補聴器の購入費は、補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」で、診療や治療のために直接必要だと証明していれば、医療費控除の対象になります。対象になるのは、そのうち一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額です。国税庁は2018年(平成30年)4月16日付の個人課税課情報で、厚生労働省の照会に対してこう回答しています。
逆に言えば、耳鼻咽喉科にかからずに家電量販店や通販で買った補聴器には、この証明がありません。タックスアンサーNo.1122も、医療費控除の対象として挙げているのは「医師等による診療や治療を受けるために直接必要な」補聴器の購入費用です。
医療費控除は、確定申告書に医療費控除に関する事項を書いて受けます(No.1120)。補聴器を含めたその年の医療費から保険金などで補てんされる金額を引き、10万円(総所得金額等が200万円未満の人はその5%)を超えた部分が控除額になります。この記事では、国税庁の回答の中身、証明を受けてから買うまでの順番、親の補聴器を子が払った場合、申告で出す書類と残す書類を順に確かめます。
国税庁の回答に書かれている条件
国税庁の情報「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて」の回答部分は、次のとおりです。
医師による診療や治療などのために直接必要な補聴器の購入のための費用で、一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は、医療費控除の対象となります。 補聴器が診療等のために直接必要か否かについては、診療等を行っている医師の判断に基づく必要があると考えられますので、一般社団法人耳鼻咽喉科学会が認定した補聴器相談医が、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」により、補聴器が診療等のために直接必要である旨を証明している場合には、当該補聴器の購入費用(一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額に限ります。)は、医療費控除の対象になります。
国税庁が対象と示しているのは、次の三つがそろった場合です。練馬区も、相談医の情報提供書を受けてから購入する必要があると案内しています。
- 補聴器相談医が書いた提供書であること。 回答は、学会が認定した補聴器相談医を証明する人として挙げています。島根県と滋賀県の案内によると、補聴器相談医は一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が委嘱する医師です(国税庁の回答では「一般社団法人耳鼻咽喉科学会」と書かれています)。
- 提供書で「診療等のために直接必要」と証明されていること。 補聴器を使うかどうかではなく、診療や治療との関係が書かれているかが問われます。
- 一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額であること。 No.1122は医療費控除の対象となる医療費全体について、病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額としています。補聴器もこの枠の中です。
国税庁がなぜ書類を求めるのかは、回答の理由の部分に出ています。補聴器が診療等に直接必要かどうかは、診療を行っている医師の判断に基づく必要がある、という考え方です。
診療情報提供書には何が書かれるか
提供書の様式は、国税庁の情報に別添として載っています。宛先は「認定補聴器専門店」「認定補聴器技能者」で、補聴器相談医が販売店に向けて書く書類です。冒頭で、補聴器の「新規適合」「更新」「使用機種の再適合」「装用耳変更」「両耳装用への変更」「修理」のどれが必要かにチェックを入れます。
その下に、診断名(感音難聴・混合性難聴など)、鼓膜や外耳道の所見、純音聴力、ことばの聞き取り、どちらの耳に着けるか、補聴器の形などを書く欄が続きます。
医療費控除に関係するのは「5.難聴・補聴器に関する情報」です。補聴器を必要とする主な場面の欄に「医師等による診療や治療を受けるために直接必要」というチェック欄があります。欄外の注意書きは、診療や治療のために直接必要な補聴器なら購入費用は医療費控除の対象になるとし、その場合は補聴器を必要とする主な場面とあわせて使用目的を具体的に書くよう求めています。
提供書の本文は、販売店に対して、機種選択や調整の結果を「補聴器適合に関する報告書」に書いて医療機関に報告すること、本人に再度来院を勧めることも依頼しています。
受診してから買う。練馬区の案内の順番
練馬区は、補聴器の購入費用で医療費控除を受けるまでの流れを次のように案内しています。
- 補聴器を買う前に、補聴器相談医がいる医療機関を受診し、診察・検査を受ける
- 補聴器が必要と認められたら、希望して「情報提供書」を出してもらう
- 補聴器販売店に情報提供書を出し、相談・試用をして購入する
- 購入するときに、販売店から情報提供書の写しと領収書を受け取る
- その年分の確定申告で医療費控除を申告し、情報提供書の写しと領収書を保管する
練馬区は、単に聞こえを補うために使うのではなく、医師による治療等の過程で直接必要とされて買った補聴器であることが必要だと注意書きをしています。
あわせて二つの点を書いています。一つは、情報提供書の作成に費用がかかる場合があるので、事前に相談医に確かめること。もう一つは、情報提供書を受けた販売店は「補聴器適合に関する報告書」を作って医師に出す必要があるので、報告書を作れる販売店を相談医に確かめることです。
相談医と販売店の探し方
島根県と滋賀県は、補聴器相談医の名簿を日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のサイトで確かめるよう案内しています。販売店については、公益財団法人テクノエイド協会が認定する「認定補聴器専門店」(認定補聴器技能者が在籍し、設備などが基準を満たす店)と「認定補聴器技能者」の一覧を紹介しています。提供書の宛先欄に書かれているのも、この「認定補聴器専門店」と「認定補聴器技能者」です。
控除額の計算
No.1120によると、医療費控除の額は次の式で計算し、最高200万円です。
(その年に実際に払った医療費の合計 − 保険金などで補てんされる金額)− 10万円
