「主務教諭の選考、受けるかどうか」と職員室で聞かれて、その職が何なのか分からないまま返事を求められる。検索して出てくる説明の多くは「新設が検討されている」と書いていますが、それはもう古い話です。主務教諭を置けるようにする法改正は2025年6月に成立し、同月18日に公布されました。施行は2026年4月1日です。
決まったことと決まっていないことの線は、はっきりしています。職を置けるようにするところまでは法律で確定しました。置くかどうかと、置いた場合にいくら払うかは、自治体が決めます。
「主務」という言葉について
「主務とは」で検索して来る人が一定数います。行政文書の「主務官庁」「主務大臣」の主務は、その事務を所管する役所や大臣を指す古くからの法律用語です。大学の体育会や会社で使う「主務」なら、その仕事を主として担当する人。
主務教諭の主務は後者の系統です。ただし条文に語義の説明はなく、学校教育法が書いているのは職務の中身だけ。肩書きの字面から中身を推測しても当たりません。読むなら条文のほうが早いです。
いつから、どの学校に置けるのか
法律の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律」。2025年5月15日に衆議院本会議、6月11日に参議院本会議で可決されて成立し、6月18日に令和7年法律第68号として公布されました。
根拠条文は給特法ではありません。改正されたのは学校教育法で、幼稚園は第27条、小学校は第37条。中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校についても同様の改正が行われています。改正後の第37条第2項はこうなりました。
小学校には、前項に規定するもののほか、副校長、主幹教諭、指導教諭、主務教諭、栄養教諭その他必要な職員を置くことができる。
「置くことができる」です。必置ではありません。文部科学事務次官通知(7文科初第1404号、2025年9月26日)も、主務教諭は「任意に設置することができる職であり、その設置については、学校や地域の状況を踏まえ、各教育委員会において適切に判断されるもの」だと書いています。国は設置の検討を促してはいますが、置かない自治体があっても違法ではありません。参議院文教科学委員会の附帯決議(2025年6月10日)は、任意設置であることを前提に、配置人数分の義務教育費国庫負担金を確実に措置するよう政府に求めました。
施行日は2026年4月1日。給与関係の規定だけは先行して2026年1月1日に施行されています。文部科学省の工程表では、2025年度に各自治体が条例・規則を改正して選考を行い、2026年度から任用・配置が始まる流れが示されています。
外から人が来るわけではない
見落とされやすいのが第37条第3項です。第1項は小学校に校長・教頭・教諭・養護教諭・事務職員を置かなければならないと定めていて、第3項はその例外を並べています。改正でここに一文が入りました。
主務教諭を置くときは教諭を(中略)置かないことができる
副校長を置くときは教頭を置かないことができる、という既存の規定と同じ形です。主務教諭は外から採用する職ではなく、いま教諭として働いている人が任用される職だという前提が、条文の側にも出ています。附帯決議も「主務教諭の配置による教諭の職務内容・職責の変化がない」ことを前提に議論していました。
通知は「主務教諭のみに業務が集中することのないよう留意しつつ」と釘を刺したうえで、校長に学校全体の校務のマネジメントを求めています。調整役ができたぶん誰かの校務が自動的に減る、という設計ではありません。
何をする職なのか
第37条第11項が定める職務を、通知は次のように説明しています。
児童の教育をつかさどり、及び校長等から命を受けて当該学校の教育活動に関し教諭その他の職員間における総合的な調整を行う
授業を持ったまま、担当する領域で調整の核になります。通知が挙げている業務の例は次のとおり。
- 教育相談、特別支援教育に関する連絡調整といった児童生徒への対応
- 校内研修
- 学校安全
- 情報教育
- 道徳教育
学年や分掌をまたぐ仕事ばかりで、これまで担当者が明示されないまま誰かが引き受けていた領域が並んでいます。
主幹教諭・指導教諭とどう違うのか
三つとも学校教育法第37条に職務が書かれています。並べると輪郭が出ます。
| 職 | 条文が定める職務 |
|---|---|
| 主幹教諭(第9項) | 校長及び副校長並びに教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、並びに児童の教育をつかさどる |
| 指導教諭(第10項) | 児童の教育をつかさどり、並びに教諭その他の職員に対して、教育指導の改善及び充実のために必要な指導及び助言を行う |
| 主務教諭(第11項) | 児童の教育をつかさどり、及び校長等から命を受けて学校の教育活動に関し教諭その他の職員間における総合的な調整を行う |
主幹教諭は管理職を助けて校務を「整理」する。指導教諭は他の教員の授業に「指導・助言」する。主務教諭は職員の間を「調整」する。向いている先が、上・横・間で分かれています。
この三つは上下に積み上がった昇任階段ではありません。第37条第2項は副校長・主幹教諭・指導教諭・主務教諭を並列に列挙しているだけで、順に上がるものとは定めていません。
給与はどうなるのか
ここが最も誤解されているところです。「主務教諭手当」という手当は作られていません。
通知は処遇についてこう書いています。
主務教諭の職務を踏まえ、主務教諭の設置に伴う新たな級の創設による適切な処遇についても検討されたいこと
