結論から先に
ASTとALTの基準範囲は、厚生労働省の特定健診の判定値でも日本人間ドック・予防医療学会の判定区分でも30以下です。両方が超えているのは、肝細胞が傷ついて中身の酵素が血中に漏れ出しているサインです。原因の多くは脂肪肝・アルコール・薬剤・ウイルス性肝炎のいずれかです。 どれに該当するかは数値だけでは決まらず、γ-GT、ビリルビン、ALP、肝炎ウイルス検査と合わせて判断します。
日本肝臓学会の奈良宣言2023は、健康診断などでALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めています。ASTとALTが両方とも基準を超えているなら、この目安を満たしています。再検査で様子を見る段階ではありません。
行き先はまずかかりつけ医です。採血や腹部超音波検査で原因を調べ、必要と判断されれば消化器内科でより詳しい検査に進みます。黄疸、強い倦怠感、右上腹部の痛みがある場合は、受診を先延ばしにしないでください。
※個人差があります。受診の判断は医師にご相談ください。
自分の数値がどのレベルかを確認する
「高い」と言われても、どのくらい高いのかで結果票の判定文が変わります。厚生労働省が特定健診(40〜74歳)向けに示している判定値は次のとおりです。
| 健診判定 | AST(U/L) | ALT(U/L) | γ-GT(U/L) | 厚労省が示す対応 |
|---|---|---|---|---|
| 基準範囲内 | 〜30 | 〜30 | 〜50 | 今後も継続して健診受診を |
| 保健指導判定値を超えるレベル | 31〜50 | 31〜50 | 51〜100 | 生活習慣の改善を |
| 受診勧奨判定値を超えるレベル | 51〜 | 51〜 | 101〜 | 医療機関の受診を |
AST、ALT、γ-GTのいずれか一つでも51以上(γ-GTは101以上)なら「医療機関の受診を」の区分です。厚労省の文例は「この健診結果を持参して、医療機関を受診してください」となっています。
人間ドックの結果票はA〜Dの判定区分で返ってきます。日本人間ドック・予防医療学会は、この区分を2026年4月1日に改定しました。
| 項目 | A 異常なし | B 軽度異常 | C 要再検査・生活改善 | D 要精密検査・治療 |
|---|---|---|---|---|
| AST(GOT) | 30以下 | 31〜35 | 36〜50 | 51以上 |
| ALT(GPT) | 30以下 | 31〜40 | 41〜50 | 51以上 |
| γ-GT(γ-GTP) | 50以下 | 51〜80 | 81〜100 | 101以上 |
31〜50は「様子見」ではない
特定健診の判定表では31〜50は「生活習慣の改善」の区分で、結果票の判定文でいえば「要経過観察」や「生活改善」にあたります。ただし日本肝臓学会の奈良宣言2023は、ALTが30を超えた時点でまずかかりつけ医を受診することを勧めています。判定表の線と学会の線が違うのは、学会が肝疾患の早期発見を目的に、より早い段階で受診を求めているためです。
ASTとALTの両方が基準を超えているなら、結果票の判定文がどちらでも、受診して原因を調べる段階と考えてください。両方が51以上なら判定表のうえでも受診の区分です。
51以上の中で、医師が急ぐかどうかを見ているもの
判定表は51以上をひとまとめにしています。ALTが60の人も300の人も同じ行に入りますが、受診したときに医師が見ているのは数値の大きさだけではありません。
| 見ているもの | 何が分かるか | 自分で用意できること |
|---|---|---|
| 前回・前年からの変化 | 前から高いのか、今年になって急に上がったのか。急な上昇は急性の肝炎や薬剤性を疑う手がかりになる | 過去の結果票を並べて持参する |
| 肝線維化の進み具合 | 肝臓が硬くなり始めていないか。日本肝臓学会が案内しているFIB-4 indexは、AST・ALT・血小板数から肝線維化の程度を確認するスコアです | 結果票に血小板数の欄があれば必ず持参する |
| 症状 | 黄疸、強い倦怠感、右上腹部の痛みがあれば先延ばしにしない | いつから、どの症状が出たかをメモする |
FIB-4 indexの計算サイトは日本肝臓学会のホームページから案内されていますが、医療従事者向けに作成されたもので、学会は医療従事者以外からの数値に関する質問には答えられないと明記しています。 自分で計算して受診するかどうかを決めるためのものではありません。こちらは血小板数を持って行くだけでよく、線維化の目安は医師がその場で見てくれます。
血小板数は人間ドックや詳しい血液検査には含まれますが、勤務先の定期健康診断や特定健診の基本項目には入っていないことがあります。結果票に無ければ、受診時の採血で測ってもらえます。「血小板の数値も見てほしい」と伝えれば足ります。
結果票の基準値欄が上の表と違うとき
施設や検査法によって、結果票に印刷される基準値の表記は少し違います。自分の結果票の基準値欄をまず見てください。ただし「ALTが30を超えたら受診」という学会の目安と、「51以上は医療機関の受診」という特定健診の判定値は、施設に関係なく使えます。
