令和8年度の地域別最低賃金は、全国いっせいには上がりません。発効日は県ごとに違い、10月中に37都道府県、11月に7府県、12月に3県という順で切り替わります。10月1日に発効したのはそのうち15都道府県です。全国加重平均は1,177円。昨年度の1,121円から56円、率にして5.0%の引き上げです。自分の県の新しい時給と発効日は、下の一覧でそのまま確認できます。
47都道府県の額と発効日は確定しています。厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」が令和8年度版に差し替わり、改定額と発効年月日が一覧で公開されました。この一覧を答申時点の予定日と突き合わせると、ずれている県は1つもありません。
ここから先、確かめることは県によって2つに分かれます。すでに発効日を過ぎた県の人は、これから届く明細の検算です。月末締め翌月払いなら、10月1日発効の県でも新しい時給が入った明細が手元に来るのは11月です。発効日が月の途中の県では、1枚の明細に旧時給と新時給が混ざるのが正しい処理なので、「全部が新しい額になっていない」こと自体は間違いではありません。
**まだ発効日が来ていない県の人は、いまの時給が旧額のままでも違反ではありません。**その日以降に働いた分が入る明細から見ていきます。差額が入っていなかった場合にさかのぼれる期間は3年です。
まず結論。1,177円は全国平均で、自分の県の額ではない
報道で見る1,177円は47都道府県を加重平均した数字です。実際の額は東京の1,280円から宮崎の1,085円まで、195円の幅があります。引き上げ額も一律ではなく、最も大きい佐賀が65円、最も小さい東京・神奈川・大阪が54円でした。
7月28日の段階では、中央最低賃金審議会が示した「目安」(Aランク54円、B・Cランク56円。目安どおりに決まれば全国加重平均1,176円)しかありませんでした。その後、各都道府県の地方最低賃金審議会が実際の額を審議し、9月3日に答申が出そろっています。
結果は、目安を上回った県が33、目安どおりが14、目安を下回った県は1つもありませんでした。全国加重平均も目安を1円上回る1,177円です。引上げ額56円は、昭和53年に目安制度が始まって以来2番目の大きさです。最高額(東京1,280円)に対する最低額(宮崎1,085円)の比率は84.8%で、昨年度の83.4%から縮まり、12年続けて地域差が小さくなっています。
自分の県の額を原典で確かめるなら、厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」から「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」のPDFか、改定額と発効年月日が入ったExcelを開くのが最短です。検索で古い解説記事に当たったときは、そこに書かれた額が令和7年度のものでないか、年度の表記を先に確かめてください。
47都道府県一覧。あなたの県はいくら、いつから
金額と発効日は、厚生労働省が公開した令和8年度の全国一覧に載っている確定した額と日付です。日付はすべて2026年(令和8年)です。
| 都道府県 | 新しい最低賃金 | 改定前 | 引上げ額 | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 1,131円 | 1,075円 | +56円 | 10月1日 |
| 青森 | 1,090円 | 1,029円 | +61円 | 10月29日 |
| 岩手 | 1,090円 | 1,031円 | +59円 | 12月1日 |
| 宮城 | 1,098円 | 1,038円 | +60円 | 10月1日 |
| 秋田 | 1,090円 | 1,031円 | +59円 | 10月14日 |
| 山形 | 1,092円 | 1,032円 | +60円 | 10月30日 |
| 福島 | 1,094円 | 1,033円 | +61円 | 10月16日 |
| 茨城 | 1,136円 | 1,074円 | +62円 | 10月18日 |
| 栃木 | 1,125円 | 1,068円 | +57円 | 10月1日 |
| 群馬 | 1,120円 | 1,063円 | +57円 | 10月3日 |
| 埼玉 | 1,196円 | 1,141円 | +55円 | 10月1日 |
| 千葉 | 1,195円 | 1,140円 | +55円 | 10月1日 |
| 東京 | 1,280円 | 1,226円 | +54円 | 10月1日 |
| 神奈川 | 1,279円 | 1,225円 | +54円 | 10月1日 |
| 新潟 | 1,108円 | 1,050円 | +58円 | 10月1日 |
| 富山 | 1,119円 | 1,062円 | +57円 | 10月1日 |
| 石川 | 1,113円 | 1,054円 | +59円 | 10月3日 |
