親が亡くなったあと、銀行口座はいつ凍結されるのか。葬儀費用は本人の口座から払ってよい?
口座は『銀行が死亡の事実を知った時点』で凍結されるのが原則で、預金者の家族が伝えるか、新聞のお悔やみ欄や年金停止の連絡で銀行が把握した時点が境目です。葬儀費用は仮払い制度で1金融機関ごとに法定相続分の3分の1かつ上限150万円まで引き出せます。
目次(9項目)
親が亡くなった直後に「銀行口座が凍結されたら葬儀費用はどう払うのか」というご相談が、毎年のように寄せられます。実際には、役所に死亡届を出しただけで自動的に口座が止まるわけではありません。凍結が始まるのは、銀行が死亡の事実を「知った」時点です。葬儀費用については、2019年から始まった『仮払い制度』で、遺産分割の前でも一定額まで引き出せる仕組みが用意されています。まず確認するのは、亡くなった方の口座がある銀行名と通帳の有無、相続人が誰になるかの2点です。
口座が凍結されるきっかけは「銀行が知った瞬間」
預金口座の凍結は、銀行が預金者の死亡を把握した時点で始まります。市町村に提出する死亡届は、戸籍や住民票の手続きに使われるもので、銀行に伝わる仕組みはありません。実務上は、家族が支店や相続手続きデスクに電話・来店して伝えた瞬間が、もっとも多い凍結のきっかけです。
ほかにも、新聞のお悔やみ欄を銀行員が見て把握する、年金の支給停止連絡で気付く、地域金融機関で職員が地元の事情から知る、といった経路で凍結が始まることがあります。都市銀行よりも地方銀行・信用金庫のほうが、こうした地元情報での把握が早めに動く傾向があります。
凍結が始まると、通帳や暗証番号があっても入出金ができなくなり、公共料金の口座振替や年金の入金も止まります。家賃や住宅ローン、介護施設の利用料が同じ口座から引き落とされていた場合、引落不能の連絡が後から届くため、契約者本人(亡くなった方)の名義で動いていた継続的な支払いを一覧化する作業も並行して必要です。
「銀行に伝える前に引き出せばよいのでは」と考える方もいますが、後述するように引き出した金額と使途によっては、相続放棄や限定承認の選択肢が消えるリスクがあります。葬儀費用のように待てない支払いがあるからこそ、仮払い制度を知っておく価値が大きい場面です。
連絡前の引き出しは「単純承認」になり得る
民法921条には、相続人が相続財産の一部でも処分すると、相続を承認したと見なす「法定単純承認」というルールがあります。亡くなった方の預金から多額の引き出しを行い、私的に使ったと判断されると、その時点で単純承認の扱いになり、その後の相続放棄や限定承認が家庭裁判所で認められなくなる可能性があります。
借金や連帯保証など、亡くなった方にマイナスの財産がないと確信できる段階であれば、ここまで神経質に考える必要はないかもしれません。一方、事業を営んでいた、賃貸経営でローンが残っている、保証人になっていた、といった事情がある場合は、3か月の熟慮期間中に動きを止めておくのが安全な選び方です。
実務上は、葬儀費用や入院費の精算など「社会通念上相当」な範囲の支払いは単純承認にあたらないと整理されている裁判例があります。それでも金額の境目や「相当」かどうかの判断は事案ごとに違います。安全側に倒すなら、凍結前に引き出すのではなく、銀行に死亡を伝えたうえで仮払い制度を使う流れが、後から争いになりにくい順番です。
判断に迷う段階では、地域の弁護士会や法テラスで初回相談を受けることをおすすめします。3か月の相続放棄の期限と、亡くなった日からの経過日数を最初に確認しておくと、相談時に話が早く進みます。
仮払い制度で引き出せる金額の計算
2019年7月の相続法改正で、遺産分割が終わる前でも、相続人が単独で一定額までは預貯金を引き出せる仕組みができました。これが民法909条の2に基づく『遺産分割前の預貯金の払戻し制度』、通称仮払い制度です。
引き出せる上限は、ひとつの金融機関ごとに「相続開始時の預貯金額 × 3分の1 × その相続人の法定相続分」で計算した額、かつ150万円までの少ないほうです。同じ銀行の中で普通預金と定期預金がある場合は、口座単位で計算します。
例として、亡くなった方の普通預金が600万円、相続人が配偶者と子1人(法定相続分は2分の1ずつ)のケースを考えると、子が引き出せる額は「600万円 × 3分の1 × 2分の1 = 100万円」です。配偶者も同じく100万円までを引き出せます。別の銀行に300万円の預金があれば、その銀行で別途同じ計算が成り立ちます。
預貯金額が大きい場合でも、ひとつの金融機関で150万円が上限です。葬儀社への支払いが200万円以上必要な場合は、複数の金融機関を組み合わせるか、後述する家庭裁判所の仮分割の制度を検討します。なお、仮払いで受け取った金額は、最終的な遺産分割協議でその相続人の取り分から差し引かれる扱いです。葬儀費用に充てた分は、領収書を残して相続人同士で清算します。
銀行へ提出する書類と手続きの流れ
仮払いの手続きで、銀行から共通して求められる書類は次のような種類です。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)、相続人全員が確認できる戸籍謄本、預金の払戻しを受ける相続人の印鑑証明書と実印、通帳とキャッシュカード、本人確認書類です。仮払いに必要な金額がわかる資料(葬儀社の見積書など)の提出を求める銀行もあります。
戸籍謄本を1セット用意しておくと、複数の銀行を回るときに使い回せます。法務局で取得できる『法定相続情報一覧図』を一度作っておくと、戸籍謄本の束を持ち歩かずに済むため、口座が複数銀行にまたがるご家庭では効率が大きく変わります。発行手数料はかからず、必要部数を申請できる仕組みです。
書類が揃ってから着金までの日数は、銀行によって幅があります。当日窓口で現金を渡してくれる銀行は少なく、書類確認のあとに指定口座へ振込という流れが一般的で、おおむね数営業日から2週間ほどかかります。葬儀費用の支払いを葬儀社に待ってもらえるかどうかは事前に相談しておきたいところです。