受診しないと何が進むのか
症状がないのに受診、という点が分かりにくいところです。ASTとALTが高くても、たいてい自覚症状はありません。それでも受診を勧められるのは、症状が出る前に止めたいものがあるからです。
日本肝臓学会は、健康診断などの血液検査でALT値が30を超えていたら慢性肝臓病(CLD)が隠れているかもしれないとして、まずかかりつけ医等の受診を勧めています。挙げている理由は、肝臓の病気が肝硬変や肝臓がんに進行することです。
同学会は、脂肪肝が進行して肝硬変や肝臓がんに至ることも増えているとも述べています。「お酒を飲まないから重い病気ではない」は当てはまりません。
つまり受診で確かめるのは「いま体がつらいか」ではなく「静かに進んでいないか」です。ASTとALTの数値は、症状が出ない時期にそれを拾えるほぼ唯一の手がかりです。
何科に行くか、何を持っていくか
奈良宣言が示している順番は、まずかかりつけ医(内科)です。そこで採血と腹部超音波検査を受けて原因を調べ、必要と判断された場合に消化器内科(肝臓内科)でより詳しい検査に進みます。かかりつけ医がいない場合は、健診を受けた施設か、近くの内科に結果票を持って行ってください。最初から消化器内科を探す必要はありません。
受診のときに聞かれることは、ほぼ決まっています。
| 聞かれること | 用意しておくもの |
|---|---|
| 前回までの数値 | 初めての異常か、前から高かったか。過去の結果票があれば持参する |
| お酒 | 種類と量と頻度。「週に何回、何を、どれくらい」 |
| 薬とサプリメント | 処方薬だけでなく市販薬・サプリ・漢方も。お薬手帳を持参する |
| 体重の変化 | ここ半年〜1年で増えたか減ったか。何キロか |
| 運動 | 採血の数日前に激しい運動をしたか |
| 肝炎ウイルス | 過去に検査を受けたことがあるか。輸血歴、家族の肝炎の有無 |
| 血小板数 | 結果票に血小板数の欄があれば持参する。肝線維化の目安(FIB-4 index)の計算に使う |
比率と他の項目で原因の方向を見る
厚生労働省の健診プログラムは、生活習慣に関連する肝機能異常を次の二つに分けています。
| 数値のパターン | 疑われる原因 |
|---|---|
| γ-GTが高く、飲酒習慣がある(AST・ALTの軽度上昇を伴うこともある) | アルコール性肝障害 |
| ALTが高く(ALT>AST)、飲酒量が一定未満(γ-GTの軽度上昇を伴うこともある) | 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) |
厚労省の文例では、アルコール摂取量が男性40g/日以上、女性20g/日以上になると脳梗塞や心筋梗塞にかかる確率が高くなるとして、減酒を勧めています。
なお、この脂肪肝の病名は変わっています。日本消化器病学会と日本肝臓学会は、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)をMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)をMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎) と呼ぶ変更に賛同し、2023年9月29日に公表しました。受診先で聞き慣れない名前で説明されても、指しているのは脂肪肝・脂肪肝炎です。一方で健診の判定文や厚生労働省のプログラムには従来のNAFLD表記も残っているため、この記事では結果票に合わせてNAFLDと書いています。
もう一つの手がかりが、ASTとALTのどちらが高いか、つまり比率(AST÷ALT)です。
AST/ALT比 < 1(ALTのほうが高い)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や慢性肝炎で典型的なパターンです。NAFLDは日本人の肝機能異常の原因として最も多いものです。
AST/ALT比 ≧ 1(ASTのほうが高い)
アルコール性肝障害や、進行した肝硬変で見られます。特にAST/ALT比が2を超える場合、アルコール摂取の影響が強く疑われます。
AST/ALT比が時期によって変動
急性の肝炎や薬剤性の肝障害では時期によって比率が変わるため、1回の値だけでは方向を決められません。
原因ごとに当てはまりやすい人
次の項目は、受診しなくてよいかを自分で決めるためのものではありません。医師が原因を絞るときに何を見ているかを知っておくと、問診で伝えるべきことが分かります。
脂肪肝が疑われやすい人
- BMI 25以上
- 腹囲が基準を超えている(男性85cm、女性90cm以上)
- 中性脂肪が150以上、HDLが低い
- 甘い飲み物、揚げ物が多い
アルコール性が疑われやすい人
- 飲酒量が日本酒換算で1日2合以上、または週14単位以上
- γ-GTPが100以上
- 食欲不振、体重減少
ウイルス性肝炎が疑われやすい人
- 過去に肝炎ウイルス検査を受けたことがない
- 1980年代以前の輸血歴
