「インボイスの2割特例、9月30日で終了」という見出しを、この夏いくつも見かけました。フリーランスや一人親方の方から、9月中に何か出しておくべきかと聞かれることも増えています。
先に答えを書きます。個人事業主なら、9月中に税務署へ出す書類はありません。2割特例が使える最後は2026年分、つまり2027年3月31日が期限の消費税申告までです。あと一度分、まるごと残っています。
変わるのはその先です。2027年分からは「3割特例」という別の計算方法に移ります。判断が要るとすれば、そこで簡易課税を選ぶかどうか。その届出にだけ、この特例に紐づいた特別な期限が用意されています。
9月30日で切れるのは日付ではなく「課税期間」
国税庁の書き方はこうです。2割特例の対象は「適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」。
引っかかるのは末尾の「日の属する各課税期間」です。一文が長いうえに、肝心の「課税期間」が最後に来る。ここを読み飛ばすと「9月30日まで」に見えてしまいます。実際には、9月30日という一日で線を引くのではなく、9月30日を含んでいる課税期間をまるごと対象にする、という意味です。
課税期間とは、消費税を計算する単位のこと。個人事業主は暦年、つまり1月1日から12月31日までが1つの課税期間です。法人は事業年度がそのまま課税期間になります。
つまり同じ「9月30日まで」でも、誰にとっての最後かは事業の形によって違ってきます。
個人事業主の最後は2026年分。申告期限は2027年3月31日
個人事業主の2026年(令和8年)の課税期間は、2026年1月1日から12月31日まで。この期間のなかに9月30日が入っています。
だから2026年分は、まるごと2割特例の対象です。10月・11月・12月の売上も含めて、1年分を売上税額の2割で計算できます。
その申告書を出すのは翌年です。個人事業主の消費税の確定申告期限は3月31日。2027年3月31日は水曜日なので、期限がずれることもありません。所得税の申告期限(3月15日)とは半月ずれるので、ここは毎年取り違えが起きます。
2027年(令和9年)の課税期間は2027年1月1日から。この期間には9月30日以前の日が1日も入りません。ここで2割特例は終わります。
法人は決算月しだいで終わる時期が違う
法人の場合、課税期間は事業年度です。2割特例が使える最後は、9月30日を含む事業年度。
代表的な決算月で並べてみます。
| 決算月 | 2割特例が使える最後の事業年度 | その申告期限(原則) |
|---|---|---|
| 3月決算 | 2026年4月1日〜2027年3月31日 | 2027年5月31日 |
| 9月決算 | 2025年10月1日〜2026年9月30日 | 2026年11月30日 |
| 12月決算 | 2026年1月1日〜2026年12月31日 | 2027年2月28日 |
3月決算の法人は、2027年3月まで2割特例の期間が続きます。逆に9月決算なら、2026年9月30日でちょうど区切りです。
法人の申告期限は事業年度終了日の翌日から2か月以内。延長の特例を受けているなら別扱いです。
そしてもう一つ。次に出てくる3割特例は個人事業主だけの制度で、法人には適用がありません。法人は2割特例が切れた翌事業年度から、簡易課税か原則課税かを選ぶことになります。
2027年分と2028年分は「3割特例」
令和8年度税制改正で新しくできたのが3割特例です。国税庁の説明では、対象は「個人事業者」に限られ、対象年分は「令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告」、計算は「納付税額を売上税額の3割とすることができる」となっています。
2割が3割になる。数字だけ見れば納税額が1.5倍ですが、いきなり原則課税や簡易課税に放り出されるよりは、段差が小さい着地です。
具体的に見てみます。年間の課税売上が税抜700万円、預かった消費税が70万円だったとします。
| 計算方法 | 納める消費税 |
|---|---|
| 2割特例(2026年分まで) | 14万円 |
| 3割特例(2027年分・2028年分) | 21万円 |
差は7万円。この額を、2027年の資金繰りにあらかじめ織り込んでおくかどうかで、翌春の負担感がだいぶ変わります。
なお2029年分(令和11年分)以降について、いまのところ延長は決まっていません。2026年8月30日時点では、3割特例は2年限りの措置として公表されています。
3割特例が使えない人もいる
3割特例には要件があります。国税庁が挙げているのは、個人事業者であること、インボイス発行事業者の登録を受けていること、そして「基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること」です。
基準期間は前々年。2027年分(令和9年分)の判定なら2025年(令和7年)の課税売上高を見ます。2028年分なら2026年分です。
ここは自分で確かめられます。2025年分の確定申告書か会計ソフトの年間集計を開いて、課税売上高が1,000万円を超えていないか見るだけ。超えていれば、そもそも消費税の課税事業者としての義務が別に発生していますし、3割特例の対象からも外れます。
売上が伸びている人ほど、この線は先に見ておいたほうがいい。2027年になってから「使えなかった」と分かると、簡易課税の選択という別の手を打つ時間が減ります。
届出が要るのは、簡易課税を選ぶときだけ
2割特例も3割特例も、事前の届出は不要です。確定申告書にその旨を記載して選びます。使う年と使わない年を混ぜても構いません。
だから9月30日という日付に向けて急いで出す紙は、原則としてありません。冒頭の「焦らなくていい」はここに根拠があります。
書類が必要になるのは、簡易課税制度に切り替える場合です。その届出「消費税簡易課税制度選択届出書」には、通常の期限と、この特例に紐づいた期限の2種類があります。
簡易課税の届出期限には、この場面だけの緩和がある
原則の期限は、国税庁の表現で「その課税期間の初日の前日までに」提出。2027年分から簡易課税にしたいなら、2026年12月31日が締切です。年内に決めなければなりません。
