退職して国民年金の納付書が届いたとき、多くの人は「去年は働いて給与があったのだから、免除なんて通るわけがない」と考えて封筒を脇に置きます。そこが分かれ目です。
日本年金機構は、失業・倒産・事業の廃止などの事実を確認できたときは、失業等した方の前年所得にかかわらず免除・納付猶予を受けられる特例があると案内しています。前年の給与は、審査に使われません。
会社を退職したときの手続きを説明したページでも、日本年金機構は「納付が難しい場合は、必ず免除等の申請を行ってください」と書き、続けて「退職(失業等)により納付が困難な場合は、特例免除が申請できます」と添えています。払えないまま黙って放置する道は、公式の案内のどこにも用意されていません。
外れるのは、自分の所得だけ
ただし、この特例で審査から外れるのは失業した本人の所得です。ほかの人の分は残ります。
国民年金保険料の免除は、本人・配偶者・世帯主の三人の前年所得で審査されます。中野区は、免除の審査対象を「ご本人・配偶者・同一世帯の世帯主」、納付猶予を「ご本人・配偶者」と分けて書いています。特例を使っても、この枠組み自体は動きません。
だから結果は、退職後にどこへ住んだかで割れます。
- 一人暮らしで自分が世帯主。配偶者がいなければ、審査に載る所得は実質なくなる
- 実家に戻り、親が世帯主。親の前年所得で判定される
- 配偶者が働いている。配偶者の前年所得で判定される
「失業したのに免除が通らなかった」という結果の多くは、ここから来ています。制度が冷たいのではなく、見られていたのが自分ではなかった、というだけの話です。逆に、一人暮らしを続けている人は、思っているよりあっさり通ります。
実家に戻って落ちたなら、次に見るのは納付猶予
世帯主の所得で落ちた人にも道が残っています。納付猶予です。
納付猶予は20歳以上50歳未満が対象で、審査に載るのは本人と配偶者の前年所得だけです。世帯主は入りません。中野区も納付猶予について「同一世帯の世帯主の所得制限はありません」と明記しています。親と同居していても、親の所得は見られないということになります。
用紙は「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」という共通の1枚です。免除用と猶予用に分かれてはいません。免除が難しそうだから何も出さない、という判断にならないようにしてください。50歳未満なら、世帯主の所得がネックになりそうでも出す価値があります。
対象が始まるのは、退職した月ではない
日本年金機構は「災害や失業等のあった月の前月から免除が受けられます」としています。3月末で退職したなら2月分から、9月末で退職したなら8月分からです。退職した月そのものではなく、その一つ手前から始まります。
もう一つ、年度の区切りが独特です。免除等での年度は7月から翌年6月までで、4月始まりではありません。4月から翌年3月なのは学生納付特例のほうです。そのうえで日本年金機構は「複数年度の申請を希望する場合は年度ごとに申請書の提出が必要です」としています。
この二つを重ねると、いま必要な申請書の枚数が決まります。
| 退職した月 | 対象が始まる月 | いま出す申請書 |
|---|---|---|
| 7月 | 6月分から | 6月分は前の年度に入るため、前年度分と当年度分の2枚 |
| 8月から翌年6月まで | 退職した月の前月分から | 当年度分の1枚 |
どちらの場合も、承認は6月分でいったん切れます。7月分から先も続けたいなら、7月にもう一度出すことになります。中野区も「申請は、原則として毎年度(7月以降)必要」と書いています。年度更新そのもののしくみは国民年金の免除は7月に年度切替にまとめてあるので、翌年の話はそちらを見てください。
持っていくのは、失業を証明する1枚
所得証明は要りません。要るのは、失業した事実が読み取れる書類です。中野区が挙げているのは次の4つです。
- 雇用保険受給資格者証
- 雇用保険被保険者離職票
- 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書
- 日本年金機構指定の退職証明書と住民税納税(変更)通知書
日本年金機構の電子申請の案内も「雇用保険受給資格者証、雇用保険受給資格通知または雇用保険被保険者離職票など」としています。
このうち1つあれば足ります。 ここを取り違えると、動き出しが1か月遅れます。雇用保険受給資格者証はハローワークで求職の申込みをしたあとに手に入る書類ですが、それを待つ必要はありません。会社から届いた離職票の写しがあれば、ハローワークに行く前でも申請できます。失業給付の手続きと年金の免除の手続きは、別々に走らせてかまいません。
出す先は3つある
- 住所地の市区役所・町村役場の国民年金担当窓口
- 年金事務所
- マイナポータルからの電子申請
