退職後の健康保険、任意継続と国保どちらを選ぶべき?計算の仕方と手続きタイミング
退職後の健康保険は任意継続が必ずしも安いわけではない。まず両方を試算し、迷ったら任意継続に入り翌年度の国保試算が出てから切り替える方法が使えるようになった(2022年改正)。
目次(8項目)
会社を辞めた翌日から、健康保険の資格は自動的に失われます。次の会社への入社まで空白がある場合、自分で保険を選んで手続きしないと無保険状態が続きます。選択肢は「任意継続」「国民健康保険(国保)」「家族の扶養」の大きくみっつ。どちらが安いかは退職前の給与と住んでいる市区町村によって逆転するため、計算せずに決めるのは損をするリスクがあります。さらに2022年1月の制度改正で、一度選んだ任意継続を途中でやめて国保に切り替えられるようになりました。このページでは、比較の考え方・手続きのタイミング・2022年改正の実際的な意味を整理します。
退職翌日から資格喪失、手続きに期限がある
健康保険の被保険者資格は、退職日の翌日に喪失します。有給消化中でも、退職日を迎えた翌日から会社の健保は使えません。有給消化の最終日が退職日であれば、翌日からカウントが始まります。
この状態が続くと、医療機関で診察を受けた場合に全額自己負担になります。後から保険に遡及加入することはできる場合もありますが、すでに払った医療費の差額の扱いは手続き次第です。退職が決まったら、退職日から逆算して保険の手続きを先に準備しておくのが安全です。
手続きの期限は選ぶ制度によって異なります。
- 任意継続: 退職日翌日から20日以内に健保組合または協会けんぽへ申請
- 国民健康保険: 退職日翌日から14日以内に住民票のある市区町村で加入手続き
どちらも期限を過ぎると手続きが複雑になるため、退職日が決まり次第、まず両方の保険料を試算して比較することをおすすめします。
任意継続の仕組みと保険料の考え方
任意継続とは、退職前に加入していた健康保険(会社の健保)をそのまま最大2年間使い続ける制度です(健康保険法第38条などに規定)。退職後も同じ保険証が使えるため、慣れた医療機関を変えずに済む点は利便性があります。
保険料は在職中の約2倍になる
在職中は会社と折半していた保険料を、任意継続では全額自分で負担します。協会けんぽの場合、保険料は「退職時の標準報酬月額 × 都道府県ごとの保険料率」で計算されます。在職中は保険料率のうち半分を会社が払っていたので、同じ標準報酬月額でも退職後は2倍の保険料を自分で払う形になります。
標準報酬月額は給与明細の健康保険料額から逆算できるほか、在職中に年金事務所や健保組合から受け取った書類に記載されています。
上限額がある
任意継続の保険料には上限があります。協会けんぽの場合、計算に使う標準報酬月額は「30万円」が上限です。在職中の月給が40万円・50万円であっても、任意継続では30万円分の保険料として計算されます。
たとえば東京都の2024年度の協会けんぽ保険料率は10.00%なので、上限の場合は月額30,000円(30万円×10%)が任意継続の保険料の目安です。自分の都道府県の保険料率と標準報酬月額から計算してみてください。
組合健保の場合
大企業に多い「組合健保(健康保険組合)」に加入していた場合は、組合ごとに保険料率と上限が異なります。組合健保は協会けんぽより保険料率が低いことが多く、任意継続でも保険料が抑えられる場合があります。人間ドックの補助など付加給付がある組合では、任意継続中もそれが受けられるかどうかを確認してください。
継続できる期間と途中で終わる条件
任意継続の資格は最大2年間です。次のいずれかに当てはまると途中で資格が失われます。
- 就職して新しい健康保険に加入した
- 75歳になり後期高齢者医療制度に移行した
- 2022年1月以降は本人の申し出によっても脱退できる(後述)
国民健康保険の保険料はどう決まるか
国保は市区町村が運営するため、保険料は全国一律ではありません。同じ収入でも住んでいる自治体によって月額が2〜3倍異なることもあります。「いくら」とは一概に言えないため、まず住民票のある市区町村のホームページや窓口で試算するのが前提です。
保険料の計算に使われる主な要素
- 所得割: 前年の所得(退職所得を含む場合もある)をもとに計算
- 均等割: 世帯内の国保加入人数×一定額
- 平等割: 世帯単位でかかる一定額(設けていない自治体もある)
所得割の「前年所得」には、退職前の給与所得・配当所得・不動産所得などが含まれます。退職時は前年に現役として働いていた期間の収入が反映されるため、退職した年の国保料は高くなりがちです。しかし翌年以降は収入が下がっていれば、国保料も大幅に低くなります。
非自発的失業者への軽減制度
倒産・解雇・雇い止めなど、会社都合による退職(非自発的失業)の場合、国保の所得割を算定する際に前年の給与所得を「30分の1」として計算する軽減制度があります。これが適用されると国保料が大幅に下がることがあり、任意継続より有利になるケースも少なくありません。
対象かどうかは離職票(ハローワーク発行)の「離職区分コード」で判断します。特定受給資格者・特定理由離職者の区分に当たる方が対象です。手続きは国保加入の手続きと同時に市区町村の窓口で行えます。
自己都合退職への注意
自己都合退職(転職・キャリアチェンジなど)ではこの軽減制度は適用されません。前年所得が高かった場合、国保料が相応に高くなる可能性があります。
任意継続か国保か、比較の手順
どちらが安いかは個人の状況によって変わります。机上の一般論ではなく、自分の数字で比べるのが唯一確実な方法です。
手順1: 任意継続の月額を出す
在職中の健保組合(または協会けんぽ)に問い合わせるか、自分で標準報酬月額×保険料率で計算します。協会けんぽであれば都道府県別の保険料額表がホームページに公開されています。
