結論:会社が出す届出に、国保をやめる手続きは入っていない
就職して職場の健康保険に入ると、会社は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を出します。日本年金機構は、この届出を事業主が事実発生から5日以内に事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出すると説明しています。本人の役目は、基礎年金番号通知書(年金手帳)またはマイナンバーカードを事務担当者に渡すところまでです。
問題は、その届出の宛先です。行き先は日本年金機構であって、国民健康保険を運営している市区町村ではありません。国保をやめる届出は、これとは別に、自分で市区町村へ出します。 国民健康保険法施行規則は、国保の被保険者でなくなったとき、その人が属していた世帯の世帯主が14日以内に届け出ると定めています。届け出るのが本人ではなく世帯主だという点も、見落としやすいところです。
いつから国保でなくなるのかも決まっています。大田区は喪失日を「職場の健康保険加入日の翌日」と説明しています。国民健康保険法も、職場の健康保険に入るなどして適用除外にあたることになった日の翌日から資格を失うと書いています。つまり会社の保険に入った時点で、国保の資格はもう終わっています。それでも納付書が届くのは、市区町村がまだその事実を知らないからです。
なお、就職と引っ越しが重なった人は、届出が1本では終わりません。国民健康保険法施行規則は、同じ都道府県内の他の市町村へ住所を移したとき、その都道府県内に住所を持たなくなったときについても、それぞれ世帯主が14日以内に届け出ると定めています。転入届を出したから国保の手続きも済んだ、とは限らないわけです。新居の役所で転入届を出す際に、国保の担当窓口で「就職して職場の健康保険に入ったので、国保の喪失も一緒にお願いします」と言えば、その場で片づきます。
保険料は「入社した日の前月分」まで
先にお金の話を片づけます。江東区は「就職して会社の保険に入った場合、保険料は会社の保険に加入した日の前月分までかかります」と書き、別の箇所で「日割り計算ではありません」とも明記しています。例として挙げているのは、3月末まで国保に入っていて4月1日から会社の保険に入る場合で、この人は「3月分の保険料までお支払いが必要」になります。
読み替えると、入社した月の国保料はかからない、ということです。月の半ばに入社したから半月分だけ払う、という計算にはなりません。ここを知らないと、届出のあとに残った納付書を見て「まだ請求が来ている、手続きが通っていないのでは」と不安になります。多くは、遡って直る前の古い納付書です。
金額の決め方そのものは市区町村の条例で決まります。自分の自治体のサイトで「国民健康保険料 やめたとき」または「保険料が変わるとき」のページを開き、何月分までかかると書いてあるかを見てください。読むのは1か所、それだけで十分です。
今日できること
役所へ行く日を決める前に、手元でできることが3つあります。
- 入社日が読み取れる紙を用意する。 会社から渡された「資格情報のお知らせ」や資格確認書に、健康保険の資格取得年月日が入っています。まだ何ももらっていなければ、給与や労務の担当者に「健康保険の資格取得年月日が分かるもの(資格情報のお知らせ、または健康保険資格取得証明書)をください」と頼みます。
- 自治体のページで持ち物と申請方法を見る。 検索するなら「(市区町村名)国民健康保険 やめるとき」です。窓口に行かずに済む場合があります。大田区は郵送での受付に加え、オンライン申請では「職場の健康保険に入った日を確認できるもの」の写真を添付する形をとっています。大阪市も行政オンラインシステムでの手続きを案内しています。
- 口座振替をしているなら、次の振替日を確認する。 届出をしても、その日のうちに引き落としが止まるとは限りません。
窓口へ持って行くもの
自治体によって書き方は違いますが、聞かれることは同じです。誰が、いつ、どの保険に入ったか。
大田区が挙げているのは「職場の健康保険の情報が分かるもの(資格確認書、資格情報のお知らせ等)」と区の資格確認書、そして「世帯主と国保喪失する方のマイナンバー確認書類」、手続きに来た人の本人確認書類です。藤沢市も「新しく加入したことがわかる書類」(資格確認書、資格情報のお知らせ、資格取得証明書など)と、「世帯主及びやめる方のマイナンバーが確認できるもの」、届出人の本人確認書類としています。
