家族が吐いたあとの消毒で迷うのは、たいてい濃さです。公的な資料は濃度を2種類に分けていて、嘔吐物や排泄物が付いた床・衣類には0.1%(1,000ppm)、ドアノブや便座、食器の浸け置きには0.02%(200ppm)を使います。専用品を買う必要はなく、家庭用の塩素系漂白剤で作れます。ただし消毒用エタノールは代わりになりません。嘔吐物や排泄物、血液を拭き取るときにエタノール等で消毒するのは適当でない、とこども家庭庁のガイドラインは書いています。
まず確認するのは、手元のボトルに書かれた次亜塩素酸ナトリウムの濃度です。希釈の目安はこの数字を前提に作られているため、ここを見ないと「キャップ何杯」が合いません。そして処理は、乾く前に始めてください。乾いたウイルスは空中に漂います。
片づけの順番
厚生労働省のQ&Aは、床などに飛び散った吐ぶつやふん便の処理をこの順で説明しています。
- 使い捨てのガウン(エプロン)、マスク、手袋を着ける
- 汚物中のウイルスが飛び散らないように、ペーパータオル等で静かに拭き取る(市販の凝固剤を使うこともできます)
- 拭き取ったあと、消毒液で浸すように床を拭き取る
- そのあと水拭きをする
- おむつや使ったペーパータオルは、ビニール袋に密閉して廃棄する
- 処理後は、ウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に換気する
「静かに」と「乾く前に」が要点です。厚生労働省は、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあると説明しています。こども家庭庁のガイドラインも、乾燥してエアロゾル化した嘔吐物を介して空気感染(飛沫核感染)することがあるとしています。拭き取りを後回しにして乾かすことが、いちばん避けたい状態です。
掃除機で吸い取るのは、この理由から適しません。
廃棄用の袋には、廃棄物が十分に浸る量の濃い側の液(塩素濃度約1,000ppm)を入れるのが望ましい、と厚生労働省は書いています。袋の口を縛るだけで終わらせず、液を入れてから閉じてください。
濃度と薄め方
こども家庭庁のガイドラインは、製品濃度が約6%の次亜塩素酸ナトリウムを前提に希釈方法を示しています。
| 使う場所 | 濃度 | 水1Lに対して | 500mLペットボトルの目安 |
|---|---|---|---|
| 嘔吐物や排泄物が付着した床・物(衣類等に付着した場合もこちら) | 0.1%(1,000ppm) | 約20mL | キャップ2杯弱 |
| 衣類等の浸け置き、食器等の浸け置き、トイレの便座・ドアノブ・手すり・床等 | 0.02%(200ppm) | 約4mL | キャップ0.5杯弱 |
製品濃度が違えば、入れる量も変わります。広島県の案内は市販の塩素系漂白剤を約5%として、0.1%なら漂白剤10mLと水0.5L、0.02%なら漂白剤10mLと水2.5Lという作り方を示しています。6%前提の表と数字が違うのは誤りではなく、前提にしているボトルの濃度が違うためです。先に表示を見てください。
薄めるときに熱湯は使いません。希釈液は時間が経つにつれ有効濃度が減るので、使う分だけ作ります。
二つの資料で、床の濃度の書き方が違う
ここは読み取りにくいところです。こども家庭庁のガイドラインは「嘔吐物や排泄物が付着した床・物」を0.1%としています。一方、厚生労働省のQ&Aは、吐ぶつやふん便を拭き取った後の床を約200ppm(0.02%)で浸すように拭き取り、そのあと水拭きをすると書いています。
同じ床の話で濃度が10倍違って見えますが、指している場面がずれています。汚れが付いたままの面を扱うのが前者、取り除いた後の仕上げが後者です。どちらで読むか迷うときは、濃い側の0.1%で拭いてから水拭きをすれば、両方の条件を満たせます。なお、こども家庭庁の資料は保育所向け、厚生労働省のQ&Aは一般向けという違いがあります。
塩素系ならではの注意
- 皮膚に対して刺激作用があります。ビニール手袋などを使い、手指や皮膚の消毒には使わないでください(広島県)
- 漂白作用があります。色柄物の布は変色するため、熱による消毒に替えます
- 金属腐食性があります。ドアノブや手すりに使ったあとは、薬剤の拭き取りを十分にしてください
- 有機物が残っていると効果が落ちます。汚れを取り除いてから消毒します
- 換気しながら使ってください
洗濯と食器
汚れた衣類やリネンは、ウイルスが飛び散らないように処理したあと、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いします。そのとき、しぶきを吸い込まないよう注意してください。消毒は85℃・1分間以上の熱水洗濯が適しており、それができる洗濯機がない場合は次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です。十分にすすぎ、高温の乾燥機を使うと殺菌効果が高まります。
布団などすぐに洗濯できないものは、よく乾燥させてから、スチームアイロンや布団乾燥機をかけると効果があります。下洗いをした場所も、0.02%で消毒したあと洗剤を使って掃除します。