ところが2割特例・3割特例からの移行には特例があります。国税庁の説明を引きます。「2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税制度の適用を受けようとする場合は、その適用を受けようとする課税期間の申告期限までに届出書を提出することで、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることが可能」。
日付に直します。
| どの年から簡易課税を使いたいか | 前年が2割・3割特例だった場合の提出期限 |
|---|---|
| 2027年分から | 2028年3月31日まで |
| 2028年分から | 2029年3月31日まで |
つまり、その年が終わって申告書を書く段階になってから決めても間に合います。1年間の実績を見て、簡易課税と3割特例のどちらが安いか計算してから選べる。年内に見込みで決めなくていいのは、実務上かなり大きい違いです。
ただし簡易課税には2年縛りがあります。国税庁の条文説明では「事業を廃止した場合を除き、『消費税簡易課税制度選択届出書』の効力が生ずる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、『消費税簡易課税制度選択不適用届出書』を提出することはできません」。一度出したら、少なくとも2年は原則課税に戻れません。
急いで出す理由がないのに先に出してしまう、というのがいちばんもったいない動き方です。
3割特例と簡易課税、どちらが安いかは業種で決まる
簡易課税は、業種ごとに決められた「みなし仕入率」で計算します。売上税額 ×(1 − みなし仕入率)が納税額です。
国税庁のタックスアンサーに載っている区分と率を並べ、3割特例(実質70%控除)と比べてみます。
| 事業区分 | 業種 | みなし仕入率 | 3割特例との比較 |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 簡易課税が安い(納税は売上税額の1割) |
| 第2種 | 小売業、飲食料品の農林漁業 | 80% | 簡易課税が安い(2割) |
| 第3種 | 建設業、製造業など | 70% | 同額(3割) |
| 第4種 | その他の事業(飲食店など) | 60% | 3割特例が安い |
| 第5種 | 運輸通信業、金融保険業、サービス業 | 50% | 3割特例が安い |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 3割特例が安い |
フリーランスのライター、デザイナー、エンジニア、コンサルタントといった仕事は第5種のサービス業に入ることが多く、みなし仕入率は50%。この層にとっては、3割特例のほうが納税額が小さくなります。届出も要りません。
一方で卸売や小売をしている人は、簡易課税に切り替えたほうが下がります。第1種なら納めるのは売上税額の1割です。
なお簡易課税を使えるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間に限られます。この線は3割特例の1,000万円とは別なので、混同しないようにしてください。
設備投資が大きい年や、赤字で仕入が売上を上回った年は、原則課税で計算したほうが有利になることもあります。特例や簡易課税は「計算が楽で、たいてい安い」方法であって、常に最安ではありません。
免税事業者に外注している側は、控除できる割合が下がる
ここまでは自分が納める側の話です。逆に、免税事業者に仕事を出している人には別の変更があります。
インボイスのない仕入れでも一定割合は控除できる経過措置がありました。改正前は2026年10月から50%に下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で期限が2年延長され、割合も見直されています。
国税庁が示した新しい段階は3段です。令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%。適用の始まりは「令和8年10月1日以後に開始する課税期間から」とされています。
課税期間の単位で切り替わる点は2割特例と同じです。暦年が課税期間の個人事業主なら、70%になるのは2027年分から。2026年分のあいだは80%のままです。
外注先に免税事業者が多い場合、2027年分の仕入税額控除は今年より少し目減りします。単価交渉や見積の前提に使っている数字があるなら、そこは差し替えが要ります。
いま手元で確かめておくこと
書類を出す必要がなくても、確認だけはしておくと2027年が楽になります。
1つめは、自分の課税期間の区切り。 個人事業主なら12月31日。法人なら決算月です。ここが分かれば、2割特例がいつ終わるかは自動的に決まります。
2つめは、2025年分の課税売上高。 3割特例の1,000万円と簡易課税の5,000万円、どちらの線の内側にいるか。確定申告書の控えか会計ソフトの年間集計で足ります。
3つめは、自分の事業区分。 第何種に当たるかで、簡易課税と3割特例のどちらが安いかが決まります。複数の事業をしている場合は売上を区分ごとに分ける必要があるので、判断に迷うなら税務署の相談窓口か関与税理士に聞くのが早い。
そのうえで、2026年分の申告(2027年3月31日期限)を出すときに、2027年分をどうするか決めれば間に合います。前述のとおり、簡易課税の届出はさらにその1年後、2028年3月31日まで待てます。
制度の名前と数字が続いて読みにくいところですが、個人事業主がいま動く必要はありません。動くのは2027年の申告期です。
参考資料
- 国税庁 令和8年度税制改正によるインボイス制度の見直し — 2割特例の終了時期、3割特例の創設、経過措置の割合見直し
- 国税庁 2割特例 特設ページ — 適用対象期間と、事前届出が不要である旨
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度 — みなし仕入率、届出期限、2年間の継続適用
本文の内容は2026年8月30日時点で公表されている情報にもとづいています。3割特例の令和11年分以降の取り扱いなど、今後変わりうる部分があります。個別の税額計算や事業区分の判定は、所轄の税務署または税理士にご確認ください。