自分で書いた遺言を法務局に預けるべき?3,900円の保管制度と検認不要のしくみ
保管手数料は1件3,900円で家庭裁判所の検認は要らなくなります。ただし窓口では形式チェックしか行われず内容の妥当性は判断されないため、複雑な配分や事業承継が絡む場合は文案段階で司法書士や弁護士に相談する形が現実的です。
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実家の父から「金庫に遺言を入れておいたから」と聞かされたのがきっかけで、この制度を初めて調べたという方が周囲に少なくありません。自宅保管には発見の遅れや改ざん疑いのリスクがつきまとうため、法務省は2020年7月から「自筆証書遺言書保管制度」を運用しています。保管手数料は1件3,900円と抑えられており、相続開始後の家庭裁判所での検認が要らなくなる点も見逃せません。一方で、公正証書遺言と何が違うのか、内容に不備があった場合はどうなるのか、で立ち止まる方が多いのも事実です。
前提の確認から入ると、遺言書には主に「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。実務でよく登場するのは前2つで、費用が高いが確実な公正証書、費用が安いが要件不備で無効になりやすい自筆、というのが従来の理解でした。今回取り上げる保管制度は自筆側の弱点を補うための仕組みで、公正証書を代替するものではありません。
自宅保管に潜む落とし穴
自筆証書遺言を家に置いていたケースで実務でよく耳にするトラブルには、いくつかの典型があります。まず「そもそも見つからない」パターン。仏壇の裏や古い書類の束に埋もれていて、遺産分割協議が終わってから発見されるという流れです。すでに預金を分けた後だと、法的には遺言が優先されるので手続きをやり直さざるを得ません。
次に「発見はされたが、要件不備で無効になる」パターン。日付を「令和8年3月吉日」と書いていたり、パソコンで作成した本文に本人が署名だけ入れていたり、細かな要件を外しているだけで無効になります。せっかくの遺志が反映されないだけでなく、争いのタネにも変わります。
さらに「発見者が改ざんした疑いを持たれる」パターンも根深い問題です。仮に改ざんしていなくても、他の相続人から「先に見つけた人が中身を書き換えたのでは」と疑われる余地は残ります。訴訟に発展した実例もあり、家族関係の悪化コストは金額では測りきれません。
法務局保管を使えば、こうした問題はほぼ解消できます。所在は法務局が管理し、要件は窓口で確認され、原本は法務局が保管し続けるため改ざん疑惑は生じません。自筆遺言の弱点を制度側でカバーする発想と考えると位置づけが整理しやすいです。
制度の中身と、対応してくれる窓口
保管の申請は遺言者本人が法務局に出向いて行います。窓口は全国の法務局本局・支局のうち一部が指定されていて、住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局を選ぶ形です。予約制になっているため、事前に法務局の遺言書保管所窓口へ電話予約するのが最初の一歩になります。予約なしで来局しても受付はされません。
持ち物は、封のされていない自筆証書遺言書本体、本人確認書類、本籍地入りの住民票、申請書の4点。申請書は法務省サイトから様式をダウンロードでき、当日窓口で手書きしても構いません。手数料の3,900円は収入印紙で納めます。
窓口担当者が確認するのは形式面のみです。日付が入っているか、署名押印はあるか、本人が全文自筆したか、といった要件を目視で確かめますが、内容の妥当性までは判定されません。「兄弟平等に分けたい」と本人が思っていても、記載が曖昧なら効力の解釈で相続人同士が争う余地は残ります。ここは公正証書遺言との決定的な差になります。
予約から申請までの実際の流れ
窓口予約は、法務省の「遺言書保管所」検索から地域を選んでオンラインで取るか、電話で直接申し込みます。予約が取れるのは翌営業日以降で、混雑期は2〜3週間先まで埋まっている法務局もあります。仕事帰りに寄れる時間帯を狙う場合は早めの予約が無難です。
申請当日は、遺言書と持ち物を持参のうえ、指定された時間に窓口へ行きます。所要時間は目安30分ほど。担当者が申請書と遺言書の記載を突き合わせ、日付・氏名・押印などの要件をひとつずつ確認します。要件を外している箇所があれば、その場で指摘され、書き直しが必要になります。窓口で書き直しはできず日を改めて再来局する流れになる点は、覚えておくとよいです。
保管が完了すると「保管証」という書面が交付され、保管番号が記載されています。これがあれば相続開始後、家族が制度を利用する際の手掛かりになります。「法務局に遺言を預けている」と一言家族に伝え、保管証の存在を知らせておくと、相続開始後の動きがスムーズです。
検認不要という実務的メリット
家庭裁判所での検認は、自筆証書遺言を発見した相続人がまず取り組む手続きで、相続開始から4か月〜半年ほどかかることが珍しくありません。この間、遺言に基づく預金の解約や不動産の名義変更を進められず、相続人の心理的負担が大きい時期になります。
法務局保管を選んでおけば、この検認はまるごと不要になります。相続開始後、相続人は法務局に対して「遺言書情報証明書」の交付請求を行い、届いた証明書を金融機関や法務局(相続登記の窓口)に持ち込むだけで手続きが進みます。証明書1通の手数料は1,400円で、通数を増やす場合はその都度発行手数料がかかります。
「亡くなった翌週には遺言の内容を確認できる」というスピード感は、遺族の生活再建にも直結します。相続税の申告期限が10か月というタイトさを考えると、序盤で数か月失う痛みは無視できません。
手数料は保管時と閲覧時で分けて考える