| 福井 | 1,112円 | 1,053円 | +59円 | 10月4日 |
| 山梨 | 1,113円 | 1,052円 | +61円 | 11月1日 |
| 長野 | 1,117円 | 1,061円 | +56円 | 10月2日 |
| 岐阜 | 1,121円 | 1,065円 | +56円 | 10月1日 |
| 静岡 | 1,154円 | 1,097円 | +57円 | 10月15日 |
| 愛知 | 1,195円 | 1,140円 | +55円 | 10月1日 |
| 三重 | 1,143円 | 1,087円 | +56円 | 10月1日 |
| 滋賀 | 1,136円 | 1,080円 | +56円 | 10月3日 |
| 京都 | 1,180円 | 1,122円 | +58円 | 11月16日 |
| 大阪 | 1,231円 | 1,177円 | +54円 | 10月1日 |
| 兵庫 | 1,172円 | 1,116円 | +56円 | 10月1日 |
| 奈良 | 1,107円 | 1,051円 | +56円 | 10月4日 |
| 和歌山 | 1,101円 | 1,045円 | +56円 | 10月3日 |
| 鳥取 | 1,090円 | 1,030円 | +60円 | 10月3日 |
| 島根 | 1,092円 | 1,033円 | +59円 | 10月10日 |
| 岡山 | 1,104円 | 1,047円 | +57円 | 10月2日 |
| 広島 | 1,141円 | 1,085円 | +56円 | 10月11日 |
| 山口 | 1,101円 | 1,043円 | +58円 | 10月8日 |
| 徳島 | 1,103円 | 1,046円 | +57円 | 11月1日 |
| 香川 | 1,092円 | 1,036円 | +56円 | 10月1日 |
| 愛媛 | 1,093円 | 1,033円 | +60円 | 11月1日 |
| 高知 | 1,086円 | 1,023円 | +63円 | 10月29日 |
| 福岡 | 1,114円 | 1,057円 | +57円 | 10月4日 |
| 佐賀 | 1,095円 | 1,030円 | +65円 | 11月15日 |
| 長崎 | 1,087円 | 1,031円 | +56円 | 11月2日 |
| 熊本 | 1,092円 | 1,034円 | +58円 | 12月1日 |
| 大分 | 1,096円 | 1,035円 | +61円 | 11月1日 |
| 宮崎 | 1,085円 | 1,023円 | +62円 | 10月24日 |
| 鹿児島 | 1,090円 | 1,026円 | +64円 | 10月25日 |
| 沖縄 | 1,086円 | 1,023円 | +63円 | 12月2日 |
| 全国加重平均 | 1,177円 | 1,121円 | +56円 | — |
全国加重平均の1,177円は、各県の額を労働者数で加重して計算した値を円単位に丸めたものです。公開されているExcelの計算値は1,176.93円で、どの県にもこの額の時給は存在しません。
1,200円台は3都府県、1,100円未満は18県。全国で何番目かの見方
高い順に並べると、東京1,280円、神奈川1,279円、大阪1,231円、埼玉1,196円、千葉と愛知の1,195円と続きます。1,200円台は東京・神奈川・大阪の3都府県だけです。1,100円以上は29都道府県、1,100円未満は18県に分かれます。
低い側は宮崎の1,085円、高知と沖縄の1,086円、長崎の1,087円、そして青森・岩手・秋田・鳥取・鹿児島の5県が同額の1,090円です。同じ時給の県が多いので、自分の県が全国で何番目かは、上の表で同額の県を数えると分かります。昨年度は高知・宮崎・沖縄の3県が1,023円で並んで最下位でしたが、今年度は宮崎1,085円と高知・沖縄1,086円に分かれました。
10月中に37都道府県、11月に7府県、12月に3県
「最低賃金は10月1日に切り替わるもの」とは限りません。厚生労働省の発表自体が、改定額は都道府県労働局長の決定により「令和8年10月1日から令和8年12月2日までの間に順次発効される予定」という書き方でした。発効日は県ごとに決まるため、同じ改定でも切り替わる日が2か月以上ずれます。
10月1日に発効したのは、北海道・宮城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・富山・岐阜・愛知・三重・大阪・兵庫・香川の15都道府県です。それ以外の32府県は10月中が22県、11月が7府県(山梨・徳島・愛媛・大分が11月1日、長崎が11月2日、佐賀が11月15日、京都が11月16日)、12月が3県(岩手・熊本が12月1日、沖縄が12月2日)となっています。
月ごとにまとめると、この並びです。
