災害で自宅や家財が壊れたとき、所得税の救済は一つではありません。所得から損失を差し引く雑損控除と、所得税額そのものを軽くする災害減免法の二つがあり、国税庁は「納税者の選択によりどちらか有利な方法を選べます」と説明しています。両方を同じ災害について使うことはできません。まず確認するのは、住宅と家財の損害金額が保険金を引いたあとでその価額の2分の1以上になるか、そしてその年の所得金額の合計額が1,000万円以下かという2点です。この2点を満たすなら災害減免法が候補に入り、満たさないなら雑損控除だけが残ります。
判定に必要な金額が保険金の支払額で動くため、保険の結果が出る前に片方へ決め打ちしないほうが安全です。
二つは「どちらか一方」で、効き方が違う
名前が似ているので同じ制度の別名のように見えますが、仕組みが違います。
雑損控除は所得控除です。損失の額を所得から差し引くので、税率が高い人ほど効きます。国税庁は「雑損控除は他の所得控除に先だって控除する」としています。
災害減免法は、計算した所得税の額そのものを軽減または免除します。所得が低いほうが有利に働く作りで、所得金額の合計額が500万円以下なら所得税の額の全額が免除されます。
どちらを使うかは申告のときに選びます。災害減免法の条文上の入口に「その災害による損失額について雑損控除の適用を受けない場合」と書かれているとおり、併用はできません。
災害減免法が使えるかは、損害の大きさと所得で決まる
国税庁の説明では、災害減免法の適用が受けられるのは「災害によって受けた住宅や家財の損害金額がその価額の2分の1以上で、かつ、災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下の方」です。損害金額は保険金などで補てんされる金額を除いた額で見ます。
軽減・免除される所得税の額は所得で段階が分かれます。
| その年の所得金額の合計額 | 軽減または免除される所得税の額 |
|---|---|
| 500万円以下 | 所得税の額の全額 |
| 500万円を超え750万円以下 | 所得税の額の2分の1 |
| 750万円を超え1,000万円以下 | 所得税の額の4分の1 |
この「所得金額の合計額」は、給与や事業の所得だけを足した数字ではありません。国税庁は、総所得金額に加えて分離課税の譲渡所得、申告分離課税の上場株式等に係る配当所得等、先物取引に係る雑所得等、山林所得金額、退職所得金額などを合計したものだと注記しています。株の売却や退職金があった年は、感覚より大きくなって1,000万円を超えることがあります。
住宅と家財の範囲も決まっています。住宅は「自己または扶養親族が常時起居する家屋」で、必ずしも生活の本拠である必要はなく、2か所以上に常時起居しているときはそのいずれも住宅として扱われます。倉庫や物置などの附属建物は住宅に含めます。家財は日常生活に通常必要な家具・じゅう器・衣服・書籍などの家庭用動産です。
雑損控除の計算式は二本あり、多い方を使う
雑損控除の金額は、次の二つのうち多い方です。
- (損害金額 + 災害等関連支出の金額 - 保険金等の額)- 総所得金額等 × 10%
- (災害関連支出の金額 - 保険金等の額)- 5万円
一つめは損害そのものを拾う式で、総所得金額等の10%という自己負担部分があります。二つめは、滅失した住宅や家財の取壊し・除去にかかった支出だけを拾う式で、自己負担は5万円です。所得が高い人は一つめの10%が重くなるため、取壊し費用が出ている場合は二つめの方が大きくなることがあります。
「損害金額」は、損害を受けた直前のその資産の時価をもとに計算した損害の額です。国税庁は、災害で被害を受けた住宅・家財・車両の損失額について「合理的な計算方法」で計算できるとしており、減価償却資産の場合は取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎にする方法も示しています。領収書が全部そろわない被災直後でも、この方法で進められる余地があります。
雑損控除には2分の1以上という損害の大きさの条件も、1,000万円という所得の上限もありません。災害減免法の入口に届かない規模の被害や、所得が高い人は、こちらだけが選択肢になります。
繰越せるのは雑損控除だけ
その年の所得から引き切れないほど損失が大きいときに差が出ます。