- 入れ墨、ピアスの経験
- 家族にB型・C型肝炎の保因者あり
薬剤性が疑われやすい人
- 最近新しい薬を始めた
- 健康食品・サプリメントを複数飲んでいる
- 漢方薬を長期服用
受診で行う検査と費用
一次検査
- 肝機能パネル(再検査)
- 腹部エコー
- 肝炎ウイルス検査(B型・C型)
3割負担で合わせて5,000〜10,000円が目安です。
肝炎ウイルス検査は無料で受けられることがある
厚生労働省は、すべての国民が少なくとも一回は肝炎ウイルス検査を受ける必要があるとしています。ASTとALTが高いなら、その一回をここで済ませる場面です。
| 受け方 | 費用 | 確認する窓口 |
|---|---|---|
| 保健所 | 無料(特定感染症検査等事業) | お住まいの地域の保健所。実施日程を聞く |
| 自治体が委託した医療機関 | 無料(同じ事業) | 市町村の担当課。委託医療機関の一覧をもらう |
| 市町村の健康増進事業による検診 | 自治体による | 市町村。特定の年齢の人に個別に案内している自治体もある |
| 受診先で保険診療として | 3割負担 | 上の一次検査に含まれる。その場で受けられる |
無料実施の範囲と対象は自治体で違います。厚労省の案内も、日程や費用はお住まいの市町村か保健所に問い合わせるよう求めています。
ただし無料検査を探すために受診を後回しにしないでください。 受診をすでに決めているなら、一次検査のなかで保険診療として受けるほうが早く終わります。無料検査が向いているのは、「受診はまだ決めていないが、ウイルス検査だけは一度受けておきたい」場合です。
追加検査
- FibroScan(肝硬度測定):肝臓の硬さを測る
- 肝MRI:脂肪量と炎症を評価
- 自己抗体検査:自己免疫性肝炎の鑑別
これらは数値の経過や症状を見ながら、段階的に進めるのが一般的です。
自分でできる改善
生活習慣の見直しは受診と同時に始めます。受診の代わりにはなりません。
飲酒の見直し
- 完全禁酒が理想(再検査の8週間前から)
- 難しい場合は週2日以上の連続休肝日
- 飲む日も日本酒1合・ビール500ml以下
食事の見直し
- 揚げ物、菓子パン、加工肉を週2回以下
- 果糖の多い清涼飲料を水・お茶に
- 野菜、大豆製品、青魚を毎食意識
- 食物繊維(オートミール、海藻、きのこ)を増やす
運動と体重
- 中強度の有酸素運動を週150分以上
- 3か月で体重の5%減を目標
- 体重を測る習慣(朝1回)
サプリの整理
- 「肝臓に良い」とうたうサプリは再検査までいったん休む
- 服用中の薬・サプリは受診時にすべて医師に伝える
例外と注意点
体の他の原因
ASTは心筋・骨格筋・赤血球にも含まれるため、心筋梗塞、激しい運動、溶血性貧血でも上がります。心電図異常や運動歴は受診時に伝えてください。
急激な数値変動
前年の健診では正常だったのに今年急に200を超えた、というような変化は、急性肝炎や薬剤性の可能性があります。新しく飲み始めた薬や健康食品があれば、受診時に必ず申告してください。
妊娠中・授乳中
妊娠中は肝機能の値が動くことがあります。妊娠高血圧症候群やHELLP症候群と関連することもあるため、産科の指示に従ってください。
よくある質問
Q. 「要経過観察」と書かれていますが、いつ再検査すればいい?
再検査の時期は、受診して原因を調べたうえで医師と決めるのが順番です。一般的には3か月後が目安ですが、「経過観察」の期間は医師の判断で変わります。生活改善を始めるなら、再検査まで2か月以上空けたほうが、その効果が数値に表れやすくなります。
Q. 数値が高くても症状がないのは大丈夫?
肝臓は症状が出にくい臓器で、症状の有無で安全性は判断できません。脂肪肝も慢性肝炎も、症状がないまま進行することがよくあります。「症状がない=大丈夫」ではありません。症状がないからこそ、数値の異常を受診のきっかけにしてください。
Q. ピル(経口避妊薬)を飲んでいるとAST/ALTが上がりますか?
一部の人で軽度の肝機能上昇が見られることがあります。ピルを服用中の方は、健診結果を産婦人科の主治医にも見せてください。必要に応じて、ピルの種類の変更を相談できます。
参考資料
- 日本肝臓学会「奈良宣言2023」一般の方向け — ALT 30超で、まずかかりつけ医を受診
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」肝機能検査に関するフィードバック文例集 — 特定健診の保健指導判定値・受診勧奨判定値と原因別の分岐
- 日本人間ドック・予防医療学会「判定区分(2026年4月1日改定)」— AST・ALT・γ-GTのA〜D区分
- 日本肝臓学会「FIB-4 index計算サイトのご案内(EAファーマ提供)(医療従事者向け)」— AST・ALT・血小板数で肝線維化の程度を確認するスコア。医療従事者向けの案内
- 厚生労働省「肝炎ウイルス検査」— 保健所・自治体委託医療機関での無料検査、特定感染症検査等事業と健康増進事業
- 日本消化器病学会「脂肪性肝疾患の日本語病名に関して」— NAFLD/NASH から MASLD/MASH への病名変更