| 発効の時期 | 県数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 10月1日 | 15都道府県 | 北海道・宮城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・富山・岐阜・愛知・三重・大阪・兵庫・香川 |
| 10月2日〜31日 | 22県 | 長野・岡山(2日)、群馬・石川・滋賀・和歌山・鳥取(3日)、福井・奈良・福岡(4日)、山口(8日)、島根(10日)、広島(11日)、秋田(14日)、静岡(15日)、福島(16日)、茨城(18日)、宮崎(24日)、鹿児島(25日)、青森・高知(29日)、山形(30日) |
| 11月 | 7府県 | 山梨・徳島・愛媛・大分(1日)、長崎(2日)、佐賀(15日)、京都(16日) |
| 12月 | 3県 | 岩手・熊本(1日)、沖縄(2日) |
つまり大阪で10月1日に上がっても、隣の京都は11月16日まで変わりません。ニュースの見出しは「10月1日から」で揃いますが、それが当てはまるのは15都道府県、3分の1弱です。逆に、10月のうちに8割近い37都道府県が切り替わります。上の表で自分の県の日付を確かめ、その日以降に働いた分が入る明細から見ていきます。
10月分の明細で差額を検算する
発効日を過ぎたら、次に手を動かす場所は給与明細です。ここでつまずきやすいのは、明細が届く月と、新しい時給が効く月がずれることです。月末締め翌月払いの職場なら、10月1日発効の県でも10月分の明細が届くのは11月。10月中に届く明細は9月分なので、旧時給のままで正しい計算です。「発効日を過ぎたのに明細が変わらない」と感じたら、まず明細の勤怠欄にある対象期間が何月分かを見てください。
発効日が月の途中の県では、1枚の明細の中で時給が切り替わります。実際の金額で追うと、こうなります。
例:秋田(10月14日発効、1,031円→1,090円)、月末締め・時給制で10月に80時間勤務
| 区分 | 勤務時間 | 適用される時給 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 10月1日〜13日分 | 30時間 | 1,031円 | 30,930円 |
| 10月14日〜31日分 | 50時間 | 1,090円 | 54,500円 |
| 合計 | 80時間 | — | 85,430円 |
全部を旧時給で計算されていれば82,480円なので、差額は2,950円です。全部を新時給で計算した87,200円より少ないのも正しい処理です。自分の場合に当てはめる手順は3つです。
- 雇用契約書か就業規則で締め日と支払日を確認し、手元の明細が何月分かを確定させる
- 勤怠欄の出勤記録を、発効日の前日までと発効日以降に分けて時間数を足す
- それぞれに旧時給・新時給を掛けて合計し、明細の支給額と突き合わせる
時給の欄がない月給制の明細では、基本給から通勤手当・家族手当・精皆勤手当・割増賃金を除いた額を月平均所定労働時間で割ります。出てきた時給が自分の県の新しい額を下回っていなければ、改定で引き上げの義務は生じません。
差額はいつまでさかのぼれるか。3年です
検算して足りなかった分は、その月の分だけでなく過去にさかのぼって請求できます。期間には上限があります。
労働基準法第115条は「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間(中略)行わない場合においては、時効によつて消滅する」と定めていますが、同法第143条第3項が「当分の間」この五年を三年と読み替えています。実務上さかのぼれるのは支払日から3年です。退職手当だけは読み替えの対象外で5年のままです。
起算点は賃金の支払日です。2026年11月10日が支払日だった10月分の給与なら、2029年11月10日までは請求できます。3年より前の分は、計算上足りなかったとしても時効で消えます。
同じ第143条は、使用者が賃金台帳などの記録を保存する義務(第109条)も当分の間3年としています。請求できる期間と記録が残っている期間がそろえられているので、3年以内であれば勤め先の側にも突き合わせる資料があるはずです。自分の手元にも、明細と雇用契約書、シフト表やタイムカードの控えを3年分残しておくと話が早く済みます。
請求する順番は、まず勤め先です。応じてもらえないときは、都道府県労働局か最寄りの労働基準監督署に相談できます。
なぜ県ごとに日付が違うのか。決定・公示・発効の順に進む
額が国で一律に決まらないのは、改定の手続きが県ごとに走るからです。厚生労働省の「改正手続の流れ」では、地方最低賃金審議会の答申のあとに、関係する労使から異議申出があった場合の再審議、決定、決定の公示、発効という順に進みます。9月3日の発表で発効日に「予定」と付いていたのはこの手続きが残っていたためですが、その後47都道府県すべてで決定まで進み、公開された全国一覧の発効年月日は答申時点の予定日と一致しました。
