熱中症の「軽度」がどこまでを指すのかは、症状の名前を並べても決まりません。線を引いているのは三つだけです。意識がはっきりしているか。自分で水と塩分を飲めるか。涼しい所で休んで症状が良くなるか。三つそろっている間が軽度(Ⅰ度)で、一つでも崩れた時点で軽度ではなくなります。裏を返せば、三つそろっているなら救急車を呼ぶ話にはなりません。休ませて、そばで見ていてください。
軽度(Ⅰ度)に入る症状
日本救急医学会は、暑い環境にいる、またはいた人に出る次の症状を熱中症としています。めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温。
このうち軽度(Ⅰ度)に入るのは前半です。
- 立ちくらみ、めまい、一瞬の失神
- 大量の発汗、強いのどの渇き
- こむら返り、筋肉痛
- 生あくび
- 軽いだるさ、軽い気分の悪さ
「生あくび」は見落とされやすい入口です。眠いわけでもないのにあくびが続くとき、体はもう暑さに追いつけていません。
立ちくらみは「熱失神」、こむら返りは「熱けいれん」という名前が付いています。環境省の熱中症環境保健マニュアルは、どちらも熱中症の初期のサインとして重要だと書いています。ふくらはぎがつっただけ、少しふらついただけ、と流されやすい症状ですが、そこが軽度の入口です。
頭痛と嘔吐が後半に来ているところを見てください。この二つが出た時点で、もう軽度の範囲を外れかけています。
ここを越えたら軽度ではない — 三つの線
環境省のマニュアルが示す線は次の三つです。どれか一つでも「軽度ではないサイン・行動」に当てはまれば、軽度の自己対処を打ち切って病院へつなぎます。
| 確認すること | 軽度(Ⅰ度)の範囲 | 軽度ではないサイン・行動 |
|---|---|---|
| 呼びかけへの反応 | 名前を呼ぶと会話が成立する | 返事がかみ合わない・目の焦点が合わない・反応が遅いなら、すぐ病院へ搬送 |
| 水分・塩分 | 自分で摂れる | 吐き気・嘔吐がある、または反応がおかしいなら、口から飲ませず、すぐ病院へ |
| 手当て後の変化 | 涼しい場所で冷やし、水分・塩分を摂ると良くなる | 応急処置をしても改善しないなら、すぐ病院へ搬送 |
この三つは、そばに誰かがいなければ確かめられません。見守りは付き添いのおまけではなく、手当ての一部です。
軽度と判断したら、この順で手を動かす
1. 涼しい場所へ移す
風通しのよい日陰か、できればエアコンの効いた室内へ。移動そのものが体温の上昇を止めます。
2. 服をゆるめて冷やす
襟元やベルトをゆるめ、首の付け根の両側、脇の下、脚の付け根(鼠径部)を冷やします。この三か所は太い静脈が体表近くを通っていて、そこを流れる血液を冷やすと体の中まで冷えます。保冷剤や氷枕がなければ、自動販売機やコンビニで買った冷えたペットボトル、袋入りのかち割氷でも代わりになります。タオルで包んで当ててください。皮膚を濡らしてうちわや扇風機で風を送る方法も併用できます。
額に貼る冷却ジェルシートは、体を冷やす効果がないためここでは数えません。マニュアルにも熱中症の手当てには効果がないと明記されています。子どもの発熱時に使い慣れているぶん、貼って安心してしまうのが怖いところです。
3. 冷たい水を「持たせて、自分で飲んでもらう」
飲ませるのではなく、持たせて自分で飲んでもらう。これが二つ目の線をその場で確かめる方法にもなっています。冷たい飲み物は胃の表面から熱を奪うので、内側からも冷えます。
大量に汗をかいたあとなら、塩分も一緒に補える経口補水液かスポーツドリンクが適しています。どちらもなければ、水1リットルに食塩1〜2gを溶かした食塩水で代用できます。水やお茶だけでは塩分が入らず、大量に飲むと体液の塩分濃度が薄まって頭痛や嘔吐を招くことがあります。
量は一気に入れず、最初の30分で200〜300mLをゆっくり。胃に流し込むと吐き気の引き金になります。
4. 横になって休む
足をやや高くして寝かせます。脳への血流を保つ姿勢です。
どのくらいで戻るか。戻ったあと、その日をどうするか
目安は20〜30分です。立ちくらみが治まり、自分で歩けるようになれば軽度の範囲に収まっています。
戻ったとして、それでも念のため病院に行くべきか。環境省の応急処置フローは、症状が良くなったかというチェックに「はい」で進んだ先を、そのまま安静にして十分に休息をとり、回復したら帰宅する、と書いています。公的なフローが受診しなくていいと言い切っている、数少ない場面です。