雑損控除は、控除しきれなかった分を翌年以後3年間に繰り越して各年の所得金額から控除できます。東日本大震災、または令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害によって生じた損失額については5年間です。特定非常災害とは、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第2条第1項の規定により指定された非常災害を指します。
災害減免法は、その年分の所得税を軽減または免除する仕組みなので、翌年以降へ回す繰越しの定めが置かれていません。所得税の全額が免除されても、損失が所得を大きく超えていれば、その超えた部分は翌年の税額には影響しないことになります。
被害額が1年分の所得を大きく上回るときは、初年度の税額がゼロになる災害減免法よりも、3年(または5年)かけて効かせられる雑損控除のほうが合計で有利になる場合があります。所得が500万円前後で損害が極端に大きいケースは、両方の試算をしてから選ぶ場面です。
盗難・横領、詐欺の扱いは分かれる
損害の原因で対象が変わります。
雑損控除の対象になる損害の原因は、①自然現象の異変による災害(震災、風水害、冷害、雪害、落雷など)②人為による異常な災害(火災、火薬類の爆発など)③害虫などの生物による異常な災害④盗難⑤横領の5つです。詐欺や恐喝の場合は雑損控除を受けられません。
災害減免法の「災害」は①②③の3つだけで、盗難と横領は含まれていません。空き巣に入られた、預けた財産を横領された、という被害は雑損控除の側で考えることになります。
資産の側にも条件があります。雑損控除の対象になるのは、棚卸資産・事業用固定資産等・生活に通常必要でない資産のいずれにも当たらない資産です。所有者は納税者本人か、納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で、その年の総所得金額等が一定額以下の方に限られます。この金額は改正が続いており、No.1110とNo.1902で書き方も異なっているため、申告する年分の数字は国税庁の該当ページで確認してください。
申告のときに書くこと、添えるもの
雑損控除を使う場合は、確定申告書に雑損控除に関する事項を記載し、災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収を証する書類を添付するか提示します。提出先は所轄税務署です。
災害減免法を使う場合は、確定申告書、修正申告書または更正の請求書に、適用を受ける旨・被害の状況・損害金額を記載して、納税地の所轄税務署長に提出します。被害の状況と損害金額を書く欄がある点が、雑損控除と違います。
給与所得のある方について、平成31年4月1日以後は給与所得の源泉徴収票の添付・提示が不要になりました。ただし申告書を作成する際には引き続き必要なので、税務署へ行くときは持参してください。
給与や公的年金等から源泉徴収されている所得税については、国税庁は「一定の手続をすることにより、源泉所得税の徴収猶予や還付が受けられる場合があります」としてコード8003を案内しています。本記事はその要件までは確認していないため、申告を待たずに手当てしたい方は、コード8003と所轄税務署で手順を確かめてください。
選んだあとで変えられる場合
国税庁は災害減免法について、確定申告書で雑損控除を選んで適用を受けていても、修正申告書または更正の請求書を提出する際に、雑損控除に代えて災害減免法による軽減・免除の適用を受ける選択が可能だとしています。また、確定申告書では災害減免法の適用を受けていなかったときでも、修正申告書または更正の請求書を提出する際に適用を受ける選択ができます。
被災直後に保険金の額が確定しないまま申告した場合、あとで金額が固まって有利な側が入れ替わることがあります。そのときに打つ手が残っているという意味で、この注記は覚えておく価値があります。ただし修正申告と更正の請求は手続きも期限も別なので、どちらで動くかは所轄税務署に確認してください。
参考資料
- 国税庁 No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除(令和8年4月1日現在法令等)
どちらのページも「令和8年4月1日現在法令等」として公開されているものを確認しました。金額や対象の範囲は改正されるため、実際に申告する年分については同じページを開き直して数字を確かめてください。