東京の例が分かりやすいです。東京地方最低賃金審議会は8月5日に54円の引上げを答申し、東京労働局長は答申内容の公示などを経て、9月1日に時間額1,280円とする決定を官報に公示しました。東京労働局のお知らせには「効力発生日は令和8年10月1日です」と明記されていて、公示からちょうど1か月後です。
この1か月は偶然ではありません。最低賃金法第14条は、地域別最低賃金の改正の決定は公示の日から起算して30日を経過した日(決定で別に定めた日があればその日)から効力を生ずると定めています。9月1日から数えて30日を経過した日が10月1日なので、10月1日に発効するには9月1日までに公示を終えている必要がありました。10月1日発効の15都道府県は、いずれもこの日までに公示を済ませたことになります。大阪労働局のページも「令和8年10月1日から時間額1,231円に改正されます」と案内しています。
発効日が遅い県でも、決定は先に進んでいます。京都では8月20日の答申に対する異議申出を京都地方最低賃金審議会が9月9日に審議し、「答申どおり決定することが適当」と答えました。京都労働局長はこれを踏まえて1,180円に改正決定し、効力が生じるのは11月16日です。異議申出があっても、審議会が退ければ額も発効日も答申どおりに決まります。決定から発効まで2か月あるのは、法律の30日より後の日を決定で定めているためです。
自分の県の決定そのものを読みたいときは、都道府県労働局のサイトの「お知らせ」や「報道発表」を見てください。「○○県最低賃金の改正決定」「官報公示」という見出しのお知らせに、時間額と効力発生日が書かれています。厚生労働省の全国一覧で額と日付は確認できるので、労働局のお知らせは、職場に話すときに根拠として示す1枚として使うのが実用的です。
昨年度のような「年またぎ」は、今年はない
昨年度(令和7年度)は発効日が大きく散らばりました。最も早い栃木が10月1日だったのに対し、秋田は年度末の2026年3月31日。福島・徳島・熊本・大分が2026年1月1日、群馬が3月1日と、6県が年をまたいでいます。最も早い県と遅い県で半年近い開きがありました。
令和8年度はここが変わりました。年をまたぐ県は1つもなく、最も遅い沖縄でも12月2日です。昨年の「半年の開き」が、今年は10月1日から12月2日までの2か月あまりに縮まりました。昨年の感覚で「うちの県は年明けかもしれない」と身構えていた人も、今年は年内に上がります。
給与に反映されるのはいつからか
給与への反映は発効日が基準です。発効日以降に働いた分から新しい時給で計算します。発効日が月の途中の県では、その月の給与明細に旧時給と新時給が混ざるのが正しい処理になります。
先に挙げた秋田の例は、締め日が月末の職場のものです。京都のように11月16日発効の県なら、11月分の明細が同じ二段構えになります。締め日が15日や20日の職場では、明細1枚の対象期間そのものが月をまたぐので、どの出勤日が発効日の前と後のどちらに入るかを一つずつ当てはめてください。
明細を開いたら、先に支給欄の時給(単価)が新しい額になっているかを見て、次に勤怠欄の対象期間を見ます。月給制で時給の欄がないときは、手当を除いた月給を月平均所定労働時間で割って時給に直します。月平均所定労働時間が明細に書かれていないときは、雇用契約書か就業規則の所定労働時間の欄にあります。
発効日より前に会社が自主的に時給を上げるのは自由です。雇用契約の更新が10月や11月に来る人は、更新面談の場で発効日以降の時給まで一緒に詰めておくと二度手間になりません。
いまの時給が新しい額より高い人は、自動では上がらない
改定で時給の引き上げが義務になるのは、いまの時給が新しい最低賃金を下回る人だけです。東京で時給1,300円のパートなら、最低賃金が1,280円になっても会社に引き上げの義務は生じません。
それでも、最低賃金の改定は周りの募集時給が見直される時期でもあります。長く時給が据え置かれているなら、改定は交渉の自然なきっかけです。同じ職種の募集時給をいくつか控えてから話すと、感覚ではなく相場の話として伝えられます。
月給や年収に直すといくらか
時給だけでは生活の見当がつきにくいので、仮の条件で月給と年収に直します。1日8時間、月21日勤務の168時間で計算した仮定の例で、実際の額は所定労働時間と休日数で変わります。
| 時給 | 月168時間の月給 | 12か月の年収 |
|---|---|---|
| 全国加重平均 1,177円 | 197,736円 | 約237万円 |
| 東京 1,280円 | 215,040円 | 約258万円 |
| 宮崎 1,085円 | 182,280円 | 約219万円 |
この額は最低賃金の対象になる基本の賃金だけの計算で、残業代や通勤手当は別に加わります。月給制の人は、同じ割り算を反対向きに使って自分の時給を出せます。ただし何を割るのかでつまずきやすいので、次に具体例で見ます。
「時給では上回っている」つもりで下回っている例
