年金の繰下げ受給は70歳と75歳どちらが得?2026年6月の月額で損益分岐を試算
70歳まで繰下げた場合の損益分岐はおよそ81歳11か月、75歳まで繰下げた場合はおよそ86歳11か月が目安です。手取りで考えると、ここから2〜3年後ろにずれます。
目次(10項目)
年金の繰下げ受給は、本来65歳から受け取る老齢年金の開始時期を後ろにずらすほど、1か月の受給額が増える仕組みです。計算式は単純ですが、得か損かは「何歳まで生きるか」と「税金・保険料の上がり方」で結論が動きます。本稿では2026年6月時点の制度をもとに、月額22万円の人が70歳まで・75歳まで繰下げた場合の月額と損益分岐の年齢、判断を狂わせやすい加給年金や在職老齢年金の扱いまでをまとめます。最初に手元に用意しておきたいのは、直近の「ねんきん定期便」または「ねんきんネット」の見込み額と、自分と配偶者の生年月日です。
増額率は1か月あたり0.7% 70歳で42%、75歳で84%
繰下げ受給は、受給開始を65歳から1か月遅らせるごとに、本来の年金額に0.7%が上乗せされる計算です。1年で8.4%、5年で42%、10年で84%まで増えます。上限は75歳到達月で、それ以上の繰下げによる増額はありません。
この0.7%という増額率は、2007年4月以降に65歳を迎えた人に適用されている数字で、一度繰下げ請求をした月額は原則として生涯にわたって続きます。途中で減ったり、若いころの月額に戻ったりはしません。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げられます。基礎は70歳、厚生は65歳開始というように、年金の種類ごとに別の判断ができます。逆に、両方を同時に同じ年齢で繰下げないといけないという制約はありません。
月22万円の人が70歳・75歳まで繰下げた場合の月額試算
会社員として40年程度勤め、配偶者が国民年金中心という夫婦で、本人の老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせた月額が約22万円というケースを想定します。これは厚生労働省が公表している「標準的な年金額(夫婦2人世帯)」よりやや低い水準ですが、検針票感覚で読める数字として置きます。
- 65歳から受給開始: 月22.0万円(年264万円)
- 70歳まで繰下げ(42%増): 月22.0×1.42=約31.2万円(年374万円)
- 75歳まで繰下げ(84%増): 月22.0×1.84=約40.5万円(年486万円)
65歳開始と比べて、70歳開始は年110万円、75歳開始は年222万円多く受け取れる計算になります。月単位で見ると、70歳開始は月9.2万円、75歳開始は月18.5万円ほど上乗せです。
国民年金の満額(2026年度:月6万9,308円)だけの人で同じ計算をすると、70歳まで繰下げで月約9.8万円、75歳まで繰下げで月約12.7万円です。基礎年金中心の人ほど、繰下げによる絶対額の差は小さくなります。
70歳まで繰下げた場合の損益分岐は81歳11か月前後
損益分岐は「65歳から普通にもらった場合の累計受給額」と「繰下げてもらった場合の累計受給額」が一致する年齢です。
70歳まで繰下げた場合、65歳から70歳までの60か月は受給ゼロです。65歳開始のままなら、月22万円×60か月=1,320万円を先に受け取れていた計算です。70歳開始は65歳開始より月9.2万円多くもらえるので、1,320万円÷9.2万円=約143か月で追いつきます。70歳+143か月=81歳11か月が損益分岐の目安になります。
つまり、「81歳11か月より長く生きるなら、累計では70歳繰下げの方が得」「それより前に亡くなれば65歳開始の方が得」という関係です。
厚生労働省の令和6年簡易生命表では、65歳男性の平均余命は19.62年(84歳7か月相当)、65歳女性は24.71年(89歳8か月相当)です。平均だけで見ると男女ともに81歳11か月を超える計算ですが、平均余命は中央値ではなく、4割前後の人はこの年齢より前に亡くなる可能性があることに注意してください。
75歳まで繰下げた場合の損益分岐は86歳11か月前後