手当ではなく給料表の級です。都道府県・指定都市が給与条例と規則を改正して級を作り、そこに格付けする。金額は条例で決まるため、全国一律の額は存在しません。自分がいくらになるかは、勤務先の都道府県(政令市なら市)の教育職員給与条例を見るしかありません。
通知を最後まで読んでも、級の数も金額も出てきません。主務教諭の処遇について国が書いたのは、上に引いた一文がすべてです。
主務教諭にならない人への言及もあります。
主務教諭の設置に関わらず、教諭の職務内容・職責に変更がないことを踏まえ、関係法令にのっとって適切な教諭の給与水準の確保に努めること
附帯決議はさらに踏み込み、「主務教諭の配置のために、教諭の給与を引き下げることのないよう、地方公共団体に周知徹底すること」としました。逆に言えば、そういう運用が起こりうると国会が見ていたということです。
教職調整額と学級担任への加算
主務教諭とは別に、給与の枠組み自体も動いています。
教職調整額は給料月額の4%から10%へ。通知は「令和12年度までに教職調整額の基準となる率を10%に引き上げる」と明記しています。工程表には5%から10%まで1ポイント刻みの枠が年度ごとに並んでおり、起点は給与関係規定が施行された2026年1月です。ただし給与明細に反映されるのは、各自治体が条例を改正してからになります。
学級担任については、新しい手当ができたわけではありません。既存の「義務教育等教員特別手当」を校務類型別に配り直す形になりました。文部科学省令が定めた校務類型は二つだけです。
- 学級(小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校の学級に限り、特別支援学級を除く)を担任する業務
- それ以外の校務
額は「校務類型にかかる業務の困難性その他の事情を考慮して、条例で定める」。複数担任制の学校でも実態に即した額を定めて差し支えない、国庫負担金の限度額が1学級当たりで算定されても学級運営のやり方まで縛られるわけではない。通知はそこまで念を押しています。
原資の話は工程表に出ています。義務教育等教員特別手当そのものは給料の1.5%から1.0%へ縮減、多学年学級担当手当は廃止、給料の調整額も2回に分けて4分の1ずつ縮減する予定が並んでいます。一律に配っていた分を薄くして担任に厚く配り直す組み替えです。附帯決議が「現在行われている一律支給部分について、その支給ができないとの誤解が生じないよう周知すること」と書いたのは、この点にあたります。
どうすれば主務教諭になれるのか
自動的にはなりません。通知は任用の見込みをこう書いています。
一定の経験、知識等を有する教諭のうち、こうした役割を担うことができる教諭が主務教諭として任用されることになると考えられること
「知識等を有する」の中身にも説明があり、心理や福祉に関する資格を活用して特定の学校教育活動の核になっている場合や、教職大学院を修了して高度な専門的職業能力を身につけている場合が例に挙がっています。
選考の方法・時期・人数は各教育委員会が決めます。工程表では2025年度に「選考」の枠が置かれているため、すでに要項を出している自治体があります。
任用後の研修にも変更が入りました。教育公務員特例法施行規則が改正され、中堅教諭等資質向上研修の対象者に主務教諭が加えられています。
自分に関係するか
関係する人。
- 公立の幼稚園・小中学校・義務教育学校・高校・中等教育学校・特別支援学校の教諭。任用の対象になりえます
- 教諭のまま働き続ける人。級が新設されれば給料表の構造が変わります。自分の号給がどう扱われるかは条例改正の内容で確認を
- 管理職。誰にどの調整業務を割り振るかを決める側です
この改正で給与が動かない人。
- 私立学校の教員。主務教諭の職を定めているのは学校教育法ですが、新たな級・教職調整額・義務教育等教員特別手当・義務教育費国庫負担金は、いずれも公立学校の教員を対象にした仕組みです
- 非常勤講師。教諭の職に就いていることが前提の職位です
- 学校事務職員。行政職の給料表が別にあります
何を見に行けばいいか
自治体差の大きい制度なので、確認先を具体的に書いておきます。
- 勤務先の都道府県(政令市なら市)の例規集を開き、「教育職員の給与に関する条例」の給料表を見る。級の数が増えていれば主務教諭の級が作られています
- 都道府県教育委員会の教職員課・人事課に、主務教諭の選考の有無と時期を聞く。学校を通さず直接問い合わせて構いません
- 選考要項が出ているなら、受験資格の経験年数を確認する。自治体ごとに最も差の出る部分です
- 制度の根拠を確かめたいときは、事務次官通知(7文科初第1404号)の「3 主務教諭の職の設置について」を読む。2ページに満たない分量で、この記事で引いた文言はすべてそこにあります
2026年4月1日に全国の学校が一斉に変わるわけではありません。変わるのは「置けるようになる」ところまでで、その先は自分の自治体の条例が決めます。面倒でも、そこを見ないと自分の給料の話にはなりません。
参考資料
- 文部科学省「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律の概要」(初等中等教育分科会 資料3、2025年7月25日)— 法律の概要、参議院文教科学委員会の附帯決議、工程表
- 文部科学事務次官通知「給特法等一部改正法の施行に伴う関係政令の整備に関する政令の制定等について」(7文科初第1404号、2025年9月26日)— 主務教諭の設置・職務・処遇に関する留意事項
- e-Gov法令検索「学校教育法」第37条 — 主幹教諭・指導教諭・主務教諭の職務
- 文部科学省「改正法案が参議院本会議において可決され、成立しました」(2025年6月11日)