最低賃金と比べる賃金には、含めてはいけないものがあります。厚生労働省は、最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金で、割増賃金・精皆勤手当・通勤手当・家族手当などは除くとしています。賞与や臨時の手当も同じく除外です。
「手当込みで時給換算1,200円」と説明されていても、手当を除いた部分が新しい最低賃金を下回れば違反です。月給制なら、対象になる月給を月平均所定労働時間で割って時給に直します。月給18万円で所定労働時間が月160時間なら時給換算1,125円。今回の改定で、この金額は14都道府県(北海道・茨城・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・三重・滋賀・京都・大阪・兵庫・広島)の最低賃金を下回ります。栃木はちょうど同額です。パートだけでなく、月給制の契約社員や正社員でも起こりうる話になってきました。
残業や深夜の割増賃金も、新しい時給を基準に計算し直されます。時給が56円上がれば、1.25倍で計算する時間帯は1時間につき70円上がる計算です。
試用期間・研修中・派遣スタッフも下回れない
「研修期間中は時給950円」といった求人を見かけますが、研修中や試用期間中でも最低賃金は原則そのまま適用されます。下回る額にするには、使用者が都道府県労働局長の許可(最低賃金法第7条の減額の特例)を受ける必要があり、許可なしに下回る額にすることはできません。求人票に研修中の時給が書いてあるだけでは、この許可を受けたことにはなりません。
派遣で働く人に適用されるのは、派遣会社の所在地ではなく、実際に働く派遣先の最低賃金です。派遣会社の所在地と派遣先の県が違うときに取り違えやすいところです。また、製造業の一部など産業によっては地域別より高い「特定最低賃金」が設定されていて、地域別と特定の両方が適用される場合は高いほうの額以上を支払う義務があります。
扶養内で働く人は年収の見込みを引き直す
時給が上がると、シフトを変えなくても年収が増えます。月80時間働く人の時給が56円上がれば、年収ベースで5万3千円あまりの増加です。扶養の範囲に収めて働いている人は、自分の県の発効日が確定したいまの時点で年間の見込みを一度引き直しておくと、年末に慌ててシフトを削る事態を避けられます。
発効日が遅い県ほど、今年に限っては影響が小さくなります。12月2日発効の沖縄なら、新しい時給で働くのは今年のうち1か月足らずです。逆に来年は12か月まるごと効いてくるので、来年の見込みは別に立ててください。
10月1日に重なったもう一つの変更。106万円の壁は撤廃された
同じ10月1日に、社会保険の入口も変わりました。短時間労働者の加入要件のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件が撤廃されています。日本年金機構は「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」と過去形で案内していて、根拠は令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)です。いわゆる106万円の壁がなくなったのはこの要件のことです。
撤廃後に残る加入要件は3つです。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 勤め先が従業員数51人以上の企業であること
- 学生ではないこと
最低賃金の引き上げと賃金要件の撤廃は、同じ人に同時に効きます。これまでは「時給が上がって月8.8万円を超えると加入対象になる」という順で考える必要がありましたが、その入口はもうありません。時給が56円上がって年収が増えても、それ自体が加入の分かれ目にはなりません。見るのは週に何時間の契約になっているかと、勤め先の規模です。
逆向きの注意もあります。年収を106万円未満に抑えるためにシフトを削っても、週の所定労働時間が20時間以上で勤め先が51人以上なら加入対象です。賃金で調整する発想は今回で意味を失いました。所定労働時間を変えるなら雇用契約書の「週の所定労働時間」の欄を書き換える話になるので、勤め先の総務と相談してください。なお最低賃金の減額の特例許可を受けている人で月額8.8万円未満の場合は、原則として加入せず、申し出により任意で加入できる扱いが残っています。
社会保険の扶養から外れるかどうかは、以上のとおり時給そのものではなく、週の所定労働時間と勤め先の規模で決まります。境目に近い人は、勤め先の総務か年金事務所で自分の契約の扱いを確かめてください。
発効日を過ぎても明細が変わらないとき
検算して明細の時給が新しい額を下回っていたら、まず勤め先に伝えてください。改定を把握していなかった、翌月分からまとめて変えるつもりだった、といった事務処理の遅れなら、指摘だけで解決する場合もあります。発効日は県ごとに違うので、本社が別の県にある職場では、どちらの県の日付で処理されたのかも聞いておきます。