総所得金額等が200万円未満の人は、10万円の代わりに総所得金額等の5%を引きます。補てんされる金額の例として、No.1120は生命保険契約などの入院費給付金、健康保険の高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などを挙げています。
たとえば、条件を満たす補聴器に25万円、その年の通院や薬に5万円を払い、補てんされる金額がない人で考えます。総所得金額等が200万円以上なら、30万円から10万円を引いた20万円が医療費控除の額です。年金収入だけで総所得金額等が150万円の人なら、引くのは7万5千円(150万円の5%)で、控除額は22万5千円になります。
控除額は所得から差し引く金額(所得控除)なので、この額がそのまま戻るわけではありません。
医療費は1月1日から12月31日までに実際に払った額で数えます(No.1120)。未払いの分は、現実に払った年の医療費になります。年末に買って支払いが翌年になった補聴器は、翌年分です。
親の補聴器代を子が払ったとき
医療費控除は、自分のほか、自分と生計を一にする配偶者やその他の親族のために払った医療費も対象です(No.1120)。生計を一にする親の補聴器代を子が払ったなら、払った子が自分の確定申告で医療費控除に入れられます。
この場合も、補聴器の条件は変わりません。補聴器相談医の診療情報提供書が必要なのは親本人の補聴器です。販売店から受け取る領収書と提供書の写しは、申告する子の側で保管します。
親が自分の年金から払った補聴器代は、親の医療費控除です。親が確定申告をする義務のない人でも、源泉徴収された所得税があれば還付申告で取り戻せます。
確定申告で出す書類、残す書類
No.1120によると、医療費控除を受けるには、医療費の領収書から「医療費控除の明細書」を作って確定申告書に添付します。領収書そのものは添付しませんが、税務署は確定申告期限等から5年を経過する日までの間、明細書の内容を確かめるために領収書の提示や提出を求めることがあります。
練馬区の案内は、補聴器については販売店で受け取った情報提供書の写しと領収書を保管し、税務署から求められたら出すよう書いています。補聴器の代金は、ほかの医療費と同じく明細書に書き込みます。
年金だけの人、過去の年の分
タックスアンサーNo.2030は、確定申告をする義務のない人でも、源泉徴収された所得税などが年間の所得について計算した所得税より多いときは還付申告ができ、医療費控除を受ける場合もこれに当たるとしています。還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。その年に確定申告の義務がなかった人は、去年以前に条件を満たす補聴器を買っていて申告していなければ、その年分の還付申告で医療費控除を加えられます。
その年分の還付申告をすでに出している場合について、No.2030は、還付を受けるべき税金を少なく申告していたときは更正の請求という手続きで還付を受けられるとし、その期間を原則として還付申告書を提出した日から5年以内としています。
公的な支援との関係
島根県は、聴覚障害で身体障害者の認定を受けると、障害者総合支援法による補装具費の支給を受けられること、ほかにも補助を受けられる場合があることを案内しています。滋賀県も、補聴器の購入費用は医療費控除や公的支援の対象になる場合があるとしています。補助の内容は市町村の福祉窓口で確かめます。
医療費控除の計算では、保険金などで補てんされる金額を差し引きます。補助を受けた場合にその額をどう扱うかは、下の「確認できなかったこと」に回しました。
確認の順番
- 補聴器を買う前に、補聴器相談医がいる耳鼻咽喉科を受診する(学会の名簿で探せる)
- 補聴器が必要と認められたら、「補聴器適合に関する診療情報提供書」を希望する。作成費用の有無を先に聞く
- 報告書を作れる販売店(認定補聴器専門店など)に提供書を出して購入し、提供書の写しと領収書を受け取る
- その年の医療費を家族分(生計を一にする人)も合わせて集計し、補てん額を引いて10万円(総所得金額等200万円未満はその5%)を超えるか確かめる
- 翌年の確定申告(義務のない人は還付申告)で医療費控除の明細書を添付する。提供書の写しと領収書は保管する
この記事で確認できなかったこと
2026年11月2日時点で、次の点は今回読んだ資料では確かめられていません。
- 補聴器を買ったあとで受診し、診療情報提供書を出してもらった場合の扱い。練馬区の案内は購入前の受診を前提にしています。
- 診療情報提供書の作成費用が医療費控除の対象になるか。相談医の診察・検査の費用は、医師による診療の対価(No.1122)に当たります。
- 補聴器の修理代、電池、調整費の扱い。提供書の様式には「修理」のチェック欄がありますが、国税庁の回答が対象と明示しているのは購入費用です。
- 自治体の購入助成や障害者総合支援法の補装具費を受けた場合に、その額を補てんされる金額として差し引くかどうか。所轄の税務署に確認してください。
- 「一般的に支出される水準を著しく超えない部分」が具体的にいくらか。
- 住民税への反映の仕方。
参考資料
- 国税庁 補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて(情報) — 照会要旨と回答、補聴器相談医と診療情報提供書の位置づけ
- 国税庁 同 別添「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」 — 宛先、記載項目、「医師等による診療や治療を受けるために直接必要」の欄と注意書き
- 国税庁 タックスアンサーNo.1122 医療費控除の対象となる医療費 — 補聴器の購入費用、一般的に支出される水準
- 国税庁 タックスアンサーNo.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除) — 生計を一にする親族、計算式、明細書、領収書の5年
- 国税庁 タックスアンサーNo.2030 還付申告 — 翌年1月1日から5年間、更正の請求
- 練馬区 補聴器の購入費用について確定申告で医療費控除の手続きをするまでの流れ — 受診から購入、保管までの順番、作成費用と報告書の注意
- 島根県 補聴器の購入をお考えの方へ — 補聴器相談医、認定補聴器専門店、補装具費
- 滋賀県 補聴器の購入をお考えの方へ — 補聴器相談医の名簿、医療費控除と公的支援