対象としています。親の入所が措置によるものかどうかで迷うときは、入所前の市区町村に確認してください。
e-Govには、2027年4月1日施行予定の改正後の13条も載っています。そこでは対象施設に「特定地域介護保険施設」が加わり、4つの区分になります。施行後は区分が変わるため、入所の時点の条文や市区町村の案内で確かめてください。
特別養護老人ホームのうち介護保険法でいう介護老人福祉施設は、入所定員が30人以上のものです(法8条27項)。世田谷区と中央区も、定員29人以下の施設を除くと明記しています。認知症対応型共同生活介護(グループホーム)も対象外で、北九州市と新宿区は地域密着型の施設を住所地特例の対象外としています。
鹿児島市は、特定施設は特定施設入居者生活介護の指定の有無に関わらず、すべてが住所地特例の対象になると案内しています。
サービス付き高齢者向け住宅は「有料老人ホームに当たるか」で決まる
サ高住は、すべてが対象ではありません。新宿区は、特定施設入居者生活介護の指定を受けている施設と、有料老人ホームに該当するサービス(介護、家事、食事、健康管理のいずれか)を提供する施設を対象とし、安否確認・生活相談サービスのみを提供する施設は対象外としています。北九州市も、有料老人ホームに該当しない「食事の提供等のないサービス付き高齢者向け住宅」は対象とならないと書いています。
入る予定のホームが対象かどうかは、一覧で確かめられます。厚生労働省は、都道府県・指定都市・中核市に、住所地特例の対象である有料老人ホーム(対象となるサ高住を含む)の一覧を作ってホームページで公表するよう求めており、各自治体の一覧へのリンクをまとめたページを置いています。ただし同省の注記どおり、都道府県の一覧には管内の指定都市・中核市のホームは含まれていません。施設が政令市や中核市にあるなら、その市の一覧を見ます。
住民票を移さなければ、特例は使わない
住所地特例は「施設の所在地に住所を変更した」人の特例です。施設に入っても住民票を移さなければ、もともと入所前の市区町村の被保険者のままで、特例を使う場面がありません。
新宿区は、民法22条の「生活の本拠を住所とする」を引いて、施設に入所した場合は住所も施設の所在地に移さなければならないと説明しています。一方で、介護老人保健施設は入所期間がおおむね3〜6か月のため、住民登録を施設に置くことを認めていない施設もあるとし、その場合は住所地特例の適用にならず、入所前の住所地の資格が続くとしています。
注意したいのは、施設とは別の場所へ住民票を移す場合です。
- 施設入所に合わせて親族の家に住民票を移すと、その家のある市区町村の被保険者になります(新宿区)。
- A市の自宅からB市の施設に入り、住民票はB市内の一般の住居に移した場合は、B市の被保険者になります(神戸市)。
施設を移ったとき、施設を出たとき
施設から別の施設へ移ることもあります。介護保険法13条2項は、対象施設に続けて入所し、そのたびに住所を移した人については、最初の施設に入所した際に住んでいた市町村を保険者としています。
神戸市の例で整理すると次のとおりです。
- A市の自宅 → B市の施設 → C市の施設(またはB市内の別の施設):住民票も施設ごとに移していれば、A市の住所地特例者のまま
- A市の自宅 → B市の施設 → C市(またはB市内)の一般の住居:B市の施設にいる間はA市、一般の住居に移ったあとはその住所地の市町村が保険者
届出は「住民票」と「介護保険」の二本立て
住民票:転出届は先に、転入届は14日以内
住民基本台帳法24条は、転出をする人は「あらかじめ」氏名、転出先、転出の予定年月日を市町村長に届け出るとしています。22条は、転入した人は転入をした日から14日以内に届け出るとしています。順番は、入所前の市区町村に転出届を出し、入所後に施設のある市区町村へ転入届を出す形です。
介護保険:14日以内に、入所前の市区町村へ
介護保険の届出には全国共通の決まりがあります。介護保険法施行規則25条は、次のときに14日以内に届書を「当該者に対し介護保険を行う市町村」、つまり保険者である入所前の市区町村に出すよう定めています。
- 住所地特例の適用を受けるようになったとき(1項)
- 対象施設から続けて別の対象施設に入り、住所を順次変更したとき(1項)
- 特例の適用を受けなくなったとき(2項。死亡などで被保険者の資格を失った場合を除く)
届書には、適用を受けた日や住所を変えた日、氏名・現住所・従前の住所・個人番号、入所先の施設の名称、被保険者番号、世帯主に関する事項を書きます。施行規則33条2項により、被保険者証と負担割合証を添えます。施設のある市区町村に出す届ではありません。
横浜市の届出様式は、この3つの場面を「在宅→施設:適用」「施設→施設:変更」「施設→在宅:終了」と呼んでいます。新宿区は運用として、住所地特例の適用者が亡くなった場合も終了届の対象としています。
窓口や出し方は市区町村ごとに案内があります。今回確認した例は次のとおりです。
- 名古屋市: 入所前に最後に住んでいた区の区役所に、「介護保険住所地特例適用・変更・終了届」と介護保険被保険者証を出します。