日本年金機構は申請手続きの案内で「この手続きはマイナポータルから電子申請できます」としており、郵送で出す場合は本人確認書類の写しを添えるよう求めています。中野区も窓口・年金事務所・郵送・マイナポータルの4通りを並べています。平日に窓口へ行けない人でも、詰みません。
窓口へ行く前に、一つ確かめておくことがあります。日本年金機構は、本人・配偶者・世帯主のうち前年(または前々年)の所得について税の申告が行われていない人がいる場合は、市区町村民税の申告を行ったうえで申請書を提出するよう求めています。
実家に戻った人は、ここで止まりがちです。親が年金収入だけで確定申告をしていない、というケースがあるためです。同じ世帯に住民税の申告をしていない人がいないか、申請書を書く前に一度見ておくと二度手間になりません。
「もう何か月も過ぎた」でも、まだ戻せる
未納のまま何か月も経っていても、今日できることが残っています。
日本年金機構は、保険料の納付期限から2年を経過していない期間、つまり申請時点から2年1か月前までの期間について、さかのぼって免除等を申請できるとしています。去年に退職してそのままにしている人も、たいていはこの枠の中にいます。
裏を返すと、この2年1か月は毎月1か月ずつ削れていきます。放置している期間は「あとで追納すればいい」という状態ですらありません。月が変わるたびに、戻せない月が1つ増えていきます。窓口へ行くのを来月に延ばす判断には、その分のコストが乗っています。
免除・猶予・未納は、将来こう分かれる
三つは似た顔をしていますが、老齢基礎年金への効き方が違います。日本年金機構が示している反映割合は次のとおりです。
| 区分 | 老齢基礎年金への反映 |
|---|---|
| 全額免除 | 全額納付した場合の年金額の2分の1 |
| 4分の3免除 | 8分の5 |
| 半額免除 | 8分の6 |
| 4分の1免除 | 8分の7 |
| 納付猶予 | 反映されない(受給資格期間にはカウントされる) |
| 未納 | 反映されない |
4分の3免除から4分の1免除までは、免除されなかった分の保険料が残る区分です。全額免除と納付猶予には、その残りがありません。
納付猶予は年金額が増えないぶん免除より弱く見えます。それでも未納とは決定的に違います。日本年金機構は、免除・納付猶予を受けた期間中に障害や死亡が発生し一定要件に該当する場合は障害基礎年金や遺族基礎年金を受け取れるとしており、未納のままだとこれらを「受け取ることができない場合がある」と書いています。
つまり申請書を1枚出しておくかどうかで、この先に病気やけがをしたときの扱いが変わります。年金額の話は老後の損得ですが、こちらは休んでいる今の話です。
追納は10年以内。3年度目から金額が変わる
働き始めて余裕ができたら、免除・猶予を受けた期間の保険料を後から納められます。追納です。日本年金機構の案内から要点を抜くと、こうなります。
- 追納できるのは、追納が承認された月の前10年以内の免除等期間
- 承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に納める場合は、当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされる
- 原則として古い期間の保険料から納める
- 申込先は年金事務所。申し込むと日本年金機構から納付書が届く
- 追納した保険料は社会保険料控除の対象になる
翌年度から数えて2年度目までに納めれば、当時の額のままです。3年度目に入ると加算額が乗ります。復職した年の年末調整か確定申告に間に合わせれば、控除の分だけ実質の負担も下がります。
順序については一点だけ注意があります。免除の期間と、納付猶予・学生納付特例の期間の両方がある人について、日本年金機構は納付する順序を年金事務所に相談するよう案内しています。追納申込書を出す前に、年金事務所へ「免除の期間と猶予の期間が両方あります。どちらから納めるべきですか」と電話で確かめておくと、納付書が届いてから迷いません。
今月やること
保険料の月額は年度ごとに改定されるため、いまの額は日本年金機構のサイトで確認してください。手を動かす順番は、退職からどれだけ経っていても変わりません。
- 会社から届いた離職票、またはハローワークの雇用保険受給資格者証を1枚用意する
- 同じ世帯に、住民税の申告をしていない人がいないか確かめる
- 「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を、市区町村の国民年金窓口・年金事務所・マイナポータルのどれかで出す
- 退職した月が7月なら、前年度分と当年度分の2枚を出す
- 50歳未満で世帯主の所得が気になるなら、納付猶予まで視野に入れておく
なお、退職して国民年金に切り替える届出そのものは、退職日の翌日から14日以内に住所地の市区役所・町村役場へ出すことになっています。この届出がまだ済んでいないなら、免除の申請と同じ窓口でそのまま続けられます。納付書が届いている人は切替が済んでいるということなので、免除の申請から始めてください。