制度の費用は、保管時に本人が納める分と、相続開始後に相続人が納める分の両方が発生します。本人が納めるのは保管申請時の3,900円のみで、年会費や更新料はかかりません。書き直したくなった場合の撤回手数料も無料です。
相続人側は、遺言書情報証明書の交付請求で1通1,400円、遺言書原本の閲覧で1回1,700円といった刻みで手数料が積み上がります。不動産の相続登記や複数の金融機関で解約手続きを進める場合、証明書は複数通取得することが多いので、3〜5通で6,000円前後になる想定です。
実際の相続手続きでは、預金解約に3〜5行、証券口座に1〜2社、不動産登記に1件、生命保険請求に1〜2社と、証明書の使い先が意外と多くなりがちです。10通取ればざっと14,000円。それでも公正証書遺言の作成手数料と比べれば、依然として抑えめの水準にとどまります。
公正証書遺言を選んだ場合、公証役場に支払う手数料は財産額に応じて数万円から十数万円のレンジになります。単純な費用比較なら法務局保管のほうがはるかに安いですが、公証人が内容を精査してくれる分の安心感は公正証書のほうが上、というトレードオフの構造は残ります。
相続人への通知が2種類ある
保管制度には、遺言者が亡くなった後に相続人へ遺言の存在を知らせる通知が2種類用意されています。1つ目が「指定者通知」で、遺言者があらかじめ通知したい人を指定しておくと、法務局が死亡の事実を把握した時点でその人に通知が届きます。2つ目が「関係遺言書保管通知」で、相続人の1人が遺言書情報証明書を請求した際、他の全相続人にも法務局から通知が届く仕組みです。
指定者通知を活用するには、法務局と戸籍側のデータ連携が前提になります。運用開始から段階的に整えられてきた仕組みなので、地域差はあります。予約時に「指定者通知を使いたい」と窓口担当者に伝えれば、必要な追加様式を案内してもらえます。
「せっかく遺言を残しても、家族が気づかないまま遺産分割が進んでしまう」という古典的な問題は、この2重の通知でかなり軽減されます。自宅保管では期待しにくい安心材料と言えます。
書き直したい・撤回したい時の対応
保管中の遺言書は、遺言者本人が窓口に出向けばいつでも閲覧・撤回ができます。撤回の手数料は無料です。本人以外の代理撤回はできないため、「認知症になって窓口に行けなくなる前」の対応が必須という制度設計になっています。判断能力に不安を抱え始めたタイミングでは、任意後見契約や信託と組み合わせて設計する選択肢もあります。
保管中に新しい遺言を書き直した場合は、古い遺言を撤回してから改めて保管申請するのが基本の運用です。日付の新しい遺言が優先される原則があるので、撤回せずに複数の遺言を保管する運用は避けたほうが無難です。
実際の申請者の傾向
法務省の集計によれば、保管申請の利用は制度開始から着実に積み上がってきており、高齢世代の利用が中心です。若い世代でも、単身世帯や事業を持つ方が「万が一に備えて」利用する例が増えているとされます。法定相続人のいない単身者にとって、遺言書は財産の行き先を決められる貴重な手段です。
指定した相手(甥や姪、友人、支援団体など)への遺贈を希望する場合、遺言がなければ最終的に国庫へ帰属します。3,900円の手数料で意思表示の書面を安全に残せる意味は、この層でも大きいはずです。
弁護士や司法書士に依頼すべきかの判断軸
制度自体は本人手続きで完結できるので、費用を抑えたい方は自力で申請するのが素直です。窓口担当者が形式面をチェックしてくれるため、要件不備で無効になる可能性は自宅保管より格段に小さくなります。
一方、遺留分侵害への配慮や事業承継のような複雑な内容が絡む場合は、内容作成の段階で専門家に文案を作ってもらう選択肢を検討したほうがよいです。法務局窓口では内容の助言を受けられないため、「兄弟間で揉めそうな配分」「相続人以外への遺贈」「不動産の共有回避」といった論点が絡む案件では、専門家に一度目を通してもらう安心感は大きいです。相談料は初回30分5,000円ほど、文案作成一式で5万〜15万円が目安になります。
相談窓口の入り口
法務局の遺言書保管所窓口は、制度の概要と申請手続きの流れまでは説明してくれます。「うちの家族構成でこの制度を使うべきか」を判断したい方は、日本司法書士会連合会や日本弁護士連合会の相続専門窓口、市町村の無料法律相談から始めるのが実務的です。
日本司法書士会連合会は全国に窓口を持ち、相続関連の初回相談を無料で受けている事務所も多くあります。市町村の無料法律相談は月に数回、事前予約制で30分程度の枠が設けられているのが一般的な運営形態で、地元の弁護士会と連携している場合が多く、担当者の質は安定しています。
制度そのものは大きく外しにくい設計で、費用対効果は良好です。ただし、法務局に預けたから相続でもめないと安心するのは早計で、あくまで「遺言書という書面を安全に残す仕組み」だと割り切ると期待値がずれません。相続人同士の心情や家族の状況に合わせた文案づくりのほうが、遺言の効き目を左右します。参考資料には法務省の制度案内と申請書様式のページを挙げました。窓口に電話予約する前に一度目を通しておくと、当日の質問が具体的になります。
※本記事は2026年7月時点の運用に基づく整理です。手数料や様式は改定される場合があるため、申請前に法務省サイトで最新情報を確認してください。
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参考資料
掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。
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