紙の書類が手元にない人のために、大阪市は持ち物として「健康保険等資格喪失証明書またはマイナポータルの提示もしくは印刷」を挙げています。マイナ保険証だけで紙を持っていない人は、こうした扱いが自分の自治体にもあるかを、前の項の2番で開いたページで確かめておくと二度手間になりません。
放置すると、直せる期間のほうが先に切れる
届出をしないでいると、まず納付書か口座振替が続きます。大阪市は「届出勧奨の文書や保険料の督促状が届く場合があります」と書いています。
では、あとから出せば全部戻るのか。基本は戻ります。江東区は、4月1日に会社の保険に加入して8月31日に喪失手続きをした例について「4月以降の資格がなくなるため、当該年度の保険料は『0円』になります」と説明しています。5か月遅れても、資格喪失時点まで遡って減額されるということです。
ただし遡れる期間には端があります。藤沢市は「当該年度における最初の保険料の納期の翌日から起算して2年を経過した日以降は、保険料の更正ができません」と明記し、大田区も届出が遅れると「時効により保険料が変更できなくなる場合があります」と書いています。転職から何年も経って気づいたとき、直せない部分が残るのはこの理由です。急ぐ理由は罰則ではなく、時効のほうにあります。
国保の資格確認書で受診してしまったとき
会社の保険に入った直後は、手元に古い国保の資格確認書が残っています。切り替わったことを忘れて医療機関に出してしまう例は珍しくありません。
このとき返すのは、窓口で払った2〜3割ではありません。墨田区は、返すのが「本来他の健康保険が負担するべき保険給付分」だと説明しています。つまり7〜8割のほうです。数万円の通院で数万円の返還通知が届くことになるので、金額を見て驚く人が多い場面です。
同じことを、大阪市は「やめた後に、届出をせずに医療機関にかかられた場合は、医療費を返還していただきます」、藤沢市は「藤沢市国民健康保険の資格を使って診療を受けたときは、藤沢市国民健康保険で負担した医療費をあとで返していただくことになります」と書いています。表現は違っても中身はひとつで、市区町村が肩代わりした分を返す、という話です。
ここで知っておく価値があるのが保険者間調整です。墨田区はこれを「国保と社会保険等の保険者間で直接医療費の調整をする制度」と説明しています。保険者どうしで清算してもらう形なので、本人が一度立て替える必要がなくなります。協会けんぽも、対象になれば「本来お返しいただく医療費(返納金)の支払いが不要となり」ますと書いており、提出するのは「保険者間調整 同意書兼委任状・申請書」という名前の書類です。
使えない場合も示されています。墨田区が挙げているのは、受診時に加入していた健康保険の保険者が保険者間調整に対応していない場合、時効が近い場合、必要書類の提出がない場合です。協会けんぽは「医療機関等を受診された日から2年を経過すると時効となり、保険者間調整を行うことができなくなります」としています。調整が成立しても、支払額が返納額に満たなければ差額は自分の負担になる、とも書き添えられています。全額が消えるわけではない、という点は先に頭に入れておいてください。
調整が使えず自分で返したときも、そこで終わりではありません。墨田区は、返還した医療費は「診療を受けた日に加入していた健康保険の保険者に療養費として請求することができます」と案内しています。返還通知が来たら、その通知と領収書を持って、新しい保険者への療養費請求まで進めてください。こちらも「療養を受けた日の翌日から2年」という期限が付きます。
家族の分は、人ごとに数える
世帯で国保に入っていた場合、抜けるのは人ごとです。自分だけが職場の健康保険に入り、家族が国保に残るなら、その家族の国保は続きます。家族も同時に扶養に入るなら、その人たちの加入日が分かる書類も一緒に必要になります。
世帯の人数が変われば保険料も計算し直されるため、次に届く通知書の金額は今までと違います。金額が変わったこと自体は、手続きが通った合図だと考えて構いません。
家族を扶養に入れられるかどうかは、会社の健康保険の側が判断します。役所の国保窓口では決まりません。入れられるかを先に会社へ確かめ、扶養に入る日が決まってから国保の喪失届を出す、という順番にすると、家族の分だけ空白になる事故を避けられます。会社に聞くときの一文は「(家族の名前)を被扶養者に入れられますか。入れられる場合、資格取得日はいつになりますか」です。日付まで聞いておけば、役所に持って行く書類がそのまま決まります。