食器やまな板、包丁、ふきんは、熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱が有効です。調理器具は洗剤で十分に洗ってから0.02%で浸すように拭きます。二枚貝などノロウイルスの汚染のおそれがある食品は、中心部が85℃〜90℃で90秒以上の加熱が望まれます。これは国際食品規格委員会のガイドラインに基づく数字です。
手洗いが基本。アルコールは代わりにならない
厚生労働省は、手洗いを手指に付着したノロウイルスを減らす最も有効な方法としています。爪を短く切り、指輪などを外してから、石けんを十分に泡立てて洗います。すすぎは温水の流水で十分に行い、清潔なタオルかペーパータオルで拭きます。石けん自体にウイルスを失活化する効果はありませんが、手の脂肪などの汚れを落とすことで、ウイルスが手から剥がれやすくなります。
洗うタイミングは、調理の前、食事の前、トイレのあと、そして汚物処理やおむつ交換のあとです。手袋をして直接触れないようにしていた場合も洗ってください。
消毒用エタノールは、石けんと流水での手洗いの代わりにもなりません。すぐに手を洗えないときの補助という位置づけです。
保育園・学校・仕事に戻る目安
保育所の登園のめやすは、こども家庭庁のガイドラインで「嘔吐、下痢等の症状が治まり、普段の食事がとれること」と示されています。日数ではなく状態で決まります。流行期には、前日に嘔吐していた子どもの登園を控えてもらうよう保護者に伝えることが重要だとも書かれています。
ただし、戻ったあとも終わりではありません。同じガイドラインは、登園を再開した後もウイルスが便中に3週間以上排出されることがあるとして、排便後やおむつ交換後の手洗いの徹底を求めています。
学校には、日数の基準がありません。学校保健安全法施行規則に「感染性胃腸炎」という病名は挙がっておらず、第三種の「その他の感染症」として扱われます。同規則の出席停止の期間の基準は、第三種について「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」とだけ定めています。インフルエンザのような「発症後何日」という形にはなっていないため、学校ごとに扱いが違って見えます。
仕事について、厚生労働省は、症状が改善した後もしばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにすべきだとしています。根拠は、下痢等の症状がなくなっても通常1週間程度、長いときには1か月程度ウイルスの排泄が続くことがあるためです。飲食や調理、介護、保育のように食品や人に直接触れる仕事では、症状が消えた日と復帰できる日が同じにならない場合があります。勤め先の衛生管理の決まりを確認してください。
食品を扱う仕事の人には、もう一つ注意があります。ノロウイルスは感染していても症状が出ない不顕性感染が認められているため、家庭内に下痢・嘔吐の症状がある人がいる場合は、その汚物処理を含めてトイレや風呂を衛生的に保つ工夫が求められる、と厚生労働省は書いています。
この手順が足りない場面
- 保育園、学校、高齢者施設などで複数人に広がったとき。 厚生労働省は、早く診断を確定し、感染経路を調べて拡大を防ぐことが重要なので、速やかに最寄りの保健所に相談するよう案内しています。家庭内の片づけとは別の対応になります
- 水分が取れないとき。 こども家庭庁のガイドラインは、主な症状を嘔吐と下痢とし、脱水を合併することがあるとしています。特異的な治療法はなく、水分補給や補液を行う対症療法になります。飲めない、尿が出ない、ぐったりしているといった状態は、消毒の問題ではありません
- 予防接種で防ぐことはできません。 ワクチンの開発は行われていますが、使用できるものはまだありません
潜伏期間は12〜48時間、多くは1〜3日で治癒します。乳幼児だけでなく学童や成人にも多くみられ、再感染も稀ではありません。一年を通じて発生しますが、特に秋から冬にかけて流行します。感染力は強く、100個以下という少量でも人に感染して発病します。患者の嘔吐物や糞便に含まれるウイルスは、1グラムあたり100万〜10億個です。手順を丁寧に踏む価値があるのは、この数字のためです。
参考資料
- 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」— 吐ぶつ・ふん便の処理手順、塩素濃度約200ppmと約1,000ppmの使い分け、エタノールの位置づけ、症状消失後のウイルス排泄期間、加熱条件
- こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」2023年5月一部改訂 — 表4の希釈方法(製品濃度約6%前提)、登園のめやす、便中3週間以上の排出、ワクチンの状況
- 学校保健安全法施行規則 — 第三種の感染症の範囲と、出席停止の期間の基準
- 広島県「ノロウイルス対策用消毒液の作り方」— 製品濃度約5%を前提にした希釈例と、皮膚・金属・色柄物への注意
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。