ただし帰宅していいのは、休息を挟んだあとです。良くなった直後に炎天下や作業に戻るのは別の話になります。
- その日は暑い場所に戻さない。屋外の予定は切り上げる
- 入浴は長湯を避け、就寝中もエアコンをつけておく
- 翌日も強い倦怠感や頭痛が残るなら内科を受診する
- 同じ日にもう一度症状が出たら、二度目は軽度扱いにしない
一度熱中症になった体は、その日はまだ元に戻っていません。二度目が短時間で来るのは、暑さに耐える力が落ちたままだからです。
軽度でも受診を勧める人
三つの線がそろっていても、次に当てはまるなら早めに医療機関に相談してください。
高齢者
のどの渇きを感じる力が落ちるため、症状が出た時点ですでに脱水が進んでいることがあります。訴えが軽くても内容が実態と合っていない可能性を見てください。
乳幼児
体温調節の機能が育ちきっておらず、外気温に体温が引っ張られます。「暑い」「気持ち悪い」を言葉にできないので、三つの線のうち一つ目と二つ目が確かめにくい相手です。急にぐずる、ぐったりする、泣き方が普段と違うといった行動の変化で見ます。
持病があるか、薬を飲んでいる人
降圧薬に含まれることのある利尿薬、抗ヒスタミン薬、向精神薬の一部には、発汗を抑えたり脱水を進めたりする作用があります。糖尿病がある場合は、電解質のバランスが崩れたときの影響が大きくなります。飲んでいる薬については、処方医か薬剤師に「夏の熱中症のリスクに影響しますか」と一度聞いておくと、次の夏から判断が楽になります。
そばに見守る人がいない
一人暮らしで、症状が出たのが自宅というケースです。三つの線は誰かが見ていることを前提にしているため、その前提が成り立ちません。横になって寝てしまうと、悪化しても誰も気づけません。家族に電話しておく、様子を見に来てもらう、それが難しいなら受診する。この順で考えてください。
屋内で起きた場合
炎天下で倒れたわけではないから軽い、とはなりません。日本救急医学会が2020年夏の入院症例1,032例を調べた結果では、日常生活の中で起きた熱中症は屋内での発症が屋外の2倍以上あり、日常生活かつ屋内という組み合わせだけで全体の4割以上を占めていました。涼しいはずの家の中で起きたことは、軽さの根拠になりません。
エアコンを使わない高齢の親をどう動かすかは実家の親がエアコンを使わないときにまとめています。
重症度は誰が判断するのか
現場にいる人が判断するのは、軽度か、それ以上か。その一点だけです。
環境省のマニュアルは、医療機関での診療を必要とするⅡ度(中等症)と、入院して治療が必要なⅢ度(重症)の見極めは、救急隊員や医療機関に搬送後に医療者が判断する、と明記しています。中等症なのか重症なのかを素人が当てる必要はありません。三つの線のどれかが崩れた時点で医療につないだなら、それで役割は果たしています。
大げさだったのではないかという心配も、数字を見ると和らぎます。厚生労働省の診療報酬明細書のデータで2012年から2016年の6〜9月に熱中症で受診した人を分けると、外来受診だけで済んだのが27%、外来で点滴を受けたのが65%、入院が7.8%、死亡が0.1%でした。受診した人の9割以上は、その日のうちに帰っています。行って何もなければ、それが普通の結果です。
2024年に分類が変わった — Ⅳ度とは何か
熱中症の重症度は長らくⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度の3段階でしたが、日本救急医学会は2024年7月に「熱中症診療ガイドライン2024」を公表し、Ⅳ度を追加しました。3段階で説明している資料は改訂前のものです。
- Ⅳ度 — 深部体温40.0℃以上かつGCS8以下
- Ⅲ度(2024) — Ⅳ度に該当しない、従来のⅢ度
- qⅣ度 — 表面体温40.0℃以上(または皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS8以下(またはJCS100以上)。深部体温の測定は不要
切り出したのは、従来のⅢ度が広すぎたためです。軽い意識障害だけの人と、多臓器不全に陥った人が同じ枠に入っていました。同じⅢ度でも必要な治療が違います。最重症群を分けて、早く冷却と集中治療に入れるようにしたわけです。全国の搬送者数は2023年で91,467人、死亡者は毎年1,000人を超えたままです。