同じ計算を75歳開始で行うと、65歳から75歳までの120か月で65歳開始なら月22万円×120か月=2,640万円を先に受け取れていた計算です。75歳開始は65歳開始より月18.5万円多くもらえるので、2,640万円÷18.5万円=約143か月で追いつきます。75歳+143か月=86歳11か月が損益分岐の目安です。
70歳開始でも75歳開始でも、繰下げた年数と「追いつくまでの月数」がほぼ同じ143か月になるのは、増額率が一定の月0.7%だからです。70歳開始と75歳開始のどちらが有利かは、「86歳11か月より長く生きそうか」で大半が決まります。
健康に自信があり、両親や祖父母が長寿だった家系であれば75歳繰下げを検討する余地が出ます。一方で、平均余命を大きく上回る前提を置きにくい人にとっては、75歳まで引っ張るメリットは限定的です。70歳開始でも基礎・厚生の合計で月9万円以上の上乗せがあるため、まずは70歳開始を起点に検討するのが現実的です。
税金と社会保険料を含めると損益分岐は2〜3年後ろにずれる
ここまでの試算は受給額(額面)ベースです。実際の手取りで判断するには、所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料の増加分を差し引かなければなりません。
年金は雑所得として課税されます。公的年金等控除の枠を超えた金額が課税対象になり、所得税の累進課税が乗ります。月22万円(年264万円)の人は所得税率5%帯ですが、月40万円(年480万円)になると10%帯に乗る可能性が高まります。住民税も10%課税です。
国民健康保険料・介護保険料は所得段階に応じて段階的に上がります。年金が増えれば同じ割合で保険料が増えるわけではないものの、自治体ごとの所得段階区分を超えると階段状に保険料が上がります。後期高齢者医療保険料も同様です。
手取りで考えると、70歳開始も75歳開始も、額面ベースの損益分岐より2〜3年ほど後ろにずれるのが一般的です。例えば70歳開始なら81歳11か月ではなく、83〜84歳前後を意識しておくと現実に近い感覚になります。
正確な手取り試算は、お住まいの市区町村の住民税・国民健康保険料の試算窓口で行うのが確実です。年金事務所では税・保険料込みの試算は扱わないため、自治体の窓口や税理士を併用してください。
加給年金がある人は月額比較だけで繰下げを判断しない
加給年金は、厚生年金加入期間が20年以上ある人で、65歳到達時点に65歳未満の配偶者または18歳到達年度末までの子(障害がある場合は20歳未満)を扶養している場合に上乗せされる手当です。2025年度は配偶者分が年39万7,500円(月約3.3万円)、子の1人目・2人目が年22万8,700円、3人目以降が年7万6,200円です。
加給年金は老齢厚生年金に付属する手当のため、老齢厚生年金を繰下げ中は加給年金も支給されません。配偶者が65歳に達した時点、または子が要件を外れた時点で加給年金は終わるので、ここを逃すと取り戻せません。
例えば配偶者が3歳年下の人が、老齢厚生年金を70歳まで繰下げると、本来65歳から配偶者が65歳になるまでの3年間に受け取れたはずの加給年金、約39.75万円×3年=約119万円を取り逃します。70歳繰下げによる老齢厚生年金の増額分が月9万円程度なら、119万円を取り戻すのに約13か月かかる計算です。
この問題は、老齢基礎年金だけを繰下げて老齢厚生年金は65歳から受け取るという「片方繰下げ」で回避できます。加給年金がある人は、年金事務所で「両方繰下げ」「基礎のみ繰下げ」「厚生のみ繰下げ」の3パターンを試算してもらい、累計額で比較してください。
なお、加給年金は配偶者自身が老齢厚生年金を20年以上の加入期間で受給し始めた時点で打ち切られます。配偶者がフルタイム勤務で厚生年金加入期間が長い場合、配偶者が65歳になる前に加給年金が打ち切られる可能性もあります。逆に配偶者が国民年金中心の専業主婦・主夫であれば65歳まで満額が出るので、繰下げで取り逃す金額が大きくなりがちです。配偶者の働き方によって判断が変わる部分なので、ねんきん定期便で配偶者の加入記録も併せて確認しておいてください。
在職老齢年金で支給停止だった人は繰下げのメリットが減る
在職老齢年金は、働きながら年金を受け取る人で、給与+老齢厚生年金(月額換算した基本月額)の合計が一定額を超えると、超えた分の半額が支給停止される仕組みです。2026年4月以降は基準額が65歳以上で月65万円(従来は51万円)に引き上げられました。