会社が応じない場合でも、最低賃金に達しない賃金を定める労働契約はその部分が無効で、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条)。差額を請求できる期間は支払日から3年です。地域別最低賃金を下回った場合、使用者には50万円以下の罰金が定められています(同法第40条)。相談先は都道府県労働局か、最寄りの労働基準監督署です。
「経営が苦しくて上げられない」という会社側の事情があっても、最低賃金を下回る選択肢はありません。設備投資とあわせて事業場内の最低賃金を引き上げる中小企業には業務改善助成金があり、申請の窓口は各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。令和8年度分の受付は9月1日に始まっていて、締切は自分の県の発効日の前日か11月30日のいずれか早い日です。10月1日に発効した県では、この締切をすでに過ぎています。パート側から持ち出す話ではないものの、会社との話が平行線になったとき、こうした制度があると知っているだけで話の運び方が変わります。
これから仕事を探すなら「発効日またぎ」に気をつける
いま求人を探している人は、募集時給がいつ時点の最低賃金を前提にしているかを先に見ておきます。答申前に作られた求人票は、改定前の金額のままのこともあります。掲載日や更新日が9月3日の答申より前なら、旧額のままと思っておいたほうが安全です。
いまの最低賃金ぎりぎりの募集なら、発効日以降は新しい額まで自動的に上がります。ただし発効日が11月や12月の県では、10月に働き始めてもしばらくは改定前の額のままです。応募の段階で「発効日以降の時給はどうなりますか」と聞いておけば、働き始めてから明細で気づくより話が早く済みます。
参考資料
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」— 9月3日発表。全国加重平均1,177円、引上げ額54円〜65円、発効は10月1日から12月2日
- 厚生労働省「(別紙)令和8年度地域別最低賃金額答申状況」— 47都道府県の改定額・引上げ額・目安差額・発効予定日。発効日は異議申出の状況で変わる可能性があるとの注記
- 厚生労働省「(参考)地域別最低賃金の改正手続の流れ」— 答申→異議申出に係る調査審議→決定→決定の公示→発効の順
- 東京労働局「東京都最低賃金を1,280円に引上げます」— 8月5日答申、9月1日決定・官報公示、10月1日発効
- 京都労働局「新しい京都府最低賃金1,180円は令和8年11月16日に発効します」— 8月20日答申、9月9日に異議申出を審議して答申どおり決定、11月16日発効
- 大阪労働局「大阪府最低賃金は、令和8年10月1日から時間額1,231円に改正されます。」— 10月1日発効の案内
- e-Gov法令検索「最低賃金法」— 第4条(無効と同様の定めのみなし)、第7条(減額の特例)、第14条(決定は公示の日から起算して30日を経過した日に発効)、第40条(50万円以下の罰金)
- e-Gov法令検索「労働基準法」— 第115条(賃金の請求権は行使できる時から5年で時効消滅)、第143条第3項(当分の間、この5年を3年と読み替える。退職手当は5年のまま)、第109条と第143条第1項(記録の保存義務も当分の間3年)
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」— 7月28日時点の目安。A54円・B56円・C56円
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金の全国一覧」— 2026年10月1日に確認。令和8年度版に更新済みで、全国一覧のPDFと改定状況のExcelを掲載
- 厚生労働省「令和8年度までの地域別最低賃金改定状況」(Excel)— 47都道府県の改定額と発効年月日。全47県が答申時点の予定日と一致。全国加重平均の計算値は1,176.93円
- 厚生労働省「最低賃金制度の概要」「最低賃金制度とは」「最低賃金の対象となる賃金」— 対象となる賃金の範囲、派遣労働者の扱い、特定最低賃金、無効の規定と罰則
- 兵庫労働局「最低賃金法第7条に基づく最低賃金の減額の特例許可制度について」— 減額の特例許可
- 厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」— 全都道府県の最低賃金が時給1,016円を超えたため賃金要件を意識する必要がなくなるという整理
- 日本年金機構「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」— 2026年10月1日に撤廃。根拠は令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)。残る要件は週20時間以上・従業員51人以上・学生でないこと
- 厚生労働省「業務改善助成金」— 令和8年度分の受付開始日と申請の締切、申請窓口