手順2: 国保の月額を市区町村で試算する
住民票のある市区町村のホームページに保険料シミュレーターがある場合は、前年の所得と世帯人数を入力します。シミュレーターがない自治体は、国保担当窓口に電話して試算を依頼できます。前年分の確定申告書や源泉徴収票があると手続きがスムーズです。
手順3: 世帯全体で比較する
扶養家族がいる場合、国保は加入人数が増えると均等割が積み上がります。任意継続では扶養の家族を追加しても保険料は変わらないため、家族が多い場合は任意継続が有利になりやすいです。単身であれば国保が安くなるケースも多くなります。
任意継続が有利になりやすい状況
在職中の給与が高く、組合健保の保険料率が低い。配偶者・子どもを扶養に入れている。組合健保の付加給付(人間ドック補助・医療費の一部還元)を任意継続中も受けられる、という場合は任意継続の実質的なメリットが大きくなります。
国保が有利になりやすい状況
退職前の収入が低く、前年所得が任意継続の上限保険料(協会けんぽ東京都なら月額約30,000円相当)を下回る水準。非自発的失業の軽減制度が使える。退職後の収入がほぼゼロで、翌年の国保料が大幅に下がる見通しがある場合は国保が有利です。
2022年改正で変わった「途中脱退」の仕組み
2022年1月の健康保険法改正以前は、任意継続を途中でやめる方法が実質的に存在しませんでした。保険料の滞納による強制的な資格喪失か、就職するまで2年間使い続けるかの二択でした。
改正後の仕組み
2022年1月以降、任意継続被保険者は本人の申し出によりいつでも脱退できるようになりました(「任意継続被保険者の資格喪失申出書」を提出)。脱退した翌月初日に資格が喪失し、国保に加入する流れになります。
この改正の実際的な意味
退職後すぐの時点では「任意継続と国保のどちらが安いか」が確定していない場合があります。特に退職した年は前年所得が高いため国保が高めになりがちですが、翌年の国保料は退職後の所得(ほぼゼロであれば大幅減)をもとに計算されます。
この改正を活用すれば、次のような使い方ができます。
- 退職後まず任意継続に入る
- 翌年4〜5月ごろ、市区町村から翌年度分の国保料の通知(目安)が出る
- 任意継続の保険料と比べて国保が安くなっていれば、申し出書を提出して脱退・国保へ切り替える
「迷ったらとりあえず任意継続」という選択が以前よりリスクが低くなった理由がここにあります。
注意点
一度任意継続を脱退すると、同じ健保組合への再加入はできません。また、脱退申し出書を出してから資格喪失まで通常1か月かかるため、切り替えのタイミングを逆算して手続きしてください。
手続きに必要なものと確認事項
任意継続の手続き
申請先は在職中の健保組合または協会けんぽです。申請書(「健康保険任意継続被保険者資格取得申請書」)はホームページからダウンロードするか窓口で受け取ります。
- 退職日が確認できる書類(離職票・退職証明書など)
- 申請書(健保組合・協会けんぽのホームページから取得)
申請後、保険料の納付書が自宅に届きます。最初の保険料は指定の期日までに支払わないと資格が失われることがある(健保によって異なる)ため、届いたら早めに確認してください。
国民健康保険の手続き
住民票のある市区町村の国民健康保険担当窓口(市役所・区役所)で手続きします。
- 健康保険資格喪失証明書(退職した会社から発行してもらう)
- マイナンバーカード(または通知カードと本人確認書類)
- 印鑑(不要な自治体もあり)
会社から資格喪失証明書が遅れて届く場合もあります。急ぐ場合は会社に早めに依頼するか、退職日が記載された離職票を持参して相談できます。
退職後の保険料、落とし穴になりがちなポイント
退職金は国保の保険料に含まれることがある
退職所得は通常、退職所得控除のおかげで税負担が軽くなりますが、国保の所得割の計算に含まれる自治体とそうでない自治体があります。退職金が出る場合は、退職金を含めた場合の国保料を試算してもらうと安心です。
健康保険証の返却を忘れない
退職後は前の会社の健康保険証は使えなくなります。退職日翌日以降に使用した場合、後から保険組合に費用を返還請求されることがあります。退職後すぐに保険証は返却してください。
任意継続中の扶養の扱い
任意継続中は、在職中と同様に家族を扶養に入れられます。扶養の認定条件は各健保組合によって異なりますが、被扶養者の年収が130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)が基本的な要件です。
退職後に配偶者が働く予定がある場合や、子どもを扶養から外す予定がある場合は、任意継続の保険料の計算と合わせて確認しておくと後から手続きがスムーズです。
退職日前にやっておくこと
在職中に確認できることがいくつかあります。退職後に慌てないためにも、できれば退職の2〜4週間前に動き始めてください。
まず在職中の健保(組合健保または協会けんぽ)に「退職後の任意継続の保険料額と手続き方法」を電話で確認します。標準報酬月額を教えてもらうとその場で試算できます。次に住んでいる市区町村の国保担当窓口またはホームページで、前年所得をもとに翌年度の国保料を試算します。
この2つの数字を比べた上で、どちらを選ぶか・または扶養に入るかを決めると、退職後の手続きが迷いなく進められます。
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参考資料
掲載時点で確認した資料です。制度やガイドラインは変わることがあるため、手続き前には各機関の最新情報も確認してください。
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