ただ、家庭で覚える必要はありません。Ⅳ度は病院側の区分です。深部体温は膀胱温や直腸温を指すので、脇で測る体温計では出せません。かわりに現場向けに置かれたのがqⅣ度で、体温計がなくても「触ると明らかに熱い」で代用できます。皮膚が熱く、呼びかけても目を開けない。この二つが重なったら、深部体温を測るまでもなく119番です。
軽度で調べに来た人が、自分をⅣ度に当てはめる場面はまずありません。それでもここに置いたのは、3段階のままの説明がまだ出回っているからです。この記事も、2026年8月に直すまで3段階で書いていました。
三つの線が崩れたときの動き方
Ⅱ度(中等症)— 病院へ移動する
強い頭痛や嘔吐があり、水を飲んでも30分以上良くならない。体温が39℃以上から下がらない。歩くとふらついて転びそう。一緒にいる人から様子がおかしいと言われた。このあたりが移動を決める材料です。
意識がはっきりしていて、自力または介助でタクシーや車に乗れるなら、内科か救急外来へ向かいます。受付では「熱中症の疑いで、嘔吐が続いています」のように、暑い場所にいたことと今の症状をまとめて伝えてください。一人で動けない、症状の進み方が速いというときは119番です。
治療は点滴による水と電解質の補給が中心で、体温が高ければ冷却も並行します。
Ⅲ度以上 — 冷やしながら119番
次のどれかがあれば、冷却を始めながら救急車を呼びます。
- 呼びかけへの反応がない、または明らかに遅い
- 何を言っているか分からない、目の焦点が合わない
- 体温が40℃以上、あるいは触って明らかに熱い
- けいれんが起きている
- 大量に汗をかいたあとに汗が止まり、皮膚が熱く乾いている
救急隊の到着を待つ間に冷やしておけるかどうかが結果を左右します。スポーツや労働の最中に倒れた場合、環境省のマニュアルは水道につないだホースで全身に水をかけ続ける「水道水散布法」を勧めています。氷水に全身を浸す方法はより効果が高いものの、直腸温を測り続けられる体制が要るため、その準備がない場所では選べません。屋内で高齢者が重症になっている場合は、体表を冷やして冷房を効かせながら、なるべく早く搬送します。
やってはいけないこと
意識が低下している人、強い吐き気のある人に口から水を飲ませないでください。気道に流れ込みます。飲んでもらえるのは、応答が明瞭で意識がはっきりしている場合だけです。
熱中症と紛らわしいもの
脳卒中
突然の激しい頭痛、片側の手足や顔の麻痺、ろれつが回らない、片眼だけ見えにくい。こうした症状が目立ちます。熱中症は暑い場所での行動のあとに起き、冷却と水分補給で改善する方向に動きます。ただし高齢者では両方が同時に起きることもあります。意識障害があれば、原因を決める前に119番してください。
低血糖
インスリンやSU薬を使っている人では、低血糖でも意識障害・発汗・だるさが出ます。糖尿病があって服薬中なら、砂糖水やブドウ糖ゼリーで改善するかを見ます。改善しなければ熱中症か別の原因を疑い、医療機関へ連絡します。
現場で完全に見分けるのは無理です。分からないまま迷っている時間のほうが危ないので、判断がつかなければ119番を選んでください。
手を止めて確かめる四つ
- 名前を呼んで、かみ合った返事が返ってくるか
- 水を持たせて、自分の手で飲めるか
- 20〜30分の休息で、立ちくらみが引いたか
- そばで見ている人がいるか。いないなら、これから誰が見るか
はじめの三つがそろっていれば軽度です。休ませて、回復したら帰宅して構いません。一つでも欠けたら、その時点で軽度の手当ては終わりにして、移動を始めてください。
塩分をどう摂るかは熱中症対策の塩飴・塩タブレットは1日何個までかに、仕事中に倒れた場合の扱いは職場で熱中症になったときの労災申請に分けてあります。
参考資料
- 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」— Ⅳ度・qⅣ度の定義、Active Cooling の考え方、診断の対象となる症状
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」— Ⅰ度からⅢ度の対応、応急処置フロー、重症度を誰が判断するか
- 環境省「熱中症予防情報サイト(暑さ指数)」— 全国のWBGTリアルタイム情報
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。