ネット銀行の場合は、相続専用デスクに電話を入れて手続きキットを取り寄せる方式が中心です。書類のひな型はホームページからダウンロードでき、戸籍謄本一式と通帳・キャッシュカード、本人確認書類を郵送する手順になります。窓口がない分、書類の往復に時間がかかる傾向があるため、急ぐ場合は最初の電話で「葬儀費用の支払い期日があるが、最短どのくらいで送金可能か」を率直に伝えておくとスムーズです。
上限を超えるときの家庭裁判所での仮分割
150万円の上限を超える金額が必要な場合は、家庭裁判所に『預貯金債権の仮分割の仮処分』を申し立てる経路があります。家事事件手続法200条3項に基づく手続きで、遺産分割の調停・審判が継続している中で、相続人が立て替えた葬儀費用や、相続税の納税資金などに充てるための仮の分割を認めてもらう制度です。
申立てには、本案となる遺産分割の調停や審判の事件が必要なため、まず家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたうえで、その中で仮分割を求める形になります。手続き的に時間と費用がかかるため、葬儀費用程度であれば仮払い制度の範囲で動かす方が現実的です。一方で、相続税の納付期限(10か月)が迫っているのに預金がほぼ全部凍結されているような場面では、検討する価値があります。
弁護士に依頼する場面が増えるため、地域の弁護士会の高齢者・相続専門相談や、法テラスの初回相談を活用し、ご自身のケースで仮分割が必要なのか、仮払い制度の組み合わせで足りるのかを見立ててもらう流れが現実的です。
葬儀費用は誰の負担?領収書の整理が後でいきる
葬儀費用は、相続税の計算では『相続財産から控除できる債務』として扱われ、亡くなった方の遺産から差し引いて課税対象額を計算できます(国税庁タックスアンサー4129)。一方で、民法上は誰が負担するかが法律で明確に決まっておらず、相続人の共同負担、喪主の負担、契約者の負担など、考え方が分かれています。
実務的には、喪主となった相続人がいったん立て替え、相続人同士の話し合いで精算する流れが多く見られます。仮払い制度で引き出した分や、後の遺産分割で取り分から差し引いた分は、誰がいくら出したかを一覧にしておくと、相続人間でのもめごとを抑えやすくなります。
葬儀社の領収書、火葬料金、お布施(寺院への支払い)、戒名料、通夜の飲食費、香典返しの費用などは、相続税の債務控除に使える項目と使えない項目に分かれます。香典返しや初七日以降の法要費用は控除対象外という整理が一般的です。判断に迷ったら、税理士に確認しておくと、相続税申告のときに後戻りせずに済みます。
凍結後の通常の相続手続き
仮払いとは別に、凍結された預金の最終的な払戻しは、遺産分割協議書や遺言書に基づいて行います。相続人全員の同意書(銀行所定の用紙)に実印を押し、印鑑証明書、戸籍謄本一式、通帳、キャッシュカードを提出すると、指定の口座に残高が振り込まれる流れです。
遺言書がある場合は、自筆証書遺言は家庭裁判所の検認手続きを経た上で、公正証書遺言はそのまま、銀行に提出して払戻しを受ける段取りです。法定相続情報一覧図を法務局で取得しておけば、銀行ごとに戸籍謄本一式を提出する手間を省けます。
凍結中の口座から自動引き落としされていた公共料金や家賃などの支払いは、契約者の死亡を機に契約変更や解約手続きが必要です。電気・ガス・水道は新しい契約者の名義変更、住宅ローンは団信(団体信用生命保険)による弁済の手続き、生命保険は受取人による請求手続きと、並行して進める事柄が複数あります。エンディングノートや通帳整理ノートが残っていれば、契約一覧が見えるので作業が大きく楽になります。
生前にできる準備
亡くなった後の手続きを減らす方向で、生前に整理できる事柄もあります。代表的なのは、預金口座の集約(複数銀行に少額ずつ残さない)、通帳とキャッシュカードの所在を家族が把握できる状態にしておくこと、年金や保険の受取口座を1か所にまとめておくこと、エンディングノートに金融機関の一覧を残しておくことです。
遺言書を残しておくと、凍結後の払戻し手続きが大きく短縮されます。公正証書遺言は公証役場で作成し、原本が公証役場に保管される形式で、家庭裁判所の検認が不要です。費用は財産額に応じて数万円から十数万円が目安です。自筆証書遺言については、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば、原本が法務局で保管され、検認が不要になります(保管手数料は1件3,900円)。
家族信託や任意後見契約という選択肢は、認知症の進行で口座管理が困難になる場面にも備えられる仕組みです。専門家への相談が前提になるため、必要性を感じた段階で司法書士・弁護士・行政書士のいずれかに相談ルートをつくっておくと、いざというときの動きが早くなります。
参考資料
- 法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法の改正)
- 全国銀行協会 預金者がお亡くなりになった場合のお手続き
- 裁判所 預貯金債権の仮分割の仮処分(家事事件手続法第200条第3項)
- 国税庁 タックスアンサー No.4129 相続財産から控除できる債務
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参考資料
- 法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法の改正)
- 全国銀行協会 預金者がお亡くなりになった場合のお手続き
- 裁判所 預貯金債権の仮分割の仮処分(家事事件手続法第200条第3項)
- 国税庁 タックスアンサー No.4129 相続財産から控除できる債務
掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。
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