- 新宿区: 同じ名前の届を、住民異動があった日から14日以内に介護保険課資格係か特別出張所へ出します。
- 中央区: 本人か家族が、転出手続きの際に届を出します。オンラインでも届け出られます。
- 鹿児島市: 市外の対象施設へ入所する場合は、転出時に本人側の届出が必要で、施設からの届出も必要としています。
- 神戸市: 本人の届出は不要としています。転出・転入届で住民票の異動が済んだあと、施設からの連絡と市町村間の連絡で特例を適用する運用です。
施設側にも「入所(居)・退所(居)連絡票」を出す役割があり、介護保険法13条3項は、施設が施設所在市町村と保険者の市町村に必要な協力をしなければならないと定めています。
被保険者証の扱いは市区町村で違います。名古屋市は届出のときに被保険者証を出すよう案内しています。神戸市は、新しい被保険者証を市町村間の手続きが終わってから保険者の市町村が送るため、手元に届くまで時間がかかることがあるとしています。
国民健康保険と後期高齢者医療にも同じ特例がある
鹿児島市は、介護保険と同様の理由で国民健康保険と後期高齢者医療にも住所地特例があり、対象施設が若干異なると案内しています。
国民健康保険(65〜74歳の親など)。 国民健康保険法116条の2は、病院・診療所への入院、特別養護老人ホームや養護老人ホームへの措置入所、介護保険法の特定施設への入居や介護保険施設への入所などで住所を移した人を、入院・入所前の市町村に住所があるものとみなします。介護保険と違い、病院への入院も含まれます。届出は介護保険とは別です。国民健康保険法施行規則5条の2は、特例の適用を受けるようになったときや続けて別の病院等に移ったときは、入院等の前に属していた世帯の世帯主と、入院等で属することになった世帯の世帯主が、それぞれ14日以内に、その世帯主が住所を有する市町村へ届書を出すと定めています。適用を受けなくなったときも14日以内です。名古屋市はこれを「国民健康保険の被保険者住所地特例届」として受け付けており、退院・退所や施設を変わる場合も届出が必要としています。
後期高齢者医療(75歳以上)。 後期高齢者医療の保険者は、都道府県ごとにすべての市町村が加入する広域連合です(高齢者の医療の確保に関する法律48条)。同法55条の特例は、入院・入所の際に「他の後期高齢者医療広域連合」の区域に住所があった人が対象なので、働くのは都道府県をまたいで施設に入る場合です。鹿児島市は、県外の施設に入所する場合は住所が県外に移っても保険者は鹿児島県後期高齢者医療広域連合のままで、資格確認書やマイナ保険証を持っていれば手続きは不要(住所欄に書く場所がなければ再交付)、県内の施設に入所する場合は転出先の市町村で手続きをするよう案内しています。
国保の住所地特例を受けている人が75歳になったときは、同法55条の2により、国保で住所があるとみなされていた市町村が加入する広域連合の被保険者になります。
この記事で確認できなかったこと
2026年10月27日時点で、次の点は今回の資料では確認できていません。
- 2027年4月1日施行予定の改正で加わる「特定地域介護保険施設」がどの施設を指すか。今回は改正後の13条の条文だけを読みました。
- 介護保険法12条5項は、住民基本台帳法の転入・転出などの届書に同法28条の3による介護保険の資格の付記がされたとき、同じ事由による介護保険の資格の届出があったものとみなしています。この規定が住所地特例の届書にも及ぶかどうか。神戸市の「本人の届出は不要」がこれによるものかは、案内に書かれていません。
- 住所地特例の対象者が、施設のある市区町村の地域密着型サービスや、市区町村独自の福祉サービスを使えるかどうか。
- 施設入所で住所が変わったときに、年金から天引きされている介護保険料の扱いが変わるかどうかの全国共通の扱い。
- 会社の健康保険(被用者保険)に入っている人の医療保険の扱い。今回は国民健康保険と後期高齢者医療の特例だけを確認しました。
参考資料
- e-Gov法令検索 介護保険法(第8条・第12条・第13条)
- e-Gov法令検索 介護保険法施行規則(第15条・第25条・第33条)
- e-Gov法令検索 国民健康保険法(第116条の2)
- e-Gov法令検索 国民健康保険法施行規則(第5条の2)
- e-Gov法令検索 高齢者の医療の確保に関する法律(第48条・第55条・第55条の2)
- e-Gov法令検索 住民基本台帳法(第22条・第24条)
- 厚生労働省 全国の有料老人ホームの一覧(住所地特例対象施設に限る)
- 新宿区 介護保険住所地特例
- 名古屋市 住所地特例の届出
- 名古屋市 【電子届出】国民健康保険の被保険者住所地特例届(入院・入所)
- 中央区 介護保険 転入転出等に伴う届出や保険料
- 中央区 こんなときは届出をしましょう(介護保険)
- 世田谷区 介護保険加入者資格の特例
- 神戸市 介護保険の住所地特例制度
- 北九州市 住所地特例(介護保険制度)について
- 鹿児島市 介護保険の住所地特例とはどのような制度ですか。
- 鹿児島市 市外の施設に入所することになったのですが、後期高齢者医療の手続きはどうすればよいですか。
- 横浜市 介護保険 住所地特例 適用・変更・終了 届(第3号様式)