繰下げ請求するときの増額対象は、「実際に支給される予定だった月額」だけです。在職老齢年金で停止されていた部分は増額の計算から除かれます。65歳以降も役員報酬などで高い給与を受け取っている人は、繰下げで増える金額が想定より小さくなります。
特に「70歳到達時点で老齢厚生年金の半分以上が停止されていた」という人は、繰下げで増えるのは支給されていた部分だけです。例えば本来の老齢厚生年金が月15万円で、在職停止により実支給が月7万円なら、増額対象は月7万円だけです。70歳まで5年繰下げても、月の上乗せは7×0.42=約2.9万円にとどまります。
働き続ける予定がある人は、年金事務所で「停止後の見込み月額」と「繰下げ後の見込み月額」の両方を試算してもらうのが現実的です。給与水準が下がる予定があるなら、停止が外れる時期に合わせて繰下げを終了する選択肢もあります。
70歳超で「みなし増額」の一括請求を使う選択肢
繰下げ請求を意思決定できないまま70歳を超えた人のために、2023年4月から「特例的な繰下げみなし増額制度」が用意されています。70歳以降に繰下げ請求を選ばずに過去にさかのぼって受給したい場合、請求の5年前の時点で繰下げ請求があったとみなして、そこから請求月の前月までを増額後の月額で一括受給できる仕組みです。
例えば72歳で「やはり65歳まで遡って受け取りたい」と申し出ても、5年より前の分は時効でもらえません。一方で、5年以内の分は「67歳時点で繰下げ請求があった」とみなされて、当時の増額後月額で一括して受け取れます。
この制度は、繰下げ請求の判断を70歳以降にずらしたい人にとって安心材料です。ただし、5年より前の分は失われるため、無計画に繰下げを続けるのではなく、毎年「今請求した場合の月額」を年金事務所で確認しながら判断する方が安全です。詳細な要件は日本年金機構の解説ページで確認してください。
申請窓口と必要書類、繰下げ請求を忘れた場合の対応
繰下げ請求は、最寄りの年金事務所の窓口、または郵送で行えます。必要書類は「老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ請求書」、本人確認書類、振込先の通帳のコピー、マイナンバーカード(または通知カード+本人確認書類)です。
65歳到達直前に届く「年金請求書(老齢給付)」を提出しないでおくと、自動的に繰下げ待機の状態になります。実際に受給を始めたい年齢の前月までに繰下げ請求書を提出すれば、その月の翌月から増額後の月額で振り込みが始まります。
繰下げ請求書を提出しないまま70歳を過ぎ、75歳まで進んだ場合でも、上で説明したみなし増額制度で直近5年分は救済を受けられます。ただし請求が遅れるほど生涯で受け取れる総額は少しずつ減るので、覚えのある人は年に1度はねんきんネットで自分の累計状況を確認しておくと安心です。
判断に迷う場合は、年金事務所の対面相談を予約してください。電話だと細かい試算ができないことがあり、加給年金や在職老齢を組み合わせたシミュレーションは窓口でないと出してもらえないケースが多いです。窓口では本人確認のため、本人(または代理人なら委任状と代理人の本人確認書類)が直接行く必要があります。事前にねんきん定期便かねんきんネットの画面を印刷して持参すると、相談時間を短縮できます。
ねんきんネット上では、繰下げを想定した月額シミュレーションも自分で確認できます。65歳・66歳・67歳・70歳・75歳など複数の開始年齢で試算した結果を画面に並べて比較できるので、初めて検討する人はまずここで全体像を把握しておくと、窓口での相談がスムーズに進みます。
参考資料
繰下げの仕組み、みなし増額制度、加給年金や在職老齢年金との関係は、日本年金機構の解説ページに最新の数値が掲載されています。手取りベースの試算は市区町村の住民税・国民健康保険料の窓口、または税理士に相談すると正確です。本記事の数値は2026年6月時点で公開されている資料をもとにまとめています。
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参考資料
掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。
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